小売業界は、あらゆる面において競争が激化している。

一方では、Amazonの合理化されたオペレーションと競合し、もう一方では、完璧なカスタマーサービスとエクスペリエンスへの高まる要望に対応しなければならない。それは多くの事業者にとって、対応策を考えるか、もしくは、滅亡するかの選択となる。しかしAIの早期導入は、事業者にとっての救済策となり得よう。

 

オンラインショッピングが小売業界の未来であることは、Amazonが完全に業界を支配していることから証明されている。従来小売業の重要拠点であった「ショッピングモール」は、オンラインショッピングの地理的な利便性を高めるために倉庫へ転換することが進められている時代だ。

従来型の小売企業にとっては全く未知の世界である。それでも、従来型小売実店舗での経験を活かせる可能性はあるかもしれない。

このオンライン主導の世界では、ビジネスを常に稼働させ、ターンアラウンドを劇的に改善し、適切なタイミングで適切な商品在庫を確保するためのツールと機能を持たなければならない。自動化されたエンドツーエンドの在庫管理に目を向ける必要があるのだ。

そこで、ビッグデータ対応のAIアシスト技術を利用すれば、デマンドチェーンのすべての段階において、在庫を最適化することができる。将来の購買行動を予測し、サプライチェーンとの差異をタイムリーに検出して対処することも可能である。“スマート倉庫”の導入により、小売業者は新たなレベルの効率化を実現し始めている。

このような現状において、小売業者は、優れた分析力を有するAIアシストのビジネスプロセスを、オプション的なサポートツールではなく、主要なかつ戦略的な投資として検討し始めるべきである。そうしなければ、破滅してしまうことになるだろう。

 

半手動のトップダウン管理では機能しない

高度な分析に大幅に依存することなく、今日の消費者の需要を満たし、短期的なトレンドを適時に特定することはほぼ不可能である。現在、ほぼすべての小売業者は、全国各地に散在した店舗、支店、および倉庫を所有しており、またそれぞれの品揃えは、わずかに異なっている。それゆえ、古い手動での小売在庫とプラノグラムの管理方法は、機能しないのである。

AIアシストの新しいアプローチによって、消費者の需要をより正確に予測し、非常に高い精度で該当ロケーションに適切な在庫を割り当てることが可能となる。そして、商品補充に頼ることなく、在庫切れを減少することができる。このような在庫管理は、ビッグデータ対応の自動小売在庫管理システムによって実行する必要がある。半手動で実行することは不可能である。

在庫管理を最適化することにより、在庫管理フローを効率化しながら、売上が伸びないロケーションでの過剰な在庫や、売れ行きが鈍く、古くなった商品在庫から生じる全体的なコストも削減できる。

自動在庫管理によって、サプライチェーンの不整合を検知することが可能なため、小売業者は、前もって適切なロケーションに在庫を移動するといった、潜在的な問題に事前に対処することが可能になるだろう。

AI自動化システムへ適応することができず、非効率的な運用を続けることは、大手小売業者の転落を招く一般的な要因の1つである。昨年閉鎖したSearsの元従業員は、同社の長年の経営難の一因となった問題が、「消費者が望んでいない商品の販売、店舗や在庫のメンテナンスの欠如」だと指摘している。

 

オンデマンド世界への対応

顧客が、オンラインで注文するのではなく実店舗に出向く場合には、すぐに探している商品を見つけたいと考えている。適切な在庫を店舗で確保していなければ、カスタマーエクスペリエンスを台無しにすることになるだろう。分析主導のスマートシステムを導入することにより、確実に、適切な商品を十分に並べることができる。予測分析によって、いつ商品の補充が必要になるかを判断することさえ可能だ。

もはやAmazonの同日配達が当然のサービスと見なされているが、この自動化された在庫管理によって得られたインサイトは、小売業者がカスタマーエクスペリエンスを強化し、eコマースの巨人であるAmazonと真っ向から競争するための足掛かりとなるかもしれない。

実際、ほぼ全ての小売業者が実店舗運営を補完するために、独自のeコマースサービスを提供している。しかし、依然として「実店舗」は顧客のエンゲージメントを高めるための説得力のあるベストな存在である。最近の世論調査では、53%の顧客が「最も満足度の高い小売エクスペリエンスは実店舗でのものであった」と回答している。オンライン小売業者が、従来型実店舗から現在でも学ぶべきことがあることは明らかなのだ。

自動在庫管理で得られるインサイトにより、在庫をパーソナライズすることも可能である。買い物客が商品を探して、何時間も店舗内を歩き回りたくないことは、百貨店の業績がハエのように下落していることを見ても明らかである。各店舗にとって、最も関連性の高い適切な在庫は何であるかを判断するために、小売業者はデータを使用する必要がある。顧客が実際に欲しい商品在庫について理解していれば、店舗を大幅に縮小できるのだ。

同じことが、eコマースについても言える。ストア運営者は自動在庫管理を活用し、特定の商品を、その商品を注文する可能性が高い顧客に近い拠点に移動しておき、顧客の即時配達への要求を満たすことも可能であるだろう。

