食料品業界は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック渦において、オンライン小売への移行が加速するという特異な課題に直面している。そのなかで、二つの分野において足がかりを得ているかのようだ。

一つは、消費者の大多数が食料品を実店舗で購入していた新型コロナウイルス感染症以前の時代の伝統的な食料品市場の領域。もう一つは、買い物客が実店舗での買い物から離れて、オンラインに群がる今日の市場だ。顧客がソーシャルディスタンスを保つことを選択するようになったことで、今では配達やカーブサイドピックアップ(オンラインで注文した商品を駐車場で受け取るサービス)のためにオンライン食料品プラットフォームがますます活用さされるようになった。

 

レストランやバーが閉店したり、入店客数が制限されたりしているため、消費者はこれまで以上に食料品にお金を使うようになっている。2020年のオンラインでの食品や飲料の売上は、60%増加すると予測されている。

 

しかし、食料品業界の運営方法の大部分は、店内でのショッピングモデルから離れつつも、2000年から2020年の時代の基準から抜け出せていない。米国のデジタルショッピングプラットフォーム企業のZycadaによると、食料品業界には近い将来、そして長期的にも、オンライン収益が大幅に増加する絶好の機会があり、それはまだ最大限活用されていないという。

 

多くの食料品チェーンは、味気のない、時代遅れで、不器用なオンラインショッピングを顧客に提供し続けているために、この可能性を十分に活用できていない。いまだに、ほとんどのオンラインストアでは、動画やその他のリッチコンテンツを使用していないのだ。これらの最新のマーケティングアプローチにより、コンテンツをパーソナライズし、ブランドの創造性、個性やユーモアのセンスをよりよく見せることができるだろうと、ZycadaのCEOであるJim Brear氏は提案している。

 

それどころか、食料品店は、この絶好の機会を利用するために、まだ十分な取り組みを行っていない。買い物客の体験をパーソナライズすることは、効果的なeコマースプラットフォームの鍵であり、「食料料品チェーンのウェブサイトやアプリでは、パーソナライゼーションがひどく欠けている」と Brear氏は語った。

 

低い利益率

これに対し、「食料品店がオンラインショッピングを全面的に受け入れることを阻む最も重要な要因は、業界の利益率である」と、Fit Small Business(中小企業向けにデジタルリソースを提供する米国企業)の小売・eコマースアナリストであるMeaghan Brophy氏は反論する。

「実は、ビールやお酒、調理済み食品を除いて、ほとんどの食料品の店舗利益率は非常に低い。それゆえに、食料品業界においてオンラインでの大幅な収益増加の機会があるという評価に完全に同意はできない。少なくとも、純収入の大幅増加はないと思う」と同氏は話す。

 

他にもコスト負担の問題が、オンラインの食料品小売業の運営方式を不透明なものにしている。例えば、何らかの方式の配達やカーブサイドピックアップサービスを追加提供すると、食料品店が値上げでは簡単に補うことができない人件費が追加発生すると同氏は指摘する。さらに、食料品の配達には冷蔵品や冷凍品の温度管理が必要であり、これも費用がかかるのだ。

「要するに、伝統的な食料品店が利益を上げながら、こうした類いの買い物需要を満たす方法はほとんどないのだ」と Brophy氏は話す。

 

リッチコンテンツと動画

eコマースをパーソナライズするための最良の方法は動画コンテンツであると、ZyczdaのBrear氏は繰り返し述べている。動画を活用することにより、小売業者は、ブランドの魅力をよりよく紹介する機会を得ることができ、商品に命を吹き込む没入感のある体験を提供することが可能となる。

「キャンディー、ビール、ビーフジャーキー、またはその他の食品や飲料のブランドのコマーシャルについて考えてみてほしい。それらは面白くて、ユニークで、面白いものだ」と同氏。

 

また、食料品チェーンは、他の種類のリッチコンテンツで、ビデオ以上の効果を生むこともできる。例えば、小売業者は、顧客の閲覧履歴に基づいて、顧客が気に入る可能性がある他の商品をインテリジェントに表示する高度なレコメンデーションエンジンを使用することができる。

 

もう一つの戦略は、拡張現実(AR)を使用して、実際の生活の中で商品を見る体験をシミュレートすることだとBrear氏は提案。ほとんどの食料品チェーンは、このような動的なオンラインコンテンツを利用していないも同然である。

 

最低限の機能を有した退屈なサービス

むしろ、食料品小売業者のeコマースプラットフォームは、画像やテキストなどの活気のない静的コンテンツで埋め尽くされている。 Brear氏によると、彼らのプラットフォーム内のビジュアルは、単純な成分や栄養情報しか提供していないことが多いという。

「その結果、実店舗を訪れたくない顧客に向けた、シンプルなデフォルトのショッピングオプションとなる最低限の機能を備えただけの体験が提供される。通路やセクションを見て回るという対面型の体験は、これらのプラットフォームでは全く再現されていない」。

 

欠点は、この陳腐なアプローチが商品の比較を困難にしているということだ。その結果、オンラインの買い物客にとって、従来のeコマースプラットフォームのように、より多くの商品を見たり、より多くの商品を購入したりするインセンティブが生まれない。

 

