デジタルコンテンツ定額配信サービスの普及 - コンテンツをコレクションしないというこれからのデファクト

 

スマートフォンやタブレットの急速な浸透や帯域幅の急拡大に伴い、従来はモノとして保有することが多かった音楽CD・書籍・DVDビデオなどのコンテンツを、最近ではデジタルコンテンツとして購入するという形が若年層を中心に浸透してきている。CDやDVDを保有することに意味を見出さず、コンテンツとして消費する方向へライフスタイルが急激にシフトしているのだ。そのような状況の中、AWA・LINE MUSIC・Apple musicと音楽のストリーミング定額配信サービスが次々とリリースされ、話題を呼んでいる。また書籍や漫画の読み放題、動画の見放題など、音楽以外のデジタルコンテンツの定額配信サービスが多数リリースされている。今回は音楽、書籍や動画のデジタルコンテンツの定額配信サービスについて紹介し、音楽・書籍・動画といったコンテンツの保有スタイルの変化について考えていく。

 

デジタルコンテンツ定額配信サービスの普及 - コンテンツをコレクションしないというこれからのデファクト

 

 

音楽の定額ストリーミングサービス

 

5月末から6月末にかけて、AWA・LINE MUSIC・Apple musicと定額制音楽ストリーミングサービスが立て続けにリリースされた。定額制のストリーミング再生サービスはこれまでも存在したが、モバイル端末での音楽視聴といえばiTunesなどでダウンロードする形態が多く、さらにはYouTube等で無料で音楽が聞けてしまうのが現状である。そんななかで始まった定額制音楽ストリーミング再生サービスはどのような特徴があるのだろうか。

 

AWA

 

サイバーエージェントとエイベックス・デジタルがタッグして結成されたAWA株式会社がリリースしたAWA

 

 

料金プランは、時間制限のある無料プランと、月額360円でオンデマンド再生(アーティストやアルバムで検索、指名して再生)以外で聴き放題なLiteプラン、月額1,080円ですべて聴き放題のPremiumプランがある。

AWAの特徴はとにかくプレイリストがたくさんあるということだ。AWAが毎日更新する最新の人気曲Top20をジャンルごとに分けた「TRENDING」というプレイリストと、AWAのユーザーが作成したプレイリストがある。プレイリストはジャンル(POPやROCKなど)やムード (HAPPYやRELAXなど)で分類されているため、気分に合わせて選ぶことができる。ユーザーの好みを判断しておすすめの曲を流してくれるDISCOVERYや、似たようなジャンルの曲を流してくれるRADIOなどプレイリストの他にも様々な聴き方があり、新しい曲に出会える楽しさがある。

楽曲数は2015年末までに500万曲、2016年末までに1000万曲と発表されている。現在は洋楽が多く邦楽が少ない印象があるが、今後の拡大に期待したい。

 

 

LINE MUSIC

 

LINE MUSICは音楽を聴く他にも、LINE友だちにお気に入りの曲をシェアすることのできる機能をもったアプリだ。

 

 

料金プランは30日間で20時間聴き放題になる500円のベーシックプラン(20時間を超えた場合プラス300円で10時間追加になる)と30日間時間無制限で聴き放題になる1,000円のプレミアムプランがある。また、学割プランが用意されていて、生年月日と学校名を登録すればベーシックプランが300円、プレミアムプランが600円で購入できるようになっている。

LINE MUSICは運営側が作成した様々なプレイリストを選ぶことができるほか、最新曲を聴くこともできる。また邦楽が中心でラインナップは非常に充実。曲をキャッシュすることもできるので、オフラインで再生することもでき、通信量を気にせず楽しめるのだ。そして、LINEの友だちに曲を送ってシェアすることができるなど、LINEならではのサービスもある。

 

 

Apple music

 

Apple musicは、Appleが提供する定額音楽配信サービス。月額980円で聴き放題となる。

 

