eメールを利用した包括的なリテンションプログラムを実行することは、「非常に困難なこと」と思われがちだ。寄稿者Sam Welch氏が、eメールによるリテンションマーケティングの利点と実行方法について解説していく。

 

マーケティング担当者であれば、専門家としてのキャリアを積む中で、「顧客リテンションは新規顧客獲得より低コスト」だと聞いたり、もしくは自身の経験から学んだりしていることだろう。

 

リピート客は、まるで犬のように忠実であることが理想である。既存顧客がブランドとの関係をより長く継続させ、ブランドを賞賛し、友人や家族に勧め、長期間にわたり多額の購入を行うことが望ましい。

もちろん、犬は言葉を話さず、お金を使うこともないので、この比喩はおかしいかもしれないが、それでもどことなく意味は理解していただけるだろう。しかし、マーケティング担当者の中には、リピート客について十分に理解できておらず、売上面での恩恵を受けるに達していない者も多い。

 

リテンションマーケティングは重要である。もしこれまでに、どうやって顧客を満足させ続け、継続的に購入させるかということを検討したことがないのであれば、今すぐに始めるべきだ。検討したことはあるが、インスピレーションが湧かなかった、または、戦略的な方向性が明確に見いだせなかったマーケティング担当者にとっては、本寄稿がいくつかのアイデアを生み出すのに役に立つのではないだろうか。

 

リテンションに関する当シリーズ記事の初回は、マーケティング担当者が「すでに取得している顧客情報を活用してeメールで効率的に顧客を引き付ける方法」、そして「競合他社の取り組みからインスピレーションを得る方法」を紹介する。

 

 

 

セグメンテーションが全て

効果的なリテンション戦略を策定するには、まず顧客とその行動を理解する必要がある。顧客の年齢や、その他すべてのブランドが収集してきた人口統計データについては、しばらく忘れたほうがいい。

代わりに、ストアをブラウジングしている際に、どのように顧客が商品に反応しているかに注目して欲しい。本質的には、顧客は、常にブランドに有益な情報を提供しており、彼らの行動に基づいて顧客自身をセグメント化しているのだ。顧客行動のうちどれが重要であるかを認識し、自社のリテンション戦術に活用すべきである。

 

次に、いくつかの例を示す。

 

・どのように購入活動を行っているか?顧客の最後の取引からどのくらいの時間が経過しているか?過去30日間に商品を購入していないすべての顧客に対し、新しいカタログを電子メールで送信することを検討すべきである。

 

・直近の購入の際に、クーポンを使っているか?クーポンを使用するグループに対しては、プロモーションコードを送信すべきである。

 

・特定のカテゴリーや製品に対して、明白な好みを示しているか?次回の買い物の際に有益となるおすすめ商品情報を提供するべきだ。

 

・商品を入れた未決済カートをそのまま放棄したか?カート内商品の購入を完了するように促す、穏やかなリマインダを送信するべきだ。

 

・ブランドにとって最も価値がある顧客は誰か?ブランドへ対する顧客のロイヤルティに感謝し、さらなるロイヤルティ継続のために、ちょっとした限定ボーナスオファーを提案するべきだ。

 

以上のセグメントを確定したら、次にあげる項目を実行することを勧める。

 

 

eメールを活用し、顧客を惹きつける

使用中のeメールサービスの固定費は別として、顧客にeメールを送信すること自体は無料である。既に取得している顧客のアドレスを活用するべきなのだ。以下は、リテンション戦略に織り込むべきeメールの種類(および、それぞれのベストプラクティス)である。

 

ウェルカムメール

電子メールアドレスを登録したほとんどの見込み顧客は、ウェルカムメールを受け取ることを期待している。一般的なウェルカムメールの目的を以下に示す。

 

  1. 顧客に企業を紹介する
  2. 自社製品・サービスの価値を、再度強調する
  3. 人間味あるイメージを確立する

 

顧客が、件名から「これがウェルカムメールである」ということがすぐに認識できるようにすることが大切だ。件名に「Welcome/ようこそ」、または「Hi/こんにちは」などの単語を組み込むことによって、これは簡単に実行できる。たとえば「Welcome to The Family/我が社へようこそ」や 「Hello From Company XYZ/こんにちは。XYZ社です。」などである。

 

eメールをパーソナライズする:ユーザーがeメールアドレスとともに名前を登録した場合は、名前をeメールの件名に組み込む。

・独自のブランド価値提案を含む:ウェルカムメールを使用して、自社のブランドと他社の違いを明示し、顧客が自社選ぶべき理由を説明する。

eメールが提供する予定の内容を伝えておく:ユーザーに対し、メールの送信頻度、eメールによって提供するコンテンツの概要を伝え、ユーザーがeメールに何を期待できるかを明確に知らせる。

・顧客サポートを強調する:ウェルカムメールの目標は、ブランドを人間味のあるものにすることである。この第一歩は、カスタマーサポートを強調することだろう。それによって、企業が顧客との関係を重視していることを表すことが可能なのだ。

 

ナーチャリングeメール

他のeメールタイプとは異なり、ナーチャリングメール(顧客との信頼関係を構築するeメール)の目標は、露骨に販売促進を行うのではなく、eメールの購読者に対してブランドのイメージを構築することである。ユーザーが、自社でも取り扱うある商品を購入する必要がある場合に、他社よりも自社ブランドを先に頭に思い浮かべたとしたら、ナーチャリングメールの目標が達成できていると言えるだろう。

 

・顧客を教育する:エデュケーションeメールでは、メリットや創造的な使用事例など、ユーザーの製品に対する理解を深める。

・顧客をブランドに引きつける:ナーチャリングeメールを活用し、自社ブランドとその価値提案を強化する。

・自社のビジネスストーリーを提供する:どこでどのように起業したのか、そして現在、会社を成長させる原動力は何なのかなど、自社ビジネスに関するストーリーを伝える。

 

