「LTV」とは? 今さら聞けないコマース基本用語

 

近年、既存顧客との良好で長期的な関係構築が重要視され、その顧客との関係値を表す「LTV」と言うキーワードが注目を集めている。そこで、今回はコマース基本用語解説として、LTVの計算方法やECサイト運営においてLTVが果たす役割、実際の企業事例とともにLTVを向上させるポイントについて解説する。

 

 

LTVとは

 

LTVはLife Time Valueの略で「顧客生涯価値」と呼ばれ、1人の顧客が生涯にわたって企業やブランドにもたらす利益を意味する。LTVが高いということは顧客の満足度が高く、「リピーター」や「ファン」と呼べる顧客が多くいることを示す指標ともいえる。

昨今の市場では商品やサービスの数が飽和状態となっており、特にECにおける売り上げの安定化を図るためにLTVが重要視されている。株式会社東通メディアがEC・通販会社のマーケティング担当を対象に行った意識調査で、約8割が「新型コロナウイルス感染拡大により新規顧客獲得が難しくなった」と感じていたことからも、以前から新規開拓のハードルが上がっていることが伺える。そのため、新規顧客獲得よりも低コストで実現する既存顧客の維持は、安定的なECサイト運営に欠かせないものとなっているのだ。

 

 

LTVはなぜ注目されているのか

 

LTVが注目される背景として、広告メディアや顧客チャネルの多様化に伴い、One to Oneマーケティングへの関心が高まった点、そしてサブスクリプションの普及が挙げられる。

 

One to Oneマーケティングへの関心

One to Oneマーケティングとは、顧客1人1人のニーズに合わせた最適なコミュニケーションによって商品やサービスの提案を行うマーケティング活動である。これまでは、テレビや新聞など大規模な広告媒体を通じて同一のアプローチを行うマス・マーケティングが主流であった。しかし、インターネット社会の発達に伴い消費者ごとの購買行動を観察できるようになり、個人個人の生活スタイルに合わせた広告活動が可能になっている。

One to Oneマーケティングは、多様化する消費者ニーズに応え顧客ロイヤルティを高める目的で用いられることが多く、LTVはその指標の一つとして重要視されている。

 

サブスクリプションの普及

加えて、サブスクリプション型のサービスの普及もLTVが注目を集める背景のひとつだろう。近年様々な業界で拡大を見せているサブスクリプションサービスでは、顧客の継続利用が事業に不可欠であり、既存顧客を維持するためのサービス展開が重要となる。

 

サードパーティCookieの規制

プライバシー保護の観点から規制・廃止の動きがみられるサードパーティCookieは、Chromeが2024年7月に廃止を撤回したものの、SafariやEdgeなど他のブラウザでは依然として規制されている状態だ。そのため、Web広告などに影響のあるサードパーティCookieの規制については今後も引き続き考慮していく必要があり、既存顧客との長期的な関係構築で収益を伸ばすLTVがより重要になっていくと考えられる。

 

 

LTVの計算方法

 

LTVの計算方法は、その取扱い方によっていくつかの方法が存在している。ここでは3種類の計算方法を紹介していく。

 

最も一般的な、頻度・期間をベースとした計算方法

これは、最も一般的な計算方法である、購入頻度と継続期間をベースとした計算方法だ。

LTV=平均購入単価×収益率×購入頻度×継続期間

例えば、

購入単価:5,000円
収益率:50%
購入頻度:月に1回(1年で12回)
継続期間:3年

だった場合、LTVは、【5,000×0.5×12×3=90,000円】となる。

 

頻度・期間をベースとしたものからコストを引く計算方法

こちらは、コストを考慮し、1つ目の基本の形から新規顧客獲得に必要な広告費や既存顧客を維持するための設備投資費などを差し引いて求める計算式である。

LTV=平均購入単価×収益率×購入頻度×継続期間-(新規顧客獲得コスト+顧客維持コスト)

顧客が生み出す価値だけにスコープをあてるのではなく、コストを引くことで本質的な価値を算出するという意図となる。費用対効果などを分析する際に役立つだろう。

 

サブスクリプションモデルで活用される解約率を用いた計算方法

こちらは、サブスクリプション型ビジネスモデルで用いられることの多い計算式である。

LTV=ユーザー平均単価(売上÷ユーザー数)×粗利率÷解約率

継続取引が前提であるサブスクリプションでは、解約率がLTVの変動に大きな影響を与えている。LTVを高く保つためには、ユーザーの離脱を防ぐことが重要なポイントとなるだろう。

