eコマースブームの影響で、多くの大手ブランドが、卸売業者を完全に回避し、消費者への直接販売(D2C / DTC / Direct-to-consumer)モデルに移行している。これは、「サプライヤー・ディインターミディエーション(仲介業者の排除)」と呼ばれるプロセスだ。

 

中間業者を排除することで、ブランドはより高いマージンを手に入れ、消費者とそのデータに直接アクセスできるようになる。こうした理由から、Nikeなどの大手ブランドは積極的にD2Cに移行しており、他の大手小売企業もこれに追随している。

 

しかし、多くの企業は3つの重要事項を検討し忘れている。これらの重要ファクターに前もって対処しておかないと、サプライチェーンやB2Bの統合の問題、そして収益の流出につながる可能性がある。

 

実際、88%の企業が、昨年に失注があったと認めており、半数以上が、2020年に前年よりも多くの失注があったと回答している。さらに、4分の1の企業は、どれだけの注文を失っているか把握できていないことを認識している。

 

卸売販売モデルからD2Cへの移行を決断する前に、ビジネスリーダーが取り組むべき3つの重要事項は以下の通りだ。

 

1. D2Cをサポートするための適切な技術インフラは整っているか。

最新のアプリと、全く異なるレガシーテクノロジー(時代遅れの技術)との間の技術統合が不十分なために、小売業者は想像以上に多くの注文を失っている。失注は確かに収益に影響を与えるが、それは氷山の一角に過ぎない。

 

注文を失うと、商品在庫が倉庫や小売店の棚に残ることになり、コストがかさむ可能性がある。さらに、商品が生鮮品である場合、注文を失うことは商品の販売期限切れにつながり、利益に直接影響する可能性がある。

 

また、このような失注は、顧客や取引先などのエコシステム内企業に対し、より大きな問題を引き起こしうる。彼らとの関係に影響が及ぶと、修復は困難なものになるだろう。

 

最新の統合ソフトウェアは、商品の追跡、エラーの解決や先を見越したステータス更新に必要となる可視性を提供するため、失注をなくすことに有効である。また、顧客対応チームは、問題発生時には、データにアクセスして、顧客や取引先と迅速にコミュニケーションを取ることができるようになる。

 

さらに、企業がD2Cへの移行やオムニチャネルフルフィルメントを実現するためには、アプリケーションプログラミングインターフェース(API)が必要となる。APIを利用することで、より迅速にデジタルトランスフォーメーションを推進することができ、注文から入金、調達から支払い、あるいは貨物輸送手配からインボイス作成といった、極めて重要なビジネスプロセスを構成する統合を、エンド・ツー・エンドで可視化することができる。

 

より良い結果を出し、収益を生み出すには、ビジネスプロセスをこのように幅広く可視化し、コントロールすることが重要だ。eコマースは、単なるフロントエンドのプロセスではない。ビジネス内のすべてのバックエンドのプロセス、さらには、より広範に広がるエコシステムに機能する徹底したソリューションでなければならない。

 

2. 消費者の顧客体験(CX)にマイナスの影響を与えるのか、プラスの影響を与えるのか。

eBayやAmazonなどのデジタルファーストのD2Cマーケットプレイスに対して競争力を維持するには、すべての小売企業とそのリーダーは、デジタルトランスフォーメーションを最優先事項とする必要がある。

 

ブランドが、今日のデジタル市場に後れを取らないためには、流通モデルに競争力を与えると同時に、消費者の体験を向上させる、市場機会拡大のための戦略的なエコシステム主導の統合アプローチを展開しなければならない。

 

最新のハイブリッドクラウド(パブリッククラウドとプライベートクラウドなどの組み合わせ)とオンプレミス(自社で情報システムを保有し運用すること)の統合により、ビジネスのアジリティ(機敏性)は向上しており、小売企業は、D2Cモデルに移行しても、コントロールを失うことなく複雑さを最小限に抑えることができる。これにより、市場へのリーチを拡大し、より効率的で一貫性のあるeコマースやデジタルマーケットプレイスのチャネルを実現することができる。

 

D2C小売業者は、B2Bアプリ間の統合が成功すれば、卸売業者に頼ることなくパーソナライズされた柔軟なCXをオンラインで提供することができる。そうなれば、ブランドはショッピング体験や顧客サービスのレベルをよりコントロールできるようになる。

 

成功は、いかに企業が顧客体験をうまく管理し、顧客の期待に応えるかにかかっているといえる。

 

3. D2Cに対応するためのリソースが物流チームにあるか。ない場合、D2Cモデルを効率的に機能させるために、どのような調整を加えるべきか。

D2Cでは、製造に加えて販売と出荷のすべてを社内チームで対応する必要があり、少人数の従業員しかいないチームには非常に大きな負担となりうる。そのため、D2Cモデルへの移行に必要な労働力を満たすリソースを確保しておくことが重要だ。D2Cアプローチを大規模に導入する場合は、自社のビジネスモデル全体を変更する必要があるかもしれない。

 

テクノロジーを活用して特定のタスクを自動化することで、従業員はより複雑なプロジェクトに時間を割くことができるようになる。仕事に適したツールを備えた十分な労働力があれば、あらゆるタスクが容易になる。同じように、適切な統合テクノロジーを用いれば、今現在、そして長期にわたって、最も強力なエコシステムを実現することができる。

 

eコマースの統合を実行するのであれば、データの正確性を、決して運任せにしてはならない。一方、手動でのデータ入力では、常にヒューマンエラーが発生する可能性がある。在庫の同期、リアルタイムでの追跡のアップデートや価格設定など、すべてのデータ交換を迅速化し、これまで以上に正確に行う必要がある。

 

D2Cへの移行を決断する前に、顧客の要求に応え、そして、従業員がより膨大な新しい仕事量に押しつぶされることがないように、ビジネスモデル全体に必要なすべての変更について考えることが重要だ。eコマース統合プラットフォームを利用すれば、企業は追加のリソースを必要とすることなく、需要の増加に対応することができる。

 

テクノロジーを活用してD2Cの強固な基盤を築く

Nikeのようなグローバルブランドで見られるように、D2Cモデルを採用する小売業や消費財企業が増加し、卸売販売モデルと直接対抗している。

 

D2Cに切り替えることで、経済的な節約が実現できる可能性が高いが、自社の技術インフラ、顧客の需要、D2Cでの注文に対応する処理能力などの要素を考慮せずに実行すると、大きな問題が発生する可能性がある。

 

ブランドは、D2Cモデルに向けた次のステップに進む前に、B2Bの統合がシームレスに機能していることを確認する必要がある。

 

※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の6/29公開の記事を翻訳・補足したものです。