新型コロナウイルスのパンデミックの影響による最大の変化の一つは、eコマースの急成長だ。英国小売協会(IMRG)とフランスに拠点を置くコンサルタント企業CapgeminiによるOnline Retail Index(オンライン小売業績指標)のデータによると、2020年の英国のオンライン総売上高は、前年比で36.6%増加し、2007年以降で最大の成長率となった。
そして、最近のデジタルマーケティングのトレンドは、(狭義の意味での)「ソーシャルコマース」(sCommerce)だ。eコマースブランドであれば、すでに耳にしたことがあるだろう。今回は今のトレンドとなっている、(狭義の意味での)「ソーシャルコマース」を知っておくべき理由をお伝えしよう。
ここで言う「ソーシャルコマース」とは、ソーシャルメディアサイトを通じて直接商品を販売するプロセスである。広義の意味での「ソーシャルコマース」とは、ソーシャルメディアを活用したオンラインショッピング全般を指していたが、ここでは、ソーシャルメディア上での直接購入の話となる。ブランド専用のウェブサイトやアプリからのショッピング体験を指すeコマースとは異なり、ソーシャルコマースでは、ユーザーはFacebookなどのソーシャルアプリで広告を見つけ、「購入する」をクリックすると直接「購入」に進むことができる。買い物が終わったら、ユーザーは、使用していたソーシャルメディアアプリを引き続き楽しむことができる。
Instagram、TikTokやWeChatなどのソーシャルメディアの大手企業は、ソーシャルコマースを導入し、ブランドは利益をあげている。
Business AM Live(ナイジェリアのメディア企業による金融・市場情報サイト)によると、世界のソーシャルコマース市場は2020年から2027年の間に31.4%の成長が期待されており、2027年までに6,045億ドル(約65.78兆円)に拡大すると予測されている。
Stock Apps(株式アプリと株式投資情報を提供する英国企業)の調査によると、世界中にあるeコマース企業の15%が、すでにソーシャルメディアでの販売を行っており、25%は、これから始める計画があるという。
では、ソーシャルコマースの魅力とは何だろうか。
ソーシャルメディアでの買い物では、決済をよりスムーズに行うことができる。統計によると、買い物客の35%は、ウェブサイトでアカウント作成を求められたときにカートを放棄しており、27%は、決済プロセスに時間がかかりすぎる、または複雑すぎると考えているという(出典:ReadyCloud(クラウドサービスを提供する米国企業))。ソーシャルコマースでは、プロセスが簡素化され、顧客は、商品を選択すれば直接レジに進むことができる。
上記の数字が示すように、ソーシャルコマースはかなりの収益をもたらす可能性がある。Instagramを、週に1回以上利用する13歳から64歳の21,000人を対象にした調査によると、83%が、新しい商品やサービスを見つけるためにInstagramを使用すると回答している。気に入った商品を見た後、31%がそのブランドのオンラインアカウントをフォローしており、今後そのブランドから再び購入する可能性が高くなる。(出典:Facebook for Business)。
おそらく最も重要なことは、ソーシャルコマースによって、即時のフォーカスグループがブランドに提供されるということだ。ユーザーが商品に「いいね」をつけたり、「共有」したり、友人をタグ付けしたり、レビューを残したりすることで、フィードバックが即座に得られる。また、ブランドは、自社顧客がだれであるかという正確なデータを取得することができ、コメントやダイレクトメッセージを通じて顧客とコミュニケーションをとることができる。そして、従来のeコマースやマーケティングでは成し得なかった方法で、主要なオーディエンスを、特定のニーズに応じた商品でターゲティングすることができるのだ。
Cavai(会話型広告クラウドを提供するノルウェー企業)の創設者であるTommy Torjesen氏も同意見だ。「ごく端的に言えば、ブランドは人々が楽しみ、関わり合うような体験を生み出す必要がある。ソーシャルコマースを成功させる秘訣は、信頼とユーザー中心主義の二点だ。プライバシーに対する注目が高まり、EU一般データ保護規則(GDPR / General Data Protection Regulation)のような新たなデータ保護法が施行されたことで、人々はより意識的に自分のデータを管理するようになり、その結果、消費者の信頼が高まっている。
「ユーザー中心主義に関して言えば、ソーシャルコマースによって、人々は、よりパーソナライズされた方法で、そして、より慣れ親しんだ環境で企業とつながることができるようになり、フリクションが軽減している。これを会話型の広告フォーマットで提供すれば、ほとんどのブランドにとって魅力的なコンセプトになるはずだ」。
