ECサイト・ネットショップ運営に関わる法規制とその要点と対策
オンラインで商品を売買する取引形態である、eコマース(ECサイト・ネットショップ)が生活に浸透してきている中で、その事業形態やサービス内容も多岐に亘ってきている。そのような状況に応じて、オンラインで商品を販売する事業者にかかる法規制の種類や内容も複雑化してきている。そこで、今回は、eコマースと関わりの深い法令について、最新の改正を踏まえた規制内容、業態に応じて必要となる許可や資格、典型的なトラブルにおける法令の適用を紹介し、法令に違反しないために事業者が注意すべき事項を解説していく。
主に特定商取引法・景品表示法で重要な注意事項をまとめた資料はこちらからダウンロードできます。ご利用に際してデータ出典元を明記頂いた上で、ご自由にお使いください。
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ECサイト事業者にとって法規制とはどのような意味を持つものか
事業者において、常に最新の法令を確認し、それを遵守して取引を行うことは、容易ではないかもしれない。しかし、様々な商取引に対する政府の法規制は、事業者と消費者の間のトラブルが増加している現状を踏まえ、それらを予防し、両者が安全に取引できるようにすることを目的としている。また、食品などの商品は、オンラインで販売する場合も資格や許可が必要となるが、このような制度は、食中毒などの形で消費者に被害が発生することを防ぐために設けられているのであって、事業者が消費者の信頼を得るための重要な方法である。そのため、ECサイト事業者が法令を遵守することは、行政機関から処分などを受けるリスクを減らすだけでなく、消費者とのトラブルを防止し、ユーザーが安心して商品を購入できるようにすることにもつながる。
全ての事業者に関わる重要な法規制
ECサイト事業者が適用を受ける可能性のある法律には、ビジネスモデルや提供する商品、サービスの種類に応じ、多種多様なものがある。ここでは、ほぼ全てのECサイト事業者が規制の対象となる重要な法律を取り上げ、どのような内容の規律が存在するか概観しておきたい。なお、以下に紹介する法律の中には近年改正されたものがあるため、従来からの規制内容に加え、改正により追加された規制内容を詳しく紹介する。政府による法改正は、サブスクリプションやステルルマーケティングなど、近年トラブルが増加している行為を念頭に置いてなされている。トラブルの事例や法改正が、ニュースで話題になることもしばしばあるため、事業者としては注意したい内容だ。
特定商取引法(昭和五十一年法律第五十七号)
①法律の内容
訪問販売や電話勧誘による販売、連鎖販売など、トラブルの発生しやすい取引を規律する特定商取引法には、「通信販売」に対する規制がある。消費者庁の「特定商取引法ガイド」によれば、「通信販売」には、「販売又は役務の提供を業として営む者」が、ホームページ上の広告や、ダイレクトメール等を見た消費者が、インターネットで購入の申込みを行うことで成立する取引により、商品の販売やサービスの提供を行うことが含まれる。そのため、ほぼ全てのEC事業者がこの法律の規制対象になる。
そして、特定商取引法は、「通信販売」を行う場合の、
・広告に記載しなければならない事項(送料を含む価格、支払いの時期と方法、商品の引渡し時期、申込みの期間や返品特約がある場合はその旨、事業者の住所氏名など)
・広告への、著しく事実と反する記載、または実際より著しく優良と誤認させる記載の禁止
・事前の承諾なく、電子メールで広告を送信することの禁止
・返品に関する特約がない場合に、消費者が、引渡しから8日以内に返品する権利
・最終確認画面に表示すべき事項
などを定めており、立入検査の制度や違反した場合の罰則も存在する。
これらの規制のうち、広告と最終確認画面に表示しなければならない事項について、令和4年に改正法が施行されたため、以下で詳しく解説する。
②改正の趣旨
令和4年施行の特定商取引法の改正法は、サブスクリプションを含む定期購入契約におけるトラブルを防止するため、契約画面等に表示する事項についての規制と、規制に違反した場合の効果を定めた。
