ファッション小売の未来は、eコマースにあると言えよう。しかしそれは不明瞭だ。2018年にeコマースは15%の成長を遂げた。その利益の80%は、Amazonが単独で獲得している。そして、従来型ファッション小売業者は今年、記録的な数の実店舗を閉鎖する見通しである。反対に、多くの著名なデジタルネイティブブランドは実店舗展開にこぞって参入し、大きな成功を収めている。

 

小売業者は、革新的でなければ生き残れないことを理解している。しかし、技術や消費者の嗜好は急激に変化しており、どのイノベーションが追求する価値があるのかを判断するのは難しい。ゆえに、常に進化するこの小売業界で仕事を行うマーケターにとって、常に一歩先を行くことは困難を極めるのだ。

この過去十数年に生じた混乱のなか、1つの目立たなかった技術が、小売業者とマーケターへその可能性を静かに示している。その「ビジュアル検索」は、斬新なコンピュータサイエンスのデモとして始まった。しかし、モバイルカメラが改良され、AIがよりスマートになるにつれて、テクノロジー大手企業達が検索におけるこの独特なアプローチに注力し始めた。そして、すでにこの最も大きな影響を受けているのは、ファッション業界である。

傑出したブランドは、詳細な商品説明とalt属性記述と同様に、画像サイズとファイルタイプに細心の注意を払っている。

ソーシャルメディアによって、すべての世代の買い物客は視覚的に物事を捉え、オンラインで見るものからインスピレーションを得るようになった。ビジュアル検索は、買い物客が視覚的なインスピレーションに基づいて行動することを可能とし、意図と行動の間のフリクションを減少させた。ビジュアル検索のおかげで、過去のものとなっていた“ウィンドウショッピング”体験はデジタル化され、拡張されることになったのだ。そしてマーケターは、適切なビジュアル最適化技術を利用し、小売業界において自社ブランドに注目を集めさせることが可能になっている。

 

eコマースの新しいビジョン

ユーザーはビジュアル検索を利用し、テキストの代わりに画像を使用して、他の類似画像を見つけ出すことができる。これは簡単なことに聞こえるかもしれないが、類似の画像を見つけるために画像データを有効な情報に変換するためには、ディープラーニング技術と大量のトレーニングが必要となる。それにもかかわらず、現在ビジュアル検索は、eコマースに変革をもたらす可能性をすでに示している。この革命を推進するための基盤となる技術は、何年もの間、一流の技術大手企業の研究開発ラボで密かに開発され、成熟してきたのだ。

Microsoftが提供する検索エンジンBingは、この技術の初期のパイオニアであった。しかし、GoogleとPinterestによる最近のイテレーション(偶然にも、どちらも “Lens”と名付けられている)によって、ビジュアル検索技術は実用化され、ビジュアル検索がデジタルコマースにおいて未開発分野の実行可能なチャンスであることを証明している。ここ数カ月の間にGoogleは、画像検索に掲載可能なショッピング広告の詳細を公表し、Instagramは、個々の投稿内にアプリ内で商品を購入可能なeコマースタグを統合すること発表した。

 

ビジュアル検索はまだ未成熟段階にあるが、すでにユーザーの共感を得ている。PinterestのCEOであるBen Silbermann氏は、同社が毎月10億件以上のビジュアル検索を処理していることを公表した。この数字は、1年前の全世界の総ビジュアル検索数と等しい。Pinterestはeコマースを変革するビジュアル検索の可能性を追求し、AI主導の「Shop the Look(ユーザーがリンク先から直接購入できるアイテムタグ)」機能の展開、および、ジーンズブランドのLevi’sのような小売大手企業とのパートナーシップの推進に力を注いできた。今年3月にPinterestがIPO申請を公表した際、同社は自身をソーシャルプラットフォームとしてではなく、検索エンジンとして位置付けたのだ。さらに興味深いことに、Pinterestは自社の競合相手ナンバーワンとしてAmazonを挙げている。

これはつまり、Pinterestがビジュアル検索に「最も大きな可能性がある」と考えていることを物語っている。過去何十年にもわたり、技術の進歩が消費者のショッピングスタイルを変えてきた。そして今、Pinterestは消費者のショッピング方法が新しい技術開発に影響を与えると考えているのだ。Amazonは消費者が望むものを的確に把握し、自社サービスを最適化してきたが、 Pinterestのビジュアル検索により、買い物客はよりオーガニックでノンリニアな方法でインスピレーションを探すことが可能となった。

 