新型コロナウイルスのパンデミックの間は、店舗が閉鎖されたため、ソーシャルコマースが、ユーザーにオンライン購入の社会的側面を提供した。ソーシャルメディアアプリで買い物をすると、消費者は買い物について友人に相談したり、お互いに気に入ったものにタグ付けしたり、他の買い物客と一緒に商品をレビューしたりすることができるため、よりインタラクティブな体験ができる。
「パンデミックによる影響もあり、我々のライフスタイルは大きく変化した。そして、ここ数カ月で、消費者ジャーニーは大きく変化したことを意味している。これらの変化の多くは永続的なものとなるだろう。消費者はこれまで以上に、デジタルチャネル、携帯電話やソーシャルプラットフォームに時間を費やしている。ソーシャルメディアとeコマースが我々の生活の中で大きな役割を果たすようになった今、この2つが融合しているのは当然のことだ」とAudience Store(英国のプログラマティックメディアエージェンシー)のコマーシャルディレクターであるDanny Haynes氏は話している。
どのソーシャルメディアプラットフォームがソーシャルコマースをリードしているだろうか。また、どのようにそれを行っているのだろうか。
ソーシャルコマースが最初に垣間見られたのは、2016年に導入されたFacebookのマーケットプレイスだ。eBayと同様に、ユーザーは、自分の所有物を自由に取引し、「購入」ボタンもあった。
昨年、おそらくパンデミックによって加速され、Facebookは、FacebookとInstagramでの「Shops(ショップ)」の立ち上げを発表した。企業は、Facebookでデジタルストアフロントを作成できるようになり、自社ウェブサイトから既存商品カタログをインポートすることも、また、一から作成することもできる。色とフォントをカスタマイズして、ショッピング可能な広告をリリースすることも可能である。ユーザーは、お気に入りのショップをブックマークしたり、通知をオプトインしたり、ロイヤルティスキームに参加することができる。
米国の市場調査会社eMarketerの調査によると、2020年に、米国成人の18.3%がFacebookで買い物をしており、その平均支出額は55ドル(39.58ポンド)であったという。ソーシャルメディアで商品を販売するブランドは、ユーザーが非常に高価な商品を即座に衝動買いする可能性は低いことを把握しており、従って、通常、100ドル(71.96ポンド)以下の商品が販売されている。
Smart Insights(デジタルマーケティングを手掛ける英国企業)によると、今や4人に1人のビジネスオーナーがFacebookを通じて販売を行っているという。
Instagramには、eコマースに適したプラットフォームとしての歴史があるが、ソーシャルコマースの導入により、まったく新しいレベルに到達した。このプラットフォームの強みは、きわめてビジュアル的で、ユーザーにとって魅力的な広告コンテンツにある。
優れたアルゴリズムにより、ユーザーのホームフィードもその人の好き嫌いに合わせて調整される。ユーザーがアプリを開くと、すぐに、ユーザーが好むと思われるブランドや商品が表示され、Instagramは、パーソナライズされ、キュレートされたショッピング体験を提供する場となる。
Instagramは先日、IGTV(Instagramが提供する縦長フォーマットの没入型動画共有機能)での「Instagramショッピング」のグローバル展開を発表し、さらに「Instagramリール」(Instagramで動画を閲覧・投稿する機能)でのショッピングのテストを開始すると述べた。IGTVにInstagramショッピングが導入されたことで、企業やクリエイターは、IGTV動画内のショッピング可能な商品に直接タグ付けできるようになり、ユーザーは、さらに容易に「購入」に直接進むことが可能となる。
Hootsuite(ソーシャルメディア総合管理システムを提供するカナダ企業)の調査によると、Instagramには現在10億人を超えるユーザーがおり、そのうち毎月1億3,000万人がショッピング投稿をタップし、50%が商品やサービスを見た後にウェブサイトを訪れて購入しているという。
App Annie(アプリに関する市場データと分析ツールを提供する米国企業)は、2020年にソーシャルメディアアプリとして96億回以上のグローバルダウンロード数を記録した。また、ユーザー1人当たりの利用時間も、最も利用されたアプリでは、前年比で最大325%増と大幅に増加した。
