アドテクノロジーとインフルエンサーのクリエイティビティが融合する形になるだろうか。ソーシャルメディアにおいてクリエイターと共にブランドエンゲージメントを変革させることができる「プログラマティック・インフルエンサーマーケティング」の時代がやってきているようだ。

 

プログラマティック・インフルエンサーマーケティングが生まれた背景

ミレニアル世代の消費者は、TVなどの従来型メディアを放棄し、ソーシャルメディアの利用を増加させている。そして、膨大な量のプログラマティック広告コンテンツが溢れている。そのため、PPC広告(クリック報酬型広告)などの一義的な広告が満足する投資対効果を得られないケースが増えてきている。

デジタルノイズを排除することが、新しいライフスタイルの基本的なトレンドになりつつあるため、今年2019年は、マーケティング活動を再考する必要がありそうだ。ソーシャルメディア・インフルエンサーによって生み出されるクリエイティブコンテンツに対するニーズの高まりに、新しいライフラインを見出すことができるかもしれない。

消費者の生の声で、商品やサービスについての真実の評価をオーディエンスに公開することには、驚異的な効果がある。複数の調査によると、インフルエンサーマーケティングは、コスト1ドルに対し、6.50ドルの効果があるという。これは明らかに、ソーシャルメディア全体において言えることがある。それは、インフルエンサーマーケティングがブランドを宣伝するための「費用対効果の非常に高い方法である」ということである。

マーケターにとっての最大の問題は常に、どうすれば予算を最も効率的に割り当てられるかという点であろう。インフルエンサーマーケティングは、予測が難しい要素を大いに含む。企業はどの特定のコンテンツ制作者と契約するかを検討する際に、ジレンマに陥る可能性があるだろう。

スケーリングは事実上不可能であり、1つのキャンペーンで予算が10万ドルを超える場合でも、結果は保証されない。しかし、状況は変化しつつある。定量化可能な指標を提供するという「プログラマテック・インフルエンサーマーケティング」といった新たなトレンドが生まれているのだ。

 

ゲームチェンジャーとなるか?

デジタルによる混乱期において、マーケティングの本質は劇的に変化した。インターネットによって実質的に誰もが広告を出稿できるようになり、膨大な数の広告によってマーケティング効果は下がった。消費者は圧倒的な数の広告コンテンツに閉口し、クリックオン広告やアフィリエイトマーケティングリンクに対する反発を強めている。また、広告ブロックツールによって、マーケターがオーディエンスにリーチすることはより困難になっているのだ。

これらの新たな課題を克服するために、広告主はいかに、より創造的で信憑性の高い方法で消費者と関わることができるかを模索している。そして、さらに多数のブランドが、自社のオーディエンスのエンゲージメントを高めるためにソーシャルメディアでの存在感を確立しようとしている。

しかしながら、ソーシャルメディアプラットフォーム上では、消費者がどのコンテンツを見るかを無制限に自由に選択できるため、マーケターが彼らにリーチすることはさらに困難になる。不誠実だと感じさせることなく、オーディエンスを適切にターゲティングするためには、ピアツーピアのアプローチが必要だ。我々は、企業の消費者との直接的な関わりを重視する姿勢へのシフトを目の当たりにしている。

 

ミレニアル世代との親和性が高いインフルエンサーマーケティング

インフルエンサーマーケティングセクターは注目を集めている。ここ数年で急速に発展し、2019年の業界規模は65億ドルに達すると推定される。オーディエンスは、たとえ宣伝広告であっても、クリエイティブなコンテンツを切望している。有料ソーシャル広告の多くは、最初から最後まで視聴されているのだ。

デモグラフィックは、インフルエンサーマーケティングの関連性の高さが向上していることを示している。ミレニアル世代の年齢が上がり、彼らの優先順位が変わるにつれて、Z世代が徐々にソーシャルメディアを引き継いでいる。Z世代の購買層は、よりグローバル化され、個性を重視し、より高い期待をもつ。つまり、「インフルエンサーとフォロワー」というトレンドへの理想的な参加者となっている。