 

1つ目の計算式は、ECサイトの形態を問わず広く活用できるが、顧客がどのように自社のECサイトを利用しているか大まかに捉えるにとどまるだろう。そのため、まずは現状の利用傾向を大まかに把握したい場合に利用するのが望ましい。2つ目の計算式は、顧客1人当たりの購買行動に焦点を置くとともに、ECサイト全体としての長期的な収益と費用を分析することも可能なので、広告等で積極的に集客を行っているECサイトに適した計算式であると言える。3つ目は、解約率が式に含まれているため、定期購入やリピートを前提としたECサイトのLTV分析に効果的である。

 

 

LTVの主な指標

 

LTVを計算するにあたって重要な関連指標をいくつか紹介する。

 

ARPA、ARPU

ARPA(Average Revenue Per Account)は1アカウントあたりの平均売上額を、ARPU(Average Revenue Per User)は1ユーザーあたりの平均売上額を示す指標で、どちらもLTVの平均購入単価の算出に必要なものだ。

ARPA=売上÷アカウント数
ARPU=売上÷ユーザー数

ARPAはサブスクリプションやスマートフォンのように、契約者一人あたりの売上を用いる方が適切な場合に使用する。どちらを採用するかは扱っている商品やサービスによって変わってくる。

 

CAC

CAC(Customer Acquisition Cost)は、1人の顧客を獲得するために必要なコストを示す指標で、直訳すると「顧客獲得単価」となる。

CAC=顧客獲得に要したコスト÷新規顧客の獲得数

新規顧客の獲得コストと既存顧客の維持にかかるコストを正しく把握するために欠かせないもので、顧客獲得に要したコストには、営業やマーケティング、広告などトータルのコストを含める必要がある。

 

MQL、SQL

MQL(Marketing Qualified Lead)はマーケティング活動で獲得したリードのうち有望な見込み顧客のことを、SQL(Sales Qualified Lead)はリードの中でも営業部門が対応すべき有望な見込み顧客のことを指す。どちらも商品やサービスへの関心が高い層でリードナーチャリングの効果が見込めるため、適切なアプローチにより将来的なLTV向上が期待できるようになる。

 

チャーンレート

チャーンレート(Churn Rate)とは解約率のことで、サブスクリプション型のサービスや定期購入などで重視される指標だ。ユーザー数ベースのカスタマーチャーンレート、アカウント数ベースのアカウントチャーンレート、収益ベースのレベニューチャーンレートなどいくつかの種類がある。チャーンレートは月次と年次で数値が大きく変わってくるため、自社の実情を踏まえて適切に算出する必要がある。

 

ユニットエコノミクス

ユニットエコノミクスは、顧客一人あたりの採算性を示す指標だ。こちらもサブスクリプション型のサービスなどで使用されることが多く、コストと収益のバランスの可視化に役立つ。

ユニットエコノミクス=LTV÷CAC

一般的にはユニットエコノミクスは3~5が適正とされ、数値が低い場合は収益性が悪化しているためCACを下げてLTVを高める施策に取り組む必要がある、と判断できる。

 

 

ECでのLTV分析のメリット

 

LTVを分析することは、ECサイト運営においてどのような役割を果たすのか、2つのポイントを考えていく。

 

顧客の可視化

まず1つ目は、顧客の可視化である。顧客の顔を直接見ることが出来ないECサイトでは、購入履歴をはじめとするデータから顧客のニーズを分析して捉えることが非常に重要である。その際にLTVを用いると、購入頻度、購入単価、取引期間など複数の視点から顧客の消費傾向を捉えるとともに、リピーターのような優良顧客がどれほど存在しているかも把握することができる。このようにサイトの利用状況を細かく分析しておくことで、今後のサービス提供の方向性や他社との差別化を検討する際に役立てることができるだろう。

 

長期的な費用対効果の分析

2つ目は、広告の長期的な費用対効果を分析できる点である。消費者がオンライン上で情報を探す手段が多様化する今、広告の効果を最大限発揮するには正確なタイミング、規模、ターゲットを見極める必要がある。広告費は新規顧客獲得のコストとして捉えがちだが、LTVによって既存顧客がもたらす利益も把握することで、長期的にみて広告投資を回収できるか分析することを可能にすることが出来る。

 

 

