ソーシャルコマースが爆発的に拡大する一方、ユーザー数の伸びが鈍化している現在、ソーシャルプラットフォーム、および、その使用法はどのように変化していくのだろうか。

 

今年のF8(Facebookが開催する開発者向けカンファレンス)にて、FacebookのCEO、Mark Zuckerberg氏は「未来は、プライベートである」と語った。これは、この18か月間、顧客データと情報の悪用に対する激しい批判と戦ってきたZuckerberg氏からの大胆な声明であった。それでもFacebookの、プライベートなメッセージング・プラットフォームにフォカースしていくという指針は、ソーシャルメディア・マーケティング担当者が直面している主要な問題にスポットライトを当てることとなった。日々劇的に変化しているソーシャルメディア業界において、マーケティング担当者は、広告プラットフォームの進化に遅れをとらずに対応していく必要があるだろう。

 

変化は、Facebookに限ったことではない。全体的なソーシャルメディアの利用率の伸びは、横ばい状態である。広告入札戦略は、新しい自動システムに適応させるために再構築されている途中。そしてソーシャルコマースは、完全に新しい段階へと移行しつつあるのだ。ブランドとインフルエンサーのつながりがさらに強固になり、ソーシャルコマース・プラットフォーム上には、新しいショッピング機能が構築されている。

 

ソーシャルメディア・マーケティング担当者にとって、それは、まったくの新しい世界であり、変化の速度についていくのは非常に難しいことだ。この記事では、ソーシャルメディア・マーケティング・リソースとして、単に日々起こっている変化に関するレポート以上のものを提供していきたい。そして、ソーシャル新時代に向けてこのシリーズを読んでほしいのだ。今後、ある種の有益なロードマップを提供したいと考えている。そして、そのマップがたどる道は、今も建設段階である。

 

マーケティング担当者は「デジタル・リビングルーム」に収まる

Mark Zuckerberg氏はFacebookの目標について、ソーシャルフィードを減少させ、ユーザー同士がプライベート・チャンネル内で集まる「デジタル・リビングルーム」を増やすことにあると、複数回にわたって述べた。しかし、ソーシャルメディアのROI(投資利益率)の観点からいえば、「プライバシー」は必ずしもマーケティング担当者が注目すべきワードではない。

 

デジタルマーケティング会社であるAimclearのマーケティング戦略担当VPであるSusan Wenograd氏は、次のように述べている。「我々は新しい時代に足を踏み入れている。しかし、新時代が、プライバシーの要素に関連しているかどうかは微妙である」。「変化は確実に訪れているが、ソーシャルプラットフォームの成熟化、激化する競争、そして、消費者が共感できるクリエイティブへの需要によってもたらされている影響は、それぞれ個別のものだと考えている」。

 

Wenograd氏は、今は、広告主が中途半端なクリエイティブアイデアを採用しても成果を生むことができた数年前とは、別世界であると述べた。

 

「現在は、中途半端なクリエイティブアイデアは通用しない。予算を使い果たす前に、短期間で効果をあげるためには、非常に的確にマーケティングの方向性が定まっていなければならない。多くのブランドは方向性が定まらないまま、有料ソーシャル広告を始めてしまい、すぐに効果が出ないことに対し不満を持つ。なぜなら彼らは、2年前とは比較にならないほど、現在の競争が激化していることに気がついていないのだ」と、同氏。

 

Wenograd氏は、今月のSMX Advanced(毎年シアトルで開催される検索エンジンマーケティング担当者向けカンファレンス)でのソーシャル広告の最適化に関するプレゼンテーションのなかで、何度か同じ意見を述べていた。つまり、氾濫する広告市場で最も成功するのは、頑強な統合された有料広告戦略を持ち、高品質のクリエイティブを重要視するブランドであるということだ。

 

「戦略化した方法を実行できないエージェンシーは、失敗するだろう。彼らは、もっと前に失敗すべきであったのだ」と、Wenograd氏は参加者に語っている。

 

ソーシャルの最大限活用:Facebookの先を見越して

Wenograd氏が述べたように、ソーシャルメディアの広告インベントリにおける競争激化にソーシャルメディア利用者数の横ばい状態が相まって、広告主がかつて生み出していたような成果を出すことは、ほぼ不可能となっている。

 

昨年のソーシャルメディアの利用状況を調査した複数のレポートによって、ソーシャル業界全体の成長が鈍化していることが判明した。

 

 

  • ベンチャーキャピタリストであるMary Meeker氏の年次 Internet Trends Report調査レポート)によると、ソーシャルネットワークへのデイリーログイン数は減少。ソーシャルメディア利用率は、昨年からわずか1%の増加にとどまった。(2016年から2017年の間は、6%の増加であった)。

 

 

