マーケターの推定によると、61%の学生が昨年度の学年を終えた同じ所から、新学年をスタートさせているという。つまり、リモート学習ということだ。それではなぜ、小売業者はリアルタイムのデータを利用した決定をせず、いまだに従来通り学用品をオンラインで販売し、事後的な値引きやプロモーションを提供しているのだろうか?
そのような学校関連商品の広告例は、回復段階にある米国経済を考えると、ずれているように思える。また、在宅勤務と自宅でのリモート学習の両方のパラダイムシフトがニューノーマルとなる中で、その事例は、広告主がより効果的な消費者のターゲティングに失敗していることも示唆している。
マーケターは変化する状況に適応しなければならない。また、需要と供給の問題に対処する際には、より良い勘を働かせなければならない。パンデミック(世界的大流行)にあおられて絶え間なく変化するこの市場では、需要と供給は絶えず動き、変化している。
Productsup(SaaSプラットフォームを提供するドイツ企業)の米州担当副社長であるChris Dessi氏によると、新学期に向けたショッピングに対する小売業者のアプローチは、やってはいけないことを示す確固とした例であるという。
「企業がオンライン販売のための準備をしているからといって、それが最も効果的な方法で行われているわけではない」と同氏。
むしろ、広告主は、従来の学校用品の購入者を、2つの異なるグループに区別し、ターゲティングする必要がある。同氏の提案によれば、1つのグループは、物理的に学校で新年度を始めるために学校用品を購入する消費者向けのものであり、もう1つのグループは、リモートでの学習環境でスタートするために関連用品を必要とする消費者向けのものであるという。
時には、対面式授業とリモート学習が複合的に実施されたり、始業日が遅れたりする。このような変化し続ける要因があるゆえに、小売業者の戦略は、個々のニーズの対応するところまでは到達することはできないと同氏は指摘。
「大手小売店のサイトに行くと、リュックサック、靴、弁当箱など、色とりどりの商品が並んでいるのを目にすることだろう。これらは、現実はノーマルではないのに、生活は普段通りだと言っているようなものである」とDessi氏は話している。
逃した機会
米国のeコマースは急速な成長を遂げており、減速する気配は見られない。米国のメールマーケティング企業LitmusのCMOであるMelissa Sargeant氏によると、小売業者とブランドは、ホリデーマーケティングと広告キャンペーンの準備をする際に、デジタルインフラと戦術を調整する必要があるという。
「本物の個人的なカスタマーエクスペリエンスを生み出すブランドは、より迅速に経済危機から抜け出し、より良いポジションを獲得するだろう」と同氏。
アナリストは、米国のマーケティング費用が約25%減少すると予測しているため、これは特に重要なことである。このことは、最大限に、予算を活用し効率化を図り、本物のブランド体験の価値を強調する必要があることを示していると同氏は付け加えている。
では、なぜ広告主は新しい状況を完全に利用できていないのだろうか。多くのマーケターはまだその方法を分かっていないのだ。
「以前は、学生が新学期に必要とする商品を予測することは非常に簡単だった。そのため、全面的なプロモーションや多くのお買い得品の提供が可能だった。しかし今は、広告主がこれまでに対処したことのない、はるかに困難な状況となっている」とProductsupのDessi氏。
提供するカスタマーエクスペリエンスによって、ユーザーのブランドに対する見方が左右される可能性がある。的外れなお買い得情報を提供すれば大きな反感を買うことになり、買い物客に他の店に行くよう促すことになるだろう。たとえば、3人の子どものバーチャルスクールの準備をしようとしている親は、登校初日に着る服に関する値引きではなく、テクノロジー商品と机のお買い得情報を見たいと思っていると、同氏は説明する。
一方で、一部の子どもたちは、対面式の学校の初日に新しいスタイルを見せびらかすことにワクワクしていた。そのため彼らの両親は、値引きの有無にかかわらず、新しい服を買うつもりであった。この厄介な状況において、小売業者が買い物客に関連性のある商品を見せておらず、不必要な値引きを提供し、支出機会を減らしているケースが存在しているのだ。
「ローカル広告の力も考慮する必要がある。精通したデジタルマーケターは、在庫の詳細や効果的な行動喚起を活用して、店舗ロケーションに基づいて、消費者向けマーケティングを行うことができる」とDessi氏。
それぞれの学区の方針は異なり、常に変化している。したがって、マーケターは買い手がどこにいるのかを判断することができないのだ。一部の学校の方針は、日々、さらには1時間ごとに変更されている。先を行くには不確定要素が多すぎると同氏は話している。
アジリティを有するマーケターの勝利
