eコマースへのトレンドシフトの波に立ち向かう百貨店のデジタル戦略

 

ここ数年、百貨店業界は苦境に立たされている。消費税増税などによる個人消費の冷え込み、オンラインショッピングの浸透、そして極め付けはコロナウイルスの影響で実店舗への客足が一気に遠のき、ここ数年頼ってきたインバウンド需要も全く見込めない状況だ。百貨店には贅沢感、高級感、というイメージがある一方で、このような時代の流れや新しい生活様式に対応するためにも、百貨店はドラスティックな変革が必要だろう。そんな百貨店業界の生き残りのためのデジタル化戦略や新たな改革や挑戦を見ていこう。

 

 

百貨店の苦境

 

経済産業省の商業動態統計XLS)によると、百貨店の総販売額は2000年の10兆115億円から年々減少し、昨年2019年は6兆2,979億円と、過去20年で40%近く減少し大幅に売り上げが減少している。

 

特に従来百貨店の売り上げの約半分を占めていた衣料品の販売額は同期間に48%減少し、2019年においては2兆6,999億円と落ち込み、総売上の42%に留まっている。

 

さらに日本百貨店協会の発表した全国百貨店売上高概況PDF)によると、コロナウイルスの影響で、今年9月の免税売り上げは前年比91.6%減、全体の総売上は前年比の33.6%減と厳しい状況に立たされていると言える。

 

 

各百貨店の取り組み

 

直近の各百貨店の売上、及びオンライン売上で公表されているものをまとめてみる。以前として売上高規模は各社とも大きいが、ここには記載していないが減少率もかなり大きくなってきている。また、オンライン売上も非常に限定されており、データだけで見るとオンラインシフトはまだまだ途上にあることが分かる。

 

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そのような中で、各百貨店も決して手をこまねいているわけではない。ここ数年は多くの百貨店において、数多くのデジタル化施策が行われてきており、その成果を十分に手にする前にコロナ禍の影響を被ってしまったケースも多かった。そこで、ここ数年で行われてきた各百貨店の取り組み、戦略を見ていこう。

 

 

丸井

 

丸井が今年5月末に発表した2020年3月期決算によると小売セグメントの営業利益は12%減少している。さらに、コロナウイルスの影響もあるが、10月15日に発表された2021年3月期月次営業概況によると、6ヶ月連続で前年度を下回り、厳しい状況と言える。また、池袋、静岡などの店舗の閉店も発表している。

一方で、丸井は2024年までに6割をデジタルネイティブストアに変えることを目標としており、2019年に発表された内容によると、今後の差別化戦略としてD2Cやサブスクリプション型ビジネスなど、実店舗を主体としたビジメスモデルからデジタル主体の店舗運営の移行を目指すことを目標としている。また、BASEやオンラインでギフトが送れるサービスgifteeなどのEC発の企業に投資することを今年5月末に発表している。

このような状況の丸井のデジタル化施策をピックアップして見ていこう。

 

積極的なポップアップ開催

丸井ではデジタル発の勢いのあるベンチャー企業と提携し、百貨店をポップアップの開催場所として提供している。

mercari stationはその代表的な例だろう。mercari stationはメルカリの発送や利用方法を体験できるリアル店舗のスペースで、新宿丸井点に常設されている。

 

また、無料のEC構築サービスであるBASEへ出店している店舗のリアル出店、さらにECでオーダースーツを販売する「FABRIC TOKYO」の出店など、オンラインを起点とした事業者のリアル出店を推進している。このような取り組みは、丸井グループの「物を売る店」から、飲食・サービス・コンテンツなど「体験を提供する店」へと形を変える取り組みの一例だ。実店舗があることの強みを生かし、丸井は顧客体験の向上に努めていると言える。

 

「D2C&Co.(ディーツーシーアンドカンパニー)」を設立

丸井は今年2月、スタートアップのD2Cブランドを支援する会社として丸井グループの100%子会社D2C&Co.(ディーツーシーアンドカンパニー)を設立した。D2Cブランドへの投資だけにとどまらず、丸井の実店舗を活用したリアル店舗への出店と運営の支援、キュレーションサイトの構築を通じてD2C業界全体の成長を目指すものだ。リアル店舗への出店では期間や面積に応じて柔軟に出店機会を用意するほか、長年培ってきた百貨店の売り場づくりのノウハウ、接客スキルなどを提供。顧客属性の近いブランド同士の相互送客を計画し、相乗効果も狙っている。リアル店舗を通じた顧客体験、ブランド価値の向上が期待でき、5年後の黒字化を目指すとしている。

