「動画」はECのマーケティングをどのように変えていくのか - 分散型動画 vs 生放送動画

 

ソーシャルメディアの浸透が進む中、昨年頃からタイムラインに短い動画が一気に増えてきていることに気が付いている方も多いのではないだろうか。今、マーケティング業界ではこのような短編動画を用いた動画マーケティングやインフルエンサーを活用した動画インフルエンサーマーケティングが夜明け間近となっている。今回は、動画マーケティングの大きなトレンドとなっている分散型動画と生放送動画を軸に、EC業界への影響を考えていく。

 

 

分散型動画メディア

 

かつては母体となる自社メディアでコンテンツを配信し、その更新情報を自社のFacebookやTwitterアカウントに投稿するというマーケティング方法が一般的であったが、ここ2、3年の間でその在り方が大きく変わってきている。最近は、自社メディアを持たずにSNS上に直接コンテンツを配信する「分散型メディア」が主流になってきつつあるのだ。

従来のように自社メディア内で行うコンテンツ制作に比べ、分散型メディアは手間がかかる。しかしその労力を惜しまずに、それぞれのプラットフォームのフォーマットに合わせてコンテンツを発信した方が、結果的に効率良く顧客から支持を得ることができるのだ。ユーザー視点になって考えてみて欲しい。SNS上に流れてくる投稿を目にした時、1つのプラットフォーム上で完結する記事の方が読む気になり、つい「いいね」や「お気に入り」ボタンを押したくなるのではないだろうか。分散型メディアは消費者のそうした傾向を汲み取り、意図的にバズコンテンツの配信を行うことでファン数を拡大し、情報発信者としてのパワーを増大している。

分散型メディアの主流は動画で、”ユーザーをわざわざ自店へ集客するのではなく、ユーザーが多く集まるところへ自分が出向く”という発想が基本だ。また最近では、一歩進んだところで分散型メディアの中で買い物体験まで可能にする「分散型コマース」に取り組む企業も出始めている。世界的なオンライン決済企業であるPaypalも分散型コマースには意欲的で、すでにサービスを提供している。

 

BuzzFeed

SNSを通じて拡散されやすいコンテンツを提供するバイラルメディアの草分け的存在として知られる「BuzzFeed」。

ハフィントンポストの共同創業者らによって2006年に開始されたBuzzFeedは、これまで世界11カ国30以上のプラットフォームを通じてコンテンツを配信。設立以来約10年で、月間ユーザー数2億人、月間コンテンツ閲覧数50億という数字を達成した。BuzzFeedでは、シェアされやすい砕けた動画や記事を提供するだけでなく、大手メディアからも記者を採用し、政治・経済ニュースや調査報道にも注力。純粋な広告枠で利益を上げるよりも、企業からの依頼を受けて宣伝記事を書くことで収入を得ている。2015年8月には、日本でも米BuzzFeed社と日本のヤフー株式会社の合弁事業会社として日本法人BuzzFeed Japan株式会社が設立された。万を持して2016年1月に創刊された「BuzzFeed Japan」は、8月には月間UV1,000万、12月には月間UV1,600万人を突破。また、2016年6月末にスタートした料理動画を扱うTastyJapan(リンク・以下の画像共にTastyJapanのInstagramアカウントのもの)も、2017年1月にフォロワー360万人を記録するなど急成長している。今も日々数万ずつフォロワーが増えるほどの伸び率で、今後は動画広告にも進出することが発表されている。

<参考>

【米国】Honda、米BuzzFeed、Amazonが異色の提携

 

every.tv

グリーの取締役を務めていた吉田大成氏が、分散型動画メディアを配信する会社として2015年9月に立ち上げた株式会社エブリー。エブリーでは、「動画を通じてもっと楽しく、もっと充実した毎日に」というビジョンのもと、every.tvを運営している。

