コロナ後のEコマース市場はどのように変わっていくのか

 

2月初旬以降、世間もメディアも新型コロナウィルス一色となっており、収束の兆しはなかなか見えてこない。特に飲食店をはじめとした、3密を作る可能性のある実店舗は軒並み営業自粛を余儀なくされ、先が見えない状況だ。そんな中、まだ活路を見出すことが出来なくもない、Eコマースだが、今後はどのように推移していくのだろうか。今回は、コロナ後、そしてコロナと共に生きていく上での日本のEコマース市場について考えていきたい。

 

 

国内のコロナによる既に起きているEコマースへの影響まとめ

 

まずは日本国内のEコマース業界で、これまでに実際に影響が起きている事象について見ていこう。

 

業績のプラス成長はECのみ

株式会社ナウキャスト株式会社ジェーシービーによる調査によると、3月前半の時点でマクロでみた業種別消費指数はECのみがプラス成長をとり、ほかの業種は前年割れとなっている。

 

ECの利用頻度は全体的に増加傾向

株式会社パスチャーが、10代から20代の女性を中心に「オンラインショップの利用状況」を調査したところ、55.0%が「利用が増えた」と回答した。また、21.0%の人が外出自粛をきっかけに「初めて利用した」と回答し、ECの利用率が増加傾向にあることがわかった。オンラインショップで買ったものの内訳で最も多かったのが服(29.8%)で、順にコスメ・美容グッズ(18.2%)、ファッション雑誌(14.2%)、家具・家電・インテリア(11.5%)となった。

 

それでも悪影響がないEC事業者はごく僅か

通販新聞が行ったEC事業者に対する「新型コロナウィルス感染拡大による業績への影響」の調査では、不明と答えた7社を除き、業績の悪化を招いていると回答している6社と最も多かった。また、業績の増加と悪化の両方の側面があると回答した企業は4社あった。在宅率の高まりによりオンラインで商品を購入する人が増えた一方、店販のインバウンド売り上げの減少、商品の入荷遅延や部品・素材の納品遅延による生産ストップなど、物流の影響が出ているようだ。

 

家電は店頭販売減、EC販売増の傾向

GfK Japanが行った「新型コロナウィルスによる家電・IT市場への影響」調査では、2020年3月時点で家電の店頭販売金額は前年比13%減となった。一方インターネット販売による売上金額は前年比18%増となっている。感染対策や外出自粛要請の影響で、体温計や空気清浄機、調理家電などの売り上げが伸びており、テレワークの拡大でIT製品の売り上げも伸びているようだ。

 

ファッションECは20%増

株式会社Virtusizeが行った「新型コロナウイルスによる国内ファッションECへの影響」調査では、ファッションECの売り上げは前年比で19.3%伸びている。5年間の年間成長率が10~20%の中で、2019年の同時期と比べると約20%増加しており、高水準であるといえる。週末に家に滞在する人が増えたことや仕事などの外出先から早い時間に帰宅する人が増えた結果、ECでの購買が週末に増えたり、購買のピーク時間が早まるなどの傾向が確認されている。

 

3大モール流通額は前年比で大きく増加

株式会社Nintが行った「新型コロナウイルスの影響によるEC市場動向」調査では、3大ECモール(楽天・Amazon・Yahooショッピング)合計の月次売上が通常の年とは大きく異なり、1・2・3月の順で増加し、前年比も同じく1・2・3月の順で増加していることが確認された。モール毎の商品ジャンル前年比伸長TOP50ランキングでは、楽天市場で25ジャンル、Amazonは34ジャンル、Yahooショッピングは31ジャンルでコロナの影響がみられた。全モール共通して、コロナ対策商品や巣ごもり消費関連商品、テレワーク関連商品の増加が顕著にみられた。

 

既にコロナ対策サービスも複数開始

レシピ動画サービス「クラシル」を提供しているdely株式会社では食品ECサイト「クラシルサイト」への無償出店を開始し、飲食店やホテル旅館などの料理を提供し始めた。

Web・ECサイトのコンサルティングを行っているトゥルーコンサルティング株式会社では、コロナウィスルで影響を受けている飲食店向けに、固定費用0円で、成果報酬のみで、オンラインでの販売を全面的に支援するサービスを提供開始している。

株式会社ロックウェーブが提供するECサイト構築プラットフォーム「aishipR/aishipRENTAL」では、既存店舗や既存販売チャネルの売上減少などで厳しい環境下にあり、早期にネット通販やレンタルEC強化を図る必要がある中小企業事業者向けに、初期費用無料やパックの特別価格での提供を開始した。