定期購入契約によるトラブルとしては、例えばサプリメントのような商品を、「おためし」などと称し、初回は無料または低価格で提供し、その後通常の価格での定期配送に自動的に移行するキャンペーンを行い、購入を促すようなケースがある。このようなケースでは、消費者が、より高額な契約に自動的に移行することを認識せずに契約してしまい、トラブルになることが考えられる。この際、契約の移行に関する条項が、非常に小さな字で表示されていたり、ページの端に表示されていたりする場合には、消費者がそれを認識することは困難であり、消費者に責任を負わせることは妥当ではない。
そこで、改正法では、契約時の確認画面や広告の記載事項に関するルール、違反した場合の消費者の取消権や罰則、処分などに関する規定を設けた。これにより、消費者の誤解を招かない表示を促しつつ、不適切な表示があった場合の消費者の救済と、悪質な事業者の排除が可能になっている。
③改正法の内容
ここでは、消費者庁の資料「特定商取引法の改正について」に沿って、改正により追加された規定の内容を紹介する。
まず、購入時の最終確認画面で、特定の事項(商品等の分量、対価、支払時期、引渡し時期、契約の解除に関する事項等)の表示が義務付けられた。そして、それらの事項や、最終確認画面の先に進むことが契約の申込みとなることについて、人を誤認させるような表示が禁止された。
次に、上記の規定に違反する表示により消費者が誤認して契約の申し込みを行った場合に、消費者に契約の取消権が発生することになった。また、上記の規定に違反して、表示すべき事項が記載されなかった場合、あるいは不実の表示がなされた場合、および人を誤認させるような表示があった場合、事業者が刑事罰、および業務停止等の行政処分の対象となった。
その他、広告にも、申込の期間と解除に関する事項を表示しなければならないこと、契約の解除を妨げるような不実の記載をしてはならないことも定められた。
④望ましい表示
ここでは、最終確認画面で表示しなければならない事項について、表示の方法を詳しく説明したい。消費者庁は、特定商取引法の改正にあわせ、どのような表示があれば適法で、そのような表示が違法となる可能性があるかを説明する「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」を定めており、行政処分もこれを基準として行われると思われる。そこで、ガイドラインの文言や例を引用しつつ、法に違反しないと考えられる表示の方法を紹介する。
分量:消費者が、提供される数量、回数、期間を認識しやすい形式で表示することが望ましい。(例)定期購入契約では各回の数量と引き渡しの回数、サブスクリプションでは利用可能な期間と回数を表示しなければならない。消費者が解約するまで引き渡しが続けられる無期限の契約や、自動更新の契約である場合、その旨を明確に表示することが必要となる。
価格:消費者が支払う総額を表示する必要がある。
(例)定期購入契約では、初回の価格と2回目以降の価格が異なる場合、初回の価格と対比して2回目以降の価格も明確に表示する。無償または割引価格での提供期間の後、自動的に有償又は通常価格での契約に移行する場合、移行時期と移行後に支払う金額を、あらかじめ明示する必要がある。
申込期間の定め:申込期間の定めがある旨と具体的な期間が認識できるように表示する必要がある。
(例)「今だけ」のような表示は、具体的な期間が認識できるとは言えない。
契約の申込みの撤回、解除に関する特約:条件、方法、効果を表示する必要がある。
(例)解約の申し出の期限や解約金がある場合、それらの旨と、期限と額を記載する必要がある。また、解約の手続き、時間帯、連絡手段を限定する場合、明確に表示しなければならない。連絡手段として電話番号を記載する場合は、確実につながる番号を記載する必要がある。
※特定商取引法に違反しない画面例で特に注意するべきもの。この図表もダウンロードデータに含まれます。
⑤望ましくない表示
改正法では、最終確認画面の先に進むことが契約の申込みとなることについて「人を誤認させるような表示」と、最終確認画面で表示しなければならない事項について「人を誤認させるような表示」が禁止されている。ここでも、前掲のガイドラインの文言や例を引用して、どのような表示がそれらに該当するかについて、詳しく説明する。ガイドラインには、違法な表示かどうかを判断する基準も示されており、参考になる内容になっている。
