ポストコロナ時代において、バーチャルショッピング体験は「テクノロジーの効率性」と「従来型ショッピングの人間的な接触」を融合させ、小売業界に革命を起こしている。


重要なポイント

  • 小売業者はデジタルツールを統合しており、消費者は小売再生の入り口に立っている。
  • ブランドは、テクノロジー主導のアドベンチャーとパーソナライズされたショッピングジャーニーの両方を提供する必要がある。


長期間にわたって、小売業界はデジタルプラットフォームへと変化し続けてきた。そして、新型コロナウイルス感染症のパンデミック危機によって、その変化は途方もないペースで加速した。従来の実店舗は多くの課題に直面し、新しいアイデアを生み出すか、時代に取り残されるかの選択を迫られたのだ。

この危機によって、小売業がかつてのやり方から大きな変革を遂げつつある、という認識が生まれた。そして、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、人工知能(AI)のようなテクノロジーによって強化されたバーチャルショッピング体験が注目の的となっている。


1.
対面小売の終焉とバーチャルショッピングの台頭

新型コロナの感染拡大前、従来の小売業者は、店頭への客足の減少とオンラインショッピングの文句なしの成長に、頭を悩ませていた。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックによって、この穏やかな衰退は多くの人にとって破滅の前兆となる可能性が出てきた。

ソーシャルディスタンスやロックダウン、公共の場所に対する一般的な懐疑論によって、小売業者は、とにかく迅速に戦略を変える必要があった。バーチャルショッピングの出現は利便性と創造性の完璧な融合であり、安全で快適な自宅にいながら、リアルなショッピング体験を得ることができる。


2. AR
での試着

ARテクノロジーによって、買い物客は仮想現実内での試着が可能になった。ユーザーは化粧品やサングラスから服や靴まで、特定のアイテムを身に着けるとどう見えるか、実際に商品に触れることなく確認できるようになった。フランスの化粧品会社Sephora、イタリアのファッションブランドGucci、米国のスポーツ用品メーカーNikeなどは、すでにAR試着を組み込んでおり、顧客にパーソナライズされたショッピング体験を提供している。


3.
仮想現実ショッピング

ソファに座りながら、デザイナーズブティックの廊下や家電量販店の通路を歩いているところを想像してみてほしい。仮想現実はそれを可能にするのだ。ユーザーは、VRヘッドセットを装着することで、360度のVRストアを体験し、商品を閲覧し、バーチャル販売員と会話することができる。


4. AI
を活用したパーソナルな買い物客

AIはショッピング体験を変化させるべく、ひそかに力を発揮している。アルゴリズムは、次に買うものを買い物客に決めさせるために、その人の過去の購入履歴、好み、ソーシャルメディアでの行動を調べる。AIを活用したインサイトが、ブランドのユーザー体験をパーソナライズし、特別な商品を勧めることで、購入の可能性を高めるのに役立っている。


5.
バーチャルなポップアップショップと限定販売

小売業界では、限定品は最も人気の高い商品である。VRを活用して、企業は短期間のバーチャルなポップアップショップをオープンすることができる。オンラインイベントは実際のイベントと同等の興奮を生み出し、影響力のある顧客や得意客、バーチャル体験に興味を持つ新規顧客を引き寄せることができる。


6.
ソーシャルショッピング

InstagramやFacebookのようなプラットフォームは、ソーシャルネットワーキングサイトから主要な小売販路へと成長した。ユーザーはストーリーズや投稿で紹介された商品をクリックし、ショッピングページへと移動できるため、ショッピングとソーシャル活動の境界線があいまいになっている。


7.
統合プラットフォームを利用した総合的な体験

オンラインショッピングの未来は、個々のテクノロジーだけでなく、それらを統合して楽に利用できる体験を生み出すことにある。顧客はVRを使用してバーチャルショップへ行き、ARで服を試着し、AIはその服装に合うアクセサリーを提案してくれる。


8.
バーチャルショッピングでのデータセキュリティの重要性

テクノロジーの利用が増えれば、データセキュリティに対する責任も重くなる。小売業者はセキュリティに多くの投資を行っており、顧客の財務状況や個人情報の機密性を確保している。取引での透明性と安全性を高めるために、ブロックチェーン技術が登場している。


9. 環境意識とバーチャルショッピング

オンラインショッピングへの移行による予期せぬ利点の一つに、地球への潜在的なプラス効果がある。実店舗が減り、客足も少なくなれば、使用するエネルギー量も減る。さらに、バーチャル試着によって、より正確な購入が可能になり、返品やそれに伴う物流を軽減できる可能性もある。


10.
実店舗を継続する意味

オンラインショッピングには多くのメリットがあるが、実際の小売店での体験は多くの人にとって必須である。企業はこのことに気づいており、両方を組み合わせたアプローチを採用している。実店舗は、顧客が商品と触れ合うことができ、希望すればインターネットで購入できる相互作用空間へと生まれ変わっている。


個人的な見解

最近、インターネットショッピングをした後の、とても興奮した瞬間を覚えている。私は、計画している旅行のために最適なサングラスを探していた。店舗へ行っていくつもの商品を試してみる代わりに、AR試着機能のあるオンラインプラットフォームを選択した。スマートフォンのカメラを使用すると、さまざまなサングラスを「かける」ことができ、それぞれのサングラスが自分の顔の形や特徴にどのようにフィットするのか確認できた。私にぴったり似合うサングラスを見つけ、レビューをチェックし、数分で購入することができた。

印象的だったのは、買い物プロセスの利便性だけではない。インターネットは、従来のショッピングのようなパーソナルでリアルな体験を再現し、場合によっては改善できるということに気づいたのだ。私は、ただ商品を購入したのではない。物理的に触れることなくその商品と結びつき、想像し、すべてを感じることができたのだ。

この体験によって、消費者と企業にとってのより広範な影響について考えさせられた。オンラインショッピングへの移行は、単なるパンデミックの解決策ではなく、よりパーソナライズされ、統合された、没入感のある小売の未来を見る機会なのだ。

小売モデルの成功は、以下に挙げるいくつかの要因にかかっている。


・パーソナライズツールとテクノロジーを一般的なものにしてはいけない。

私のサングラス購入体験のように、個々の感触に感動し、個別に製品を見ることができたことが違いを生んだ。企業は、オンラインショッピング体験をできるだけカスタマイズされた、パーソナルなものにしなければならない。


・直感的なユーザー体験

どんなに技術的に進歩していても、使いやすいユーザーインターフェースであれば、買い物客は利用を継続する。AR、VR、AIツールがショッピングプラットフォームでシームレスに統合され、技術スキルのない人でも確実に体験を利用できるようにしなければならない。


・人的要因

デジタル時代に生きているものの、人間味は不可欠なままだ。AIを活用したバーチャルアシスタントとの会話でも、ライブストリーミングでのチャットでも、顧客自身に、認められて理解されていると感じさせ、そのニーズに応えることができれば、ショッピング体験を向上させることができるのである。

これらの考えを分析すると、小売の未来が人間味とテクノロジーの調和によって定義されることは明らかである。未来の小売店舗は、デジタル時代の効率性と創造性を、物理的世界の温かさや個別性、触れることができる性質と、うまく組み合わせたものになるだろう。小売新時代は終焉を迎えており、すべての買い物はテクノロジー主導の、落ち着ける体験となることだろう。


※当記事は米国メディア「Entrepreneur」の9/21公開の記事を翻訳・補足したものです。