Amazonが見据えるECの未来

 

昨年末から今年にかけて、いくつかAmazonの計画している画期的なサービスが明らかとなり業界を賑わせている。写真でスキャン、Amazonのスマホ端末、ドローン(無人航空機)配送、買い物メモ専用端末Amazon Dash、Amazonとtwitterが連動するAmazonソーシャルカート、そして予測配送の特許を取得したという話まであるようだ。今回はこのように複数のサービスを立て続けにリリースする、EC業界の巨人Amazonが見据えるECの未来を考えていく。

 

<参考>

USで話題のデバイスAmazon Dashが日本のEC市場に与え得る影響と可能性

Amazonログイン&ペイメントは何が凄いのか - 他の大手ID決済サービスと徹底比較してみた

 

 

Amazonソーシャルカート「#アマゾンポチ」

 

7月11日にTwitterのツイートと連動してカートに商品を追加するAmazonソーシャルカートが日本でも開始された。

 

 

仕組みとしては、AmazonのアカウントとTwitterアカウントをリンクさせて、Amazonの商品リンクが張られたツイートに対して「#アマゾンポチ」とハッシュタグをつけてリプライをするだけ。そうすると、アカウントをリンクさせたAmazonのカートにリンクを貼った商品が追加されるのだ。実際に試してみたところ、アマゾンから「カートに追加されました」というリプライがきて、カートに商品が追加されていた。

 

 

この新サービスのAmazonの狙いは、ページを遷移する必要を省くことによる手軽さと欲しいと思った瞬間にカートに追加できる点だ。たしかに、Twitter内でカートに入れるとこまで終えられるのはスマートだと捉えることもできるが、実際のところリンク先に行ってカートに追加する方が手間が少ないように感じる。

また、ツイートだけを見てカートに追加することになるため、完全に衝動買いによる購入になるだろう。そのため、商材としては機能や価格、ディティールがウリの商品よりは、単価が安くビジュアル面で訴求できる商材の方がこのサービスには適しているはずだ。

 

 

Amazonのスマホ「 Fire Phone」に搭載されたflowを超える「firefly

 

米Amazonで以前から開発の噂のあったスマートフォン「Fire Phone」が発表され、その端末には話題となったflowを超える“firefly”という機能が搭載されているようだ。

 

 

そもそもflowとは、米Amazonのアプリでは既に使える機能で、カメラで写真を撮る要領で商品を画面に映すと形状や色や形から商品を認識し、Amazonの商品の中からその商品を検索し即座に表示するのだ。欲しい商品にスマホのカメラを向けるだけでその商品を簡単にスキャンすることができ、商品の検索の手間を大幅に簡略化してくれる、一種のショールーミングアプリといえる。

 

 

そして、新たにAmazonのスマートフォンに搭載された“firefly”ではflowが進化し、音声認識も加わり、1億種類の商品の識別が可能となった。流れている曲を聞かせればその曲を認識し、購入もできる。テレビやラジオの音声を聞かせれば、番組を認識することもできる。flowは商品のスキャンだけであったが、fireflyはなんでもスキャンできるだけでなく、情報の取得もできるのだ。商品であればAmazonのデータベースから価格やスペック情報などを取得、映像や音楽であれば作品情報やアーティスト情報等が取得することができるというわけだ。また、デベロッパー向けにSDKが準備され、fireflyの全ての機能を利用することが出来る点も見逃せない。この機能を搭載したFire Phoneはまだアメリカでしか販売されないようだが、顧客からどういう評価が下されるのか気になるところだ。

 

<参考>

ZOZOTOWNの新アプリ“WEAR”で、狙い通りアパレルECにおける店舗のショールーミング化は進むのか

 

 

予測配送システムの特許を取得

 

米Amazonが斬新な配送システムの特許を取得したことが明らかになった。顧客が注文する前に近くの配送拠点まで商品を配送する、予測配送(Anticipatory shipping)とでも言うべきシステムだ。顧客のカートの中身、欲しい物リスト、顧客データを解析することで、こんな冗談のようなシステムが可能になるようだ。これまで顧客に独自のアルゴリズムの商品のリコメンドシステムを構築し、また、膨大な顧客データがあるアマゾンだからこそ為し得るのだろう。

このシステムによるAmazonの狙いは“配送時間の短縮”にある。注文前に近くまであらかじめ配送しておけば、時間の短縮効果は非常に大きいだろう。だが、実際にこのシステムを導入するには、顧客の注文予測の精度が非常に高くなければいけないだろうし、配送したものの注文されないロス等もクリアすべき課題となってくるだろう。昨年末に特許が承認されたばかりのため、実際に導入されるとしてもまだまだ先になるだろう。

 

<参考>

ECの即日配達サービスの限界への挑戦 - 頼んだものがすぐ届くのが当たり前の未来はやってくるのか

 

 

Amazonの新サービスの共通点とそこから予測できる未来

 

“Amazonソーシャルカート”、“firefly”、“予測配送”とまだ実現していないもののも含めこれまでいくつかのAmazonの新サービスを紹介してきた。また、“Amazon Dash”、“ドローン”など、ここでは紹介していないサービスもある。これらから見えてきたのは、Amazonが二つのベネフィットを顧客に提供しようとしているという点だ。

 

①    注文までの手間と時間の簡略化

#アマゾンポチ、Amazon Dash、fireflyに共通しているのは、可能な限り手軽に、かつ、欲しいと思った瞬間に商品をカートに入れることを目指している点だ。顧客は何かを欲しいと思っていても、簡単に心変わりしてしまう。商品がなかなか見つからなかったり、決済の手続きが面倒であったり、あるいは、買うのを忘れてしまったり。時間と手間を減らすことで、顧客の離脱を防ぎ、売り逃しを減らそうとしているのだ。

 

②    配送時間の短縮

“ドローン(無人航空機)配送”、“予測配送”、この二つは配送時間の短縮を目的としている。どちらのサービスも実現するようになれば、注文したその日どころか、数時間から数十分での配送が可能になるだろう。顧客としては、配送までの時間は短ければ短いほど良いに決まっている。そのニーズを最大限満たそうとしているサービスだろう。また、配送時間の短縮には大規模なフルフィルメントセンターが必要であり、それを構えられるAmazonの強みをより強化することになるだろう。

 

 

簡単に注文できて、すぐに商品が届く、そんな状況が当たり前になれば消費者は益々Amazonに依存するようになり日常の買い物もAmazonへシフトしていくかもしれない。次は、どんなサービスで私達を驚かせてくれるのか。EC業界を牽引していくAmazonの動向には今後も目が離せない。