まず、最終確認画面の先に進むことが有償の契約の申込みになることが明確に認識できない場合、消費者を誤認させるおそれがあるため、禁止される表示に該当する。
(例)「無料プレゼント」のような文言を強調する画面は、有償の契約の申込みであることが明確に認識できないので、人を誤認させるような画面にあたる。ボタンをクリックすることで申込みとなる場合、「送信する」「次へ」などの表現が使われていると、契約の申込みであることが明確に認識できないため、人を誤認させるような画面に該当する。
次に、最終確認画面で表示すべき事項が表示されており、それが不実の内容ではないものの、それが意味するところを誤認させるような表示は、禁止される表示に該当する。なお、表示の意味を誤認させる表示にあたるかどうかの判断にあたっては、「表示の位置、形式、大きさ及び色調」や「他の表示と組み合わせて見た表示の内容全体から消費者が受ける印象・認識」を総合的に考慮するとしている。
(例)定期購入契約において、初回に提供される分量や販売価格を強調し、その後の販売条件を小さな文字で、離れた位置に表示することは、不実の記載でない場合でも、消費者は定期購入契約ではないと認識するおそれがあるため、禁止される表示に該当する。「お試し」や「トライアル」の文言を強調しているにもかかわらず、実際には定期購入契約となっている場合や解約の条件が設けられている場合も、同様である。
※特定商取引法に違反する可能性のある画面例で特に注意するべきもの。この図表もダウンロードデータに含まれます。
⑥特定商取引法の改正に関する考察
最後に、本件の法改正の背景を踏まえ、特にどのような事業者が今回の特定商取引法の改正に注意すべきであるか、考察したい。
国民生活センターの記事「改正特定商取引法−インターネット通信販売取引被害への対応−」は、詐欺的な定期購入契約によるトラブルの典型例として、健康食品や化粧品のサンプルを格安で提供する広告を見た消費者が定期購入契約を結んでしまうケースを挙げている。全国の消費生活センターへの相談件数は2016年には約14,000件だったところ、2020年には約60,000件に増加したとのことである。また、音楽や動画、あるいは洋服やバッグなどのサブスクリプションサービスも記事で取り上げられており、改正法による規制の対象となっている。そのため、サンプルの提供やサブスクリプションにより、生活用品や消耗品を少額で入手できることを売りにしているサービスは、消費者が気軽に利用できることもあり、特にトラブルが多くなっていると考えられる。そして、消費者や政府も、そのようなサービスでのトラブルについての関心を高めているため、食品や化粧品、ファッション品などを扱う事業者は特に注意が必要である。
電子消費者契約法(平成十三年法律第九十五号)
電子消費者契約法は、インターネット上で、消費者と事業者の間で契約が行われた場合の、契約の効力について定めている。この法律により、インターネット上の契約の際に、消費者の誤操作など、消費者の意思に反して契約が結ばれてしまった場合、原則として消費者は契約を取り消すことができる。しかし、事業者が申込みの意思を確認する画面を表示した場合、消費者は取り消すことができなくなる。そのため、契約を結ぶ際に表示する最終確認画面は、消費者の操作ミスによって契約が取り消されることを防ぐ機能もあり、トラブルを回避する上で重要な意味を持っている。
景品表示法(昭和三十七年法律第百三十四号)
①法律の内容
景品表示法には、事業者が自らの商品やサービスについて不当な表示(優良誤認表示、有利誤認表示)を行うことを禁止する規定がある。具体的には、
・商品やサービスの品質等について、実際のものより著しく優良と示す表示
・商品やサービスの品質等について、事実に反して、他の事業者より著しく優良と示す表示
・価格等の取引条件について、実際より著しく有利と誤認させる表示
・価格等の取引条件について、他の事業者より著しく有利と誤認させる表示
・その他、一般消費者に誤認されるおそれのある表示