              インフルエンサーマーケティング:市場規模グラフ

                        出典: Influencer Marketing Hub

 

 

間違ったブランドに賭けるリスク

ブランドが、インフルエンサーとのコラボレーションやスポンサーシップにより多くの時間と資金を費やすようになると、これらの投資の見通しを評価することが必要となる。業界の専門家によると、企業が自社コンテンツをInstagramのインフルエンサー宣伝してもらうための費用は、10万人のフォロワーあたり約1,000ドルだという。またYouTubeでは、1,000回の視聴あたりの宣伝価格が100ドルに達する。つまり、ここには何十億ドルを無駄にするリスクが存在し、ブランドは効果が見られないインフルエンサーに対してコストをかけないよう注意する必要がある。

過去に目立ったスキャンダルや問題が発生しているため、一部のブランドはその不確実性を憂慮し、依然としてインフルエンサーマーケティングの世界に参入することを躊躇している。たとえば、特定のインフルエンサーが本当に影響力があるものかどうかを判断するのは難しいものだ。2018年前半では、英国のインフルエンサーの10%以上がフォロワー数に関して虚偽行為を行なっていると言われていた。マーケターの94%が「透明性と信頼性がインフルエンサーマーケティングの成功の鍵である」と考えている現在でも、インフルエンサーマーケティングに関する確立されたルールがないことは疑問である。

ただし、スポンサード投稿におけるインフルエンサーのパフォーマンスを測定する方法については、重要な議論が続いている。結果を評価するための精巧な指標の開発が試みられたが、どれも完全に信頼できるものには至らなかった。

 

インフルエンサーマーケティングの評価は依然として難しい

従来の主要業績評価指標(KPI)は、常に十分というわけではない。そのため、通常インフルエンサーキャンペーンは長期間にわたり、売上の増加やその他の指標を用いて評価される。マーケターの大多数は、投資利益率(ROI)はインフルエンサーマーケティングの将来的な成功にとって不可欠であると考えているが、このROIの測定は依然として難しい課題である。

 

                        出典: ClickZ

 

新しいプログラマティック・インフルエンサーマーケティング

標準化を必要とする声が高まり、新しい解決策が導入された。それが「プログラマティック・インフルエンサーマーケティング」である。分析を通じて、インフルエンサーとそのパフォーマンスを評価するための明確な一連の評価基準を開発することによって、インフルエンサーマーケティングはさらに透明性が高いものとなる。

ブランドとインフルエンサーの仲介的な役割を担うプラットフォームが市場に登場している。それらの多くは、インフルエンサーマーケティングプロセスの各段階を監視しながら、インフルエンサーの選択から結果評価までのプロセス全体に役立つ技術的ツールを提供している。混乱に対処するための体系的なアプローチを取り入れることは、インフルエンサーとブランドの両方にとってさまざまなメリットがある。

インフルエンサーマーケティングを自動化する事により、大規模なスケーリングとより的確なリーチの拡大が可能になる。ブランドは煩雑な作業なしに任意の数のインフルエンサーと提携し、目標を達成し、それを実行するために支払っている金額を正確に把握することが可能となるのだ。これは、プログラマティックプラットフォームでインフルエンサーのパフォーマンスを追跡および予測できるため、インフルエンサー広告にかかる正確な費用(ビューやクリック、もしくはコンバージョン毎に発生する費用)を計算できるからである。

 

透明性が高く、双方にメリットの高い手法

これは、過去にインフルエンサーマーケティングの透明性と公正性を追求してきた専門家にとって、すばらしいニュースである。また、1人のインフルエンサーとのコラボレーションが失敗した場合でも、プラットフォームが同じ戦略を別のインフルエンサーで再実行し、経済的損失を回避することができる。プラットフォームは、一定のROIを確保するための重要なステップとなり得るのだ。