これは、マーケティング担当者にとって何を意味するのだろう?当面は、戦略を大幅に変更する必要はない。しかし、広告主は長期的な影響を考慮しなければならないだろう。つまり、現在使用しているチャネル以外においても、自社のオーディエンスを特定し、彼らとつながる必要があるということだ。

 

Mary Meeker氏のレポートによると、Facebookの利用率の伸びが鈍化している反面、InstagramとYouTubeにおいては、どちらもデイリー利用率が増加しているという。Snapchatにおいては、米国での13〜34歳の利用率が75%に達していると報告している。

 

LinkedInも、広告プラットフォームとしてのビジネスに注力している。今年、同社の広告配信ソリューションであるCampaign Managerは大幅な設計変更を行い、大規模キャンペーンを管理する広告主向けに構築された目的指向型ワークフローを提供している。また、Quora(米国でスタートしたQ&A形式のユーザーコミュニティ)も同様に、広告収入増加を目指している。最近になって同社プラットフォームを利用するブランド向けに、検索型キーワードターゲティング、広告効果を測定のためのAuction Insights、およびリターゲティング機能を導入している。

 

そして、Reddit(米国のソーシャルニュースサイト)も同様である。その「西部の荒野」と称される“荒れたサイト”として有名であり、広告主によって長い間避けられてきたソーシャルネットワークである。しかしAlexaによると、Redditは今年の3月、米国で6番目に訪問者の多いWebサイトとなった。昨年Radditは、ブランドにとってより魅力的なサイト構築を目指し、サイト全体のリニュアルを実行し、新しい広告商品を着々と展開している。

 

新しい媒体としてのメッセージング

メッセージング・プラットフォームへの移行によって、マーケティング担当者はMessenger、WhatsApp、Snapchatなどのアプリの広告機会に、より関心をもつ必要性が生じている。

 

ソーシャル・カスタマーサービス・プラットフォームを提供するConversocial の創設者兼CEOである Joshua March氏は、次のように述べた。「公共のソーシャルメディアを介したメッセージングサービスが台頭している。ブランドは、ソーシャルのメッセージング・チャネルを介して、どのように、顧客との直接的な1対1の関係を構築できるかを検討すべきである。そのチャネルでは、合意を明示する顧客と関係性を維持できるからだ」。

 

March氏はかなり前から、ブランドが、どのようにして、自社顧客との直接的なコネクションを持つために、モバイルアプリを立ち上げることに注力してきたかを指摘している。企業はモバイルアプリへの取り組みに対し数百万ドルを投資してきたが、顧客はアプリをダウンロードして使用することに興味がないということを同氏は悟っている。

 

「ブランドは、メッセージングを活用することにより、すべての顧客に対し何かをダウンロードさせる必要なくインタラクティブ機能を提供できるのだ」と、March氏は述べた。

 

Facebookは、WhatsAppやInstagram、Messengerを統合する計画であり、メッセージング分野において広告主に対し最大限のサポートをしている。それらの各アプリは、スタンドアロン・ネットワークであり続けるが、統合された基盤であるメッセージ・インフラストラクチャ上に構築されるため、相互運用性を備え、ユーザーはそれらのプラットフォーム間でメッセージを送受信できる。

 

メッセージング・チャネルを活用することにより、MessengerやWhatsAppなどのプラットフォームに登録している消費者向けに、積極的にマーケティング活動をすることができる。そしてそれは、企業の顧客ライフサイクルを維持するのに有効である」と、March氏は述べた。

 

勢いを増すソーシャルコマース

メッセージングが新しいメディアとなれば、ソーシャルコマースは、最も注目を集めるものであろう。ソーシャルプラットフォームは、新しいeコマース機能を構築している。これは、商品発見から購入に至るまでの顧客ジャーニー全般を通して、消費者にアプリを利用させることを目的としている。

 

ソーシャルコマース・ソリューションを提供するJumper.aiのCOO、Nyha Shree氏は、次のように述べている。「2019年はさまざまな意味で、ソーシャルコマースにとって画期的な年になるかもしれない。ついにソーシャルコマースの潜在的な可能性が発揮されるだろう」。

「プラットフォームのネイティブ機能によって、より効率的に商品が発見でき、フリクションは減少するだろう。それに従い、ブランドは顧客エクスペリエンスを考慮する必要がある」。これは、ソーシャルコマース戦略によって、いかに効率的に、商品発見を購入へ、そして購入からロイヤルティーへと変換できるかを示している」。

 

そして、商品発見と購入の機能を充実させるだけでは不十分である。Shree氏は、すぐにでもソーシャルチャネルを通じて独自のカスタマーエクスペリエンスを提供し、広告主が自社ブランドの差別化を図る必要性を指摘した。

 