が禁止されている。消費者庁のガイドブック「景品表示法とステルスマーケティング」によれば、「一般消費者に誤認されるおそれのある表示」には、おとり広告や、原産国や清涼飲料水に含まれる果汁の割合を誤認させる表示などが含まれる。なお、消費者庁の「表示規制の概要」によれば、これらの表示は故意に行った場合のほか、誤って行ってしまった場合でも規制の対象となり、是正措置命令や課徴金の制度が存在している。
上記の表示のうち、「一般消費者に誤認されるおそれがある表示」として、令和5年施行の告示によりステルスマーケティングが指定されたため、以下で解説する。
②告示の趣旨
景品表示法には、「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示(中略)と認めて内閣総理大臣が指定するもの」を禁止する規定が存在している。令和5年10月1日施行の告示「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」により、いわゆるステルスマーケティングがこれに該当するものとして指定された。この告示により、ステルスマーケティングを行った事業者は、是正等の措置命令や、それに従わない場合の刑事罰の対象となる。新たな規制を設けた理由について、前掲のガイドブックは、消費者は事業者による広告には一定の誇張や誇大が含まれていることを認識した上で商品を選択するが、ステルスマーケティングにより広告を事業者以外の第三者の感想と誤認すると、内容をそのまま受け取ってしまう可能性があり、消費者の合理的な選択を難しくするからだとしている。
③望ましくない表示
消費者庁は、上記の告示の施行にあわせ、「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」も公開している。それらは、ステルスマーケティングの定義や、事業者の行為がステルスマーケティングに該当するかを判断する基準を定めており、消費者庁が是正命令などの措置を行う場合、これらのルールに基づいて行われると思われる。そこで、以下、どのような表示がステルスマーケティングとして認定されるかについて、告示や判断基準を引用して解説したい。
消費者庁の告示は、対象となる表示を、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であるもの」と定義している。そして、運用基準は「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」と「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難である」表示の意味について、次のように説明している。
まず、事業者が自己の商品又はサービスについて行う表示は、外形上第三者の表示に見えるが、事業者が表示内容の決定に関与した、つまり第三者の自主的な意思によるものではない表示を意味する。
(例)
・事業者が第三者に依頼し、SNSや口コミサイト等で、事業者の商品やサービスについて投稿させる場合
・ECサイトに出品する事業者が、ブローカーや購入者等に依頼し、購入した商品のレビューを投稿させる場合
・事業者がアフィリエイターに依頼し、商品やサービスを紹介させる場合
・事業者が他の事業者に依頼して、プラットフォーム上の口コミ投稿により、競合事業者の商品やサービスについて低い評価を表示させる場合
・事業者において販売や開発を行う役員や従業員が、販売を促進するために投稿を行う場合
※この図表もダウンロード資料に含まれます。
次に、一般消費者が当該表示と判別することが困難な表示は、消費者にとって事業者の表示であることが明瞭でない、あるいは第三者の表示であると消費者に誤認させる表示を意味する。
(例)
・事業者が行う表示である旨の記載(「広告」「プロモーション」「P R」「宣伝」などの文言、あるいは「〇〇社からの提供を受けています」などの文章)が全くない場合
・アフィリエイトサイトに事業者の表示を掲載させる場合に、事業者による表示である旨を全く記載していない場合
・ページの末尾に表示する、視認しにくい色を使う、小さな文字で表示する、動画内で短時間しか表示しない、大量のハッシュタグに紛れ込ませるなどの方法により、事業者が行う表示である旨の記載を消費者が認識しいくい場合
※この図表もダウンロード資料に含まれます。
④本件告示に関する考察