 

 

三越伊勢丹

 

三越伊勢丹の売上高推移によると、2020年度(2019年3月〜2019年2月)売上高は2016年の10%減少。直近5年間で減少傾向にあると言える。また、2019年9月には伊勢丹相模原店、府中店の閉店、2020年3月には新潟三越店が閉店している。

そこで同社は今年7月に3ヶ年計画として 強化ポイントを3点打ち出した。1つ目はEC事業の強化、2つ目はデジタルにおけるOne to Oneサービス、3つ目はデジタルにおけるオンラインオフライン含めた安心安全の提供である。そんなデジタル化に力を入れる三越伊勢丹グループの取り組みを見ていこう。

 

化粧品専用ECサイト「ミーコ」

ミーコ(meeco)は、2019年2月にスタートさせた化粧品専用ECサイトで、スキンケアからヘアケアにいたるまで幅広く取り扱われている。ブランドごとのカテゴライズをはじめ、予約、発売日がわかるカレンダー、アラート機能まで導入されている。さらに、同年11月には姉妹ストアとしてプチプラコスメを購入できる「meeco variety」をスタートさせた。

非接触サービスの取り組みとして、2020年7月22日に同サイト内で資生堂と協業で、ライブストリーミングサービスを実施し、「新しい生活様式」に合わせたサービスも積極的に導入している。

 

サイト・アプリのリニューアル

三越伊勢丹は、2020年6月9日、三越伊勢丹オンラインストアアプリをリニューアル。今まで分かれていたサイトをサイト内で店舗情報、キャンペーン記事、ブランド情報などまとめて閲覧できるようにした。さらに、来店前に多くの商品を比較検討できるように、店舗のみ取り扱い商品を特に食品分野で、デジタルカタログとして提供、拡大させている。

さらにアプリのリニューアルではデザインの刷新、ショッピング機能の追加、アプリ限定のクーポン、サービス機能を提供している。アプリ、独自のECサイトを通じて、実店舗内だけでなくデジタルを活用することで買い物がより楽しく、お得なものになるデジタルサービスである。アプリ内では買い物を完結させることが可能になった。検討中の商品や予算をビデオ通話を通じて販売員に相談でき、決済と購入もアプリ内で済ませられる。今後は伊勢丹新宿店が取り扱う約100万の品目を購入できるよう目指している。

 

ソーシャルギフト導入

お中元やお歳暮、誰かへ送るギフトを購入するのに百貨店を利用する人は少なくない。ここ数年で普及しているのが「ソーシャルギフト」というものである。ソーシャルギフトとは、住所を知らない相手にもLINEやSNSで受け取りURLを送信することでギフトが送れる新しいギフトの送り方である。そんなミレニアルズに向けたオンラインギフトブティック「MOO:D MARK BY ISETAN」を2019年10月にスタートさせた。高級食品から化粧品、雑貨まで200以上のブランドを展開している。また無料のオリジナルラッピングや、オリジナルメッセージカードを添えることも可能。迷った時は「ギフトコンシェルジュ」にメールで相談することも可能である。中高年世代だけでなく、若いミレニアム世代に特化したデジタルサービスと言えるだろう。

 

 

大丸松坂屋

 

Jフロントリテイリングが発表した2019年度の決算報告資料XSL)によると、百貨店事業の営業利益は2年連続で5%以上の減少、売場面積も2010年から2019年にかけて10年間で11%の減少、実店舗での営業が縮小傾向である。

そのような状況の中で、大丸松坂屋は3つの重点戦略として、店舗戦略、アーバンドミナント戦略の他にデジタル戦略を掲げており、アプリの活用、店頭へのデジタル技術導入、ECサイトでの買い物の快適さなどデジタル技術を活用し様々な接点、チャネルで新たな価値提供を目指している。そんな大丸松坂屋のデジタル施策を見ていこう。

 

インスタグラム投稿の活用

あまり見栄えへの配慮が足りないことが多い、百貨店のECサイトだが、大丸松坂屋のECサイト「大丸松坂屋オンラインショッピング」は、それを改善するために、消費者のインスタグラムの写真や動画をECサイトのコンテンツで活用するため、ビジュアルマーケティングツール「visumo social curator」を導入。これにより、インスタグラムの写真を利用したコンテンツ作りが可能となり、コンテンツ閲覧後にECサイトに誘導する流れが出来上がった。百貨店ECでの買い物を誕生日やパーティにも活用したいと考える顧客ニーズに対応した取り組みである。