ECサイトでのLTV向上施策

 

次にECサイト運営においてLTVを向上させる施策を考えていく。

先述した計算式の要素からもわかるように、LTVには顧客単価、購入頻度、取引の継続期間が大きな影響を与えている。LTV向上にはこれら各要素を高める具体的な施策が必要である。

 

客単価を上げる

客単価を上げるアプローチとしては、クロスセル、アップセルが主に挙げられる。

クロスセルでは、関連商品のおすすめやまとめ買い割引、「5,000円以上で送料無料」のような送料施策を導入することで、1回で購入する商品の数を増やしてもらえるようなアプローチを行い、客単価向上を狙うことができる。一方アップセルでは、購入を検討している商品よりも、品質の良い高価格な上位交換品を提案することで客単価向上を狙うことができる。ECサイトでは、「関連商品」「この商品を見ている方におすすめ」「ほかのお客様はこのような商品を買っています」というような形で、商品ページ上でアプローチすることが一般的だろう。

ただ、いずれの施策も既に使い古されているものも多く、新鮮味にかけるのも事実。そして、どちらの施策でも、やりすぎると、もともとの価格に対する割高感やむやみに高価格商品をおすすめしてくる不信感を抱かれる場合があり、適切なタイミングと説明文で自然にアプローチすることが重要となる。いずれにせよ、客単価の向上は、言うほど簡単なものではないのだ。

 

<参考>

「客単価」とは? 今さら聞けないコマース基本用語

 

購買頻度を上げる

購入頻度を上げるためには、リターゲティング広告やメルマガ配信など、継続的に顧客接点を持つ施策が効果的である。ここでも、情報提供のタイミングがポイントとなる。閲覧履歴のある商品のセール情報、購入履歴から関連商品をおすすめするなど、顧客情報をもとにパーソナライズされた情報を提供することはもちろんだが、季節商品やセールのタイミングを見測るなど、顧客に鬱陶しいと思われないコミュニケーションの取り方が定期的な購買を促すことにつながる。また、ECサイトにおいては「再入荷通知登録」ができることも購買頻度向上につながるだろう。特にファッションやインテリア系の商品は、ほかに代わりがきかず、どうしてもこのデザインがいいという場合も多くある。その際に再入荷通知登録を行うことで、入荷したタイミングですぐに購入してもらえるとともにサイトへの再訪にも繋げることができる。

 

解約(離脱)を防ぐ

顧客との取引期間を長く継続するためには、離脱しないような仕組み作りが重要だ。具体的には、顧客のランク制度やチャットボットの導入が効果的だろう。購入頻度や購入金額に応じて顧客をランク分けし階級ごとに特典を提供することで、継続して取引を行う誘因を作り出すことができる。加えて、何度も利用したことによる愛着や特典付与のような特別感の演出は、顧客ロイヤルティを高めることにもつながるだろう。

また、チャットボットを導入するECサイトも多くある。顧客の回答に応じた細かなシナリオをもとに1対1のコミュニケーションを図り、適切な情報提供によるサービスの利便性を高め、ひいては顧客の満足度を向上することにつながる。

 

 

LTV向上事例

 

LTVを向上させるための施策について触れてきたが、実際に企業はどのようにしてLTV向上に取り組んでいるのだろうか。ここでは事例をいくつか紹介していく。

 

キリンビール「KIRIN Home Tap」

ビール販売の大手であるキリンビールは、「KIRIN Home Tap」という会員制生ビールサービスを提供している。自宅用のビールサーバーを借りて毎月2回ビールが届くシステムで、ビールのサブスクのような感覚で月額8,610円から利用できるサービスだ。

従来のビール販売は、スーパーやコンビニなどの小売店を通じて消費者に1缶1缶手に取ってもらっていた。そこで、メーカーから直接サーバーが支給されるという新たなサービスを提供することで、もともとキリンビールに愛着を持っていた消費者を惹きつけるだけでなく、「毎日気軽にビールを飲みたい」「家で本格的なビールが飲みたい」というニーズを持つ新規顧客の獲得にもつながっている。現にユーザーの満足度も高く、会員アンケートによると満足度は99.1%とのことだ。

また、サブスクリプション型にすることで、あらかじめ顧客との長期的な取引を見込むことができる点でも、キリンブランドのLTV向上を図る効果的な施策であったと言える。

 

<参考>
サブスク事業を成功へと導く「LTV」が分かる厳選記事7本(日経クロストレンド)