最後に、今回の告示による新たな規制に対応するため、特にECサイト事業者がどのような取り組みを求められるか、考察したい。
最も注意が求められるのは、第三者に委託してマーケティングを行う場合であろう。例えば、アフィリエイターやインフルエンサーなどの第三者が広告を掲載するアフィリエイトサイトや、商品やサービスを紹介するSNSの投稿を作成した際は、広告や提供がある旨の表示が明確になされているか、確認しなければならない。さらに、ECモールや比較サイト上で評価や口コミを投稿することを第三者に依頼する場合も、委託がある旨を明確に表示させることが求められる。そして、もし「広告」や「提供」などの文言が入ると投稿内容が不自然になってしまう場合、マーケティング方法を見直すことが必要になる。例えば、個人名義のアカウントで口コミなどを投稿させる場合、事業者からの広告である旨の記載があると、投稿内容が明らかに不自然になってしまう可能性があるので、同様のマーケティングを続けることは難しい。
また、自社でマーケティングを行う場合も、SNSなどで従業員や関係者が個人で発信しているように見受けられる投稿を行う場合は、注意が必要である。そのような場合は、販促や営業を担当している従業員であることを明示するか、事業者の公式のアカウントであることを明示した方が、トラブルを防止することができ、安全である。
業態によって必要となる許可や資格
ここでは、特定の種類の商品を扱う場合に必要となる許可や資格について紹介する。なお、この項目で紹介する法令は、インターネット上の販売に限らず、対面での販売でも適用されるものもあるため、すでに資格や許可を取得して対面販売を行っている事業者がECサイト運営を始める場合、再度の取得が不要である場合もある。
食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)
食中毒などの防止を目的とする食品衛生法の規定により、平成30年以降、原則として、食品に関係する営業を行う全ての事業者は、都道府県の保健所への届出または保健所による許可の取得が義務付けられている。以下、東京都のパンフレット「食品関係営業許可申請の手引」と「食品関係営業届出の手引」を引用して、許可と届出の対象となる事業者の種類と、許可や届出の手続きについて、簡単に解説する。
まず、以下のような業種は、許可や届出が例外的に不要となっている。
・食品(添加物を含む、以下同じ)の輸入
・常温での食品の保管または運搬
・常温で保存できる包装食品(例:カップ麺、放送されたスナック菓子)の販売など
次に、以下のような業種は、許可の取得が必要となっている。
・食肉、魚介類の販売(包装品を販売する場合を除く)
・菓子、乳製品、清涼飲料水、食肉製品、水産製品、食用油脂、みそ、しょうゆ、豆腐、納豆、麺類、そうざい、冷凍食品の製造など
最後に、上記の「許可や届出が不要な業種」と「許可が必要な業種」以外の業種は、届出が必要となっている。東京都のパンフレットは、以下のような業種を例として挙げている。
・粉末食品の製造
・野菜、果物、弁当、包装された食肉と魚介類の販売など
そして、許可と届出を行う場合、ともに食品衛生責任者の資格が必要となる。この資格を取得するには、栄養士、調理師、製菓衛生師等の資格を保有している場合を除き、講習会を終了する必要がある。その他、許可の申請を新たに行う場合は、施設の図面の提出も求められる。
酒税法(昭和二十八年法律第六号)
酒税の税率や徴収方法などを定める酒税法は、アルコール分1度以上の飲料を「酒類」と定義し、酒類の製造や販売を行う事業者に対し、税務署による免許の取得を義務付けている。以下、国税庁の「通信販売酒類小売業免許申請の手引」を引用して、免許の種類と申請手続について簡単に解説する。
まず、ECサイト事業者が酒類の販売を行う場合、「通信販売酒類小売業免許」を取得することになると思われる。この免許を取得すると、通信販売(2都道府県以上の消費者を対象として、インターネット上で売買条件を提示し、契約の申込みを受ける販売を含む)により、酒類を小売りすることができるようになるからである。なお、酒類の製造や、店頭での小売を行う場合は、別の種類の免許(酒類製造免許、一般酒類小売業免許)を併せて取得する必要がある。