配信しているのは、レシピを動画で紹介するDELISH KITCHEN、ヘアアレンジ/メイク/ネイル/ファッションなど女性向けのライフタイル動画を紹介するKALOS、ママのためのお役立ち動画を配信するMama Days、毎日のニュースを動画で届けるTimelineの4つのメディアで、FacebookやInstagramを始めとするプラットフォームでファンを増やし続けている。最も認知度の高いDELISH KITCHENは、「明日だれでも美味しく簡単に作れるレシピ」をコンセプトに、1分程度の料理動画を紹介。レシピ開発から撮影まで、コンテンツはすべて自社で制作している。主な収入源は、クライアントとコラボしたネイティブ広告だ。現在every.tvでは、アスクル、江崎グリコ、エスビー食品、オイシックス、コーセー、サッポロビール、小学館、ブルボン、ミクシィ、明治、リクルートライフスタイル、ローソンフレッシュなど、名だたる企業とコラボ。大手食品メーカーと組んでDELISH KITCHENで商品のレシピ動画を配信したり、KALOSやMama Daysでも購買に繋がるような動画が制作されている。

 

テイストメイド

ソーシャルメディアのフォロワー数が合計3,000万人を誇り、月間再生回数は25億回を超える人気メディア「テイストメイド」は、米国のほか、ブラジル、アルゼンチン、イギリス、インドネシア、フランスに拠点を構える料理動画配信サービスだ。

小洒落た料理風景を撮影した1分程度の動画が絶大な人気を誇り、日本でも2016年8月に現地法人が立ち上がった。日本版の現在のフォロワー数は、Facebookが168万人、Instagramが111万人、Twitterが60万人。毎月20~30万人のペースで合計フォロワー数が増えており、月間の再生回数は約8,000万回にも及ぶ。テイストメイドでは、日本法人の立ち上げと同時期にセブン&アイ・ホールディングスとのコラボを開始。同社のPB商品であるセブンプレミアムのサラダチキン販売促進キャンペーンを、Twitter及びリアル店舗で展開した。セブン-イレブンをはじめ、イトーヨーカドーやそごう・西武、オムニセブンなどの各事業会社のTwitterアカウントがリツイートしながら、Twitter広告も出稿。結果的に動画再生回数は52万回にのぼり、ネットの売上は4.5倍、実店舗での売上伸び率は平均130%を記録した。これは同年5月に実施したテレビCMに匹敵する効果をもたらしたそうだ。また、2016年11月にはパナソニックとのコラボで同社の調理家電をPR。ホームベーカリーやオーブン、コーヒーメーカーなどを使用して作った3種類の朝食メニューを都内のカフェで販売し、20~30代の女性に向けてSNSでの拡散を狙った。

 

CRAFT

日本のものづくりの背景にあるストーリーを動画で配信し、その延長でオンライン購入ができる「CRAFT(クラフト)」。

 

運営するニューワールドは、これまでテレビと連動したファション系ショッピングメディア「imanee(アイマニ)」を展開していたが、2015年6月にサイトを閉鎖。その後はファッションQ&Aサービスやテレビ情報のキュレーションメディア、ファッションコーディネートを配信する分散型メディアなどを運営するも、2016年6月に事業をCRAFTに一本化すると発表。「モノのストーリーで価値観を変える」というコンセプトのもと、CRAFTがローンチされた。分散型動画メディアによるマーケティング+ECの機能を持つCRAFTで取り扱うのは、日本の職人が作る現代風にアレンジされた伝統工芸品などのライフスタイル雑貨。2016年8月のローンチ以降、動画はFacebook上のCRAFTページで拡散され、フォロワー数は3,200人となった。現在、投稿動画のうち約7割がCRAFTのECサイトである「Craft Store」の商品販売ページへ、約2割がクライアントの自社サイト販売ページへ誘導されており、残りの約1割が購買誘導を伴わない純粋なメディアコンテンツで構成されている。現在は日本語のみの提供だが、将来的には英語版を立ち上げる可能性もあるとのこと。商品の特性上、海外からのファンも多く、そういったユーザーを取り込む考えだ。

 

bouncy STORE

デジタル動画事業を展開するViibarが2016年2月に立ち上げた動画メディア「bouncy」は、運営開始以来、テクノロジーを軸に、ガジェットやアートなどのカルチャー情報や独自取材コンテンツなど、最先端の情報を配信し続けてきた。

