大手ブランドは消費者の信頼を最優先し、ファーストパーティデータを採用することで、プライバシー・ファーストのエコシステムをどのように進行しているだろうか。

 

消費者のプライバシーは、デジタル広告業界で大きな焦点となっている。データ収集慣行に対する新たな規制や社会的懸念の高まりにより、企業は戦略の見直しを迫られている。この分野におけるリーダーとして、適応・進化することは我々の責任である。法令を遵守するだけでは十分ではない。我々は常に消費者の利益を最優先しなければならないのだ。

 

「プライバシー・バイ・デザイン(システムの企画・設計段階から、個人情報やプライバシー保護を意識し、施策を組み込む設計思想)」のアプローチを採用することで、過剰なデータ収集に対する懸念の高まりに対処し、信頼を築き、広告業界における経済的成功の基礎である長期的な消費者ロイヤリティを促進することができる。

 

変化するプライバシーの状況に関するインサイト

米国のネット広告業界団体IABが最近発表した「State of Data 2024レポート(閲覧には登録が必要)」は、「How the Digital Ad Industry is Adapting to the Privacy-By-Design Ecosystem(デジタル広告業界はプライバシーバイデザインエコシステムにどのように適応しているか)」と題され、業界がプライバシーの変化にどのように対応しているかについてのインサイトを提供している。本レポートでは、ブランド、広告代理店、パブリッシャーのデータや広告の意思決定者500人以上を対象に調査とインタビューを実施した。

 

レポートは、プライバシーのコンプライアンスや、持続可能な、消費者に配慮したアプローチの必要性から生まれた戦略的変化とイノベーションに焦点を当てている。

 

・意思決定者の95%は、2024年以降も法規制が継続し、シグナルが消失すると予測している。

・3分の2は、より多くの州でプライバシー法が施行され、消費者へのメッセージをパーソナライズする能力が低下すると予測している。

・このようなプライバシー・ファーストの環境へのシフトにより、80%以上の企業で大幅な組織再編が行われた。

 

ニューノーマルへの適応:トレーニングと専門知識への投資

企業は適応するために、データプライバシーに関するスタッフのトレーニング(78%)、ビジネス変革のための専門チームの設立、新規採用やコンサルタント会社との提携による外部の専門知識の習得に多大な投資を行っている。

 

アナリティクス部門はデータへの依存度が高いため、法務・コンプライアンス、広告運用、プログラマティックチームと並んで、最も大きな影響を受けている。

 

高品質データの減少とメディアプランニングへの影響

市場は、アクセス可能な高品質データの大幅な減少に直面している。

 

・広告やデータのリーダーの約4人に3人は、デバイスシグナルや位置情報を含む不可欠な消費者データを収集して活用する能力が継続的に低下すると予想している。

・一方、60%は人口統計、ユーザーの嗜好、行動に関しても同様のことを予想している。

・ソーシャルメディア(59%)、プログラマティック(57%)、広告配信会社(52%)など、主要パートナーからのデータの正確性に対する信頼も低下している。

 

こうした課題は、メディアプランニングとバイイングに大きな影響を与えている。

 

・広告バイヤーの10人に9人近くが、パーソナライゼーションの戦術、広告費、ファーストパーティデータ、セカンドデータ、サードパーティデータの組み合わせの変化を報告している。

・4人に3人以上が、セラーダイレクト取引の増加に加えて、メディアチャネルやKPIの選択の変更を挙げている。

 

コネクテッドTV(インターネット回線に接続されたテレビやデバイス)、有料検索、ソーシャルメディア、リテールメディアなど、ファーストパーティデータを活用し、オーディエンスを大規模に取り込む広告費が優先されている。

 

ファーストパーティデータとAIによるデータ品質の向上

データ品質を向上させるために:

 

・ブランド、代理店、パブリッシャーの71%がファーストパーティデータセットを増やしており、今後12か月の増加率は平均35%と予想されている。連絡先情報、デバイスシグナル、トランザクション、コンテンツ消費、位置情報、人口統計、興味関心など、堅牢なプロファイルを可能にするために、一連の消費者データポイントが収集されている。

