AmazonとeBayが設立された1995年以降、eコマースは爆発的な成長を遂げた。今や日常生活の一部となっているeコマース。米国のeコマース売上は2023年までに7,350億米ドルを超えると予測されている。現在では、以前オフライン取引が占めていた食品や医療、銀行などの業界でさえ、効率性とコスト削減のためにeコマースを導入しているのだ。
一方、小規模プレーヤーが、オンラインにおいて成長著しい存在感を確立し、eコマースの巨人の顧客である消費者を引きつけることは、なかなか困難である。さらに、「今すぐに手に入れたい」という要求が当たり前の現代社会において、顧客の期待が日々高まり続けているのも厄介だ。
eコマースにおいて事業者は顧客に、個人的で、迅速で、かつ、アクセスしやすいエクスペリエンスを提供する必要がある。そして顧客は、それが叶わない事業者からは別のブランドに乗り換えてしまうのである。その結果、高品質のカスタマーサービスとカスタマーエクスペリエンス(CX)は、すべての企業にとって重要な差別化要因となっているのである。事実、80%以上の企業が、主にCXの分野での競争となると考えているようだ。
eコマースおよび技術が急速に進化するにつれて、顧客の要求も急速に変化する可能性がある。既存の顧客を満足させ、新しい消費者を惹きつけるためには、企業は顧客サービスとCXにおいて機敏さを保ち、前向きな戦略を構築しなければならない。以下に、eコマース業界を変革し、顧客サービス提供の改善を推進している4つのトレンドを紹介する。
1.より高度なパーソナライゼーション
eコマースの台頭により、現在の消費者は関連履歴や個別オファーを含む個人的なコミュニケーションを期待している。カスタマージャーニーのすべてのステップは、関連する全チャネルにわたって統合され、個々のカスタマーニーズに合わせて調整されたもので、全体にわたってスムーズなカスタマーエクスペリエンスでなければならない。
このレベルのパーソナライゼーションを実現するために、企業は以下に紹介する最新技術を活用し、効率的かつ効果的に顧客の期待に応える必要がある。
- チャットボット:インテリジェントな仮想アシスタントとチャットボットは、特定のカスタマーサービス・タスクを処理するための貴重なツールである。顧客のスマートフォンから24時間アクセス可能で、迅速に対応し、即座に情報を提供できる。
この技術は、自然言語理解が可能なため、ボットは簡単なFAQに対する質の高い回答を提供したり、予約開始などのリクエストを処理したりすることが可能である。それでも、顧客が最善のアドバイスを受けることができるように、どのタイミングで、顧客サービス担当者が対応を引き継ぎ、より複雑な質問に対処するべきかを認識することは重要である。
- ライブビデオのサポート:問い合わせ対応担当者との直接的なやりとりは、依然として多くの消費者が望むコミュニケーション方法である。カスタマーサービス担当者は、ライブビデオチャットを利用することにより、サービスセンターでのパーソナルな問い合わせを最適化し、スケーラブルでありながら個人的で対話的な顧客とのやり取りを可能にしている。このバーチャルな対面会話によって、高度にカスタマイズされたサポート提供が容易になる。
- 規範的および予測的分析:ブランドが真にパーソナライズされたエクスペリエンスを提供していくためには、トレンドと顧客のニーズを予測し、それらに対応することが重要である。規範的分析によって現況と履歴データを検証し、適切なチャネルとタイミングで各顧客に最適な商品を提供する。
たとえば、規範的分析は、オンラインでただブラウジングしている顧客に、個人的なディスカウント特典の提供などといった、次に講じるべきアクションを決定するのに役立つ。予測的分析は、グループ化された履歴データから予測を導き出し、特定の顧客が特定の製品を購入する可能性はどのくらいあるかといった質問に答えることができる。顧客のコアデータ、注文履歴、クリックストリームを検証することで、ブランドは、各顧客の個人的な購買興味に適応したオファーを提示し、顧客の行動を予測することが可能となる。
