データやテクノロジーが進歩し、消費者の選択肢が増えた昨今、マーケティングは売り手から買い手に主導権が移りつつあり、企業にとっての「顧客ロイヤルティ」への取り組みはかつてないほどに重要なものになっている。
市場の細分化にともない競争が激化すると同時に、その必要性を増すロイヤルティへの取り組み。そもそもロイヤルティとは、ビジネスと引き換えに、会員顧客に利益をもたらすものである。
(ロイヤルティには)合理的な利益はもちろん重要だが、それと同時に、感情的な利益も必要だ。ロイヤルティマーケティングの方法論では理想とする優良顧客を前提にするため、特にリテンション(既存顧客の維持)に焦点を合わせる必要があるだろう。
無限の選択肢を持ち、あらゆるツールへアクセスできる現代の顧客のリテンションは、企業にとってこの“顧客ファーストの時代”に不可欠な戦略なのだ。
1.顧客の声を聞く
顧客の声に耳を傾けることは、一見単純なことのようだが、ロイヤルティマーケターが採用すべき最も重要な戦略的課題である。ブランド担当者が効果的な聞き取りをすれば、顧客の好き嫌いや、顧客が何を問題と思っているかを確認することができる。
またこのプロセスでは、何が顧客の生活をより良く、より簡単にするかを見つけ出すことができる。
顧客はコスト意識が高いが、最終的には様々な要素を考慮して、ブランドから製品の購入を決めている。その要素には、スタイルや美学、ブランドの価値や使命、家族や友人からの勧め、ブランドと関係があるセレブやインフルエンサーからの影響などが含まれるだろう。
ブランドは、自社に対する愛情と情熱があり、より多くの価値を得るために進んでお金を払う顧客を、「さらに理解したい顧客」であるとみなす。
顧客と強い関係を結ぶには、こうした関係に隠された「理由」を理解することが不可欠だ。
その「理由」とは、最近の購入に至ったきっかけは何か?なぜこのブランドを選んだのか?競争相手よりもこのブランドを好きな理由は何か?などである。そして、最も重要なのは、ブランドが顧客にどのような感情を与えているか、ということだ。
顧客の声を聞くことに成功しているブランドの、最も良い例はAmazonだ。同社が大成功したロイヤルティプログラム「Prime」は、2018年の初めには全世界での会員数1億人を突破している。
Primeサービスが始まった2005年から、同社は顧客に魅力的な関連性の高い特典を追加し、新鮮で魅力あふれるプログラムを作り上げてきた。Primeには、無制限の動画ストリーミングや無料音楽ストリーミング(有料より曲数が少ない)、無制限の写真ストレージ、無料電子書籍(1ヶ月に1度)、無料のオーディオブック、無料のゲームなどのサービスが含まれる。
2.顧客を理解していることを示す
顧客の声を本当に注意深く聞いていると、そこから役に立つ情報を得ることができる。パーソナライゼーションはロイヤルティの大きな原動力だ。ブランドは、顧客との1対1の関係を築くためにさまざまな顧客体験とプログラム戦略を用いて、デジタル的関係を深め、拡張し、新鮮さを保たなければならないのである。
ブランドが「顧客が購入した理由」を理解すれば、最も忠実な顧客がなぜそのブランドから買おうとするかがわかるだろう。たとえば忙しい生活を送る顧客に合わせたブランドなら、顧客専用の電話回線サービス、または迅速に専門的なサービスを提供するコンシェルジュなどがもたらすメリットを検証したほうが良い。顧客は、何らかの利益がもたらされるのであれば、それと引き換えに個人情報を提供する意思があるのだ。
問題を素早く解決し、顧客の信頼を得ることで、顧客は特別な扱いを受けている気分になる。一方、解決に時間がかかる多くの問題や、面倒な作業には、ストレスを感じることもあるだろう。
多くの消費者は、よくあるマスマーケティングにうんざりしている。慣例的なプロモーションのせいで、消費者はディスカウントの案内を待つようになっており、割引のためならばどこへでも行くようになる。これはロイヤルティとは異なるものだ。したがって、会員が望んだときにいつでも素晴らしい利益を享受できる「プレミアムロイヤルティプログラム」が、(会員にとって)魅力的なのである。
顧客がいつでも利用できる特典を提供すれば、ブランドとの関わりがさらに深まるだろう。重要なのは、プログラムと特典によって、真に顧客とつながれているのかどうか、ということだ。
顧客は、ブランドに自分たちを知ってもらい、価値があると感じてもらうことを望んでいる。それを達成できれば、顧客ロイヤルティは間違いなく高まるだろう。
3.オファーを差別化する
無限の選択肢を与えられている今の顧客は、少しの労力だけで最高の製品を最低価格で見つけることができる。この現実が、もはや価格競争に勝てない小売業者を変え、差別化を意識させている。どのブランドにとっても、思い出に残るような体験につながる顧客との感情的な結びつきを築くことは、最終的に目指すところだろう。
たとえば米国の衣料品ブランドTOMSは、社会的意義をビジネスに直接組み込んでいる。TOMSの「One for One」プログラムでは、消費者が靴を1足買うたびに、途上国の子どもたちに新しい靴が贈られるというものだ。
大儀のある社会的メッセージによって消費者がブランドを認識すると、両者に深く永続的な絆を生み出す。こうした感情面の結びつきにより、消費者はさらにブランドに関わりを持つのだ。
ロイヤルティと同様に重要なのが「エンゲージメント」と「信頼」である。差別化によってエンゲージメントを高め、信頼を高めることで、さらなる顧客ロイヤルティを獲得できるだろう。
TOMSは自分たちの顧客をよく理解しており、エンゲージメントに関するインパクトのある戦略を立打ち立てることに成功している。
4.顧客に「特別感」を
