ここでは、現在、そして今後のeコマース環境を形成する5つの主要なトレンドと、それぞれのトレンドの根底にあるデータについて説明しよう。
主なポイント
- データ技術の進歩により、高度なパーソナライゼーションと予測AIシステムが可能となり、顧客対応、在庫管理、サプライチェーンの最適化が実現している。
- eコマースプラットフォームがより詳細な顧客データを収集するにつれ、情報を保護し、顧客の信頼を維持するためには、強固なセキュリティ対策とコンプライアンスが不可欠である。
- 持続可能性とモバイルコマースも、包括的なデータ戦略に依存する2つの新たなトレンドである。
データと分析は、あらゆる業界で競争を成功に導く原動力となっている。この記事では特に、eコマースの未来におけるデータの役割に焦点を当てていく。
以下では、今日そして将来のeコマースを形作る主要な新興トレンドにデータがどのように関連し、それをサポートするかについて、いくつかの重要なポイントを説明しよう。
トレンド1:パーソナライゼーションとコンテキスト
パーソナライゼーションは、長年にわたりeコマースの大きなトレンドであった。しかし、データテクノロジーの進歩により、パーソナライズされたオファーのスピードと品質は新たなレベルに到達している。より高度なパーソナライゼーションエンジンは、季節の傾向、気象パターン、地域のイベントといったデータポイントも取り入れることで、限界を押し広げている。たとえば、雨が降ると予測するデータに基づいて、顧客にレシピの提案が行われることがある。
自社のプラットフォームを超えた影響力を拡大するため、先見の明のある小売業者はコンテキストデータの獲得に精力的に取り組んでいる。ソーシャルメディアの感情分析、競合他社の価格設定動向の監視、広範な市場トレンドの把握など、あらゆる手段を駆使している。こうした代替データソースにより、顧客基盤に対する理解を格段に深めることが可能となる。そして、それらの推定値が十分に正確であることが証明されれば、在庫管理から価格戦略まで、あらゆるものを改善できる。
トレンド2:AIとインターフェースを支える知能
eコマースとAIの魔法は、長らく密接に結びついてきた。そして、それは単に信頼性と柔軟性に優れたチャットボットを導入し、定型的な顧客サポートの一部を担うというだけではない。今日では、AIはサプライチェーン全体の強化といった重要な取り組みにも活用されている。しかしながら、これらのアプリケーションの有効性は、そこに取り込まれるデータの質と量に完全に依存している。
会話型コマースプラットフォームが適切に機能するには、NLP(自然言語処理)モデルをトレーニングするための膨大な顧客インタラクションデータが必要である。顧客の言葉を「理解する」だけでなく、その言葉の背後にある真の意図を把握できなければならない。たとえば、単に商品を閲覧するだけの人と真剣に購入する人を見分けるには、これらのモデルは、成功した販売会話、カスタマーサービスのチャット、さらには失敗した取引のサンプルを常に分析し、コミュニケーションの崩壊を引き起こす要因を把握する必要がある。
一方、AIベースの予測分析は、在庫切れを最小限に抑えながら過剰在庫を回避するのに役立つ。過去の取引データ、在庫レベル、外部市場のシグナル、経済動向などを活用することで、これらのシステムを活用し、かつてない精度で需要を予測することが可能になる。
包括的なAIシステムのメリットを活用したい小売業者にとっては、膨大なデータ量が求められる。こうしたシステムには、顧客関係管理システム(CRM)、在庫データベース、財務記録、サードパーティの市場情報など、複数のソースから収集したクリーンで構造化されたデータが必要となる。
トレンド3:高まるデータセキュリティへの懸念
eコマースプラットフォームが管理する顧客データはますます細分化され、サイバー犯罪者はこれらの高価値資産を狙うための策略を練り上げている。大手小売業者を襲った最近のデータ侵害は、データセキュリティが技術的な懸念事項としてだけでなく、基本的なビジネス要件として極めて重要であることを浮き彫りにした。
GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)をはじめとする法的要件は、企業が収集するデータの内容、その利用方法、共有先に関する詳細な記録を維持するといった義務的慣行への準拠を証明できるまで、企業の責任を免除しない。法的な遵守を維持することに加え、効果的にコンプライアンスを確保するプラットフォームは、透明性への取り組みを示すことで顧客の信頼という追加的な資産を獲得する。
したがって、セキュリティ意識の高い企業は、顧客情報を保護するために、ゼロトラストセキュリティフレームワーク(「決して信頼せず、常に検証する」という原則に基づいたセキュリティモデル)、データ伝送およびデータ保存プロトコル向けの暗号化、ならびに同様の高度な対策を採用している。
トレンド4:持続可能性の目標
調査によると、消費者の70%以上が環境に配慮した製品にはプレミアム価格を支払う意思があると回答している。マーケティングのバズワードや「グリーンウォッシング(見せかけの環境配慮)」がまだ通用する時代は終わりつつある。持続可能性に関する曖昧な発言にますます懐疑的になっている賢明な消費者は、サプライチェーンと製造プロセスにおいてかつてないレベルの透明性を求める声を高めている。
サプライチェーン全体にわたるCO2排出量の追跡を可能にするには、企業は少なくともサプライヤー、配送会社、さらには顧客の配送希望に関するデータを収集する必要がある。最も進歩的な小売業者は、このデータを活用して次のようなサービスを提供している。
- カーボンニュートラルな配送オプション
- 低排出配送ルート
- 各製品の環境影響スコア
ただし、データ要件は環境指標だけにとどまらない。持続可能性を真に最優先に考えるのであれば、原材料調達から包装材、そして製品寿命の終了まで、製品ライフサイクル全体を追跡する必要がある。小売業者にとってのもう一つの大きなメリットは、環境影響の追跡に使用されているのと同じデータシステムを、コスト削減やサプライヤーリスクの特定、さらには循環型経済への取り組みの開始にも活用できることである。
トレンド5:モバイルコマース - 重要なデータフロンティア
モバイルコマースは現在、オンライン取引の大部分を占めており、データ分析によってその成果を向上させる可能性は計り知れない。タッチパターン、位置情報、アプリの使用習慣、プッシュ通知への反応といった要素は、進取的な小売業者にとってまさに活用すべきデータである。たとえば位置情報データを活用することで、eコマースプラットフォームは地域の嗜好に基づいて在庫表示を調整したり、特定の地域向けの配送オプションを最適化したり、近隣の実店舗で開催されるイベントとオンラインプロモーションを連携させたりといったことが可能になる。
モバイルプラットフォームはリアルタイムの行動データを生成するため、迅速な対応が可能になる。たとえば、複数のタッチポイントからストリーミングで流入するデータをモバイル分析で活用し、チェックアウト手続きに苦労している顧客を特定し、正式な苦情が申し立てられるまで待つことなく、サポートを提供することが挙げられる。
eコマースを再構築するトレンドには共通点が1つある。それは、その効果はそれを支えるデータ戦略によって決まるということだ。この関連性を認識し、適切な投資を行う企業は、eコマースの未来に参画するだけでなく、その未来を自ら定義していくことになるだろう。
結論として、今後10年間でeコマースのリーダーとなるのは、必ずしも最大のマーケティング費用を投じる企業や最も派手な製品を持つ企業ではない。むしろ、戦略的にリソースを活用してデータ処理能力を強化する企業となる可能性が高いだろう。
※当記事は米国メディア「Entrepreneur」の9/16公開の記事を翻訳・補足したものです。