ローンチから1年を経て、Facebookのフォロワー数は28万人、動画再生数は月間約2,000万回を記録するまでになった同メディアが、購買訴求に直結した動画コンテンツを配信するFacebookページ「bouncy STORE」を2017年1月にオープン。視聴者よりかねてから寄せられていた「動画内で紹介されているプロダクトを購入したい」という要望に応えた形だ。ユーザーは、動画の下部に表示されるリンクをクリック後、パートナー企業の販売ページで実際に商品を購入できる。動画で分かりやすく商品を紹介することで、ユーザーは利用シーンを想像しやすくなり、購買に繋がりやすくなることが狙いだ。今後はさらにパートナー企業を増やし、視聴者のニーズに応えると同時に、魅力的なプロダクトやハードウェアスタートアップが多くの人と接点を持てるよう、動画コンテンツの発信を引き続き強化していく考えだ。

 

3ミニッツ

YouTuberのマネジメントや動画マーケティングを手がける3ミニッツが、2015年6月にローンチした「MINE BY 3M(マインバイスリーエム)」。

なりたいお洒落が見つかるファッション動画マガジンとしてトレンドに敏感な25歳~34歳の女性を中心に支持され、累計利用者数200万人、月間延べリーチ数7,500万、月間再生回数1億回を超える注目の動画メディアだ。これまで国内外のクライアント企業のブランドキャンペーンを数多く支援するなど、急成長を遂げてきた同メディアは、現在Facebook37万人、Instagram10.5万人、Twitterは1.5万人にフォローされている。同社が手がけるインスタグラマー発のレディース・アパレル・ブランド「eimy istoire(エイミー・イストワール)」も好調で、初動売上2,000万円を記録。2017年2月には、ルミネエスト新宿に実店舗をオープンした。先日グリーが運営元の3ミニッツを買収し、子会社化されることが発表されたばかりだが、グリーはインターネット事業に精通した人材と安定した財務基盤といった経営資源を3ミニッツに投入することで、動画広告市場における成長を図る。

 

分散型動画メディアとECとの関係

ここで紹介したメディアの状況をまとめてみよう。

分散型動画メディアの生命線ともいえる各ソーシャルメディア上でのプレゼンスはどのサービスも非常に高い。中でもTastyではFacebookのいいね数が8,000万を超えるなど凄まじい影響力を有している。また、「分散型」といいつうもオウンドメディアを持っているサービスも3割程度存在する。またEC機能を有しているサービスも4割程度だ。いずれもオウンドメディア上で販売か、各ソーシャルメディア上でのEC機能を活用した形が主流だ。ただ動画のジャンルは限定的で、食やガジェット系が主流となっており、なかなか他のジャンルへの展開が難しい側面もありそうだ。

 

 

生放送動画

 

Facebook上でリアルタイムに動画を配信・再生することができる「Facebook Live」や、Twitterが提供する動画配信アプリ「Periscope(ペリスコープ)」、Instagramのライブ配信機能など、2016年は多くのSNSがライブ動画配信に力を入れた年であった。ライブ動画の魅力は、何と言っても本来遠い存在であったはずの芸能人とライブで繋がれるというスペシャル感だろう。もちろんTwitterやInstagramで繋がることでもある程度の親密感は得られるが、ライブには生放送だからこその「何が起きるか分からない」というスリルには代え難いものがある。また、コメント機能やスタンプなどのリアクション機能を使って、リアルタイムで双方向のコミュニケーションが図れる点も大きな魅力だ。しかしこれは芸能人相手に限ったことではない。ここ数年は、インターネットの世界で多大な影響力を持つインフルエンサーたちにも注目が集まり、インフルエンサーが動画内で紹介した商品は即完売という現象も当然のように起きている。ニコ生やUstreamでライブ配信を行ってた数年前に比べ、誰もが気軽に生動画配信ができるようになった今、生放送動画とどう向き合えば良いのか。現状について探っていく。

 

LINE LIVE

2015年12月にサービスを開始した、LINEによるライブ配信プラットフォーム「LINE LIVE」。当初は著名人やタレント、企業による生放送形式の映像や番組だけを配信していたが、2016年8月に一般ユーザー向けライブ配信機能を実装。以降は誰でも使えるライブ配信サービスとなり、特に10代から20代前半の女性を中心に人気を集めている。

