即時配送とワンクリック注文の時代においては、たった1件の技術的不具合が、売上に悪影響を与える可能性がある。ホリデーシーズン中のサーバーダウンは、重大な問題となり得るのだ。

 

Targetの2019年の複数の技術的障害は、最も代表的な例である。今年9月にも、同社の店頭レジとオンラインサービスは、数時間ダウンしている。また、6月には、決済システムが1日以上ダウンした。

6月のシステムダウンによって、推定1億米ドルの売上損害が生じ、顧客にとって、そのショッピング体験は不満足なものとなった。このインシデント後、Targetの株式は2%下落している。

 

Targetのシステム停止は、消費者にも小売業者にとっても、特に珍しいことではなかった。過去3年間で、全世界のIT部門意思決定者のほぼ96%が、少なくとも1回の顧客に影響を及ぼすレベルのシステム停止を経験しているという。

昨年のサンクスギビングにおいても、J.Crew(米国アパレルブランド)、Ulta(米国美容用品チェーン)、および、Walmart(世界最大のスーパーマーケットチェーン)で、数分から数時間に及ぶシステム停止が発生していたのだ。

 

全従業員とサービスの一元化

社内的な従業員エクスペリエンスでいえば、システムダウン中、すべてのスタッフはプロダクションサーバにアクセスして顧客およびログ情報をチェックすることができない。これにより、従業員が、同じ問題に対して数百件のITチケットを送信する可能性が生じる。同時に、従業員はイライラした顧客とコミュニケーションをとり、通常のサービスがいつ復活するのかなどといった回答できない質問に対応しなければならなくなる。

 

小売業者は多くの場合、支払いと注文処理において自社内部システムのみに依存しているため、この規模のシステム停止は、ビジネス上大きな問題となる。フロントエンドチームとバックエンドチームの両方が事前に対策を講じていなければ、小売業者が、オンラインと実店舗のシステム間でコミュニケーションをとり、問題を迅速に解決することは困難である。そのため、小売ITチームに、問題を迅速に特定して解決し従業員をバックアップして業務を継続するためのツールを提供する、統合されたITサービス管理(ITSM)ソリューションを備えることが不可欠である。

 

ホリデーシーズンに向けて適切な準備をするために、小売業者は、IT部門と従業員と連携し、一元化された戦略を策定しなければならない。バックエンドでは、変更管理を容易に実行する堅牢なITSMソリューションによって、技術インフラストラクチャを積極的に制御して問題を防ぐことが可能である。

問題が発生した場合には、インシデントおよび問題管理プロセスが、システムを迅速にバックアップし稼働させるため、また、全従業員とのコミュニケーションを促進し組織全体が確実に連携するためのカギとなるのだ。

 

では、小売業者にとってITサービスマネジメント(ITSM)はどのように機能するのか?

小売業のシステムダウンが発生した場合の中心におかれるのは、ソフトウェアの不具合が発生している最前線で業務を行う顧客対応スタッフである。スタッフは、顧客から苦情をぶつけられるだけでなく、業務を行うために必要なテクノロジーを使用できなくる。その結果、発生した問題に関する数百または数千件のチケットがITサービスチームに送られる可能性がある。

 

半数以上の小売業者は、システム停止中に従業員の生産性が低下したと述べている。そのため、大規模な技術的不具合の際に、機会損失売上を回復し、従業員の生産性を維持することはほとんど不可能だと考えられるだろう。

複数の部門が関わる会社全体規模のシステムダウンの場合、チケットの処理、システムの再稼働、IT部門による問題修正時の従業員の生産性の維持はさらに困難となる。

 

技術的システム停止をより適切に処理するためには、すべての従業員と部門が、同一プラットフォームとサービスツールにアクセスできることが有効である。そして、ITモニタリングツールなどのビジネスクリティカルなアプリケーションをサービスデスクに統合することも必要である。

 

たとえば、ITモニタリングツールがITSMソリューションに統合されている場合、ネットワークまたはシステムがダウンしているというモニタリングアラートが、サービスデスクでチケットを自動的に送信するトリガーとなる。そして、ITサービスチームは、より広範なIT問題を即座に可視化し、迅速に解決することが可能となるのだ。

 

