昨年、Toys “R” UsPaylessDiesel USAなどの老舗の従来型小売店チェーンが破産の申し立てを行った。米国の消費者支出が堅調で失業率が低い状況でも、このような失敗は起こる。それはなぜだろうか。

 

Amazonの影響

このトピックを取り上げる際には、まずAmazonの存在と、同社によるオンラインコマースへの巨大な影響を考えなければいけない。Forbesによると、2018年の売上高が2,580億米ドルに達し、米国のオンライン支出総額の49%という圧倒的なシェアを占めているというAmazon。さらに、同社の売上は2017年と比較して29%の増額である。言うまでもなく、Amazonは記録的な成長を遂げている。

 

注目すべきAmazon2つの傾向:

  • その飛躍的な成長の大部分は、サードパーティ・セラーと買い物客を結び付けるAmazonマーケットプレイスによるものである。マーケットプレイスの売上は、Amazonの総小売売上高の約70%を占めている。
  • Amazonはそのエコシステムを拡大し、より多くの従来型実店舗を取り込んでいる。そして、さまざまなストアコンセプトをテストした結果に基づいて、従来型実店舗やオフラインで、買い物客がどのように行動するかという大量のデータを収集している。

 

Amazonはプライムサービスのコンセプトをオンラインとオフラインのストア間でシームレスに機能するようにさらに拡張し、新しいオムニチャネル戦略を準備していると考えられる。このように、現在の顧客にはオンライン、またはオフラインのどちらかで買い物をしているという認識はなく、区別なくただ買い物をしているという事実をAmazonは理解しているのだ。

多くの場合、顧客はオンラインでリサーチをし、オフラインで購入する。もしくは、その逆である。もしAmazonが単にオンライン小売業者としてビジネスを続ければ、大きな収入源を逃すことになるだろう。さらにオムニチャネル戦略を強化し実店舗をオープン、または買収することにより、現在の膨大な配送コストを下げることが可能となる。

従来型小売事業者は、立て続けに起きている米国の各小売業者の倒産に続かないためにも、Amazonが計画中の大規模なオムニチャネルの立ち上げを決断する前にその戦略に備える必要がある。

 

根本的な原因

Amazonは米国オンライン小売売上の実に49%の市場シェアを誇るeコマースの王者であるが、米国における総小売売上高においては5%を占めるに過ぎない。その事実を考慮すると、米国の多くの従来型小売事業者に打撃を与え倒産に追い込んだ原因は、実際にはAmazonではなく、過剰な負債が原因である。多くの従来型小売店舗は、プライベートエクイティ会社(投資ファンド)が主導する買収の結果として、過剰な負債を抱えているのだ。

好調な従来型小売チェーンでさえ、何十億という負債を抱えている。そしてその返済期限が迫り、米国の多くの郊外には実店舗が過剰に存在しているという事実と相まって、今後数年間で状況はさらに悪化する可能性が高い。最悪の事態になる可能性さえある。

この事実に加え、従来型実店舗チェーンの多くはオンラインeコマースへの投資が遅すぎたため、シームレスなオンラインおよびオフラインのショッピングエクスペリエンスを構築できていない。実店舗チェーンは、オンラインとオフラインにおいて別々の販売戦略を実行しており、オンラインストアとオンラインマーケティングのそれぞれの戦略を統合することがオフライン顧客を引き付けるのに非常に効果的な方法であるということを理解していない。

 

シームレスなオンライン/オフラインショッピング体験

それでは、米国の小売店舗が閉鎖され、Amazonが新しい大規模なオフラインとオムニチャネル戦略展開を開始するための取組みを強化している市場において、従来型小売実店舗はどのようにインテリジェントに行動することができるだろうか。第一に、小売業者がこれまでにない早いペースで、どのようにデジタル化されているかを理解する必要がある。

ウェブマーケティング会社OuterBoxの調査によると、現在の顧客のカスタマージャーニーは、スマートフォンの使用から始まる。全米国人の76%はスマートフォンを使って地元の店を調べている。つまり、オンラインとモバイル向けに最適化された優れたeコマースストアを運営していない実店舗は、モバイル端末を利用する非常に重要なローカルセールスリードを逃してしまう。