 

各ジャンルの専門家が作成したプレイリストがあり、好みのジャンルを登録してレコメンドしてくれる機能や、ダウンロードしてオフライン再生ができる機能など、AWAの機能にオフライン機能が追加されたようなサービスとなっている。楽曲数は数百万曲となっていて詳細は不明だが、洋楽中心のラインナップとなっている。

また、iPhoneやMacなどのApple製品だけでなく、iTunesを使ってWindowsでも利用ができ、さらには秋頃にAndroidでも利用ができるようになると発表されている。

 

 

書籍の定額読み放題サービス

 

電子書籍が普及し、米Amazonが約1年前にKindle Unlimitedという70万冊もの電子書籍が月額9.99ドルで読み放題になるサービスを開始して人気を博しているようだ。日本でもマンガアプリがテレビCMを放映するなど、電子書籍に注目が集まっている。

 

 

dマガジン

 

dマガジンは、NTTドコモがdマーケットで提供する電子雑誌定額読み放題サービス。今年6月にサービス開始わずか1年で会員数200万人を突破した。

 

 

月額400円(税抜き)で130誌以上の人気雑誌が読み放題となる。docomoIDを持っていれば会員登録することができるのだが、NTTドコモの回線を利用していなくても誰でもIDを発行することができるのだ。

雑誌をジャンルごとに探したり、記事をホットワードやジャンルごとに閲覧することもできる。雑誌の読み放題サービスというと、最新号が読めなかったり、いくつかのページが読めなかったりすることがあるのだが、dマガジンは最新号の閲覧が可能で、記事も他のサービスと比較してカットされるページ数が少ないといった理由で好評なようだ。

 

 

有斐閣YDC1000

 

有斐閣YDC1000は、法律書を中心とした絶版本や入手困難な有斐閣の良書を年間12,000円(月額1,000円相当)で読み放題になるサービス。

 

 

研究や執筆の際の参照や文献調査など、学術的な目的で利用される。書誌検索だけでなく、目次や索引などから詳細検索や比較閲覧ができる閲覧機能が搭載されており、従来図書館などで行っていた作業がWeb上で行えるようになるのだ。ダウンロードしてタブレットに一定期間保存して持ち出すこともできる。

また国立国会図書館デジタルコレクションという膨大な専門書などを中心としたデジタル配信サービスも存在するなど、サービスを利用する人は限られるが、こういった専門分野に特化した定額読み放題サービスも登場している。

 

 

動画の定額見放題サービス

 

先日、今年10月に違法アップロード対策として民放5社が共同でテレビの見逃し配信をする無料サービス「TVer」を開始するということが発表された。この動きに代表されるように、今やテレビや映画をネットで見るということが当たり前になりつつあり、レンタルビデオに取って代わるようなVOD(ビデオオンデマンド)と呼ばれるサービスが広まっている。レンタルビデオショップのように貸し出し中ということもなく、足を運ぶ必要もない。そんな便利な動画配信サービスを紹介していく。

 

 

Hulu

 

Huluは、米国に本拠地を置く動画配信サービスで、約2万本の人気ドラマや映画が月額933円(税抜)で見放題になる。今年3月には会員数100万人を突破している人気サービスだ。

 

 

海外ドラマが充実していることで人気を博していたが、アニメやバラエティ番組など様々な作品をみることができる。地上波放送のドラマの見逃し配信を開始したり、オリジナルドラマを日本テレビと共同制作するなどコンテンツの拡充に積極的だ。他サービスでは新作の視聴には別途料金がかかることが多いのだが、Huluは追加で課金する必要はない。

パソコンやスマホだけでなく、テレビやゲーム機器からなど様々なデバイスで視聴することができる。視聴中の動画を別のデバイスに引き継げるため、パソコンで見た続きをスマホで見ることも可能だ。また、デバイスに合わせてベストな画質で読み込んでくれるため、画質がかなり綺麗でスムーズな再生ができるのだ。

