越境ECはもはや新しい動向ではないものの、近年さらに普及し、高度化している。市場調査会社Statistaの調査結果によると、2017年、全世界で16億6,000万の人々がオンラインで商品を購入しているという。同年の全世界におけるオンライン小売売上高は2兆3,000億米ドルとなり、これが2021年には4兆4,800億ドルに達すると予測されている。

 

こうした越境ECの継続的な成長はデータによって裏付けているが、一方で、ローカライゼーションの必要性も高まっている。eコマースプロバイダーは、自国市場以外のビジネスチャンスを十分に活用するために革新を続けなければならないのだ。

 

標準的な越境ソリューションは、中間および下の階層の販売業者には有効であるが、ティア1(一次請け)販売業者にとってはもはやそうではない。国際成長を遂げるために販売業者は、eコマース業務を行う際に“体験”のハイパーローカライゼーションに注力する必要があるのだ。それは、世界中の税法に関する専門知識の習得から、より優れた顧客体験の提供を通じて決済時の回避可能な認証拒否を減少させる取り組みにまで至る。また、国際間のeコマース取引に伴って生じる課題を考慮すると、特に戦略的パートナーシップも必要となるだろう。

 

体験のハイパーローカライズ

自国外で商品を販売する場合、販売事業者は各国文化の複雑さを認識する必要がある。それはたとえば、アメリカと英国においてアメリカ英語、イギリス英語それぞれに対応したメッセージに変えるといった単純なものかもしれない。このような場合、翻訳サービス提供事業者(理想的には、現地ベースの事業者)と提携して、現地語のニュアンスを探り、その地域で最も効果的なコピーを考え出すべきである。

 

例えば、中国では、現地の消費者の信頼を得るためには、ローカライズされた言語でショッピング体験を提供することが必須条件となる。また同様に、カナダ人の60%は、(URLの最後が)“.ca”のウェブサイトを好むという。カナダの消費者に関しては、英語とフランス語の両方で現地の取引通貨と決済方法に対応する完全にローカライズされた体験を提供することが不可欠である。

 

現地企業との戦略的リレーションシップを確立するもう1つの利点は、販売業者が特定の市場の消費者の特色を理解できることである。たとえば、地元の専門家は、中国の「独身の日」や英国の「ボクシングデー(クリスマスの次の日のバーゲンデー)」、米国の「ブラックフライデー」などの、特別に売上が増加するバーゲンが行われる日に関するインサイトを提供することができる。つまり販売業者は、前もって消費者にリーチする戦略を立てることが可能になるのだ。現地特有のショッピングデーを活用することにより、販売業者は、現地市場での自社の地位を確立し、最終的には収益性の高い顧客基盤を構築することができるだろう。

 

国際間の販売規則を遵守するためには、販売地域に関するインサイトを得ることは極めて重要である。一般データ保護規制で定められているいかなる事項であっても、販売事業者は遵守を義務付けられ、非常に詳細な現地規則について深い知識を習得することが必須となる。それができなければ、販売業者は評判を落とすだけではなく、深刻な制裁金を課せられる可能性があるためだ。

 

事業者は、パーソナライゼーションへの取り組みと市場リサーチを実行するとともに、明確なデータポリシーを持つ必要がある。ブラジルインドをはじめとする多くの国が、間も無く施行予定の独自のデータ保護規制が採択されていることに留意しなければならない。

 

税の専門家になる

自国の歳入を増やし、また自国の販売業者との競争を平等化するために、越境販売事業者に対して関税を課す国が増えている。こうした「税務管理」は、国際間で製品とサービスを販売する際の複雑な課題の1つである。

 

特に、グローバル取引やショッピングカートの多様性を考慮した場合、税金を正確に計算することは非常に困難なプロセスとなる。グローバル取引では、税金を迅速かつ正確に計算し、高い顧客満足度を維持することが重要だ。

 

最近になって、米国最高裁判所は、時代遅れと捉えられている「消費税州法」の条項を撤廃するという判決を下した。The South Dakota 対 Wayfair 判決により、事業者が物理的にどこに拠点を置いているかにかかわらず、各州は、州外の小売業者に対しオンライン販売について売上税の徴収を義務付けられるようになったのだ。

 

企業は、米国の顧客に販売する場合に新しい税法の適用可能性を再検討する必要が生じている。これは、税金制度や法令に関する世界各国の特徴の1つにすぎないが、企業にとっては非常に大きな悩みの種となっている。

 

たとえばアルゼンチンは、最近になってeコマースに対して地方税を課することを決定した。こうしたことから、越境取引に影響を及ぼす新しい法律について常に注意を払い、リスクを軽減することは必須であることがわかる。

 

決済時の回避できる「認証拒否」を減らす

決済ルーティングや標準外の決済方法が原因となり、越境EC取引における決済時の「認証拒否」は、国内取引での拒否件数をかねてから大幅に上回っている。また、地域毎に固有の法律や規制が追加され、事業者が取り組まなければならない顕著な問題になっている。一方で、世界中の銀行と良好な関係を築き、不必要な支払い拒否を減少させることも重要だ。

 