「Disney やThreads(ファッションeコマース事業者)といったブランドは、すでにこの分野におけるパイオニアとなっている。決済プロセスにおいて、販売員の役割を果たし、ブランドの個性を維持する会話型チャットボットを利用しているのである」。

 

Facebookプラットフォーム上での購入機能の導入は、フリマ機能であるMarketplaceに限定されている。しかし、Instagramは、アプリ内で決済までの買い物が完結する新しいCheckout機能の導入によって、大幅に進化している。Instagramは、新しいCheckout(購入)機能を、当初は限定された複数のブランドを対象に展開し、その後、対象ブランドと提携する多数のInstagramインフルエンサーにも、サービス提供を拡大した。

 

最近になってSnapchatは、米国のソーシャライト(富裕層出身でファッション・美容分野などに影響力を持つ主に女性)であるKyle JennerのKylie Cosmeticsアカウントや、Kim Kardashian WestのKKW Beautyアカウントなどを含む、5つの公式アカウントのアプリ内ストアを立ち上げた。

 

Pinterestも、ソーシャルコマースのリーダーとしての地位を目指している。今年の上場前には、世界最大のスーパーマーケットチェーンであるWalmartCTOをエンジニアリング責任者として採用し、徐々にeコマースへの取り組みを展開している。

 

マシンラーニング(機械学習)によるキャンペーン最適化

ミクロレベルのキャンペーン・マネージメントにおいても、新しいマネージメントプロセスの出現とソーシャル広告フォーマットの選択肢の増加とともに大きな変化が起きている。特に、FacebookのStory広告については、そうである。

 

今年Facebookは、広告主が広告セットレベルで予算を管理する機能を廃止し、キャンペーン予算最適化プロセスに移行することを発表した。(9月以降Facebookは、新規および既存の広告キャンペーンを、広告主の広告セット全体でキャンペーン予算を最適化する“自動キャンペーン予算配分システム”に統合する。)

 

「それは、最初は喜ばしいニュースだと思ったが、実際に体験した今は期待値が下がっている。なぜなら、その最適化プロセスを利用しても、最も高いパフォーマンスを実現できるとは限らず、アドセット単位でのセットアップを余儀無くされるからである」と、Wenograd氏。

 

eコマース業界のクライアントがFacebookの自動予算最適化機能を利用した結果、購入1件あたりのコストを最も低く抑えられたという事例はあるが、最も高いROAS(広告費用回収率)は実現しなかった、と同氏。その最適化機能をデフォルトとして設定すべきだと推奨するには、まだ改善が必要であると加えている。

 

また、Wenograd氏は、次のように述べている。「Facebookは、自動予算最適化機能を導入するか否かを選択可能にすべきであったと思う。現状のパフォーマンスでは、広告主にとって利点があるとは思えない」。

 

Wenograd氏が率いるチームは、入札モデルを決定する際に、広告主は顧客ジャーニー全体を考慮しなければならないことを確信しているという。その取り組みは、多くの時間と多くのデータ解読を要する。

 

同氏は有料ソーシャル広告について、次のように述べた。「有料検索広告のように、完全一致ベースの判断を下すためのデータは存在しない」。「有料ソーシャル広告では、実際の広告表示に背後で影響を与えるアルゴリズムによって判断が下される。そして、入札はその一部に影響するに過ぎない。多くの場合、自動入札以外の方法を試してみるまで、入札がどのような役割を果たすのかは不明であり、効果には大きなばらつきがある」。

 

同氏によると、マーケティング担当者は、過去の入札と比較して、どのように入札決定を行うべきかを再評価する初期段階にあるという。

 

「ソーシャルプラットフォームは、広告収入の取り分を増加させることに注力しているだけである。そして、目下24時間以内に目標とする成果を得るための入札に論理的と思えるものは、実は、長期的なブランド認知を目指して入札するものとは異なる可能性があるのだ」と、同氏は語った。

 

長期的な成果への投資

ROI(投資利益率)の面からみると、これらの広告プラットフォームの変更は、ソーシャルメディア・マーケティング担当者にとって何を意味するのか?有料ソーシャル広告が、短期的な成果を生む一時的なキャンペーン以外にも多く活用される今、ブランドは、自社のソーシャル広告戦略について、より包括的な見方をしなければならない。

 

Wenograd氏がSMX Advancedの登壇中に明確に示したように、ブランドが、この新しいソーシャル広告時代で成功を収めたいのであれば、コンバージョンが、パズルの1つのピースに過ぎないことを認識しなければならないだろう。その代わりに、全体像を把握し、クロスチャネルにおけるデータと高品質のコンテンツを介して、価値あるオーディエンスを構築する必要があるのだ。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の6/24公開の記事を翻訳・補足したものです。