顧客のデータプライバシーについて高度な基準を積極的に設けているのであれば、パーソナライゼーションでより思い切ったアプローチをとることを恐れる必要はない。

 

10年間の終わりは、あっという間にやってくるだろう。そして、来るべき不況(ある専門家は「2020年は回避できるだろう」と言っている)に対する世間一般の不安にもかかわらず、ほとんどのマーケターは楽観的である。実際、61%のCMO(Chief Marketing Officer / 最高マーケティング責任者)は、マーケティング予算が来年、増加すると予想している。

 

CMOたちの予測が本当だとするならば、マーケターは、拡大する予算を正当化するためのより重い責任を担い、より柔軟性を持って戦略を構築しなければならないだろう。マーケターとして予算を最大限に活用し、会社に最大の効果をもたらすには、機敏で先進的であり続けなければならないということもいえる。

 

予算の増額に加え、マーケティングへのアプローチ方法を塗り替える新たなテクノロジーやトレンドの組み合わせもこの先10年間でもたらされるだろう。また、いくつかのトレンドは消えつつあるが、長期的には、新たな規制やボイスコマース(音声を通じたショッピング)といった別の進展がみられる。

 

その点を念頭に、今年以降、競争力のある顧客体験を提供するために最も効果的な方法を以下に説明する。

 

より統合的なロイヤルティ戦略を立てる

ブランドは、ロイヤルティ(企業や商品・サービスへの愛着・信頼)戦略の価値は、最も気前よくお金を使う顧客に継続的に購入し続けさせることにあると理解している。しかし、一部のブランドは、これがポイントだけの問題であると考えている。昔ながらのポイントベースのロイヤルティモデル(一定量を購入すると顧客が割引を受けられる仕組み)は、もはやロイヤルティを促進するには十分ではないため、こうしたモデルをとっているブランドは厳しい現実に直面するだろう。成功するためには、ブランドは、マーケティング部門だけでなく、カスタマーエクスペリエンス全体を通じて統合的なロイヤリティプログラムを設ける必要がある。

 

最高のロイヤルティプログラムとは、すべてのタッチポイント(会計の列に並んでいる時だけでなく)で、買い物客のニーズ、ウォンツ(課題や目的を解決するための具体的な手段に対する欲求)や理想を軸とする、手軽でシームレスなカスタマーエクスペリエンスに貢献するものである。得意顧客は、ブランドが彼らを誰であるか認識しており、彼らの好みや嗜好を把握し、店内であろうとオンラインであろうと、VIP待遇が受けられることを期待しているのだ。

 

New Balance(米国のスポーツシューズメーカー)では、ブランドが得意顧客に提供しうる没入型のわくわくするエクスペリエンスの斬新な事例がある。New Balanceがオープンしたロンドンパブ ”The Runaway”では、顧客は、ランニングの距離を確認し、バーでドリンクやスナックと交換することができる。また、パブには、ニューバランスの活動的なファンが運動できるジムやウェイトエリアがある。

 

これは、New Balanceが顧客を理解し、彼らが本当にワクワクするエクスペリエンスを提供することに取り組んでいることを示している。また、同社が、最も価値がある顧客に関する重要なデータを取得する機会も生み出しているのだ。

 

顧客のデータプライバシーについて積極的に対応すること

EU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation / GDPR)が制定されてから1年半が経ったが、ほとんどの企業は、適切に順守する準備ができていないと報告している。そして今、カリフォルニア州消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act / CCPA)でも、同じことが起きている。施行までに準備ができていると話しているのは、わずか8%の企業だけである。

 

多くの企業は、違反に対して高額の罰金があろうとも、これらの規制のエンフォースメント(法執行)が行われないだろうという事実に賭けているようだ。結局のところ、企業は、より厳しいプライバシーコンプライアンスプロセスへの投資を控えることで短期的にはお金を節約するかもしれない。しかし、長期的には、顧客の信頼を失っていることになるだろう。ブランドは、プライバシー違反が発生した場合、課されうる罰金以上に、顧客を怒らせ、評判を損なう危険性がある。結局、プライバシー規制は、カスタマーエクスペリエンス(CX)の問題であり、法的問題でもあるのだ。

 

