D2C、今年下半期になって、今まで以上によく耳にすることになった人も多いだろう。D2CとはDirect-to-consumerの略で、メーカーが自社で企画・製造した商品を、自社EC サイトを通じて直接消費者に販売する仕組みだ。このD2Cの増加に伴い、消費者の製品販売および製造企業と直接対話することへの期待も高まっている。

 

「インターネットの爆発的な普及により、D2Cコマースが成長している。eコマースにより、より利便性が高く、フリクションレスな購入エクスペリエンスが提供されるようになった」と、EDIとサプライチェーン向けソリューションを提供するDiCentralの主任ソリューションエバンジェリストであるPeter Edlund氏は述べている。

「デジタルエクスペリエンスは、製品特性と配送時間に関する情報、また、画像や動画によるそれらの情報配信方法においては進歩を遂げている」と同氏。「さらに、顧客ロイヤルティプログラムによって、デジタルエクスペリエンスは、個々の買い物客の興味に合わせて調整することが可能である」。

 

近年、D2Cへの関心が非常に高まっている。

「D2Cは常に人気はあったが、ようやく洗練され、より効果的になった」と企業向け顧客データプラットフォームを提供するAgilOneのCEOであるOmer Artun氏。

「消費者は、メールかデジタル広告か、もしくはチャットボットと話しているかどうかに関係なく、自分に関連があるパーソナライズされたエクスペリエンスを期待している。しかしこれまでは、マーケティング担当者が、そのようなエクスペリエンスを提供するために利用できるテクノロジーは存在しなかった」 とArtun氏は語った。

「顧客データ管理がクラウドで実行されるようになると、顧客データイニシアチブのオーナーは、ITからマーケティングチームおよびビジネスチームに移行した」とArtun氏は続ける。

「マーケティングテクノロジーエコシステム内で、機械学習が進歩し、大規模なパーソナライゼーションが技術的に可能となった」と同氏。「遂に、マーケティング担当者は、顧客が長年求めてきたエクスペリエンスを生み出し、提供できるようになったのだ」。

 

D2Cにおける成功

D2Cの成功の鍵の1つは、消費者との関連性維持を常に留意することである。「アウトバウンドマーケティング・キャンペーンだけでなく、カスタマーエクスペリエンス・インタラクションにおいても、そして、既存の顧客と見込み客の両方に向けたデジタル広告においても、それは重要である」とArtun氏。

「クレンジングされ、重複排除され、マスターカスタマーレコードにまとめられた統合カスタマープロファイルを活用することで、マーケティング担当者は、消費者がシームレスに感じるオムニチャネル・インタラクションを提供できるようになる」。

「D2Cビジネスを成功させるためには、テクノロジーだけではなく、複数のチームを単一の顧客ビューというアイデアの下に連携させ、その共有したイニシアチブを中心として、それぞれチームのKPIを調整し優先順位を決める必要がある」と、Artun氏は続けた。

「たとえば、店舗の目標とeコマースのゴールを一致させた小売業者は、ビジネス全体の収益を増加させることができる。しかし、eコマースチームが店舗と連携していないままの小売業者は、利幅を減らすことになり、労力も倍増する。そして、統一性のない数が多すぎるマーケティングコミュニケーションによって、顧客を疲弊させるのだ」。

 

結局のところ、D2Cコマースで成功する企業は、自社Webサイトとアプリを最大限に活用して消費者に商品を販売する企業であると、アプリコマース・プラットフォームを提供するPoqの社長であるMike Hann氏は述べている。

「ブランドは、アプリ内のパーソナライズされたメッセージングなどを通じて、ロイヤルティの高い顧客に、ユニークでパーソナライズされたコンテンツを提供している」とHann氏。

「買い物客にブランドに対して親しみを感じてもらうために、独自のアプリ内に『ストーリー』機能を追加したブランドもある」と同氏。「これにより、製品やブランドのインスピレーションに関する関連性の高いパーソナライズされたコンテンツを共有し、企業価値を伝え、有意義なつながりを築くことができる」。

 

また、自動化機能とテクノロジーの進歩も、D2Cコマースの強化にも役立っている。

「サプライチェーンサイドで、サプライチェーン全体におけるバーチャル在庫へのアクセスと可視性を自動化することで(『ドロップシップ』とも呼ばれる)、製品属性が非常に正確になり、サプライチェーンからの在庫供給がタイムリーに行われる」と、DiCentralのEdlund氏は語る。

「自動化が普及するにつれて、消費者の進化する期待と需要を満たすために、オムニチャネル・フルフィルメントと在庫サプライチェーン関連の例外事例に対する注文管理への必要性が極めて高くなるだろう」。

 

D2C 2.0

将来のD2Cコマースは、さまざまな新しく進化するテクノロジーによって創造されるだろう。

「D2C戦略に成功する組織は、継続してテクノロジーを活用することで、デジタルマーケットプレイスでの差別化を測る」とEdlund氏は述べた。

「たとえば、洋服ブランドであるRalph Laurenは、何百万もの自社製品に対するデジタルID付与を発表した」と同氏。「スマートフォンで製品ラベルのデジタル製品IDをスキャンすることで、消費者は購入した商品が本物のRalph Laurenブランドかどうかを確認できる。また、商品属性の詳細についての情報を得て、スタイリングのヒントやサジェスチョンにアクセスすることもできる。

 

将来的に、D2Cにおけるインタラクションでは、消費者がより大きな影響力を持つようになるだろう。

「消費者が、個人データをコントロールし、ブランドとのエンゲージメント方法を決定するD2Cマーケティングにおいて、今は非常に重要な瞬間である」と、AgilOneのArtun氏は述べている。

「主には、GDPRやカリフォルニア消費者プライバシー法などの新しい規制の影響によるものが大きい」。「消費者がより力を持つことになるという変化を受け入れるD2Cブランドは、成功するだろう」とArtun氏は予測する。

「総合的に見ると、業界はファーストパーティの顧客データをより活用し、顧客が望むエクスペリエンスを提供することにフォーカスし収益性を高めるようになるだろう。従来の「バッチアンドブラスト(全見込み客リストに一斉メール送信を行うこと)」アプローチは、新しい規制環境では適切ではない。また、今日のブランド関係に対する消費者の期待にも合致しない」。

 

一般的なeコマースと同様に、ターゲティングが、D2C施策の成功を左右する。

「将来のD2Cマーケティングにおいては、ブランドが顧客の関心の獲得と維持をめぐって競争する中で、最もパーソナライズされた最先端のエクスペリエンスを構築できるかどうかの戦いとなるだろう」と、ECサイト向けレビューツールを提供するYotpoのマーケティングVPであるRaj Nijjer氏は語る。

 

「買い物客の期待は、ブランドが、彼らが誰であるか、何を望んでいるのか、そして、広告、オンサイト、メールなどを通じてブランドとやり取りするすべてのチャネルにおいて彼ら向けに調整されたエクスペリエンスを提供してほしいと考えるレベルまで上昇し続けるだろう」と同氏は語った。

 

「買い物客の期待を実現するには、ブランドは、可能な限り統合されたカスタマー・ビューを構築する必要がある」と、Nijjer氏。それには、「シームレスに相互作用するテクノロジーソリューション、スムーズなオムニチャネル戦略、俊敏で革新にフォーカスした考え方」が必要となるだろう。

 

※当記事は欧州メディア「Ecommerce News」の11/18公開の記事を翻訳・補足したものです。