 

<参考>

「visumo」、大丸松坂屋へ提供開始し、インスタグラム投稿画像をECサイトで活用

三次元自動足型計測器の導入

店頭でのデジタル活用も進んでいる。顧客の足型を3Dで計測することで正しい靴選びを提案するサービスが大丸心斎橋点など関西の4店舗で実施されている。計測されたデータはアプリで確認もでき、今後の靴選びにも役立たせることも可能。失敗することが多い靴選びに寄り添ったサービスをデジタル目線で提供している。

 

 

高島屋

 

日本を代表する老舗百貨店高島屋、今年10月に行われた決算説明会での配布資料によるとコロナウイルスの影響も受け、「ブランド価値の源泉である国内百貨店の収益力がさらに低下」、「2021年度以降も売上回復度合いにより営業赤字リスク」、など厳しい現状を表す言葉が並んでいる。実際、2019年2月期決算報告資料によると、2019年度の店舗別売上高は岡山高島屋では1.6%減、岐阜高島屋では4.1%減、米子高島屋は2.5%減など地方店の実店舗が伸び悩んでいた。さらに2020年9月度店頭売上速報によると、店舗別売り上げは全店が前年実績を大きく下回る結果になり、免税品を除く店頭売り上げは全体として前年の32.9%減少となったことより、実店舗営業の売り上げが厳しくなるのにさらに拍車がかかったと言える。

しかしコロナウイルスを追い風にEC事業は伸び、今年度は270億円の売上を計画、2023年度までの3年強でほぼ倍増となる「500億円」を目指し、ECビジネスを事業の大きな柱にしたいと意気込む。そんな高島屋の取り組みを見ていこう。

 

物産展のオンライン開催

高島屋は、今年10月2日から行われた日本橋店での大北海道展をWeb上でLIVE配信し、現地在住のバイヤーや生産者たちが登場。PCやスマホでリアルタイムに地域の特産品を購入できるようになり、ニューノーマル時代の物産展の新しい楽しみ方を提案する形となった。特設Webサイトでは動画がアップされ、現地の生産者やバイヤーが登場し、物産展を盛り上げたようだ。

 

配送システムの効率化

従来ECで注文を受けたコスメ商品の出荷は高島屋横浜店と大阪店の店頭から出荷しており、1注文ごとに配送伝票を確認しながらピッキング作業が行われてきた。しかし注文数の増加を受け、配送伝票とは別のピッキングシートを発行しピッキング作業の負担を軽減するシステムを開発。2019年8月に横浜店、10月には大阪店でシステム改修を実施され配送リードタイムを数日縮めることが図られ、より早く商品が手に届くよう配送システムの強化が図られた。

 

買い物代行アプリへの参加

高島屋横浜店が今年10月16日より買い物代行アプリ「Pick Go 買い物」に参加した。「Pick Go」とはCBcloud株式会社が提供する”買い物を依頼したい人”と”買い物からお届けまでできるパートナー”をマッチングする買い物代行サービスであり、同店は連携店として参加した。買い物に高島屋を選ぶというチャネルを増加させることで他の百貨店との差別化を図っている。

 

 

阪急阪神百貨店

 

エイチ・ツー・オーリテイリングが発表する2019年度の毎月の営業概況によると、阪急阪神百貨店における入店客数前年比は2019年4月から2020年3月の12ヶ月中9ヶ月で前年比を下回り、実店舗への集客に苦戦していると言える。また2020年度業績推移によると、入店客数、店舗売上高は6ヶ月連続で前年度を下回るのはいうまでもなく、実店舗営業に与えるコロナウイルスの影響は大きい。

そこで9月30日にはWEBカタログをラグジュアリーファッション等に拡大するなど、店頭商品のデジタル化、デジタル決済を実現する同社の「OMO(オンライン・マージン・ウィズ・オフライン)」は”店頭での販売行為をオンラインに拡張する”という独自の取り組みであるという。2021年中には全売場のデジタル化の実現を目指すことを今年10月に発表している阪急阪神百貨店の独自のデジタル施策を見ていこう。

 

Remo Order

阪急阪神百貨店では、自社ECサイトである「HANKYU HANSHIN E-STORES」に掲載されていない商品も含む店頭商品を店頭に出向かずに、注文できる「Remo Order(リモオーダー)」を今年の10月1日から開始した。