一般的な生放送動画サービスと同様に、コメントやハートを使って配信者と視聴者がコミュニケーションを取る仕組みで、一般ユーザーの中にはすでに人気の配信者も出てきている。一般ユーザーの配信時間は、今や公式チャンネルの倍以上にも及ぶそうだ。一方、これまで企業がビジネスに活用してきた事例は、サマンサタバサやソフトバンク、au、オールナイトニッポンなど。しかしいずれも消費者の購買意欲をそそるところまでは到達しておらず、ビジネス活用を狙うのであれば今後は何かしらの対策を練る必要がありそうだ。開始から1年を記念して公開された「数字で見るLINE LIVEの2016年」によると、総配信時間は373,116,672秒(11年303日間と11時間31分12秒)、コメント数は4,547万8,600コメント、総ハート数は26億3,237万9,446個とのこと。現時点ではLINE LIVEの利用は無料で、有料部分はギフトアイテムなどのアイテム課金のみ。運営側によると、今後は動画広告の実装を検討していくとのことだ。

 

<参考>

LINEが動画を活用したネット通販に参入、「LINE BUYNOW」をスタート

 

中国の網紅(ワンホン)

中国における生放送動画について語る上で欠かせないのが、ソーシャルメディアで莫大なフォロワー数を持つ網紅(ワンホン)と呼ばれるネットインフルエンサーの存在だ。中国では企業に対して不信感を持つ国民が多く、消費者の多くは企業発信の広告を信用していない。そのため、親近感のある網紅(ワンホン)から発せられる情報に共感し、彼女たちが実際に使ったり紹介する商品に興味を持って購入に至るというケースが多くなってきている。中国EC市場における網紅(ワンホン)の存在感は年々増し、彼女たちがSNS上で商品を紹介すると、多くのフォロワーたちがECサイトにアクセスして購入するというパターンは、今や中国EC企業にとって最重要手法に成長してきているのだ。

網紅(ワンホン)の主な情報発信の場は生放送動画だが、人気の網紅(ワンホン)の中には数千万人のフォロワーを抱える者もいて、わずか数分で爆発的な売上を上げたという信じられない事例も後を絶たない。中国最大級のECサイトであるタオバオ(淘宝)を運営するアリババも当然網紅(ワンホン)に頼る企業の1つで、同社は昨年ブログの書き方や画像投稿のコツを教える育成機関のルーハン(如涵)に4,600万ドル(約52億円)を出資した。時代に合った新たな網紅(ワンホン)を発掘し、これまで以上にタオバオを盛り上げていくつもりだ。

 

<参考>

凄まじい影響力を持つ中国ネットインフルエンサー「網紅(ワンホン)」の実態と活用方法

【中国】生放送SNSで女子アナウンサーが告白を受け1750万円のギフトを受け取る

【中国】中国でのオンライン生放送でAV女優蒼井そらは1時間で1.3万人を動員し240万元(4,000万円)のギフトを得た

【中国】中国の5000人のファンを持つオンライン有名人は月収4万元(70万円)

KOLの影響力とビジネス構造を読み解く - 中国でのオンラインマーケティングに欠かせない役割

【中国】中国のオンライン生放送の現状と未来

 

 

分散型動画 vs 生放送動画

 

動画マーケティングの現状は、米国発の分散型動画 vs 中国発の生放送動画という一騎打ちの構図となっているといってもいいだろう。分散型動画はプラットフォーム側の視点ではビジネスモデルが確立しつつあるようだが、ECサイト事業者側の視点では、誘導や売上アップなどの成果が見えにくい場合が多い。爆発的人気を誇る料理動画であっても、親和性が高いのは食料品メーカーなど一部のジャンルで、その他のジャンルの商材を取り扱う企業からしたらどのように活用をしていけばいいのか、当該ジャンルに強い動画メディアの登場を待つしかないのが実情かもしれない。

一方で生放送動画は既にECへの誘導や売上という面で中国においては大きな成果を上げている。ただ、国内ではまだまだそのような事例もなく、中国でも網紅のコストが上がりつつあり、投資対効果が落ちてきているケースも増えてきた。また、カルチャーの問題もあり今の生放送動画のモデルがそのまま国内のECサイトのマーケティングに活用できるかも未知数だ。

このようにECサイトとしてこれらの動画プラットフォームを使用して成果を上げていくためには、まだまだ解決するべき課題もあるだろう。しかし若年層世代を中心に、デジタルネイティブ、ソーシャルネイティブ、そして動画ネイティブと世代は確実に進歩してきている。動画というコンテンツを今後どのように活用し、ECとの親和性を高めてECの売上を上げていくか。今後のECサイト領域での動画活用の発展に注目していきたい。