次に、免許の申請の際は、施設の図、納税証明書、財務諸表、販売する酒類についての説明書や証明書、販売時のインターネット用に表示するカタログ等の提出が求められる。これらは、税務署、あるいは国税電子申告・納税システム(e-Tax)で提出する。
医療品医療機器等法(旧薬事法・昭和三十五年法律第百四十五号)
医療品医療機器等法は、医薬品の販売方法に関する規制を設けており、平成26年から一般用医薬品(医師の処方により販売される医療用医薬品等を除く医薬品)のインターネットでの販売が可能となった。また、同法は、化粧品(石けん、シャンプー、化粧水、ファンデーション、香水、口紅、マニキュア、入浴料等が含まれる)の製造や販売のための資格についても規定している。
①医薬品のインターネット販売について
ここでは、一般用医薬品をインターネットで販売するための資格と、販売するための手続きについて、厚生労働省の「一般用医薬品のインターネット販売について」と東京都の「【薬局・薬店向け】一般用医薬品の特定販売(インターネット販売)について」を引用して、簡単に解説する。
まず、一般用医薬品のインターネット販売は、許可を受けた薬局または薬店のみが行うことができる。また、それらの薬局および薬店は、実際の店舗で販売している製品のみ販売することができる。つまり、一般用医薬品のECができるのは、実店舗を構え、インターネット販売を行う予定の医薬品をすでに販売しており、薬局または薬店の許可を受けている事業者に限られる。
次に、一般用医薬品のインターネット販売を行いたい薬局、または薬店は、都道府県の保健所へ事前に届け出なければならない。また、インターネット販売を始める際に、定められた事項(店舗の写真、店舗内の医薬品の陳列状況の写真、薬局または店舗販売業を受けた薬店の区分、勤務する薬剤師または登録販売者の氏名、医薬品の区分の解説、副作用被害救済制度の解説等)をホームページに掲載する必要がある。さらに、注文を受ける際には、年齢、性別、症状、副作用歴などを回答してもらい、薬剤師または登録販売者が用法、用量、注意点などの情報提供を行った上で、商品を発送しなければならない。
②化粧品の販売について
ここでは、化粧品の販売のための資格について、神奈川県の「化粧品の製造、輸入または製造販売等について」を引用しながら簡単に解説する。
まず、他の業者から製品を仕入れて、表示、包装を一切変更せず販売する場合は、許可は不要である。一方、製品の製造または輸入を行い他の製造業者に販売する場合は「化粧品製造業許可」が、製品を自社の製品として市場に出荷する場合は「化粧品製造販売業許可」が必要となる。自社で製造または輸入を行い、自社の製品として市場に出荷する場合は、双方の許可が必要となる。そして、化粧品製造業許可と化粧品製造販売業許可の取得には、薬剤師など一定の知識技能を有する者を責任者として配置することや、都道府県の立ち入り検査を受けることなどが求められる。
古物営業法(昭和二十四年法律第百八号)
古物営業法は、盗難品の流通を防止するため、古物に関わる一定の営業について、都道府県公安委員会の許可を必要としている。以下、警視庁の「古物商許可申請をされる方へ」と神奈川県警察本部の「古物営業許可申請手続き」を引用し、許可が必要な営業と、販売のために行わなければならないことを簡単に解説する。
まず、営業として売買を行う場合に許可が必要になる古物とは、美術品類、衣類、時計・宝飾品類、自動車、自動二輪車及び原動機付自転車、自転車類、写真機類、事務機器類、機械工具類、道具類、皮革・ゴム製品類、書籍、金券類と定義されている。次に、古物営業の許可を申請する際は、身分証明書の他、誓約書等の提出が求められる。そして、古物商がインターネットを利用して取引を行う場合、許可を受けた公安委員会名、許可証番号、個人であれば氏名、法人であれば名称を表示しなければならない。そのため、オークションサイトやフリマアプリにおいて、これらの事項を表示せずに売買を行うことは禁止されている。
具体的なトラブルにおける法の適用
これまで、ECサイト事業者に適用される様々な法令について紹介してきた。しかし、ECサイト・ネットショップ運営の場で起こりがちなトラブルを、法律に基づいてどのように解決、あるいは予防できるかについては、法律の内容を知るだけでは、把握しづらい場合がある。そこで、以下、典型的なトラブルにおいて、どのような法律が適用され、事業者がどのような予防策を講じるべきかについて解説したい。