「パンデミックは小売業に進化をもたらし、ソーシャルコマースの成長に拍車をかけた。ブランドは、ソーシャルメディアプラットフォームを活用して、インタラクティブな体験を生み出し、新たなオーディエンスにリーチし、消費者を惹きつけるための戦略を練り直している。調査によると、ソーシャルコマースとライブショッピングは、2024年までに、世界で2兆ドル規模の市場になるという」と、App Annieのマーケティングインサイト部門の責任者であるLexi Sydow氏は話す。
ショートビデオプラットフォームであるTikTokは、2020年に最も人気のあったソーシャルプラットフォームとして際立っていた。そのため、同社がソーシャルコマースでリードしているのも不思議ではない。
Comprar Acciones(スペインのインベストメント・マネージメント企業)が分析・発表した調査データによると、TikTokは、2021年1月において、世界で最も収益をあげている非ゲーム系モバイルアプリである。ユーザーが、同アプリで支出した金額は1億2800万ドル(9,211万ポンド)で、2020年1月の売上から380%も増加した。
TikTokは、昨年10月、Shopify(カナダに拠点を置くeコマースプラットフォーム)とのグローバルパートナーシップを発表した。100万以上のマーチャントを有するShopifyは、このコラボレーションにより、若年層のオーディエンスにリーチし、売上を伸ばすことができた。
今では、ブランドが作成共有可能なコンテンツが、自社商品のTikTokインフィード動画広告となる。これにより、ブランドは、年齢、性別、ユーザー行動、動画カテゴリーに応じてオーディエンスをターゲティングでき、キャンペーンのパフォーマンスを長期的に追跡することもできる。
「Z世代(1990年代中盤以降に生まれた世代)は、速くてフリクションレスな(ユーザーにとって摩擦やイライラがない)オンライン体験を好む。すべてのソーシャルプラットフォームは、最も簡単なソリューションを提供するために全速力で前進している。TikTokを際立たせているのは、同社のアルゴリズムとデフォルトの「For You(レコメンド)」フィードだ。それは、誰もがバイラルになれるだけでなく、ユーザーに発見のマインドセットを提供している。広告は他のコンテンツに溶け込み、ユーザーはそれを受け入れている」とVamp(ソフトウェアプラットフォームを運営するオーストラリア企業)の共同創業者であるAaron Brooks氏。
TikTokは、購入までの道のりはリニア(一直線)ではないと考えており、ブランドには広告ではなくTikTokの動画を作ることを強く推奨している。TikTokでバズった商品は、一度に数ヶ月も売り切れることがある。
「ヨーロッパ中にいる総勢1億人のとても熱心なTikTokコミュニティは、喜びと創造性のレンズを通して、最新の商品に関するヒントやアドバイスを常に交換している。「#tiktokmademebuyit」のようなトレンドのハッシュタグは20億回以上再生され、人々やクリエイターは、TikTokにインスパイアされた、人生を変えるような買い物を共有している。その中で、ブランドは傍観者ではなく、TikTok体験の重要な一部である。我々のコミュニティは、自分が夢中になっているブランドや、時代の大きなトレンドに乗ることができるブランドと関わりたいと思っている」と、TikTokのマーケティングプロダクトリーダーであるSamer Ragheb氏は述べている。
ソーシャルコマースを活用しているもう1つのソーシャルメディアアプリはPinterestだ。
昨年、Pinterestは、Shopifyと提携し、新たに27カ国にパートナーシップを拡大し、グローバルにソーシャルコマースを展開している。昨年、Shopifyは、英国市場で高い成長を遂げており、Shopifyにおける新規店舗出店数は2019年と比較して116%増加し、ソーシャルプラットフォームにとって望ましいパートナーシップとなっている。
Pinterestのショッピング可能な「プロダクトピン」機能を利用することで、世界中の170万以上のShopifyマーチャントは、自社商品を簡単にプラットフォームに掲載し、消費者に発見してもらうことができる。
Shopifyを介してPinterestに広告を掲載しているマーチャントは、今回初めてダイナミックリターゲティング機能を利用できるようになった。これにより、セラーは、サイト上ですでに商品に関心を示している消費者を再度惹きつけることができる。
「ショッピングとは、ただ一つの商品を探すだけではなく、新しいアイデアを生み出したり、自分が欲しいと思っていなかったものを見つけたりすることだと当社は捉えている。昨年はeコマースが史上最高を記録した。そして、英国を含む世界の一部の地域では実店舗が再開しているが、この新しいショッピング行動は長期的な消費習慣を示している」とPinterestのグロース・ショッピングプロダクト部門の責任者であるDan Lurie氏は述べている。