いつも使っている商品をリピート買いする時、メディアやSNSで見た商品が欲しい時など、オンラインで欲しいアイテムを注文することが可能となっている。注文方法は商品の取扱店舗へ電話やメール、LINEで連絡すると、購入URLが届き、そこから注文する流れだ。また、支払い方法は代引きやクレジットカードコンビニ払いなどに対応。ECサイトでの買い物との違いは百貨店の店頭限定商品まで購入可能である点だ。このサービスは2020年10月現在特許申請中である。

 

One to One コミュニケーション 

従来の電話での接客に加えて阪急阪神百貨店はLINEやZoomでの接客サービスを今年5月に開始した。販売員と直接コミュニケーションをとることが可能になり、直接売り場へアプローチすることが可能になった。また、同百貨店はこのサービスを店頭販売の延長と考えているため、ECサイトでの展開が難しいブランドも紹介できるという。独自の店頭販売のOMO(オンラインとオフラインの融合)戦略といえる。

 

 

小田急百貨店

 

小田急百貨店が発表する売上高推移によると、2018年度より売上高は2年連続でほぼ5%ずつの減少傾向で今年度もコロナウイルスの影響を受け、大きく減少する見込みである。店舗数は他の百貨店に比べて多くない3店舗であり、小田急電鉄の発表する月次営業概況によると、2018年度は新宿店は1.6%増加するも町田店、藤沢店では14.2%、33.1%減少と大きく前年度を下回り、2019年度は特に藤沢店で売上高がほぼ毎月で前年比の10%近くの減少傾向であり実店舗売り上げが著しく伸び悩み苦境に迫られている。2021年で70周年を迎える同百貨店、新たな変革が求められていると言えるだろう。そんな小田急百貨店が行う国内だけにとどまらないデジタル施策を見ていこう。

 

中国向け越境ECをスタート

小田急百貨店は、今年9月23日に中国向けの越境EC事業をスタートした。中国で越境EC事業を手掛けるスタートアップの上海橙感信息科技有限公司(チェンガン、上海市)と協力し、同社が運営しているWeChat内で運営するミニプログラム「橙感(チェンガン)」で販売を開始した。2021年までに250点の商品展開を目指しており、コロナウイルスの影響で激減したインバウンド需要を補う他、中国本土での認知度向上を狙った取り組みである。

 

腕時計の販売サイト「ODAKYU WACTH ONLINE」開設

小田急百貨店は、今年10月3日に腕時計の販売サイト「ODAKYU WATCH ONLINE」を開設した。国内外の15ブランド、約600本の時計を取り扱う。ターゲットは2本目を自分で購入しようと考えている時計初心者、中級者で、ブランドに関わらず、様々な時計を比較、検討できる時計通販サイトとしてオープンした。値段が高額な時計を実物を確認できないまま購入することに不安の声が大きいため、今回同サイトには店舗受け取り機能が導入されている。売り場で実物を確認し、販売員にサイズの調整など問い合わせも可能である。

 

 

松屋

 

松屋が毎月発表する月次売上報告によると、2019年度、2020年度における銀座本店と浅草店の両店の売上高はインバウンド客増加の2020年1月、消費税増税前の2019年9月をのぞき、ほとんどの月で前年比より減少、入店客数は消費税増税後の2019年10月から13ヶ月連続の前年比より少なくなり、実店舗での営業に苦戦していると言える。

しかし他の百貨店にはない独自の発想で新しい話題を集めるデジタルサービスの提案を続ける松屋のデジタルな取り組みを見ていこう。

 

「松屋御用聞き」即日デリバリー

松屋御用聞きは、松屋銀座で今年11月4日から開始されたタクシー会社「チェッカー無線」と提携した百貨店ならではの買い物代行サービスだ。来店を敬遠する消費者が増えている中、来店せずに百貨店の食材を家庭で味わうことが可能となる。注文は電話で受付け、商品を百貨店販売員が選定する。その後タクシー運転手が集荷し、自宅へ配送してもらう。オンラインショッピングに苦手意識を持つ比較的高齢層をターゲットとしており、従来のファンを持つ百貨店の強みを生かしたサービスとなっている。

 

QRコード付き接客

コロナウイルスの影響を受け、新しい非接触の接客が今年11月に松屋銀座で導入された。松屋ではコロナ対策として「15分以内での接客」がルールとなっており、11月11日〜24日で各階で開催された「いいかも?新・生活様式ー増えた時間を豊かに暮らすアイデアー」では、短くなった接客を補完する「QRコード接客」が導入された。店内45店の商品を社員が実際に使用し、体験結果を順次WEBサイトで公開、店頭にあるQRコードを読み取れば特設ページに飛ぶことができる。