また、ITSMソリューションは、このようなインシデントに対処するITチームに、強力なテクノロジー・アセットデータを提供する。ITアセットマネジメントにより、IT部門は、従業員と企業が依存するテクノロジーアセットの検知、追跡、管理が可能となる。

 

インシデントが発生すると、IT部門は、影響を受けたアセットをインシデントに応じて調整し、特定のデバイスまたはソフトウェアで発生した問題のデジタルトレイルを作成することができる。これにより、問題が発生したデバイスを特定し、チームがテクノロジーのアップグレードと将来の問題発生防止の事前対策を講じるために必要なデータを収集することができる。

 

システムダウン中のコミュニケーションでは、従業員は、実際に何が起こっているのかわからない状態に置かれる可能性がある。サービスチームは、ITSMソリューションを使用し、企業全体のポータルアナウンスを通じて、問題の内容と対処方法を正確に伝えることができる。

 

スマートテクノロジーの活用

小売業者は、フロントエンドの従業員向けの新しいツールとスマートなポイントオブサービスシステムに投資すると同時に、バックエンド・システムを強化することも重要である。人工知能(AI)などのスマートテクノロジーによって、消費者向けのプロセスとエクスペリエンスを合理化できる。同様に、AIテクノロジーは、バックエンドスタッフとIT技術者の両方に利益をもたらす。

 

フロントラインで繰り返し発生する問題については、スタッフは、ITSMソリューションとそのサービスポータルを使用することにより、リソースにすばやくアクセスできる。スタッフが発生した問題について入力を開始すると、AIによって、関連するセルフサービスソリューションの記事、または、トラブルシューティングに必要なすべての関連詳細情報をITサポートに提供するためのサービスリクエストフォームに誘導される。

 

また、障害が発生した場合、チームはナレッジベースを通じて、その問題についてどのように顧客とコミュニケーションをとるべきかについて準備することができる。

 

IT技術者は、AIテクノロジーと自動化により、プロセスを大幅に合理化し、インシデントキューを整理し、ワンクリックソリューションにアクセスし、より大規模な問題の引き起こす可能性のある複数の関連インシデントを特定する。

 

技術的不具合が発生時には、解決速度アップとチケットの一元化に有効なスマートテクノロジーを活用することにより、ITチームはより迅速に、状況を回復しシステムを稼働させることができるだろう。

 

ビジネスクリティカルなツール、システム、およびアプリケーションをサービスデスクに接続することにより、ITチームは、組織全体に影響を与えるより広範な問題を適切に識別でき、主要な利害関係者や従業員とより効率的にコミュニケーションをとることができるのだ。

 

ITSMによるすべての統合

システム停止による損害を最小限に抑え、迅速かつ効率的に解決することは、小売業者にとっての課題である。昨年のブラックフライデーに発生した障害を経験し、小売業者は学んだと考えているかもしれないが、ホリデーシーズンのオンライントラフィックは、毎年増加している。

 

自社ウェブサイトがトラフィックの急激な増加に対処できると仮定し、明確な計画をたてることなくシステムをすぐにバックアップして稼働できる、と推測するだけでは不十分である。ほんの数分間のシステム停止でさえ、売上と顧客のロイヤルティ損失を急激に引き起こす可能性があるのだ。

 

今年のホリデーシーズンには、小売業者は、合理化したITサービスマネジメント戦略によって各部門を連携させ、潜在的なサービス停止を予測して解決する適切なツールを確実に装備する必要がある。

 

小売業者は、強力なITサービスマネジメントにより、組織内での効果的かつ統合されたコミュニケーションを開発し、サービス問題の解決を合理化することができる。IT技術者に、チケットを整理し、適切な担当者またはチームにチケットを送信するための最良のツールを提供することにより、サービス停止のより迅速かつ効率的な解決につながるだろう。

 

同時に、包括的なITSM戦略は、すべての従業員に対し、システム停止に対処するための最善のナレッジとリソースを提供し、1つのメッセージによって組織全体をまとめることができる。適切なソリューションと計画があれば、小売業者はこのホリデーシーズンに発生する可能性のあるサービスの停止に備えた準備を整えることが可能であろう。

 

※当記事は欧州メディア「Ecommerce News」の11/4公開の記事を翻訳・補足したものです。