「Pinterestでは、お気に入りのお店の通路を見ているかのように、ショッピングをできる限りインスピレーショナルなものにするべく注力している。そこでは、すべてが自分のために選ばれているように感じてもらいたい。将来的には、Pinterestで見るものは、すべて購入できるようにしたり、パーソナライズされた類似商品のおすすめを提供することが、当社のショッピングのビジョンだ」と同氏。
Omnicore(英国のデジタルマーケティングエージェンシー)の調査によると、Pinterestの週間ユーザーの77%が、同プラットフォーム上で新しいブランドや商品を発見しており、50%がプロモーションピンを見て購入したことがあるという。Pinterestの2020年第2四半期のグローバル収益は、2億7,200万ドル(1億9,552万ポンド)と、前年比で4%成長した。
ソーシャルコマースの人気は世界中で着実に高まっているが、中国が依然として優勢である。
eMarketerの調査によると、今年の中国における小売ソーシャルコマースの売上は、2,424億1,000万ドル(1741.8億ポンド)に増加し、国内の小売eコマース総売上の11.6%を占めると見込まれている。
WeChatが、引き続きソーシャルメディアのトップメッセージングアプリであり、2018年からソーシャルコマースを導入している。WeChatストアは、ブランドがアプリで販売を始めるための簡便な方法として最初に導入された。その後、WeChatは非常に人気の高いWeChat「ミニプログラム」を導入した。これは、基本的に、WeChatエコシステム内で機能するアプリである。
現在、WeChatミニプログラムの月間アクティブユーザー数は7億人を超えている。WeChatミニプログラムのほとんどはゲームであり、eコマースにおける2番目に大きいカテゴリーだ。2020年には、1億人以上の人々が WeChatミニプログラムを使ってショッピングモールやデパートで購入した(出典:China Internet Watch)。
「ショッピングリスト」機能は2018年に導入されたもので、ユーザーはさまざまなWeChatミニプログラムのストアに散らばっている注文やショッピングカートを一元管理できるようになった。その翌年、WeChatアプリは「Good Product Circle」(グッドプロダクト・サークル)と呼ばれる新機能をリリースし、ユーザーは他の人が何を購入しているかを確認できるようになった。これには、「おすすめ商品」、「みんなが買った商品」と、ユーザーが友人と商品を共有できるプライベートグループの「サークルグループ」の3つのカテゴリーがある。
他のアプリは、ソーシャルコマースにおいて、これらの大手ハイテクライバルにはやく追いつこうとしている。
例えば、Snapchatは以前からAR(拡張現実)を利用して、2億2900万人のユーザーがレンズを加工した自撮り写真を共有できるようにしている。昨年は、ユーザーがデジタルで靴を試着してから買い物ができる「shoefies」を導入。実店舗が閉鎖しているときに役に立つ機能を追加した。
現存するオンライン販売プラットフォームの中で最も成功していると言っても過言ではないAmazonは、「Amazon Live」を導入することで、昨年、ソーシャルコマースのトレンドに追いついた。ホストとゲストがショッピング可能な商品についてやりとりできるようになったほか、「フィットネス」や「レシピ」などのさまざまなカテゴリーから消費者が選択できるライフスタイル提案動画も多数導入されている。
YouTubeも、同様に、「YouTube Live」を導入し、クリエイターが動画内で商品機能をタグ付けして追跡できるようになった。Bloombergによると、Shopifyとの連携も検討されているという。
このように、ソーシャルコマースは定着しているようであり、ブランドとそのパートナーはこの機会を活用しようとしている。
Impact(体験型学習ソリューションを提供する英国企業)のEMEA(欧州、中東、アフリカ)マーケティングディレクターであるOwen Hancock氏は次のように述べている。「新しいソーシャルパートナーを採用し、そのパートナーがもたらす売上をシームレスに追跡することがソーシャルコマースの基本である。とはいえ、次に人気となるソーシャルプラットフォームの登場は、常に間近に迫っている。消費者はこれまでのコミュニティ経験が肥大化すると、自然に次のコミュニティを見つけるために移動する。それゆえ、我々は、まだ存在しないソーシャルコンセプトを取り入れることができる、フレキシブルなソリューションを構築するというアプローチを継続させなければならない」。
※当記事は英国メディア「Mobile Marketing Magazine」の5/10公開の記事を翻訳・補足したものです。