オンライン価格の下落が最も大きかったのは、コンピュータ、電子機器、家電製品などのカテゴリーだった。アナリストは、金利の高騰、在庫の余剰などが下落傾向に繋がったと分析している。
厳しいデフレだ。オンライン小売サイトへの1兆回のアクセスと1億以上のSKU(在庫保管単位)を分析した「Adobeデジタル物価指数」によると、オンライン価格が8ヶ月連続で低下しているという。
5月9日に発表された4月のオンライン価格指数は、前年比1.8%減、前月比0.7%減となった。
Adobeが追跡した18品目のうち11品目が前年比で減少しており、調査期間中の価格下落率が15.4%のコンピュータを筆頭に、電子機器 (11.6%)、家電 (7.1%)、スポーツ用品 (6.4%)、玩具 (5.9%)、ホーム/ガーデン用品 (5.6%)と続く。
家電価格の前年比7.1%の下落は、Adobeが2014年にオンライン価格の追跡調査を開始して以来、同カテゴリーの最大の下落幅であると同社は指摘している。
オレゴン州ベンドにあるアドバイザリーサービス企業Enderle Groupの社長兼主席アナリストであるRob Enderle氏によると、家電製品の価格下落にはさまざまな要因が重なっているとのこと。
「需要の減少、また、不況を見越しての家電マーケティングの縮小があった」とEnderle氏は語る。「その結果、売上が減少しているが、それは値下げによって相殺されている」。
需要の減退
「私たちは、典型的な閑散期を迎えている。つまり、これらの値下げの一部は周期的なものである可能性がある」とEnderle氏は付け加えた。
「しかし、高金利のために需要は低下している。また、これらのカテゴリーのほとんどは裁量的なものであり、広範な需要の減少や市場の低迷時にしばしば苦しむ高級品ではない」と同氏。「金利の上昇が信用買いを抑制し、需要に悪影響を及ぼしているようだ。今回の値下げは、需要の問題を軽減するためのものである」と説明した。
「需要が供給を上回ることは、インフレの主たる要因の1つである。もう1つは、供給者のコストの上昇である」と同氏は付け加える。
Enderle氏は、電子機器やコンピュータの価格が大幅に下落したのは、高金利とパンデミックに原因があるとみている。
「パンデミックの影響で、比較的新しい製品が市場を飽和させた。この市場は継続的な買い替えによって成り立っている」と同氏は話す。「しかしながら、このクラスの製品は通常クレジットで購入されることが多く、クレジットのコストが異常に高いため、需要が低迷している」。
また、スポーツ用品の価格下落によって、著しい一連の価格上昇は終わりを迎えていると、Adobeは指摘している。
ここ12ヶ月の価格下落に先立ち、スポーツ用品の価格は2020年1月から28ヶ月連続で高騰していた。コロナのパンデミックの期間、家にいる消費者が増え、フィットネス用品などの商品に投資したため、価格上昇は、2020年9月に前年比15.8%とピークを迎えた。
過剰な在庫
石油やコモディティなどの経済の要となる一次産品の価格動向も、オンライン価格の低迷に拍車をかけている。シカゴにある調査会社Morningstar Research Servicesの株式アナリストであるDavid Swartz氏は、「石油やその他のコモディティの価格、輸送コストを見ると、その多くは昨年の夏にピークを迎えている」と話す。
「石油以外にも、多くのコモディティの価格は下がっている。例えば、綿花の価格は、ここ8、9ヶ月で大きく下がっている」。「昨年前半は、出荷価格が大変高かったが、その後、劇的に下がっている。多くのものが輸入されているため、多くのカテゴリーに影響を及ぼしている」と説明。「2021年と2022年における出荷価格の高騰がインフレ率を押し上げた」と付け加えた。
Adobeが追跡している多くの製品カテゴリーで売上が減速しているとSwartz氏は指摘する。
「在庫を抱えすぎて身動きが取れなくなり、商品を値引きせざるを得なくなった企業も多く見受けられる」と述べている。
Swartz氏は、3月期の売上総利益が非常に低かった米国のスポーツブランドUnder Armourの例を引用した。「同社は多くの在庫を抱えていたため、多くの値引きをせざるを得なかった」と説明した。「それがデフレである。それによって価格が下がるのだ」。
「他の多くのカテゴリーでもそれをみてきた。特に好調なクリスマスシーズンではなかったため、多くの企業が過剰在庫を抱えたまま、2023年に突入した」と続けた。
「ここ6か月間、小売業者にとって多くのコストでインフレが鈍化しており、一部のカテゴリーでデフレが見られるという考えは、驚くべきことではない」と同氏は付け加えた。
値下げに抵抗する品目
Adobeの調査期間中、全ての製品カテゴリーで価格が下がったわけではない。中でも注目すべきは、食料品とパーソナルケア製品である。
食料品の価格は前年比9.3%増(前月比0.4%増)となったものの、昨年9月の前年比14.3%増をピークに、ここ7か月間鈍化している。
Adobeによると、消費者は食料品をオンラインで購入することが増えており、このカテゴリーは一般的に消費者物価指数と歩調を合わせて推移しているという。
コストと需要供給のミスマッチが、食料品セクターの価格高騰を引き起こしているとEnderle氏は主張する。
「このカテゴリーに対する需要が一定であるにもかかわらず、鳥インフルエンザ、洪水、地域的な干ばつにより供給が減少している」と同氏は述べた。「このように、安定した需要に対して供給が減少し、環境問題に起因する価格上昇を招いている」。
パーソナルケアの分野では、価格は前年比3%増となったが、前年比4.4%増の前月や、価格急騰した前年比6.1%増の2月からは減少している。
Adobeによると、同カテゴリーは長期的に持続的なインフレが続いており、2020年9月以降、前年比で価格が下落した月は1回しかないとのこと。それは2021年11月で、前年比0.9%減であった。
「パーソナルケア用品は、市場の状況にかかわらず安定した需要のある非裁量品と考えられている。それは今も変わらないようだ」とEnderle 氏は言う。
「たとえ価格が高くなったとしても、人々はパーソナルケア用品を定期的に購入するだろう」と同氏は付け加えた。「ある程度は変わるかもしれないが、ほとんどの場合、需要は非弾力的で、それほど大きく変わらない。他の多くのカテゴリーではそうはならない」。
「Adobeデジタル物価指数」について
米国労働統計局の消費者物価指数がオフラインの価格を対象とするのに対し、Adobeデジタル物価指数はオンライン価格を対象としている。
Adobe Analyticsによるデジタル物価指数は、電子機器、アパレル、家電、書籍、玩具、コンピュータ、食料品、家具/寝具、工具/ホームセンター、ホーム/ガーデン、ペット用品、ジュエリー、医療機器/医療用品、スポーツ用品、パーソナルケア用品、花/関連ギフト、非処方薬、オフィス用品の18種類の商品カテゴリーをカバーしている。
※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の5/10の記事を翻訳・補足したものです。