 

 

海外のコロナによる既に起きているEコマースへの影響まとめ

 

次に、海外ではどのような影響が起きているのだろうか。これまでに影響が起きている事象について見ていこう。

 

米国Eコマースの需要は軒並み増加

デジタルマーケティング会社、Bazaarvoiceが行った調査レポートによると、3月には、米国の消費者は長期的に家に篭るための準備をしており、3月のページビューは25%、注文数は21%増加したという。また、今までは店舗で購入していた商品をオンラインで購入しており、中でも食料品の分野が対前年比85%増加を記録している。ほかにも企業の標準業務のほとんどが在宅勤務で実行可能であることが判明し、よりカジュアルなビジネスウェアの需要が増加している。そして消費者の多くは実店舗での入手が困難な商品を購入するため、そして利便性と安全性の理由からオンラインで買い物をしているようだ。(詳細記事

 

欧州Eコマースの需要はカテゴリによって明暗

被害の大きい欧州では、日本と同様にヘルスケア、食料品小売、家電製品の部門では収益が向上しているが、観光、輸送、実店舗およびイベント産業では苦戦を余儀なくされている。収益の減少の要因の多くは売り上げの減少や需要の減少、在庫不足によるものだ。中央・東ヨーロッパでは衛生用品、建築資材、子供用の商品、薬剤の売り上げが増え、園芸、衣類およびファッション用品、オフィス用品、工具、卸売りのカテゴリでは売上が落ち込んでいるようだ。(詳細記事1詳細記事2詳細記事3

 

インドでは食料品配達サービスの需要が急増

インドではオンライン食料品配達サービスの利用が大幅に増えている。食料品デリバリー大手のBigBasketでは注文数が2倍となったり、栄養補助食品やはちみつのような免疫力を高める商品の注文が増加している。すでに同社のアプリでは小麦や豆、牛乳などの基本的生活必需品が不足し始めている。同社は状況がさらに悪化することを防ぐため、必要以上の購入をしないよう勧告している。

一方競合のGrofersでは在庫制限を超えるすべての注文をキャンセルすることを決定した。また、両社は衛生面でも感染拡大が起こらないような配慮が行われており、仕事場、倉庫、配達用のボックス、およびその他の定期的に使用するすべての器材を消毒、殺菌し、顧客と従業員の両方を感染の可能性から守っている。(詳細記事

 

 

コロナ収束までに起こるであろうEコマースへの影響

 

このような影響が既に国内・海外のEコマース業界に起こっているが、今後収束、もしくは共存へのスタートまでに起こるであろう影響はどのようなものが予測されるだろうか。

 

商品カテゴリによる需要の濃淡が明確化

外出自粛の影響でコロナ収束までは商品の需要がカテゴリーによって極端に表れてくることが予測される。現時点でも食料品や生活用品、そして衛生用品の需要が非常に高い。今後、コロナによる外出自粛が長期化すると、家庭内で利用できる娯楽商品など、緊急時ならではの需要が今後でてくるだろう。また、先行きの不透明感から、嗜好品などの需要は非常に厳しくなることが予想される。

 

オンライン広告もカテゴリによる濃淡が明確に

商品の需要と同じく、オンライン広告も、嗜好性の高い商品の広告などは大幅に落ち込むことが予想される。一般的に広告は嗜好性が高く、ブランド力が重要な企業・商品ほど投資を行っている傾向が強く、このような危機的状況においては、多くの広告が取り下げられている状態だ。そのため、生活必需品など回収が見込める商材の広告は、相対的に露出が増えていくことになるだろう。

 

EC化が進んでいなかった業種でもEC化が進む

コロナウィルスの影響で、実店舗での商品の販売やサービスの提供が制限がされている。このまま何もせず耐えるわけにいかないそれらの事業者の多くはオンラインに活路を見出すことになるだろう。もともとEC化が着実に進んでいたアパレル業界や家電業界などはもちろんだが、ECとは無縁とも思えた飲食店やホテル、教育などのサービスにおいてもオンライン化・EC化が進んでいくのは間違いないだろう。

 