立法化される個々の州レベルのプライバシー規制(この規制はもっと増えるということを信じて欲しい。)を慌てて順守するのではなく、最も厳格なポリシーを満たし、各規制に応じて適合することを目指すのだ。顧客に彼らのデータを尊重していることを示すことで損害を被ることはない。それに、違反が発生した場合に、多額の罰金を回避することになるのだ。加えて、それでも顧客がブランドとの関係をどうしても終わらせたがっているのであれば、それは双方にとって、おそらく次の関係に移るべき時なのだろう。

 

顧客のパーソナライゼーションでさらに思い切ったアプローチをとる

積極的なプライバシーコンプライアンスを実行することによるもう1つの利点。それは、顧客データに関して高度な基準を満たしていると確信している場合、ID データ照合やさらにパーソナライズされたマーケティング戦略において、より思い切ったアプローチを取ることができることだ。

 

しばらくの間アナリストたちは、ブランドがあまりに戦略的であると顧客が離れていくという考えから、マーケターに対し、顧客が個人データに関して「気味が悪い」と感じる危険性があることを警告してきた。そして、そこには明らかに境界線(また、それを越えた場合の結果)が存在するが、顧客はよりパーソナライズされたエクスペリエンスに対して、もう少し寛容である。実際、レポートでは、ほとんどの顧客は、パーソナライゼーションの向上で「我慢ならない」と感じさせられることは“なく”、また、あまりにもありふれたコミュニケーションしか行わないブランドが失敗するということが示されている。

 

パーソナライゼーション戦略をためらわないこと。顧客は、ブランドが自分達について理解すべきことを分かっており、顧客のニーズに語りかけない月並みなメールとリターゲティング(広告主のウェブサイトなどを利用したことのあるユーザーに再アプローチするための広告手法)の取り組みに失望している。顧客に関するより正確なデータを取得し、適切に使用することが重要なのだ。サウスウエスト航空(米国の格安航空会社)は、年末のサマリーメールで、顧客が搭乗したフライト数、飛行したマイル数、そしてその年の最高の搭乗席の場所さえも示すといった、いい取り組みをしている

 

カスタマーエクスペリエンス(CX)の未来を変えるボイスコマースへの準備

我々はここのところボイスコマースの台頭を予測してきたが、それはもう目前にあるようだ。予測では、2023年までに80億の音声アシスタントが使用され、ボイスコマースは800億ドルの産業に成長する可能性があるとのこと。800億ドルの大部分は、物理的な製品ではなくデジタル製品の購入である可能性はあるが、ボイスコマースの成長はさまざまな業界のマーケターに大きな影響を及ぼすだろう。

 

ボイスコマースによって、マーケターは、バックエンド(ユーザー等との直接やり取りによる入力データや指示をもとに、処理を行って結果を出力したり、記録媒体に保存したりする処理)データプロセスから幅広いユーザーエクスペリエンス戦略へのIT投資まで、顧客エクスペリエンスを徹底的に見直す必要がある。いかなるビジュアルインターフェースも使わずに、ブランドと対話したい顧客に対応していく必要があるのだ。それは、たとえば、顧客が他の情報を必要とせず注文できるように、商品の説明を見直すことを意味する。また、顧客の住所や支払い情報などの顧客データに矛盾がなく、顧客のタッチポイントに関係なく、顧客データに簡単にアクセスできるようにすることをも意味する。この新しいモデルの準備については、「すべての部門で連携すること」がボイスコマースの取り組みで成功する唯一の方法であろう。音声によるカスタマーエクスペリエンスが、メールメッセージやソーシャルメディアの投稿と同じくらい意図的だと明確に感じられるよう、すべての部門にわたる音声戦略を策定するのだ。

 

もっと一般的な話をすると、ボイスコマースの台頭やパーソナライゼーションのためのより高度な基準、また新たな消費者プライバシー規制は、より高度な機敏性と柔軟性の必要性を強調しているのである。ボイスコマースであれソーシャルコマースであれ、新しいチャネルは常に出現しており、そのたびに一からやり直すことはできない。出現するチャネルに機敏に適応し、新技術を取り入れることができる企業が、次の10年間で成功するということだ。

 

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の1/16公開の記事を翻訳・補足したものです。