セキュリティを確保することも重要な側面である。プラットフォームは、多数のインフルエンサーを登録し運用されているため、例えば、偽のフォロワーを集めるなど、疑わしい行為によって信用を失った特定のインフルエンサーはコラボレーションの対象から排除することが可能である。これは、業界全体にかつてないレベルの公平性をもたらしていると言えよう。

ブランドにとってのメリットは明確であるが、インフルエンサーが自らの活動を精査の対象とする必要があるのはなぜだろうか?実際のところ、プログラマティックプラットフォームにサインアップすることで、長期的なメリットを数多く得ることができる。つまり当然、新しいチャンスを獲得することができる。これはマイクロインフルエンサーにとって特に重要である。多くのマーケターが同意するように、”たった”数万人のフォロワーしか持たないインフルエンサーでも、少なからず効果的にブランドの認知度を高めるのに適している可能性があるのである。マイクロインフルエンサーのペルソナは、ニッチなオーディエンスを獲得していることが多く、自分たちの総合的なイメージに合ったブランドのコンテンツを選ぶことを特に重要視している。マイクロインフルエンサーにとっては、これらのプラットフォームは、重要なネットワークを築くスペースとなっている。

インフルエンサーは仲介プラットフォームを利用することにより、より多数の定型契約を確保するだけでなく、ブランドとのコミュニケーションを簡素化することができる。多くのインフルエンサーは、非常に若い世代であり、自分たちの市場価値を認識しておらず、どのようにブランドに接触し、コラボレーションをスタートさせるかを理解していない場合もある。ある意味で、仲介プラットフォーム広告代理店の役割を担うことができるのである。さらに重要なことはおそらく、業界が正しい方向に発展していけばプラットフォームに登録していることが将来的にインフルエンサーの品質証明書になる可能性があるということである。

 

”イネーブラー”としてのテクノロジー

プログラマティックプラットフォームは、インフルエンサーとブランドの双方に、どのようにして前述したメリットを保証できるだろうか?答えは簡単である。さまざまな新技術を複雑に相互作用させることである。

たとえば、ブランドとソーシャルインフルエンサーの間のスマートマッチングは、業界の種類、ターゲットオーディエンス、コンテンツの種類、およびパフォーマンスに基づいて両者を評価するAI(人工知能)を導入することによって実現される。このAIツールによって、何十万人ものインフルエンサーを精査し、完璧にフィットする人をピックアップすることが可能である。分析に関しては、高度な機械学習アルゴリズムが効果を発揮する。これらのエンジンは、過去の実績に基づいてインフルエンサーのパフォーマンスを予測し、市場価格を決定する。

今後数年間で、プログラムプラットフォームに広告機会(この場合はインフルエンサー)への入札などの、他のマーケティング分野で一般的となっているプラクティスが導入されるだろう。マーケティングの観点からすれば、YouTubeの各チャネルはテレビと同じと考えることができる。特定のチャネルにおいて自社メッセージを発信したい場合は、他のブランドよりも多くの金額を支払う必要がある。

しかし、インフルエンサーマーケティングに無制限に技術を導入できるわけではない。インフルエンサーによって投稿されたコンテンツは、依然として手動でレビューする必要がある。そして、すべての投稿ビデオおよび写真が、特定のコンテンツおよびブランドのガイドラインに準じているか、不適切な表現を用いていないか、個々のソーシャルメディアネットワークの規則に違反していないかを確認するためにも常に人的要素が必要となるのだ。

 

プログラマティック・インフルエンサーマーケティングはまだ初期段階にあるかもしれないが、見通しは明るい。ブランドは、推測ではなく、データ主導のアプローチを全面的に採用することによって、マーケティング戦略を最適化し、必要な戦略にフォーカスすることが可能になるからだ。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の4/22公開の記事を翻訳・補足したものです。