コラムニストのLewis Gersh氏は、消費者へのリーチをさらに広げるために、いかにしてデジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランド(デジタル・ネイティブであり、特定のカテゴリーに特化したブランド)が「消費者と物理的に触れ合うチャネルへの進出」を達成するか、その革新的な方法についての見解を述べる。

 

私のコラムの中には「90%」という測定値が頻出する。この数値が出てくる明白な理由の1つとして、激しい変化を続けるデジタル環境のなかでも小売業界の売上の「90%」以上が、依然として店舗で生み出されているということがある。

 

また、別の基準値として「90%」という数値を使うこともある。今日の平均的なブランドは、eコマース全体の約「90%」を解明できていると考えられる。つまりこの数値は、eコマース事業者のほとんどがプロフェッショナルなデザインや高レベルのセキュリティ、さらにユーザーフレンドリーで、閲覧しやすいサイトといったシームレスなインフラをすでに実現しているという意味である。そしてほとんどのブランドが、eコマース1.0(eコマーススタートスタート期)、あるいは、カスタマーエクスペリエンスの改善がみられたeコマース2.0の初期段階をはるかに超える、優れたサービスを提供している。しかし、それでさえ今日では、消費者の購入検討対象となるための最低限の要件にすぎないというレベルだ。

 

残りの10%が最も困難である

90%を提供するだけでは、ブランドがイノベーターおよびeコマースのリーダーとしての地位を確立するのに到底十分とは言えない。しかし、90%を超えると難易度は対数的に上がる。これは、リヒタースケール(地震のエネルギー量)で桁が大きくなるのに似ている。残りの10%の達成に集中し、その困難を克服したブランドというのは、従来型小売をデジタルフォーマットに適応させるだけではなく、デジタルと従来型の両方の要素をブレンドした新しい消費者エクスペリエンスを創造しているブランドと言えよう。そしてそのうちのほとんどは、デジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランドである。(ここでも「90%」がデジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランドであると言いたいところだが、正確な数字は控えたい。)

 

その理由もまた、極めて明らかである。家具・インテリア雑貨ECのWayfairや量販EC Boxed、シェイビング用品EC Harry’s、リネンEC Parachute、アイウェアEC Warby Parkerなどのいわゆるトップ・デジタル・ネイティブは、既存の店舗小売形態にデジタルツールを組み込み、ビジネスモデルを改造することを余儀無くされたのではなく、既成観念にとらわれないアプローチから自由にスタートすることができた。

 

皮肉なことに、デジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランドが成功するための重要な要素は、物理的な店舗分野に進出する能力があるかどうかということなのである。デジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランドのパイオニアは、カスタマーエクスペリエンスが主要な差別化要因であることを直感的に認識していたのだろう。そして、同じパイオニアの多くは、顧客がもはやデジタルに限定されたエクスペリエンスを望んでいないことに気付いている。

 

以下では、デジタル・ネイティブがマーケティング戦略の一環として行なっている「消費者と物理的に交流する分野への3つの施策」を紹介しよう。

 

小売実店舗の展開

Amazonはバーティカルではなく、現時点で一事業者が達成できる最大規模のホリゾンタル・ブランドであると言える。それにもかかわらず、デジタル・ネイティブが実店舗小売へ進出する最も分かりやすい例でもある。Amazonは3店舗の「Amazon 4-star(Amazonで星4つ以上の評価を得た人気商品を集めた実店舗)」と並んで、全米に18店舗のAmazonブックストアを展開している。そして、言うまでもないが、Whole Foodsの買収によりさらにプライムメンバー対象のディスカウントを提供するといった別形態のクロスオーバーマーケティングの活用が可能となった。

 

不動産調査会社Green Street Advisorsの調査によると、デジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランドがオープンした実店舗数は全米で600店舗以上。Warby Parkerだけで100店舗近くを展開している。Warby Parker は店舗のロケーションを決定するために高度な市場調査を実施しただけでなく、実店舗が提供するエクスペリエンスによって、自社のデジタルアイデンティティを補完されることを重視し、実店舗小売への移行を成功させている。

 

ポップアップストアやその他の実験的な施策

Warby Parkerのように、デジタル・ネイティブから実店舗小売へ移行することは、たとえばインディーズのロックバンドがメジャーに移行するのに若干似ているように思う。インディーズバンドは、自主制作音源を販売し、小さなライブハウスでツアーを行う。その時期、彼らはトレンドセッターやインフルエンサーを味方につけることができる。そして、最終的に人気が急上昇し、メジャーレーベルとの契約をし、大きなアリーナ会場に出演し始める。そのバンドは成功したのだ。しかし一方で、“トレンドセッターを味方につけ、インフルエンサーを魅了するインディーズバンドである”というメリットの幾つかを失っている。

 

ポップアップストアは、デジタル・ネイティブのオリジナルで革新的な“インディーズロック”の精神により合致しているように思う。化粧品サンプルのサブスクリプションサービスを提供するBirchboxは、まさに“インディーズバンド”のように、ポップアップストアの全米ツアーを行なった。

 

さらに革新的なサービスを提供する最近のブランドの1つに、ポップアップストアを顧客の自宅で展開するというファッションECのMaisonMarcheが挙げられる。また、25ドルでCasperのマットレスで45分間の睡眠を取ることができるポップアップストア「The Dreamery in Manhattan」もその一例である。

 

従来型メディア

デジタル・ネイティブが従来型小売実店舗の物理的な存在によって自社の価値を高めることができることに気付いたように、現在では多くのデジタル・ネイティブが従来型の有形メディアの利点を認識している。あるウェブサイトでは、「2018年の最も注目を集めている広告トレンド」として屋外広告を挙げていた。また最近のForbes誌には、「(昔ながらの)ダイレクトメールは依然として効果的:テクノロジーを活用して従来型マーケティングを向上させる方法」というタイトルの記事が掲載されている。

 

旅行かばんブランドのスタートアップであるAwayは、ネイティブ広告の概念を新しいレベルに引き上げた。雑誌の有料コンテンツを購入する代わりに、自社で雑誌(印刷版とデジタル版)と、高級感のある限定版のトラベルブックを出版したのだ。

 

Amazonも(当然のこととして!)、従来型メディア分野に参加している。たとえばCNBCが「注目すべきレトロな外観」であると評価した「おもちゃカタログ」の発行だ。CNBCも指摘しているように、「読者は、…カタログの商品画像をAmazonアプリでスキャンして、より詳細な商品情報を入手し、その商品を“オンライン”ショッピングカートに追加できる」という点では、完全にレトロなカタログとは言えないだろう。

 

つまりトップのデジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランドと同様に、デジタル・ネイティブ・ホリゾンタル巨大ブランドであるAmazonは、eコマースと実店舗小売、もしくは、デジタルマーケティングと有形販促物のどちらかを一択することが成功につながるわけではないことを認識しているのだ。真のイノベーターは、それらの全ての要素を結びつけ、各要素をただ合算するよりも効果的なパッケージを生み出しているのである。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の1/28公開の記事を翻訳・補足したものです。