 

プロモーションeメール

効果的にコンバージョンを増加させることができるのが、プロモーションeメールだ。そのため、あらゆるeメール戦略において最も重要視すべき部分である。

 

CTAcall to action)を目立たせて活用する:プロモーションオファーを目立つように配置し、eメール内の他のテキストより際立つようにデザインする。プロモーションテキストを、CTAボタンの近くに配置する。

・緊迫感を高める:プロモーションオファーに関しては、多少の緊迫感を与えるべきである。オファー終了までのカウントダウン表示をするか、オファーが期間限定であることを示す。注:緊迫性を過度に強調すると、その有効性が薄れるので注意が必要。

・オファーの理由を示す:理由の内容にかかわらず、なぜ、そのオファーを提供するかという“理由”を明らかにすると、コンバージョン率が向上することが分かっている。その“理由”は、自社の節目の行事を祝福する場合もあるし、単に、メール購読者の自社顧客コミュニティへの参加に感謝する、といったことでも構わない。

 

カート放棄対策メール

 

カート放棄は、eコマースにおける大きな問題である。デンマークに本社を置くリサーチ会社Baymard Institute分析によると、オンラインショッピングでは、未決済の商品が入ったまま約70%のカードが放棄されているという。カート放棄しているユーザーに対してeメールを送信することによって、かなりの確率でそれを決済につなげることができるだろう。

 

・最初のメールをリマインダとして送信:ユーザーがカート内の商品を放棄した直後に、最初のメールを送信する。このメールは、放置した商品を思い出させることだけを目的とし、購買プロセス途中で他のことに気を取られたかもしれないユーザーを、再度購入手続きに導き戻すことが出来る。

・割引を提供するフォローアップメールを送信する:最初のメールを受信しても、まだ未決済のままの顧客の場合は、数日後に割引または送料無料のオファーを提供する“フォローアップメール”を送信する。このメールは、最終的な購入価格が高額のためカートを放棄した可能性がある“価格重視のユーザー”を対象とする。

・製品または自社ウェブサイトの価値を強調:カート放棄対策メールによって、特定の商品の価値や自社のウェブサイトから購入するメリットを伝える。たとえば、送料無料または割引価格といったメリットを顧客にリマインドしたり、または、放棄された商品がいかに人気があるか、機能が充実しているかを強調したりする。

 

顧客が、戦略通りに型にはまった反応をすると想定してはいけない。最初はベストプラクティスに従えばいいが、独自のアイデアをテストすることが最も重要であるだろう。

 

他者との競争状況を把握する

リテンション戦略を策定する際には、競合他社が送信しているメールに注目することも時として役に立つ。その方法を以下に挙げよう。

 

・自社の競合相手を特定する。

・競合他社への関心を示すアクションを起こし(例えば、競合相手のストアでの注文の完了やカートの放棄など)、見込み客を装う。

・受信トレイに、競合他社が送信しているeメール用のフォルダを作成する。

・一定期間の競合相手からのeメールを受信する。

 

1か月間にわたり競合相手からのメールを収集すれば、だいたい彼らのリテンション戦略を明確に理解することが出来るだろう。ただし、一部のロングテール部門については、さらに長期間メールを受信する必要があるかもしれない。

 

競合相手のメールを収集したら、そのリテンション戦略の長所と短所を検討する。

 

・他者からのeメールを、前述のeメールタイプに分類し(必要に応じて、テーマグループを追加・削除)タイムラインに沿って並べる。

・リード文、抑揚、件名、コンテンツ、デザインに基づき、eメールのセグメンテーションを分析する。

・競合他社は、本記事の最初のセクションで取り上げたベストプラクティスに準じた独創的な戦術を採用しているか、大きな欠点はあるかなどを検討する。

 

 

このようなギャップ分析を行うことにより、独自のリテンション戦略のための新しいテストアイデアを得ることが可能なのだ。

 

リテンション戦略に関するその他の考慮事項

・モバイルでメールをチェックすることが、特にミレニアム世代では当たり前になっている。モバイル対策を優先させることは、eメールによるリテンションへ施策を成功させる上で非常に重要であるということだ。

・タイミングは、常に考慮する必要がある。顧客はいつ企業からのメールを開く可能性が高いのだろうか?

・送信頻度が少ない方が、開封率は上がる。私が分析したある企業は、30日間で40件以上のメールを送ってきた。それは、うそのような過激すぎるコミュニケーションの例である。

・自問すべき事項:

  • eメールによって、商品・サービスのメリットを繰り返し、最終的にその価値を高められているか?
  • eメールは読みやすいレイアウトで、商品・サービスの価値を伝えられているか?
  • eメールが、顧客とのポシティブな関係構築に役立っているか?
  • 各eメールは、その目的に応じてカスタマイズされているか?また、ユーザーにサイトを再訪させ、コンバージョンにつなげることを目標とする場合に、ユーザーがたどる経路はシームレスでフリクションレスになっているか?

 

最後に考慮すべき事項

本記事を読み終わり、問題が山積みだと感じるマーケティング担当者もいるだろう。確かにそうかもしれないが、新規顧客を開拓するよりも、メールを受信しているユーザーの関心を引く方が費用対効果に優れているのである。結局のところ、重要なことは収益とROI(投資利益率)の向上であり、顧客を引き戻すことにより両方を実現することが出来るのだ。

 

しかし、アプリのリテンション戦略は、まったく別の話だと言われている。次回の記事では、アプリのリテンションに注目し、プッシュ通知を効果的に活用する方法を解説する。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の8/2公開の記事を翻訳・補足したものです。