米国のeコマース開発会社Netalico Commerceの創設者兼CTO(最高技術責任者)であるMark William Lewis氏によると、商品を選択して販売するための小売業者のバックエンドシステムやプロセスの大部分は、依然としてかなりマニュアル的であるという。それは、個人の判断に基づいているからだ。さらに今年は、前例のない世界的な大流行による影響によって、需要と供給が非常に予測の難しい状況になっている。
「サプライチェーンの制約ゆえに、小売業者は、適切な商品を仕入れるためには、数ヶ月前に需要がどうなるかを予測する必要がある。州や地方自治体が、日々、閉鎖の決定を行っている場合、これは難しいことだ」と同氏は話している。
例えば、在宅勤務と自宅でのオンライン学習による並列的に起こっている供給と需要のストリームによって活気づいているノートパソコンの現状を考えてみよう。事後的な値引きやプロモーションを提供する広告はほとんどなかった。
これはすべて、不十分なフィード管理が問題である。サプライヤー、小売業者や顧客の間で十分な情報が流れていないのだ。全国的にノートパソコンの不足が蔓延しているため、小売業者が在庫を顧客に伝えることが重要であり、そうでなければ、売上の損失に直面するとProductsupのDessi氏は述べている。
「同じように、ノートパソコンが人気商品であることに小売業者が気付いたら、これらの商品に値引きを行わないようにすることが最善の利益となる。リアルタイムのイベントに基づいて調整ができていないことを示すような、逆行的な値引きやプロモーションを提供する広告は、ほとんどない」と同氏。
ここでの勝機は、アジリティ(機敏性)に基づくものだ、と同氏は続ける。最も機敏なマーケターが常に勝つ。適切なマーケティングをサポートする適切な技術が勝負なのだ。
「適切な技術を導入していない企業は、コロナ禍前よりも早く枯渇するだろう」とDessi氏。
世界的に、技術に精通していないマーケターの衰退は、明らかになりつつある。これは、加速された進化論であり、これまで隔離されていたブランドや小売業者にダメージを与えるだろうと同氏は指摘する。
「フィード管理と最適化の分野ですでに活躍していた人々は、競争に打ち勝つだけでなく、混乱を利用している。彼らは競争相手より上手なのだ」と同氏は指摘する。
マルチチャネルの計画が必要
米国のオンライン販売は、6月に前年比で80%近く増加しており、ホリデーシーズンに向けて、この傾向は続くと予想されている。LitmusのSargeant氏によると、これは、ブランドがメールを通じてターゲットオーディエンスに関する多くのインサイトを収集し、他のチャネルに情報を提供することの重要性を強調しているという。
マーケターが、ホリデーマーケティングの取り組みにおいて、プロセスのこの部分をおろそかにすると、マルチチャネルマーケティングの計画は的外れなものとなってしまう。そうではなく、メールを通じて得たオーディエンスのインサイトに投資して、ブランドの残りのマーケティング戦略に情報を提供する必要がある、と同氏はアドバイスしている。
「そうすれば、マーケターは効率と予算を最大化する方法を知ることができるだろう。メールは、すべての小売やeコマースのマーケティングミックスにおいて、中心となる必要がある」と同氏。
マーケターは、顧客との間に、より本物に近い人と人とのつながりや体験を作り出さなければならない。消費者は、彼らが何を求めているかを、ブランドに知ってほしいと期待している、と同氏は付け加えている。
情報に基づく意思決定
マーケターが適応するためには、不可欠要素が必要だとDessi氏は指摘する。正確な価格設定モデル構築するためには、リアルタイムの消費者データが必要である。これによって、消費者は自身が必要とする商品を実際に目にすることができる。
「これが、小売業者が競合他社と差別化する方法だ。販売をオンラインチャネルに依存している場合は、素晴らしいエクスペリエンスを提供し、顧客の期待を上回る必要がある」と同氏。
今日の世界では、特にマーケターとマーチャントにとっては、一般的に、予期しない、不安定で前例のない需要と供給の変化がより多く起きると予想される。小売業者は、フィード管理とリアルタイムの在庫プロセスを最新の状態であることを確認し、今すぐその変化に対して先手を打つ必要がある、とDessi氏は提言する。
そのための一つの方法は、適切なeコマースソリューションプロバイダーと提携することだ。 そうすれば、リアルタイムデータを使用することができる。それは、最終的に顧客を満足させながら、バックエンドの意思決定に情報を提供する唯一の方法であると、同氏は述べている。
「より多くのブランドがeコマースに当然にピボットする中で、競合他社との差別化とは、商品情報が正確で、継続的に更新されていることを確認しつつ、顧客に日々の生活に適した商品を示し、関連性を持たせることにある」とDessi氏は付け加える。
オンラインの世界で起こっていた、在庫、価格変化、商品入手可能性の大々的な変動は、今、現実の世界でも起きている。それらは同じであると、同氏は話している。
※当記事は米国メディア「Ecommerce Times」の10/1公開の記事を翻訳・補足したものです。