化粧品業界が突き進むデジタル化の先で、パーソナライゼーション戦略はどのような未来を作っていくことが出来るのか

 

対面販売を中心に行ってきた化粧品業界であるが、コロナ禍により、実店舗で化粧品を試して購入することが難しくなった。消費者はデジタルツールを活用し、今までオンラインでの購入をためらいがちであった化粧品をオンラインで購入するようになっている。このように消費者の商品情報の入手方法や購買方法が多様化した今、企業は顧客との関係性を構築していく必要がある。そんな中で、今回は、化粧品会社がデジタルを活用して消費者一人ひとりに合わせた商品をどのように提案し、パーソナライズされた情報を提供するパーソナライゼーション戦略をとっているのかを紐解き、化粧品販売の未来を考えていきたい。

 

 

コロナ禍での化粧品業界における実店舗販売数の変化

 

2020年1月以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響でインバウンド観光客による購買が減少し、また外出自粛の影響でメイクアップを中心とする化粧品の国内需要は激減した。百貨店などで広く行われてきた美容部員によるタッチアップで対面販売を行うことも自粛され、その動きは現在も継続している。以下は日本百貨店協会の発表した売上高発表資料から作成した、百貨店売上高の推移を示すグラフである。これまで百貨店業界の売上を牽引していた化粧品が、コロナウイルス感染拡大後には他商材と比較しても大きく落ち込んでいることが読み取れる。これからの化粧品業界は、実店舗での販売からデジタルを駆使したオンライン販売へとシフトし、生き残りの活路を見出す必要があるだろう。

さらに、化粧品ECプラットフォームNOINを運営するノイン株式会社が2020年6月に発表した外出自粛前後における化粧品購入に関しての意識レポートによると、64%が外出自粛期間中に化粧品をオンライン購入しており、98%が外出自粛後も化粧品のオンライン購入を希望していることがわかった。ニューノーマル時代において化粧品業界が早急にデジタル化へ舵を切らなければいけないことは、このことからも一目瞭然である。

 

 

eコマースの最新トレンド“パーソナライゼーション”

 

化粧品会社がパーソナライゼーションサービスを提供することは、オンラインストアと実店舗販売とのギャップを埋めるためにとても役立つ。顧客が店舗のメイクアップカウンターで受けるようなサービス同等、もしくはそれ以上のサービスをオンラインで受けられるようにすることで、顧客ごとのニーズに合わせた独自のショッピング体験を提供できるからだ。さらに、顧客ごとにパーソナライズされた化粧品の購入を促することで、使用できずに商品が返品されてしまうなどの損失も防ぐことができる。

 

<参考>
化粧品業界の最新eコマーストレンド

 

 

各企業のパーソナライゼーション戦略

 

それでは、パーソナライズ戦略の例を企業ごとに見ていこう。

 

株式会社ZOZO

ZOZOTOWNを運営する株式会社ZOZOは、500以上のブランドを取り扱うコスメ専門モール「ZOZOCOSME(ゾゾコスメ)」を3月18日に開設した。プチプラからハイブランドまで幅広いジャンルのコスメブランドが揃っており、その計測ツールとして発表されたのが「ZOZOGLASS(ゾゾグラス)」だ。

実際の「色味」がわからないという点が化粧品のオンライン購入の課題であったが、ZOZOGLASSはスマートフォン用アプリと連動しており、装着することで肌の色が計測される。判定結果からZOZOCOSME内のアイテムとマッチングが可能で、サイトからそのまま購入できるようになっている。ZOZOSUITやZOZOMATと同様に無料で配布されており、公式サイトから予約が可能である。

 

資生堂

国内最大手化粧品メーカー資生堂は昨年7月より大手百貨店三越伊勢丹と協業で、三越伊勢丹の運営する化粧品専用ECサイト「ミーコ(meeco)」でのライブストリーミングサービスを実施した。百貨店など実店舗での接客が制限される中、視聴者がチャットで質問できるようにリアルタイムでの映像配信やWebカウンセリングを行うことで利用者との双方向コミュニケーションを実現し、実店舗とオンライン購入の間にあるギャップを取り除いている。

さらに同社は、今年5月に大手コンサルティング会社アクセンチュア株式会社との合弁会社である「資生堂インタラクティブビューティー株式会社(SHISEIDO INTERACTIVE BEAUTY)」を設立することを発表し話題になった。

sib

社名には、インタラクティブの持つ双方向の関係性・対話という意味合いから繋がる・繋げるという思いが込められており、デジタルテクノロジーを駆使することで消費者との関係性を強めていく狙いがある。この戦略的提携では、オンラインや店頭などで行った肌診断やバーチャルメイクアップ診断履歴をデータベースに蓄積し分析することで、時間や場所を自由に選択可能なカウンセリングやレッスンのメニューの提案などが行われる。利用者一人ひとりに合わせてパーソナライズされたサービスを、生涯にわたりさまざまなコンタクトポイントで提供することが可能になる見通しだという。同社による今後の新サービスなどにも注目していきたい。