ウィンドウショッピング2.0

先見の明のある小売業者は、ビジュアル検索を導入し、オンライン上での存在感を高め、技術に精通した買い物客との関係性を強化している。

2018年5月、ファストファッション小売業者Forever 21がビジュアル検索機能をスタートさせた。その後の1か月間で同社の売上は増加し、平均注文金額が20%上昇したという。ウィンドウショッピングという過去の娯楽をデジタルで復元することができるビジュアル検索は、他のファッション小売業者にも刺激を与えた。Forever 21の発表後、間もなくファッションeコマースサイトのASOSFarfetchが後に続き、独自のビジュアル検索機能を導入した。

特に、新しい世代であるデジタルネイティブの間では、投稿した写真やニュースフィードに表示されている写真からショッピングをすることは、もはや目新しいサービスではなく、ごく自然なことになっている。ある調査によると、Z世代(1990年代後半~2000年生まれ)およびミレニアル(1975~1990年代前半生まれ)の買い物客の62%が、ショッピングエクスペリエンスに「ビジュアル検索は必要な要素」と考えているという。このどの事業者も獲得したいと切望するこの購買層にリーチしたいマーケターにとって、ビジュアル検索戦略は不可欠だということである。同じ調査によると、80%近くが、外出中にモバイル端末で購入したい商品を発見したことがあるという。デジタルネイティブの買い物客によるビジュアル検索利用の増加は、彼らのショッピング方法が進化している今の時代を考えると当然のことである。

 

ソーシャルのトレンドを見極める

2019年3月には、意外なアイテムがInstagram上で大ヒットした。そのトレンドは、複数のインフルエンサーや有名人が、目新しいフェイクパールのヘアクリップをこぞって身に付けていることに人々が気がついたことから始まった。「どこでそのヘアクリップを購入できるのかを知りたい」というコメントが殺到し、最終的に明らかになっている。それはAmazonの無名なセラーが、クリップ3つをセットにしてたった2.65ドルで販売している商品だった。しかし、その商品がどこで売られているかを見つけるのは、簡単なことではなかった。

人気のファッションブログ「Refinery 29」の編集者であるHolly Bullion氏は、自らの経験を投稿している。「私は、Instagramの至る所で、そのパールのバレットを見かけた。しかしすぐには、どこで、また、いくらで購入できるのかわからなかった」。最終的に同氏は見つけ出すことができたが、かなりの調査が必要だった。

ここで、ビジュアル検索がこのような状況にいかに役立つかを考えてみよう。たとえば、ファッションに敏感なインスタグラマーがニューヨーク・ファッション・ウィークからインスピレーションを得たアイテムがあったとする。それと同じようなアイテムをAmazonの膨大な商品のなかからより手頃な価格帯で探し出すとする。その際、(ビジュアル検索を使えば)単に写真を撮って「似たヘアクリップ」を検索するだけで済むということなのである。

 

ビジュアル検索マーケティングの最適化

人々が自然に望むショッピング方法の多くには、テキスト検索やサイトナビゲーションよりも、ビジュアル検索によってより優れたサービスを提供することができるだろう。言うまでもなく、eコマースによってショッピングは飛躍的に便利になった。しかしそれと同時に、特定の商品を探すわけでもなく見つけたときに「欲しい」と衝動的に思うような偶然の出会いを期待しながら、さまざまな店やショーウィンドウ、通路のディスプレイを見て回る楽しみやわくわくした気持ちを失ってしまっているのだ。

それでは、ハイテクウィンドウショッピングがより不可欠になりつつあるeコマース・エコシステムにおいて、マーケターは、自社ブランドをどのようにして成功させることができるだろうか?

まず、ブランドの提供画像が、簡単に表示可能であるかどうかを確認することが必須である。つまり、画像サイズ、ファイルの種類、およびデバイスごとに圧縮可能かという点に注意を払う必要があるということだ。画像ファイル名とURLも、キーワードリッチでなければいけない。同じく重要なこととして、Googleが画像を識別しやすくするために、ブランドは画像サイトマップを作成すべきである。また、詳細な商品説明、構造化データのマークアップ、および、検索エンジンが画像を判読するのに役立つalt 属性テキスト記述などの、ブランドの検索ランキングを向上させるためのその他の基本事項も押さえる必要がある。最後に、画像のコンテキストを理解しやすくするために、画像の上、または下に、テキストを配置することを推奨する。

ファッションeコマースにおけるビジュアル検索の可能性は、eコマースの利点を維持、強化しつつ、従来のウィンドウショッピング・エクスペリエンスをデジタル時代に適したものへ変化させることにある。そして、商品の発見とカスタマー・エクスペリエンスへのより包括的なアプローチを再確認し、近代化することにある。ビジュアル検索技術はすでに利用可能であり、日々改良されている。ファッションeコマースにおけるこの大胆な新しいビジョンを実現し、ビジュアル検索を採用するかどうかは、先駆的なブランド次第なのである。

 

※当記事は、米国メディア「Marketing Land」の4/18公開の記事を翻訳・補足したものです。