国内規制や国の決済構造によって、認証が制限される可能性が生じている。実際米国では、国外とのeコマース取引の18%が認証拒否されているという。つまり、販売地域ごとに現地に最も適した決済オプションを提供することが重要なのだ。そうしなければ、多数の消費者は決済を完了することができないか、もしくは決済を中断するだろう。

 

各地域に適した決済方法を提供しない、また特に、買い物客が選択可能な複数の決済方法を提供しない場合は、未決済のままのショッピングカートの放棄が発生する。決済拒否率は、通貨に関する規制などの国内規則により、国外で発行されたクレジットカードにおいて高くなる傾向がある。

 

商品またはチェックアウトページに通貨オプションを提供する場合は、それが複数の通貨表示を必要とする場合であっても、適切な現地通貨を正しい形式で表示することが重要だ。たとえば多くのカナダ人が、外国である米国に住んでいる。したがって、米国で商品を販売する場合には、USドルとCAドルの両方の価格表示することは有益である。

 

複数の調査結果によると、eウォレットは今後数年以内に米国で人気の決済方法になり得るという話だ。なお、インド全域では、商品が自宅に配達された際に現金で代金を支払うことができる「現金代引決済払い」が最も一般的な支払い方法であるという。

 

またフランスも、決済方法に特徴がある。Carte-Blueをはじめとするクレジットカードとして使用できるデビットカードが一般的な決済方法なのだ。一方、ドイツの消費者は、現地銀行の口座引き落としによる支払いを好む傾向があるという。

 

前述のような各国に適した決済方法を提供できていないeコマースチャネルでは、カートの放棄率が高くなることが予想される。例えば、スペインで実施された調査によると、買い物客の41%が、利用したい決済方法を選択した際に手数料がかかる場合は、カートを放棄すると回答した。また、39%が、利用したい決済方法が提供されていない場合は、買い物をやめると回答している。

 

ユニークな顧客体験を提供する

事業者が、現地通貨対応や販売地域に適した決済方法オプション、そして現地の言語を用いてサービスを提供することで、自社が現地文化に対するより深い理解を持ち、シームレスで健全なeコマース取引を行うことができることを消費者に対して示すことができる。買い物客の期待に沿ったローカライズされた体験を提供することにより、初回の購入体験だけでなく、カスタマージャーニー全体にわたって顧客を満足させ、高いエンゲージメントを維持することができるだろう。

 

販売事業者は、会社のスローガンの延長として顧客体験を考えるべきである。チャネル間の一貫性を維持し、質の高いサポートサービスを提供、また消費者のショッピング習慣の一歩先を行くために、新しい技術を導入することにフォーカスしなければならない。

 

顧客体験に対するテクノロジーベースのアプローチを取ることは、全体的な顧客体験を向上させるだけでなく、自社をデジタルマーケットのリーダーとして位置付けることにもなるのだ。

 

強力なダイレクト・トゥー・カスタマー(自ら製造した商品を、中間業者などを介すことなく販売するビジネスモデルのこと。D2C)チャネルを構築するためには、各国の差異を理解することが不可欠である。SearsToys “R” Usといった米国大手小売が経営破綻する混迷の時代では、顧客との直接的な繋がりを確立することが重要だ。小売業者のみに依存するのではなく、D2Cアプローチを実行することにより、企業が顧客データと顧客体験を自社で完全にコントロールすることが可能となる。

 

自社単独で実行しない

複雑な税金およびコンプライアンス規制の問題を軽減し、販売国の特色を理解する現地の専門知識を習得したいと考える多くの企業にとって、金融債務責任者(MOR)や販売責任者(SOR)などのポジションに、サードパーティを採用することも有益だ。

 

パートナーシップを結ぶことにより、最終消費者との取引において未徴収または徴収漏れがあった税金についての監査リスクは、販売業者からサードパーティ業者にシフトする。国内のみ、国外のみ、またはその両方で販売を行うにおいても、サードパーティの専門家による最高水準のeコマースマネージメントサービスを利用すれば、企業は税務コンプライアンスとリスクから解放される。

 

一般的には、グローバルな事業拡大計画において、パートナーシップは非常に高い効果がある。現在のみでなく将来的な知識を有し、非常に早いスピードで変化するeコマース業界において、自社の成長を促進できる人材を探すことが重要だ。

 

現地の決済、コンプライアンス、税負担に関する業務をパートナーに任せることは、グローバル展開の成功につながる。これらすべての業務を社内で管理することは可能だが、確実に業務を実行できる人材を確保するためには高いコストがかかる。むしろ、「リスク」は社外にアウトソーシングし、社内チームは、優れた製品開発、顧客体験の向上、顧客理解を深めることに最善を尽くすべきである。

 

グローバルな成功を収めるために、販売業者は、ローカライゼーションにも取り組み、顧客が世界中のどこにいても、その期待に沿った馴染みのある顧客体験を提供しなければならない。かつてないほどの多くの買い物客が、国外の企業から商品を購入している現在、現地の言語や支払い方法、通貨に対応することは不可欠だ。そうすることにより、コンバージョン率と顧客満足度を向上させることができるのである。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の11/19公開の記事を翻訳・補足したものです。