また、多くの従来型実店舗は、eコマースによって自社の売上が奪われているという誤った認識をしている。これは全く事実ではない。Googleの調査によると、概して全アメリカ人の67%が、実際にはコンピューターやタブレット、スマートフォンを含むすべてのデバイスでリサーチを行い、オフラインで購入しているという。反対に、31%はオフライン店舗に来店した後に、オンラインで購入している。

したがって、ソーシャルメディアやスマートフォン、パーソナルコンピュータなどの各デバイスと、さらに実店舗にわたるシームレスなショッピングエクスペリエンスを生み出すこと、つまり「オムニチャネル」戦略が不可欠であるのだ。

マーケティング会社V12によると、オムニチャネル戦略を採用している企業の年間リテンション率は非常に高いという。その数値は91%に達し、戦略の収益効果は絶大である。つまり、オムニチャネル戦略を採用していない企業と比較して、リピート顧客数が91%も多いことを意味するのだ。

米国の全消費者の90%がオンラインとオフラインの両方の全ての販売チャネルにおいて、一貫したインタラクション、サービス、および配信モデルを期待しているにもかかわらず、全米国企業の約55%がオムニチャネル戦略を未だ実行していない。これは大きなビジネス課題である。

さらに今日の消費者は、オンラインで購入した商品を、地元の店舗でピックアップしたいと考えている。

 

オムニチャネルビジネス構築のための10の重要なヒント

すべての販売チャネルにわたって、シームレスなカスタマーエクスペリエンスを設計することの絶対的な必要性については既に述べた。そして次に、この知識を実際に従来型実店舗運営企業の戦略に組み込み、実行する方法について解説したい。

以下に述べるヒントは、顧客に対しオムニチャネル戦略に関するコンサルティングを行った私の経験に基づいており、最も優秀な複数のオムニチャネル企業をベンチマークとして比較している。

 

1.自社を従来型実店舗事業者と認識することをやめる

2019年においても、依然として自社を「従来型店舗」と認識し、そう呼んでいるのであれば、将来の見通しは厳しいものになるだろう。マネージメントからすべてのビジネスレベルに至るまで、会社全体が自社を「完全なオムニチャネル企業である」、もしくは、「そうなる過程にある」ことを理解しなければならない。販売、マーケティング、プロダクト管理、配送といった部門が、協力し取り組まなければならないのだ。

「千里の道も一歩から」という有名な老子の言葉があるように、これが最初の重要な一歩である。そうしなければ、最適に機能するオムニチャネル会社として前進することができない。

 

2.シームレスなオンラインおよびオフラインのショッピング体験に基づくオムニチャネル戦略をたてる

焦点を絞った現実的なオムニチャネル戦略によって、多くのビジネスチャンスへの扉が開かれるため、このような第2ステップはビジネスに不可欠である。そしてそれは、容易に成し遂げられるステップではない。何年も先の将来においても、相互にインテリジェントに機能するように、戦略要素を慎重に計画しなければならない。

最低限として、次に述べる重要要素をオムニチャネル戦略に組み入れるべきだと考えている。そして、以下の本質的な関連質問事項を確認することを提案したい。

 

  • 製品戦略 – なぜ、顧客は自社の製品を購入したいのか?
  • ビジネスコンセプト – どうすれば自社のビジネスコンセプトによって顧客を満足させ、リピート購入させることができるのか?
  • オンラインおよび小売戦略 – 売上を最大化するために、どのように販売チャネルを相互作用、サポートさせ、売上を最大化することができるのか?
  • マーケティング戦略 – どのように、売上を最大化するための、自社の製品、事業、および販売戦略をサポートするマーケティング戦略をたてることができるのか?
  • スタッフ戦略 – すべての販売チャネルで、最先端で一貫したカスタマーエクスペリエンスを確実に提供するために、どのようにスタッフをトレーニングすべきか?
  • 配送戦略 – どのようにして顧客が期待する配達方法を確実に提供することができるか?

 

3.なぜ、顧客は自社製品を購入したいのか?