- 自動化:顧客を惹き付け、それを維持するために、企業は提供する価値を高める必要がある。人工知能(AI)と分析は、効率的で効果的なパーソナライズされたクロスチャネルカスタマーサービスによって、包括的なカスタマーエクスペリエンスを提供するのに役立つ。
たとえば、キュレートされたショッピングおよび購読サービスは、自動化されたeコマースプロセスの効率性に個人的なアドバイスを組み合わせる。そして、顧客に、個別にあらかじめセレクトされた商品を提供するのだ。このような付加価値を提供することは、多くのブランドに競争優位性をもたらす。2017年には、15%のオンライン買い物客が、定期的に商品を受け取るサブスクリプションサービスに、少なくとも1つ以上サインアップしているという。
こうした新しいテクノロジーの導入は、パーソナライゼーションの実現に絶好のチャンスをもたらすが、カスタマーサービスの中心には“生身の人間”を据えることを忘れてはならない。最適なエクスペリエンス提供には、テクノロジーとヒューマンタッチのバランスを取りながら顧客エンゲージメント向上させることが重要である。共感、クリティカル・シンキング、問題解決スキルの価値を過小評価せず、顧客を満足させ、真にパーソナライズされた体験を提供すべきなのだ。
2.多様な商品検索チャネル
消費者が検索を行うチャンネルや方法のどれをとっても、常にユーザーフレンドリーでなければならない。結局のところ、消費者がオンライン購入を途中放棄する主な理由の1つは、探している商品をすばやく簡単に見つけることができないということである。eコマースが消費者行動に影響力を持ち続けるなか、以下に紹介する技術が強力な検索ツールとして出現している。
- 音声アシスタント:これまで以上に顧客は、AmazonのAlexa、Google Assistant、またはAppleのSiriを使用して商品検索を行なっている。迅速な入力が可能で、検索結果表示も簡略化されるため、検索における音声アシスタント利用の人気は高まっている。長い商品リストではなく、顧客には、通常、1個の回答が提供される。それは、企業にとっては、顧客に役立つ厳密に最適されたコンテンツを提供しなければならないことを意味する。
- 動画:YouTubeの台頭により、動画は、カスタマージャーニーにおける不可欠な要素としての地位を確立した。多くの場合、顧客は商品やその使用方法についての情報を得るためにビデオコンテンツを利用する。
実際、買い物客の70%が、YouTubeで商品について情報収集することに肯定的であると回答している。YouTubeは、新規顧客と既存顧客の両方に対し、製品についての認識を高めるための強力なマーケティングチャネルとなっている。モバイル端末によるビデオ視聴の増加を考えると、短いプロモーションビデオが最も効果的であろう。
- 画像:テキスト入力で製品を検索する代わりに、消費者が検索エンジンに画像をアップロードして、複数のプラットフォームにおいて直接購入できるという、視覚的に類似した製品を見つけることは一般的になっている。
Snapchat、Instagram、Pinterestなどのソーシャルメディアチャンネルによって、画像検索はより一般的になった。たとえばPinterestは、消費者が商品を検索するための「Shop the Look」機能を提供している。AI機能が進歩するにつれ、画像検索がより正確になった結果、顧客の間でも人気が高まっている。
- 拡張現実(AR):ARは、顧客の購入決定を促すツールとして利用されている。ARは、ユーザーのデジタル環境を変化させ、個々の顧客に最適な検索、選択、購入を可能にする。
また、ARテクノロジーは、オフラインとオンラインの世界をさらに近づけるために役立つ。たとえば、実際の部屋でバーチャルに家具を設置してみたり、化粧品を試してみたりすることができる。
3.支払いオプションの増加
今日の消費者は、多数の利用可能な購入、及び、決済チャネルと、その選択肢を有している。2015年には24%であったオンライン事業者のモバイルウォレット対応が、2018年には29%に増加。より多くの購買チャネルの出現に伴い、新しい決済技術を導入し、顧客のためにプロセスを合理化し、購入商品の再注文をより簡潔にすることは、極めて重要になっている。