大手プラットフォームの影響力が強くなる

コロナウィルスの影響で実店舗は閉鎖に追い込まれ、一部小売業などはかなり厳しくなってきているのが現状だ。そのため、消費者の多くはオンラインで必需品を購入するケースが増えた結果、Eコマースの多くのカテゴリーでは売り上げが増加し、また不安定な時期だからこそ、確実に、すぐに商品が手に入るプラットフォーム経由でのショッピングが増えていくだろう。例えば、既にAmazonでは需要の急増に対応するため、物流拠点及び配送ネットワークで従業員を10万人雇用するなど拡大に向けた準備が進んでいる。また、オンラインへの展開を余儀なくされた事業者の多くは、手軽に開店が可能で、集客力もある大手プラットフォームにまずは出店するという傾向が強くなるだろう。このように消費者、事業者共に、大手プラットフォームを活用するケースが増えてくるだろう。

 

オンラインでのコミュニケーション巧者が勝ち組に

コロナウィルスの影響で在宅勤務や外出自粛が増え、インターネットの利用率が増加している。企業もオンライン上でやり取りすることが増え、リアルイベントからデジタルイベントへ移行する動きもでてきている。ライブコマースなど、オンラインを介してのコミュニケーションがこれまで以上に活発化していくことが予想される。そのような中で、的確に、埋もれずに、独自の手法でオンライン上で顧客とコミュニケーションを取って行くことが、顧客に忘れられずに、このような時期でも売上を獲得していくためには必要なことになっていくだろう。

 

 

コロナ後、そしてコロナと共に生きていくためのEコマース市場

 

新型コロナウィルスの収束までにも様々な影響が起こるだろうが、コロナ後にはどのような変化が起こるのだろうか。また、このコロナウィルスは一気に収束することもなく、しばらくは共に生きていく必要があるとも言われている。そのような、今までのデジタル世代が直面したことがない、未来にどのようなことがEコマース市場に求められていくのだろうか。

 

Eコマースを中心に据えた最適化

自粛が明け、人々は街中でしばらくはショッピングを楽しむだろう。しかし、ある程度の消費者は、オンラインである程度の消費が完結することに気が付き、また不要な実店舗でのショッピングを極力行わない傾向が残るのではないだろうか。また、コロナ収束までに体験したオンラインの体験を継続する消費者も多いだろう。その結果、実店舗の顧客がオンラインへ継続的に流れていくことが予想される。そのような中で、顧客エンゲージメントとコンバージョンを獲得するため、実店舗中心に運営してきた企業やブランドの多くも、Eコマースを中心に据えた最適化を行うことが重要になってくる。

 

Eコマースでの更なる顧客体験の向上

従来よりもオンラインの影響力が高まる中で、改めてオンラインショップでの顧客体験が重要視されるだろう。顧客体験とはUIや、サービスの利便性、配送スピード、顧客対応、など商材やサービスによって異なってくるが、顧客の期待に的確に対応できるかがカギになるだろう。そしてオンライン上での顧客体験の競争は従来よりも熾烈なものとなるだろう。

例えば、コロナ状況下でよく耳にした問題が在庫不足問題である。この問題に対応するため中国の一部企業では倉庫スペースの多くを生活必需品に割り当てるなどの対応を取っている。このようにパンデミックによって、Eコマースの導入が遅れていた食料雑貨品業界で、Eコマースの需要がかつてないほど高まったことにより、ドラスティックなビジネス変革を強いられている。コロナというパンデミックを経験し、Eコマースを取り込んだ新しい常識が生まれ、企業も顧客体験についての考え方を大きく変えていく必要があるだろう。

 

実店舗の役割の見直し

一方的なオンラインシフトが進むわけでもない。コロナウィルスがある程度収束した後、実店舗のメリットについて、消費者も事業者も再認識するだろう。オンラインでは行えなかった施策や、物理的なチャネルの重要性など、企業と顧客が実店舗へ求めているものが何なのか、そしてそれを最大化するためには実店舗ではどのようなことを行っていく必要があるのか、と言うことを考えていく必要があるだろう。特にコロナと共に生きていく必要がある場合には、より一層実店舗の役割は見直していく必要がありそうだ。

 

 

この困難を乗り越えた先に

 

新型コロナウィルスは今のデジタル世代が直面した過去最大の困難と言える。生活様式を一から見直し、本当に必要なものは何なのか、と言うことを日々考えさせられている消費者も多いだろう。しかし、こんな時だらからこそ、未来にオンラインで何が出来るのか、徹底的に考えていく必要があるのではないだろうか。この困難を乗り越えた後、多くの企業がEコマースを今よりももっと利便性の高いものとして活用し、新しい進化を遂げ、大きなターニングポイントとなった出来事と認識されるような変革が起こる可能性もあるだろう。

 

最後に、今、新型コロナウィルスによる影響を受けている事業者の皆様の未来が明るいものとなっていることを祈り、この問題の早期の収束を編集部一同心より切望します。