誰しも「特別である」という感覚を得たいものだ。小売業界では、この願望を他社より叶えてくれるブランドが多くなってきた。
たとえば「プレミアムロイヤルティプログラム」は、多くの独占的利益を得られるため、顧客を引き付ける力が強い。消費者は”割引特典”はもちろん好きだが、まだ誰も体験していないような”特別な扱い”も受けたいと思っている。
今まで考え方を変えてみたり、これまでの通説に挑戦したりする小売業者は、現在、または未来の顧客ロイヤルティを獲得していくことになるだろう。Amazonや米国の家具メーカーRestoration Hardware 、フランスの化粧品会社Sephoraは、今までに忠実な顧客基盤を構築してきた企業の例だ。それは小売業者にとってそんなに難しいものではないはずである。
Primeは、非常に忠実な顧客をターゲットにしたプログラムの中でも、最良で最大の例だ。Primeはその栄誉にあぐらをかくことなく、努力し続け、プログラムの新鮮さを保っている。顧客の声を聞き、必要な関連性と価値に基づく特典を提供することによって、さらに頂点を極め続けているのだ。
Sephoraは、顧客の声に耳を傾け、それをロイヤルティプログラムの「Beauty Insider」に反映している。このプログラムでは、年間購入額に応じて分けた階層別に特典を提供しており、1,000万人の会員数を誇る。
購入額に応じた階層プログラム自体は、典型的な今までのロイヤルティプログラムであるが、それに付随する“体験的な特典”が他とは異なる。たとえば会員は、イメージチェンジやプライベートな電話相談にアクセスできたり、購入につながるような特別な限定イベントへの招待を受けたりしている。
Sephoraの顧客にはモバイルユーザーが多いため、同社は会員の生活にシームレスに溶け込むようなプラットフォームを提供。最も興味深い特典の一つは、会員専用のソーシャルプラットフォーム「Beauty Insider Community」である。会員はこのプラットフォームにプロフィールや写真を登録でき、商品やファッションについてのチャットをすることもできる。
Beauty Insiderは、特別な製品やイベント、パーソナライズされた美容情報を、感謝の形として顧客へ届けるべく、2007年にサービス開始した。2009年には「V.I.B(同社のVIP顧客。Very Important Beauty Insider)」を設定し、特別なプレゼントやイベントへの招待、商品の早期購入権など、プレミアムな特典を提供している。
同社は2013年に、「V.I.B」内の最高ランク「Rouge」を新設。こうした一連の取り組みから、Sephoraがロイヤルティプログラムを”重要な戦略”として改めて認識していることがわかる。このVIPタイプのステータスは、Sephoraの顧客にとっても非常に重要なもので、ロイヤルティプログラムにおいて驚くべき特典を得られる仕組みになっている。
5.プレミアム層への無料ロイヤルティプログラムの強化
無料のロイヤルティプログラムは、多くの会員を獲得する良い方法である。しかし、エンゲージメントを拡大し、最高の顧客からの購入を望む場合には、すべての人に同様の無料プログラムを提供しない方が良い。
そこで登場するのが、「プレミアムロイヤルティプログラム」なのである。会費を設定することで、忠実な顧客を厳選することができ、ブランドは最も魅力的な体験を彼らに提供できるようになる。今までの(無料の)プログラムでは、会員は特典を得るために時間をかける(待つ)必要があった。しかし、「プレミアムロイヤルティプログラム」は真逆である。会員は定期的に料金を払うことと引き換えに、いつでもブランドや製品独自の特典を享受できる。つまり会員が365日、24時間プログラムに参加できることだ。
無料ロイヤルティプログラムとプレミアムロイヤルティプログラムはお互いを補完し合うものだが、ブランドにとって、有料会員のプログラムを充実させることは素晴らしい戦略だ。というのも、テストとアプローチを繰り返し行える機会を持つことができるからである。
「プレミアムロイヤルティプログラム」のマーケティング担当者は、上位20%の顧客が売り上げの80%を占めるという「80/20ルール」の考えに則っている。
つまり、「プレミアム(または有料)ロイヤルティプログラム」においては、最も忠実な上位20%の顧客をターゲットにすべきだということだ。それは、年会費を支払えばすぐに多様な特典を享受できる「プレミアムロイヤルティプログラム」に参加したいという顧客のことである。
6.顧客に合ったロイヤルティプログラムを作る
顧客の声を聞き、改善点を特定し、その問題に取り組むことが大切だ。顧客を理解していることを示すことで、改善点に取り組むことができるのである。
「差別化」は、競争相手より目立つための鍵であり、顧客は自らの情熱を注げるブランドを支持したいものなのだ。いつも顧客に特別感を与えること―。それができなければ、顧客を失う恐れがある。
また、無料ロイヤルティプログラムを強化することは、顧客基盤をカバーすることができると同時に、プレミアム層の顧客をより価値のある存在にできる。
プレミアムロイヤルティはどのブランドでも行うことができるが、やはりターゲットにすべきは最善で最も自社に対する関心の高い顧客だ。このような顧客は結果として、ブランドへの投資(出費)を飛躍的に増やし、口コミを広めてくれるのである。
成功しているマーケターは、ブランド独自の個性とメッセージ性に適合したロイヤルティプログラムを作り出す。重要で忠実な顧客に対応するには、ブランドの信念を貫くことが最も重要なのである。
※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の10/4公開の記事を翻訳・補足したものです。