たとえば、すべての在庫を1つの倉庫に一括発注するのではなく、データと予測分析を用いて、供給商品のどのセクションを、どの小規模倉庫のロケーションに保管するべきか、ということを判断できる。そうすれば、顧客が注文した商品を受け取るまでの時間をより短縮することが可能になるのだ。

 

新しい戦略を採用

AIアシスト在庫管理システムの大きな利点は、需要に対するより深いインサイトを提供し、新しい戦略開発に役立つという点である。特に、機械学習(ML)によって、特定の商品に対する需要がどこに眠っているのかを見出すことができる。

トレンドが絶えず変化しており、アナログ盤レコードのようなニッチな商品も生まれるなか、在庫の手動管理は悩ましい問題である。もちろん、適切な顧客基盤を見つけることも同様である。消費者が、今話題の「ホット」な商品をいつどこで欲しがっているのかというデータがなければ、小売業者の状況は即座に悪化するだろう。

AIは、短期間の商品需要を特定するのに非常に有効である。例えば、オスカー賞受賞直後の映画、または有名人が使用する写真が取られた特定の商品などが該当する。スマート在庫管理ツールは、MLベースの異常検出とAIを組み合わせて、製品に対する興味の散発的な変化を見つけ出し、購入する可能性が最も高いのは誰か、そして、彼らはどこにいるのかを突き止めることができる。これらの情報を得ることにより、店舗は消費者の動向を常に把握し、時折生じる特定の需要に迅速に対応することが可能となるのだ。

機械学習による需要予測は、どの特定の商品に対する需要が発生するかを予見するための有効なツールとなる。最近の調査によると、AI統合型サプライチェーンツールを使用することで、予測エラーを20〜50%減少させることが可能であるという。

機械学習による需要予測が重要な理由は明白である。機械学習AIを完全に実装することで、将来のトレンドを正確に予測しサプライチェーンをより効率化することができるのだ。それにより顧客満足度が向上し、サプライチェーンは即時に対応ができるようになり、サービスにさらなる柔軟性がもたらされるだろう。

 

倉庫全体を「スマート化」

自動運転車両や頭上を飛ぶ精巧なドローン並んだ商品の間を滑るように動くロボットは、サイエンスフィクション小説の中の一場面のように思える。しかし、今日のいくつかの小売企業は、最新のAI技術を実装する”スマート倉庫”を建設しているのだ。ML、AI、およびその他の自動分析テクニックの全機能をフルに活用する“スマート倉庫”は、従来の小売システムを一変するほどの可能性を秘めていると言える。

小売業者はAIによって、ほぼ全在庫プロセスを自動化することを可能にし、商品が指定店舗に配送されるまでの時間を大幅に短縮した。自動ピッキングツールと無人配送車(AGV)を組み合わせ、商品を迅速に検索している。そして、AIプログラムと自己学習アルゴリズムによって、追加要因もしくは経験に基づいてプロセス全体を最適化し、効率化することが可能だ。

これらの「スマート」倉庫によって、使用する小売業者のコスト削減と、効率化が実現されたことは、すでに証明されている。シカゴ、マイアミ、ダラスに倉庫を所有するサプライチェーンソリューションプロバイダであるRyderは、“スマート倉庫”の導入後、効率が20%向上、100%の商品可視性、運用コストの20%減少を実現。これらのメリットを考慮すると、小売業者はテクノロジーに適応しなければならない。そうでなければ、取り残される危険性がある。

顧客の需要に対応することは、引き続き“スマート倉庫”の成功に導く不可欠な要素である。店舗の在庫が多いほど、顧客の満足度は上がる。現在“スマート倉庫”は、顧客からの常に変化する要求に対しより満足度の高い対応をするために、さらなる機動性と柔軟性をもたらす技術を開発し、拡張しようとしている。

ヒューマンエラーなどの不安定な要素を取り除き、標準化された機械オートメーションに置き換えることで、“スマート倉庫”は常に学習し、進歩するAIシステムを介して顧客の要求に流動的に対応することができる。“スマート倉庫”におけるAIのイノベーションは、顧客の期待と要望からのフィードバックに応じて進化し続け、顧客のニーズに合致した最も有効なテクノロジーを作り上げるだろう。

AI、ML、および頑強な最適化ベースのプリスクリプティブ分析手法により、在庫管理はもはや推測の分野ではなくなっている。小売業者は自動化された在庫管理がもたらすインサイトによって、コストを削減し、販売を最大化することが可能になる。そして、店舗が在庫管理単位(SKU)毎に正しい数量の在庫を確保するのに役立つ。

小売業者はこれらの情報を得ることにより、個別のSKUロケーションのレベルに至るまで、確実に最良の決定を下すことができる。これは、競争の激しいこの小売業界において、かつてないほどに重要なことである。Amazonは従来型小売業者を完全に支配しており、それを止める気配はない。

在庫管理システムを最新AIと統合し続けることで、小売業者は現在、および将来にわたって持続的な成功を維持することが可能となるだろう。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の3/22公開の記事を翻訳・補足したものです。