 

 

KOSE「Maison KOSE」

2019年11月、化粧品メーカーであるKOSEが自社内の多岐にわたるブランドを集約したオンラインサイト「Maison KOSE(メゾンコーセー)」の運営を開始した。ブランド、商品カテゴリー、肌悩みなど、顧客それぞれのニーズに合った探し方でKOSEの商品を選ぶことができるようになっている。

 

また、気になるアイテムをバーチャルで試すことができる「メイクアップシミュレーター」と、オンライン上で店舗スタッフの接客を体感できる「STAFF START(スタッフスタート)」を導入したことも大きな特徴である。「似合うかどうか不安」「効果的な使い方を知りたい」というような化粧品特有の顧客の声を生かし、実店舗とギャップを少なく、顧客一人ひとりに合った情報を選び取ることができる購買体験を提供している。

従来ブランドごとに独立して行っていた顧客とのコミュニケーションやマーケティングを、KOSEという美のプラットフォームを通じて包括的に行うとともに、パーソナライズされた情報で一人ひとりに寄り添うサービスを提供することで、LTV・会員数・流入数・回遊率の向上を達成している。 

 

<参考>
KOSÉのブランドを集約した「Maison KOSÉ」。チャネルを問わないデジタルを活用でLTV・会員数・流入数・回遊率が向上。(ecbeing)

 

 

ケトスリム

DtoCでバターコーヒーを展開するケトスリムでは、キャッチーなイラストを活用したアップセルとチャットボットを活用した解約防止施策で、LTV向上を図っている。

アップセルを意識し、購入の直前にまとめ買いの割引効果を女の子のイラストと既存顧客の声でわかりやすく訴求。顧客に親近感と品質への信頼性や期待を抱かせることで、追加購入の促進に成功し、アップセルの割合は約10%に上っている。

解約を抑止するためのチャットボットでは、解約を検討している顧客に対して様々な分岐点を用意し、解約したい理由に合わせて本質的な解決がなされるよう展開が工夫されている。パーソナライズ化された会話を行えるよう改善を積み重ねたことで、解約抑止率を24.8%上げることに成功した。

このように、顧客の購入単価を上げ、長期的に自社商品を利用してもらえるよう働きかけた結果、ケトスリムのLTV利益率は5.56%改善見込みとなった。

 

<参考>
D2CブランドのLTVを上げる2つのアプローチとは(ecforce blog)

 

 

株式会社キーリー

薬用デオドラントクリームなどを販売する株式会社キーリーでは、コールセンターの内製化によってLTV向上を図っている。同社では顧客ファーストを念頭に置いてサービス展開をしており、その施策のひとつがコールセンターの内製化である。社員が顧客と直接コミュニケーションが取れる場を設けることで、顧客の悩みに応じて臨機応変に商品の魅力を伝えるとともに、顧客の声を直接吸い上げて商品開発とサービス向上に活かすことを実現している。実際に「悩みが深くてどん底の状態にいたが、あなたのアドバイスに救われた」といったような感謝の声が届くようになったり、解約時の真摯な対応が印象に残り、一度解約した顧客が利用を再開したりと、顧客との関係性をより強固なものへと成長させている。

このように、コールセンターを通じた顧客に寄り添った対応が満足度の向上につながっているのだ。

 

<参考>
「キーリー」が考えるリピート通販のLTV向上に大切なコールセンター内製化の狙いとメリット

 

 

LTV向上に役立つツール

 

LTVを効果的に向上させるため、市場には様々なサービスや専門の分析ツールが存在している。マーケティングの戦略立案に特化したものから、アップセルやメール配信など特定の機能に特化したものまでその種類は多岐にわたるが、ここでは、先ほど説明したLTV向上の3つのポイントである「客単価を上げる」「購買頻度を上げる」「解約(離脱)を防ぐ」に沿っていくつか紹介していく。

 

客単価を上げることを支援するサービス/ツール

顧客単価を上げるためのアップセル施策には、カスタマーサクセスのツールや、レコメンドツールなどがおすすめだ。

RightSupport by KARTE」は、問い合わせに至る前の顧客行動を可視化することができるカスタマーサクセスツール。課題のあるページを把握し、問い合わせ前の顧客行動に合わせてサポートウィジェットが最適なFAQやチャネルへと誘導する。LLM(大規模言語モデル)を活用した回答アシストやサポートシナリオの自動生成機能もあり、問い合わせ前からカスタマーサクセスの改善に取り組むことが可能だ。