・また、3分の1は、これらのデータセットを強化するためにAIや機械学習を活用している。

 

ただし、ファーストパーティデータは将来起こりうる規制の影響を受けないわけではないことに注意する必要がある。プライバシー規制が進化するにつれて、ファーストパーティデータの収集と使用は、より厳しい監視や制限に直面する可能性があるのだ。企業は警戒心と適応力を持ち続け、自社のデータ実務が最新のプライバシー要件と消費者の期待に沿うようにしなければならない。

 

ファーストパーティデータ以外にも、企業はメディアミックスモデリング(マーケティング活動のどの部分が売上や利益に貢献したかを統計学的に分析する手法)やマルチタッチアトリビューション(チャネルと戦術が互いにどのように影響し合っているかを明らかにするマーケティング効果測定手法)など、トラッキングへの依存度が低い分析手法に投資している。コンテキスト広告が復活しつつあり、現在同広告を購入している企業の66%が投資の拡大を計画している。

 

信頼できる環境でパブリッシャーとの直接取引が増えており、パブリッシャーのファーストパーティデータが活用されている。ただし、他のデータ主導のアプローチと同様に、プライバシーの状況の変化に応じて戦略を監視し、調整することが重要である。

 

プライバシーと経済成長のバランス

プライバシー・バイ・デザインを採用することは、消費者の利益を優先し、業界のリーダーとしての役割を守るための戦略的な動きである。プライバシーを業務に組み込むことで、データ収集に関する不安を軽減し、経済的成功に不可欠な消費者の信頼とロイヤリティを強化することができる。

 

消費者のプライバシー保護と経済成長の促進のバランスを取ることが極めて重要となる。このアプローチは個人の権利を尊重し、イノベーションを後押しし、競争力のある市場を可能にする。

 

プライバシーのリスクを無視することは、規制当局による罰金につながり、広告に対する社会的信頼を損ない、消費者のエンゲージメントや経済的パフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性がある。進化するプライバシー基準に対応し続けることは、市場における有利な地位を維持し、長期的な成功を確実にするうえで非常に重要となる。

 

業界は特に、多様なビジネスユースケースをサポートするための明確な規制ガイドラインや技術的構造の欠如などのハードルに直面している。消費者の権利を優先しつつ、企業が消費者に関連性の高い広告を効率的にターゲティングし、効果的な測定とアトリビューションを提供できるようにするプライバシーの枠組みが不可欠である。

 

プライバシー・バイ・デザインは単なるコンプライアンス要件ではなく、ビジネス慣行をプライバシーの現代的価値観に合致させるためのコミットメントである。プライバシー・バイ・デザインを実施するには、プライバシー対策が深く統合され、性急に追加されることのないよう、慎重に検討し、計画する必要がある。さもないと、その有効性を弱め、消費者の信頼を損ない、潜在的な収入と収益性の損失につながる可能性がある。

 

行動喚起:消費者プライバシーの先頭を行く

プライバシーの業務への戦略的な取り込みは、反発を緩和し、広告に対する世間の態度にプラスの影響を与える。集合的な取り組みとしてプライバシー・バイ・デザインを取り入れることは、我々の業界におけるイノベーションと成長を促進することができる。

 

ブランドのエンゲージメントを促進しながら、消費者のプライバシーを優先する新しい広告モデルやテクノロジーを開拓することで、我々は業界の地位を大幅に向上させ、経済的な機会を引き出すことができる。

 

広告業界が消費者のプライバシーを支持する時が来た。IABのState of Data 2024レポートで強調されているように、プライバシー・バイ・デザインを戦略的な必須事項として採用することは、消費者と企業の双方に利益をもたらす、より持続可能で信頼に基づくエコシステムを構築するために極めて重要である。

 

この変革の旅には、コラボレーション、イノベーション、そして消費者のプライバシーを我々の取り組みで最優先するという揺るぎないコミットメントが必要である。この機会を活かして、広告の未来を再定義し、より豊かでプライバシーに配慮した時代への道を切り開こう。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の4/19公開の記事を翻訳・補足したものです。