それでも、食料品店のオンラインへの移行において全てが失敗しているわけではない。食料品チェーンは、eコマースプラットフォームでデジタルクーポンやその他の割引を宣伝することに長けている。

 

また、食料品チェーンは、商品を効果的に分類し、オンラインストアで特定の商品を比較的容易に検索できるようにしていると、Brear氏は指摘する。消費者は、ほしいと思っている商品をすぐに見つけることができるのだ。

 

「問題は、オンライン食料品プラットフォームが、商品を簡単に比較したり、新しい商品を見つけたり、買い物客にまだ計画していない追加購入をさせるような、安定した魅力的なブラウジング体験を提供するための一歩をまだ踏み出していないということだ」と、同氏は語った。

 

eコマースの波に乗る

オンライン食料品の売上高は増加すると予測されている。しかし、座して待つ食料品店は、買い物客の分岐点を見逃す可能性があるとBrear氏は警告する。

 

一般消費者のeコマースへの移行の一環として、過去数年間でオンライン食料品の売上は緩やかに成長した。その後、2020年に食料品の売上が急増したが、これは主として、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに起因するオンラインショッピングの突然の急加速によるものだ。

言い換えれば、この状況がオンライン食料品の収益の増加につながる主な要因となっているとうことである。それは単に、営業形態をオンラインに移したことだけによる結果ではない。

「パンデミックの影響で、今日の消費者はこれまで以上にオンラインで食料品を購入することに慣れ、喜んで購入するようになっている。食料品チェーンがeコマース体験の向上にもっと注力すれば、オンライン販売は今以上に成長するだろう」と同氏は主張する。

 

例えば、データによると、eコマースの速度が上がり、パーソナライゼーションが向上すると、平均購入額が高くなるという。新型コロナウイルス感染症だけの理由からオンラインで食料品を購入している顧客も、eコマース体験がより最適化されれば、毎回の買い物でより多くのお金を使うだろう。また、eコマースの体験が改善されれば、パンデミックが過ぎた後も、オンラインで購入し続ける可能性が高いだろう。

 

無限の可能性

いずれにしても、Brear氏はオンライン食料品売上の成長は継続すると見ている。小売業者に限界はないのだ。

「食料品チェーンが他業界の小売業者のようにeコマースプラットフォームを最適化していないという事実にもかかわらず、今年のオンライン食品・飲料の売上は60%増加するだろう。食料品店がeコマース体験を向上させれば、オンラインでの収益は簡単に年間で100%以上成長する可能性がある」と同氏は楽観的に語った。

 

そのバラ色の売上予測は、オンラインの食料品販売業者だけのものではない。パンデミックは、実店舗からeコマースへの移行を劇的に加速させた。

消費者は今や、ほとんどのものをオンラインで購入することを受け入れている。ただし、Brear氏によると、買い物客の大多数は、食料品の買い物は対面式で行うのが最善だと考えているという。

「食料品チェーンがより良いeコマース体験を提供できれば、その認識を変え、消費者に家庭用品や電子機器と同じように食料品をオンラインで購入したいと思わせることができる」と同氏は話す。

 

マーケティングの強化

パンデミックが始まったとき、多くの小規模な食料品店は、店頭ピックアップと配達のオプションを提供し始めた。Fit Small BusinessのBrophy氏によると、食料品店はコミュニティに貢献し、買い物客のロイヤルティを維持したいと考えていたという。

その時期は、買い物客がまず人混みを回避する安全性と買い物の利便性を求めていた時期であり、オンラインでの余計なマーケティング活動はあまり必要なかった。

しかし、食料品店がオンラインショッピングを提供しているかにかかわらず、事業者にとっては、間違いなくデジタルマーケティングで改善の余地があると同氏。

「オンラインでの販売をしたくないと考える場合でも、食料品店が買い物をより容易にする方法はたくさんある。店舗や通路での商品表示やデジタルショッピングリストの作成などがその一例だ」とBrophy氏は語る。

 

プラットフォームの制限への対応

すべての小売プラットフォームが同じというわけではない。時代遅れのeコマースウェブサイトをデジタルショッピングリストや注文カートを超えるパフォーマンスレベルに引き上げる新しいマーケティングイノベーションをほとんど行っていないところもある。

例えば、動画や高度なレコメンデーションエンジンなどの動的コンテンツは、静的コンテンツプラットフォームの処理能力を超えた、はるかに多くのコンピューティングリソースが必要とする。動画などのコンテンツオプションが組み込まれると、これらの追加コンテンツタイプによってeコマースプラットフォームの速度が低下し、顧客体験が悪化する可能性があるのだ。

Zycadaは、そうした配信に関する問題を、ボット技術を使って解決している。ページの読み込みとインタラクティブになるまでの時間(Time To Interactive / TTI)の速度が10~20倍速くなるとBrear氏は指摘する。

「この技術を使用することで、オンライン小売業者はウェブサイトやアプリの速度を落とすことなく、動的コンテンツを簡単に配信することができる」と同氏。

このアプローチを採ることで、小売業者はこの新しいマーケティングコンテンツをスムーズにサポートすることができる。これによって、食料雑貨店は自らのeコマースプラットフォームをより良くパーソナライズすることができるようになるのだ。

 

※当記事は米国メディア「Ecommerce Times」の11/16公開の記事を翻訳・補足したものです。