レコメンドツールの「さぶみっと!レコメンド」は、閲覧履歴やカート内に入っている商品から、テキストや画像、ランキングによっておすすめ商品を提示することができる。レコメンド形式のほとんどを網羅しており、メールでのレコメンド機能も備えているため、サイトへの再訪を促して購入頻度をあげるために効果的なツールだろう。

 

購買頻度を上げることを支援するサービス/ツール

購入頻度を上げるための代表的なツールとして、メール配信ツールが挙げられる。

LTV-Lab」はECに特化したCRMツールで、LTV向上に役立つ様々な分析機能と、購買情報に応じた複雑なシナリオ分岐を含むステップメール配信機能を備えている。また、メルマガ配信に特化した「配配メール」は、ECサイトに関わらず様々な業界で取り入れられているサービスである。

メールマーケティングについては、EC大手のAmazonも「Amazon Tailored Audiences」という独自サービスを2023年8月に開始している。これは2022年9月に発表された「Amazon Customer Engagement’s Tailored Audiences」という取り組みから始まったもので、米Amazonを皮切りに、世界各国で順次提供が開始されている。ロイヤルカスタマーに対してマーケティングメールを送ることができ、リピーター(過去12か月)、最近の利用顧客、高額消費者を分類することが可能になるほか、メールの開封率、クリックスルー率、配信されたメール、オプアウト率、売り上げ、コンバーションなどのデータも確認可能だ。2024年9月には機能が強化され、顧客を興味別にセグメント化し、クロスセルと新規顧客獲得をサポートすることが発表されている。

 

解約(離脱)を防ぐことを支援するサービス/ツール

解約・離脱を防ぐツールの選定に関しては、様々な観点が挙げられる。

例えばカスタマーサクセスプラットフォームの「Gainsight」は、解約の可能性が高い顧客をスコア別に表示し、改善施策に役立てることが可能だ。同サービスはカスタマージャーニーの全てのフェーズにおいて顧客一人ひとりのライフスタイルに合ったサービス提供を支援する機能を強みとしており、転職大手のビズリーチなども導入している。

また、LTV向上支援ツールの「Robee」はコンバーションの質(CVQ)に着目しており、解約時のユーザーを分析して解約理由を明確にできる機能などを搭載している。動画配信サービス「バンダイチャンネル」ではRobeeの解約防止チャットボットを導入し、解約の決め手となった理由をアンケート形式で収集することで、サービスの見直しに役立てたという。

 

このように、LTV向上といっても、客単価・購入頻度・解約率やツールの特性によってアプローチ方法は様々であり、自社に合った分析方法を選ぶことが重要である。

また、ここでは紹介できなかったECサイトのマーケティング効果を分析するツールやLTVと関連の深いCRMに関するサービスについては、以下の記事で詳しく紹介している。

 

<参考>

【2024年最新版】デジマ全盛時代にECサイトで活用すべきマーケティング効果分析・ダッシュボード系サービス全23とその選び方

【2024年最新版】eコマースのCXを根底から変える全31のチャットボットサービスとその選び方

EC業界カオスマップ2024 - CRMサービス編

 

 

LTV向上のための飽くなき戦い

 

近年注目を集めるLTVは、ニーズやメディアが多様化する現代において、顧客を自社サービスに長く留めておくために重要な指標である。ECサイトの運営では、客単価・購入頻度・解約率の3つのポイントを押さえ、関連商品のおすすめやリターゲティング広告、チャットボットの導入など様々な施策を行うことでLTVを向上できるようになる。しかしながら、その根幹にあるのは顧客とのコミュニケーションではないだろうか。たとえ顔が見えなくても、顧客一人ひとりの声を拾い上げ、パーソナライズ化された情報提供を行えるサービスが顧客の心を掴み、ブランドを支えるファンやリピーターの獲得につながるのである。

今後もLTVに似た指標や、ここで紹介した以外の切り口のツールやサービスが登場することもあるだろう。最近ではビッグデータやAIなど新たなテクノロジーの活用が進み、カスタマイズされた体験をリアルタイムで提供するハイパー・パーソナライゼーションも可能になりつつある。しかしECサイトにおいて、顧客との全ての接点を大切にして変化に着目することがLTV向上施策の基本となるのは、今後も変わらないだろう。