 

<参考>
eコマースへのトレンドシフトの波に立ち向かう百貨店のデジタル戦略

 

ロレアル

フランスに拠点を置く大手化粧品会社ロレアルグループは、化粧品業界の中でもいち早くデジタルトランスフォーメーションに舵を切った企業といえる。2010年にCEOのジャンポール・アゴン(Jean-Paul Agon)氏がデジタルイヤーを宣言して以来、全社的にデジタルトランスフォーメーション戦略への幅広い取り組みを展開してきた。そんな中、ロレアルグループ傘下のイヴ・サンローランはスマートフォンと連携する口紅「イヴ・サンローラン ルージュ シュール ムジュール パワード バイ ペルソ(Yves Saint Laurent Rouge Sur Mesure Powered by Perso)」を2021年春に発売した。

スマートフォン用アプリから顔写真を撮影すると服装や髪色などに合わせて3色のカートリッジから適量のカラーを抽出・調合してくれるほか、既存のカラーも選択可能。これを使うことで、数千通りのカラーを選択することができる。「Perso」は2020年1月にラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2020」でロレアルが発表したもので、同年にはTIME誌が選ぶTHE BEST INVENTION OF 2020を受賞している。この商品の根底にあるのは、まさに“パーソナライズ”の概念である。実店舗で商品を試すことが困難な現代において画期的なアイテムであり、服装や髪色に合わせて一番合う色をレコメンドしてくれるスタイリスト的な役割を果たすところも特徴であろう。

 

essie

ロレアル傘下のマニキュアブランドであるessieも、今年6月に「essie on hand」という仮想試着ツールを発売した。essieのwebサイト上で写真を撮る、もしくは用意されたモデルの写真を使用することで、実際にどのような色味になるのかを直接確認できる。

これは、ロレアルグループが2018年に買収した拡張現実と人工知能分野を得意とする企業ModiFaceが開発したModiFaceテクノロジーを活用して開発されたものだ。これにより色合いと仕上がりの微妙な違いを捉え、爪床の輪郭をリアルタイムで追跡し、個々の爪の形に色合いを適用することができる。利用者はカートに追加するだけで簡単に確認が可能で、実際の自分の肌の色を用いてマニキュアの色合いを試せるため、オンラインでのマニキュア購入プロセスが非常に容易になる。

 

エスティ ローダー

ニューヨークに本拠地を置く化粧品・医薬部外品メーカーエスティ ローダーは、今年7月1日より新たな肌測定アプリ「バーチャル肌チェッカー」のサービス(スマートフォンのみ)を開始した。

virtual

バーチャル肌チェッカーは、最新のYouCam技術を活用したブランド初のセルフガイドのオンライン肌測定アプリケーションである。スマートフォンで顔写真を撮影するだけで、見た目ではわからない肌荒れ、キメ細やかさ、小ジワ、目元のくすみなどの項目から肌測定を行うことができる。その結果から一人一人に適したスキンケアアイテムを提案することで、顧客体験を強化している。

さらに同社は、今年5月にアメリカで宅配業者Uberと提携し、「ジョー マローン ロンドン(JO MALONE LONDON)」と「オリジンズ(Origins)」の製品の宅配サービス提供を開始した。通常0.50ドルから5ドルの間の食品注文と同等の料金で顧客に直接配達する取り組みが行われており、ニューノーマル時代における新しい販売方法も加速しつつある。

 

 

パーソナライゼーション戦略はどのような未来を作っていくことが出来るのか

 

百貨店など実店舗での対面販売が主流であった化粧品業界にも、社会や情勢の変化によりデジタル化の波が押し寄せた。商品情報の入手方法や購買方法が多様化したことで、消費者の消費行動も大きく変化している。このように顧客との対面での接点が薄れつつある中で、企業は顧客のデータを管理・分析し、カスタマージャーニーを適切に設定する必要がある。そして商品の認知から購入、支持、拡散に至る一連のプロセスにおけるデジタルタッチポイント全てに対応できるコンテンツを提供し、顧客体験を向上させることが、今後の生き残りの鍵となることは明らかであろう。その中で顧客一人一人にパーソナライズされたコミュニケーションを提供し、実店舗と遜色ない利便性を追求することは、顧客との関係性を構築するために必要不可欠といえる。

ビューティーテック会社化が進むロレアル、さらなるデジタル化を加速させていく資生堂など、これまでの概念を覆し、デジタル化に舵を切っていくブランドが増えてきている。そのような中でパーソナライゼーション戦略は、化粧品と言う商材との相性も非常に良い。各ブランドが自社の強みを活かした様々なパーソナライゼーションを行いどのように顧客体験を高めていくのか、注目していきたい。