この質問は非常にシンプルだが、自社のビジネスモデルの中核と関わる問題であり、回答するのは難しい。多くの小売企業は、同じまたは非常によく似た一般消費者向け製品を販売し、互いに競合している。そして実店舗店で溢れかえる郊外では、隣同士に位置する店舗が競い合っている。

この状況では失敗する可能性が非常に高い。そして、すでに米国中で多くの事業者が失敗している。今の状況は、多くの競合するサメ(競争相手)がいる海で顧客をつり上げようとしているに等しい。それでは血の海になってしまう。まさに、「レッドオーシャン戦略」である。

長期的に見れば、Amazonのマーケットプレイスは低価格競争で多くのサメと競合するレッドオーシャンのひとつに過ぎないかもしれない。しかしそうではなく、サメと競合しない、自社だけのブルーオーシャンで釣りをするべきだろう。これはニッチ製品を販売することによって達成することが可能である。「ブルーオーシャン戦略」と呼ばれる新しい需要を生み出すことにより、収益性の高い成長を遂げることをもできる。

既存のプロダクト・ポートフォリオの一部として、またはまったく新規の製品ラインとして、販売可能なニッチ製品を検討すべきである。

 

4.どのようにして、自社ビジネスコンセプトによって顧客を満足させ、リピートさせるか?

広大なブルーオーシャンで泳ぎ始めたら、次に、満足しているリピート顧客を生み出す強力なビジネスコンセプトに基づき、どのように製品戦略をサポートできるかを検討することを勧める。

現在、オンラインとオムニチャネルの両方において最も成功している小売企業のいくつかは、強力なコア会員基盤を構築している。AmazonのPrime顧客基盤は、その好例である。

会員に割引や無料配達、会員ポイント制などを提供するメンバーシップモデルを提供できる場合は、実行することを強く推奨する。

ただし、他の企業のメンバーシップモデルを真似すれば、レッドオーシャンに戻ることになってしまうだろう。その代わりに、定期的に自社商品を購入している会員に対し、会員割引やその他の特典を提供できるかどうかを検討すべきである。これは、顧客が買い物をするたびに特典を得ることができる非常に効果的な方法であり、顧客をつなぎとめやすくなる。

 

5.自社販売チャネルはどのように相互作用し、互いに補完しているか?

顧客が地元の小売店を探すときでも、オンラインで購入したい商品をリサーチするときでも、現在のほとんどのオンライン・カスタマージャーニーは、スマートフォンから始まる。それゆえに、最初に、主要なリードチャネルであるモバイルサイトを、最善の状態にしておくべきなのである。

それが完了したら、簡単なトリックではあるが、顧客が後にオンラインかオフラインのどちらかで購入できるように、スマートフォン端末上で商品を簡単に保存できるようにすべきだ。多くの企業がこれに気付いていないのが現状である。顧客が購入しない2番目に大きな理由は、購入するための準備が整っていないからである。顧客が商品を簡単に保存し、後で購入できるようにしておけば、最初の非常に重要なリードを獲得し、後にそれをトランザクションに変換することが可能なのだ。

米国の従来型実店舗が廃業する主な理由の1つは、負債を抱えているという問題であるので、多様な小売店コンセプトをテストし、コストを削減するべきである。

いくつかの大規模デパートは、地代の高い大規模店舗を小さなショールームに変えることで、店舗の賃料を最小限に抑えることに成功している。ショールームでは、商品を試し、実際に手にとって見ることはできるが、購入した商品を持ち帰ることはできない。

それに対し、例えば顧客がジーンズを1着試着し、無料の同日配達サービスを利用することで、購入した商品をすぐに手に入れることができる。このストアコンセプトによって、顧客の買い物のエンドルフィン(幸福感)が放出され、事業者側は店舗賃料を最小化し、コストを削減できる。

 

6.どのように製品や事業、販売戦略をサポートするマーケティング戦略を構築するか

オンラインとオフラインの両方の販売戦略は、パーソナライゼーションでサポートすることを勧める。約20年前、Amazonは顧客が同社サイトを訪問した際のオンラインショッピング・エクスペリエンスをパーソナライズした最初の企業の1つであった。今日では、パーソナライゼーションはeコマース企業にとって最も重要なマーケティング戦略の1つである。ただし多くの企業は、Webサイトをパーソナライズしているだけで、eメールや店舗でのコミュニケーションはパーソナライズしていない。これは大きな間違いだ。

パーソナライゼーションツールは非常に賢くなっており、顧客が次に何をいつ購入するのかを実際に予測可能となったため、非常に収益性の高い「セールスマシーン」になり得ている。