さらに、動画配信アプリ「テイクアウトライブ」を使用して対象商品の購入者がアプリ上で個人情報などを入力せずにQRコードを読み込むだけでプロによる商品の使い方や楽しみ方、応用編などの動画配信をダウンロードできるサービスも導入された。コロナ禍におけるデジタルを活用した新しい非接触の接客の提案である。

 

 

海外の事例

 

海外でもコロナ禍による影響が顕著に表れてきている。今年5月に米国の老舗百貨店のJ.C.ペニーが破綻。また、大手メーシーズの2020年2~4月期決算も赤字に転落し、コールズも大幅な売上減少が報告されており、日本だけでなく、世界規模で百貨店業界は苦境に立たされていることが分かる。そのような状況に置かれている海外の百貨店のデジタル施策もピックアップして見ていこう。

 

英国百貨店 John Lewisのデジタル化サービス 

英国老舗百貨店チェーンのJohn Lewisは顧客がソファ、アームチェアなどの家具を購入前に自宅でどのように見えるのかを確認できる「Virtual Sofa」をiOSアプリに搭載している。ソファやアームチェアなどは長年使うことが多く、購入前にしっかり検討がなされる物であるため、顧客体験を高めるサービスとして注目されている。

 

<参考>

英国百貨店John Lewis、AR機能「Virtual Sofa」をiOSアプリに追加

 

ロシア百貨店、3D商品ページを導入

ロシアの有名デパートチェーンTSUMはより良い顧客体験、売り上げ、商品認知、ロイヤルティ向上のため、3Dコンテンツ制作、没入型エクスペリエンス構築用のSaaSプラットフォームのCappasityと提携し、Webサイトに3D商品画像を掲載。これにより3Dデジタル化した商品のコンバージョン率を40%向上させることに成功したと発表している。

 

<参考>

ロシアの百貨店、3D商品ページを導入しブラウジング・エクスペリエンスを強化

 

欧州最大の百貨店のデジタル化が加速

スペインに拠点を置き、欧州最大の百貨店グループEl Corte Ingles(エルコルテイングレス)は国内にある90の店舗を物流業務も行えるよう再設計したことを発表した。同百貨店はオンライン販売をさらに加速させ、Amazonと競合していく姿勢である。百貨店を配送センターとすることで流通能力を高め、リアルタイムでの在庫管理システムを形成している。さらにこのネットワークはスペイン国内2,000店舗に拡大させる事が可能で、El Corte Inglesはスペインの82%の人にとって車で40分以内に位置しているため、Click&CollectやClick&Carのサービスを通じて店舗での受け取りも促進していきたいと説明している。

 

 

百貨店のデジタル化の未来

 

百貨店は小売り業態の王道として、日本の高度経済成長期、そしてバブル期の消費を支えてきた。そのため、いまだに多くの根強いファンを抱え、各都市部の一等地に実店舗を展開している。しかし、そのような「強み」は、このデジタルシフトの波の前では足かせとなっており、ドラスティックな施策を行うことが難しい状況を生み出している。

一方で、若者向けに事業を展開している丸井などの、後発百貨店は積極的な施策を行い、実店舗の強みとオンラインを活用した顧客体験の向上施策の検討を積極的に進めている。

このコロナ禍は、まさに百貨店にとっては「大禍」となっているが、いつまでもオンライン化のトレンドシフトの波に乗れず(乗らず)に時間の経過を待つのではなく、否応なしにオンライン化に舵を切らせ、実店舗の役割を見直す良いきっかけになったとも言えなくはない。

もちろん百貨店の良い点も多いが、いつまでも実店舗でお客様を待って販売するビジネスモデルだけでは先行きがおぼつかないのも事実だ。現状では、実店舗の販促の補助的にデジタル施策を導入している百貨店が多いが、今後数年でその状況も大きく変わっていくだろう。

既にオンラインに注力している企業はオムニチャネルネルから、OMOなどのキーワードへ進化を見せている。百貨店もその流れに追随するだけでなく、百貨店がその実店舗の強みを活かし、実店舗の役割に新しい風を吹き込むとき、百貨店は本当の意味でデジタルシフトに成功したと言えるのではないだろうか。現状の延長線上に活路を見出すのではなく、新しい独自の切り口を見出してくれることを期待したい。