 

 

dTV

 

dTVは、上記で紹介したdマガジンと同じくNTTドコモが提供する動画配信サービス。

 

 

こちらもドコモ回線がなくてもdocomoIDを発行すれば誰でも楽しむことができる。12万本以上のコンテンツが月額500円(税抜)で見放題になる。業界最大級のコンテンツを業界最低水準の価格で視聴できるかなりお得なサービスとなっている。

今年4月にdビデオからdTVに名称を変更し、リニューアルされたのだが、その新機能として「ザッピングUI」が登場した。テレビをザッピング(目的もなくチャンネルを変えること)するように、特に目的がないときでも好みのコンテンツが見つかるようにする機能である。そのほかにもレコメンド機能も搭載され、新しい作品と出会えるワクワク感も味わえる。

BeeTV時代からのオリジナルコンテンツ制作のノウハウを活かし、進撃の巨人実写版オリジナルドラマを限定配信するなどオリジナルコンテンツも充実している。

 

 

U-NEXT

 

U-NEXTは月額1,990円で11万本以上の動画が見放題になるサービス。

 

 

他のサービスと比べ月額料金は高めだが、魅力的なサービスが提供されている。1つ目は最新映画のDVD&ブルーレイの発売日と同時に配信されるという点。2つ目はファミリーアカウントとして月額料金そのままで4つまでアカウントが作れるという点。4人で分割すれば月額約500円となるため、それほど高いという訳でもなさそうだ。

見放題作品の他にPPV(ペイ・パー・ビュー)作品も用意されており、これには追加料金がかかる。しかし、毎月1日に1,000円分のポイントが付与されるため、ポイントを使ってPPV作品を視聴して、足りない分を課金するということができる。

さらに、動画だけでなく雑誌も読み放題になる。雑誌はほとんどのページが読み放題となっているようだ。動画も雑誌もダウンロードしてオフラインで再生することもできるようになり、どこでも楽しめるサービスとなっている。

 

 

コンテンツをコレクションしないというこれからのデファクト

 

従来はお気に入りのアーティストの音楽CDやDVDをモノとして保有することが多かったが、時代と共に音楽やDVD、そして書籍などは電子データとして保有していれば十分という考え方が広まっていった。そして、今回紹介したデジタルコンテンツの定額配信サービスではデータとしても保有せずにあくまで“ストリーミング”という形態でデジタルコンテンツに接することをメインとしている。もちろんモノやデータとして保有しない場合は、利用する際にはオンライン状態である必要があり、「常に」そのコンテンツに接することが出来るわけではない。またパケット数の上限も気になるところだろう。そのため一部のサービスではオフラインでも接することが可能となるようなハイブリッド形式を適用している。これらの柔軟なデジタルコンテンツの提供にはDRM(デジタル著作権管理)が欠かせない。この技術なくしてこれらのサービスは成り立たないとも言えるだろう。

一方、まだまだ著作権等の関係でコンテンツの一部が見られないケースもあるなど、ユーザー側からすると足りない部分もあるが、「○○放題」というサービスはとても魅力的だ。価格も手頃で気軽に始めることができ、実際に購入やレンタルすることと比べるとコストパフォーマンスも優れている。そしてどのサービスも無料お試し期間があることもユーザーの爆発的増加に繋がっている。

とはいえ、これらの市場はまだまだ既存のリアルコンテンツの市場と比較すると圧倒的に小さい。これらのサービスがオフラインの既存業界を脅かす存在になるのだろうか。デジタルデバイスの急速な進化、ユーザーのライフスタイルの変化、さらには著作権などに関する大幅な法改正などによっては数年後にはコンテンツを保有しないでストリーミングで楽しむことが当たり前になっているかもしれない。最もユーザーの動きに敏感ともいえるこれらのサービスの今後の動きに注目していきたい。