Amazonの秘訣の1つとして、特に各顧客の購入履歴に基づいて、個別にターゲットを絞ったeメールを送信することで収益を最大化している。

こうしたeメールは、10〜15%、時には最大25〜30%という驚くべき顧客コンバージョン率を達成するケースも多い。Webサイトのみの顧客コンバージョン率は、通常3〜5%の範囲である。

パーソナライズされたコミュニケーションモデルによって、顧客の近くの店舗における関連性の高いオファーやイベント、ニュースを顧客にアラート通知できるため、地元の店舗への来店促進に役立つのだ。このように、オンラインとオフラインのマーケティング戦略を組み合わせる際の選択肢は、多数あるのである。

 

7.どのようにして、スタッフが最先端のショッピングエクスペリエンスを確実に提供できるようにするか?

多くのオムニチャネル戦略において、スタッフのトレーニングやセールスツールが欠如しているケースが多い。可能な限り最良のオムニチャネル戦略を構築したとしても、スタッフが日々の運用ベースでその戦略を実行していなければ、失敗につながるだろう。

そのため、店頭カウンターとオンライン販売チャネルを同期させることは不可欠だ。その反対も同様である。そうすることにより、セールススタッフはオンラインおよびオフライン両方の在庫状況と配達状況を調べたり、実店舗内で顧客の定期購入プログラムを設定したりするなど、様々なことが可能となる。

スタッフ関連で、次に欠けている要素は、オンラインとオフラインのセールスコミッションが互いに競合する販売インセンティブモデルである。スタッフからの完全なサポートを得るためには、その協力を奨励することが必須である。たとえば、オフラインのスタッフは、オンライン定期購入プログラム登録設定に対してもコミッションを受け取るべきである。スタッフの要素を詳細に検討することにより、すべての販売チャネルを通じて確実に売上を最大化することができるのだ。

 

8.どうすれば顧客が期待する配送方法を確実に提供できるか?

各オムニチャネル会社に最も適した配送方法は、そのビジネス、販売およびマーケティング組織次第である。

最も成功しているオムニチャネル企業は、配送費用をマーケティングコストだと認識している。無料で迅速な配送サービスを提供することは、顧客のコンバージョンとリテンションを促進する最も効果的な方法の1つである。たとえば、一定金額以上を購入した、または、メンバーシッププログラムに登録した全ての顧客に対して、無料配送サービスを提供することができる。

また、小売実店舗で十分な在庫を確保している場合は、正午前に注文された商品については、同日中にその商品を無料で店舗ピックアップできるサービスも提供すべきだ。これは、非常に効果的な施策である。なぜなら多くのレポートが、「顧客がオンラインオーダーを店舗でピックアップする際に、さらに追加の商品を店舗で購入する傾向がある」ということを明らかにしているからである。

 

9.オムニチャネルにおける、自社顧客のショッピングエクスペリエンスのライフサイクルはどうなっているのか?

自社のオムニチャネルビジネスが立ち上がり、3〜4ヵ月間稼働させたら、一度立ち止まり分析する時期である。

a)見込み客をどこで獲得しているか?

b)自社事業におけるオンライン/オフラインのカスタマージャーニーの状況

c)顧客はなぜ、リピートして購入するのか?

 

「主要業績評価指標」をいくつか設定し、スタッフ会議などで定期的に評価し、自社の業績やオムニチャネルビジネスのどの分野をさらに最適化できるかを組織内で共有し、理解することが望ましい。

 

10.オムニチャネル戦略をどのように改良し、最適化するか?

オムニチャネルの主要業績評価指標がもたらす新たな理解に基づいて、製品、ビジネス、オンライン、小売、マーケティング、スタッフ、およびデリバリー戦略を含むオムニチャネル戦略、および実装モデルのすべての要素を活性化する施策について、具体的な計画を立てることが可能となる。

自社をオムニチャネル企業に変えるには、本記事で紹介してきたステップを実行し、オムニチャネル戦略を分析し、継続的に最適化していくことだ。そうすれば、現在の従来型実店舗ビジネスから最先端ビジネスへ転換させ、成功を収めることができるだろう。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の4/9公開の記事を翻訳・補足したものです。