IoTベースのデバイスによって、さらに商品購入スピードとそのスムーズさは向上し、顧客は容易に取引を完了できるようになってきた。スマートシェルフは、Bluetooth信号を利用して特定地域の消費者の興味を引くオファー情報通知を、ターゲットを絞った特定の消費者のスマートフォンに送信。ビーコン、またはデジタルトランスミッターは、顧客がストアを離れた際に決済プロセスに誘導する自動トリガーや、製品の再入荷が必要になった際の警告として利用できる。
音声アシスタントは検索以外にも、決済認証に音声コマンドを利用し購入手続きを簡素化することが可能だ。音声認証技術は既に使用可能ではあるが、多くのユーザーはまだエラーを危惧しており、買い物には音声を利用していない。しかし、ユーザーにとって音声アシスタントがより身近になり、信頼性が高まるにつれて、より一般的に利用されるようになるだろう。
4.より迅速な配達
食料品などの商品でさえオンラインで注文される昨今、消費者はこうした注文商品がさらに迅速に配達されることを期待している。より多くのオンライン小売業者は、翌日または同日配達オプションを提供。2023年までに、物流会社の78%が同日配達を提供すると予測され、2028年までに、39%が2時間以内配達サービスの提供を予定しているという。
企業は、商品が適切なタイミングで適切な場所に配達されるよう、ラストマイル配達を重視するようになった。このレベルの配達スピードを達成するためには、企業には技術サポートが必要となる。
機械学習、自動化、ドローンなどのイノベーションが採用され、配送がより効率的になり、顧客にとっての利便性がますます高くなるだろう。一方で、「クリック・アンド・コレクト」モデル(オンラインで注文して、自宅以外の場所で商品を受け取る方法)も人気が高まっている。店員がオンライン注文商品の対応を行うようになり、顧客へのより柔軟な対応が可能となり、同時に送料コストが削減されている。
顧客からの問い合わせの多くは、「注文した商品はいつ届くのか?」といった内容が中心である。商品配送が遅れた場合、顧客は頻繁に顧客サービスに連絡して最新情報を入手しようとする。これらの質問に回答するためには、配信プロセスの可視性を高めることが不可欠であり、それにより企業は先を見越したアップデート情報を提供することができる。
顧客の正面玄関に「置き配」した荷物の写真を送信するなど、透明性の提供も極めて重要である。顧客は、問題解決能力があり、簡潔な配達と返品のプロセスを提供する信頼性の高いブランドで買い物をしたいと考えているのだ。
まとめ
消費者の商品を購入する際のeコマースプラットフォーム利用が増加するにつれて、ブランドは、顧客サービス戦略を厳しい目で評価し、顧客ロイヤルティを構築するための差別化要因となるエクスペリエンスを生み出す必要に迫られている。
顧客のパーソナライゼーションに対する要求を満たすには、事業者は、チャットボット、ビデオサポート、規範的および予測的分析、自動化などの新しいテクノロジーに常に精通し、迅速にカスタマイズされた対応を行うことが不可欠だ。
オンライン検索において注目を得たいのであれば、ブランドは競争力を維持するために、音声アシスタント、ビデオ、画像検索、およびARを活用しなければならない。
より多くのチャネルが出現するにつれて、最先端の支払いオプションもさらに提供し続けることが重要となる。
同様に、配送に対する期待に応えるためにブランドは、機械学習や自動化、ドローンなどのイノベーションの導入を検討する必要がある。
新しいテクノロジーを採用する場合においても、顧客との有益な対話を生み出すために、“ヒューマンタッチの重要性”を企業は認識しておくべきである。新しいイノベーションはプロセスを変革し、効率を向上させることが可能であるが、カスタマーサービス担当者が提供するヒューマンスキルは、やはり価値ある資産であり続けるだろう。
最新のトレンドと技術革新に注目することで、企業は顧客のニーズを満たし、将来消費者が何を求めているのかを予測することができる。そして、進化するeコマース業界で成功を収めるために、自社のビジネスの目標を定めることができるであろう。
※当記事は英国メディア「E-commerce Times」の8/1公開の記事を翻訳・補足したものです。