返品について
商品に欠陥がないにも関わらず、「思っていたものと違った」などの理由で購入者が返品を求めた場合、事業者は商品の返品に応じる必要がないケースがある。消費者庁の「通信販売における返品特約の表示についてのガイドライン」によれば、特定商取引法の規定により、原則として、消費者は引渡しから8日間は契約を解除できることになっているため、期間内であれば、そのような請求は認められる。しかし、返品に関する特約があれば、この規定が適用されない。そのため、そのような返品を受け付けない旨の特約を設定し、画面に表示すれば、購入者の都合による返品を拒むことができる。そして、ガイドラインは、返品特約を表示する際は、文字の大きさや色、画面上の位置などを考慮して、明確に表示しなければならないとされている。
なお、返品特約の有無に関わらず消費者が一方的に契約を解除できる、いわゆるクーリングオフは、訪問販売や電話勧誘販売、無限連鎖販売などで認められているものの、通信販売には適用されない。通信販売において、消費者が返品特約がない場合に引渡しから8日間解除できるという規定は、クーリングオフとは異なる制度であり、消費者が誤解しやすいポイントでもあるので、注意が必要である。
販売条件の入力ミスについて
販売者が注文画面に誤った価格を表示してしまった場合や、在庫がない商品を表示してしまった場合に、消費者が注文を送信した際、販売者はその条件で商品を販売しなければならないとは限らない。なぜならば、民法上、契約は「申込み」の意思表示と「承諾」の意思表示によって成立するため、消費者からの契約の申込みに対して販売者が承諾を行わなければ、契約が成立したことにならないからである。ただし、経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」は、消費者が注文内容を送信した際に自動で返信されるメールが、承諾の通知に該当する可能性について注意を促している。そして、注文時に自動送信されるメールには、冒頭などに「このメールは受信確認であり、承諾の通知ではありません。在庫を確認の上、受注が可能な場合には改めて承諾通知をお送りします。」といった文章があれば、承諾の通知に当たらないとされている。
法規制を遵守し適切なECサイト運営を行うために
ここまでECサイト・ネットショップ運営と関わりの深い法規制の概要や、最新の法改正内容、更に扱う商品に応じて取得が必要な資格等を紹介してきた。色々な規制があり面倒だな、と思われる方も多いかもしれない。しかし、国や関係省庁がこのような法規制を定めるにはきちんとした理由があることを改めて考えて欲しい。
まず、特定商取引法の改正により、定期購入やサブスクリプション取引において消費者が契約の内容を認識しやすくするため、最終確認画面や広告に表示すべき事項が詳細に規定された。次に、景品表示法に関する新たな告示により、消費者が事業者による広告を第三者の意見と誤認することを防ぐため、ステルスマーケティングが規制対象となった。最後に、食品、酒類、医薬品、化粧品、古物を販売する事業者は、資格や許可を取得しなければならない場合がある。そして、これらの規制に違反した事業者は、行政処分や刑事罰を受ける可能性がある。
しかし、これらの規制を遵守することのメリットは、行政機関による処分を回避できることだけではない。もし、これらの規制に違反して消費者が高額な契約を結ぶよう誘導したり、ステルスマーケティングを行ったりしたことが発覚すれば、消費者は二度とその事業者を利用しなくなるだろう。商品を購入したユーザーが離れていってしまうだけではなく、インターネット上でその事業者が悪徳業者として認識されてしまう可能性もある。また、必要な許可や資格を取得していないことが露呈した場合も、事業者の風評に大きな影響が及ぶ。一方、規制に対応した画面や広告を表示したり、必要な許可等を取得したりしていることを明示すると、消費者はその事業者を信頼して商品を購入し、サービスを利用することができるようになる。
長期的な視点でユーザーを増やしていくためにも、ECサイト事業者には最新の法規制について知り、それらに対応することが求められているのではないだろうか。