加速するEC専業企業の実店舗展開が意味する「実店舗とECサイトの役割」
ECサイトで成功したEC専業企業が実店舗への展開を行うケースは以前から見られた。2010年に展開を開始したオイシックスを皮切りに、2014年には多くの企業が実店舗への展開を果たしている。オイシックスは既に首都圏近郊に25店舗に拡大、楽天の楽天カフェ、オーマイグラスは直営5店舗、@コスメも@コスメストア9店舗を運営中だ。そしてここにきて実店舗への展開の動きが再度加速してきているようだ。今回はここ最近に実店舗を展開した事例を見ていく。
Amazon Books
2015年11月、ネット通販大手のAmazonは本社のあるシアトルに初の実店舗となる「Amazon Books」をオープンした。
ワシントン大学近くの高級ショッピングモール内に作られたこの書店には、Amazon.comの顧客評価や専任のキュレーターによって選ばれた売れ筋の商品約5,000〜6,000冊が並ぶ。そのほとんどが、Amazon.com内の評価が4.0以上のものばかりだ。商品の前には、利用客がセレクトに困らないようにと、Amazon.comのカスタマーレビューと評価点が記載されたレビューカードが置かれている。Amazon Booksが通常の書店と異なる点は、電子書籍リーダー「Kindle」やタブレット「Fire」、AI接続スピーカー「Echo」といったアマゾン製電子機器の体験コーナーが設けられていること。また、Amazon.comのオンライン価格と値段を統一させている点だ。スマートフォンや、店内の至る所に設置されたプライスチェッカーで商品のバーコードをスキャンすると、アマゾンの販売価格と定価との差額が表示される。実店舗ではAmazon.comで購入された商品をユーザーに受け渡すサービスも始めており、配送にかかっていたコストの削減を見込んでいる。同社は今後実店舗をエコシステムの拠点として打ち出し、さらに300〜400店舗をアメリカ国内にオープンさせる予定だ。
ルクサ
2015年11月に渋谷モディ内にオープンした「Time mart(タイムマート)」は、タイムセールサイト「LUXA(ルクサ)」が働き盛りの世代に向けて展開する初のリアル店舗だ。
「healthy gift、healthy work」をコンセプトに、ティータイム、リラックスタイム、ワーキングタイムなど、さまざまなワークライフシーンに合わせた食料雑貨や生活雑貨などを販売。店頭にはギャラリーを併設し、新商品のサンプル展示や季節のトレンドを調べたデータの紹介、贈り物ガイドが登場するイベントの実施など、リアルな場を活かした取り組みも実施している。また、リアル店舗独自の商品を販売し、オンラインでの販売を視野に入れた商品のテストマーケティングも行う。同社は「Time mart」で展示や体験を通じてメーカーとユーザーの関係性をより強化し、商品力・販売力を高め、トレンド発信基地としての機能を強化する試みだ。
藤巻百貨店
元伊勢丹の名物バイヤーとして知られる故・藤巻幸大氏プロデュースによるECサイト「藤巻百貨店」も、2016年3月に初のリアル店舗を東急プラザ銀座にオープンした。
facebookファン約23万人、メルマガ会員は10万人を超える人気サイトが、「商品を実際に見てみたい」という顧客の声に応えた形だ。日本のいいものを厳選して販売するというコンセプトはそのままに、ECサイトで扱っている人気商品はもちろん、店舗限定のオリジナルアイテムも多数用意。また、店舗のオープンと同時にリニューアルした「藤巻百貨店アプリ」の会員情報をECサイトと店舗で連動させ、今後はさらなる顧客満足度の向上とオムニチャンネル化を推進していく。
STYLENANDA
韓国で絶大な人気を誇るウィメンズファッションブランド「STYLENANDA(スタイルナンダ)」が、2016年2月に伊勢丹新宿店に、3月に阪急うめだ店に日本初の常設店舗をオープンした。
2004年にオンラインショップから始まったSTYLENANDAは、さまざまなテイストのファッションアイテムや洋書など、幅広いカテゴリの商品を販売。現在はモノトーンカラーを基調としたKKXX、化粧品ブランドの3CEといったオリジナルブランドを主軸にセレクトアイテムも展開しており、アジアを中心に人気を博している。これまで同ブランドは、中国や香港、タイ、シンガポールなど、アジアを中心に実店舗も展開してきた。2015年10月に出店した日本初の期間限定ショップの売れ行きが好調で、さらに日本版オンラインサイトでも多くの会員数を抱えていたことから、今回日本への出店が決まった。ターゲットはECサイトと同様に18歳~35歳の女性で、アパレルの国内販売価格は5,000円~30,000円を予定している。
DHOLIC
韓国発のファッション通販サイト「DHOLIC(ディーホリック)」も、2015年9月に初のリアル店舗をルミネエスト新宿にオープンしている。
出典:DHOLIC公式ブログ
DHOLICでは20代の女性を中心に幅広い世代をターゲットにしており、ベーシックを基盤にトレンドを取り入れたリアルクローズを提案。ECサイト上で人気のウェアやシューズ、バッグ、アクセサリーといったアパレル全般を揃えるほか、リアルショップ限定アイテムの販売も行う。
その他の実店舗展開事例
DoCLASSE
2007年にカタログ通販から始まった40〜50代向けのファッションブランド「DoCLASSE(ドゥクラッセ)」は、以前から積極的に実店舗を展開してきたが、ここに来てその勢いが加速している。2011年にオープンした1号店のドゥクラッセ日比谷シャンテ店を今年3月にリニューアルし、さらに調布パルコ店、浦和パルコ店、アトレ吉祥寺店、たまプラーザテラス店の4店舗を相次いでオープン。2018年7月までに現在の22店舗から50店舗に、子会社として展開する婦人靴の「fitfit(フィットフィット)」も現在の35店舗から70店舗に拡大するとしている。
REVOLVE
2003年にローンチされたアメリカの会員制ECサイト「REVOLVE(リボルブ)」も、この4月にロサンゼルスに初の実店舗をオープンさせた。
「リヴォルブ・ソーシャル・クラブ」と名付けられた店舗は3フロアで構成されており、完全会員制の新しいショッピング体験を提供するというもの。オンラインではレディス&メンズのアメリカンラグジュアリーカジュアルを中心に500ブランドを取り扱っているが、実店舗では顧客のオンラインデータを元に厳選した商品が並ぶ。さらに通常の買い物だけでなく、セレブスタイリストによるVIP対応のスタイリングセッションやイベントなども予定しており、ここロサンゼルス店をミレニアル世代へのアピールの場と考えているようだ。
LaFabric
日本製のオーダーメイドスーツやシャツ、ジーンズなどをカスタムオーダーで手軽に購入できるメンズファッション通販サイト「LaFabric(ラファブリック)」も、今年初めに東京・渋谷に初の実店舗「La Fabric Real Store渋谷」をオープンした。
店内では、商品の生地サンプルを片手にコーディネーターと呼ばれる店舗スタッフが顧客1人ひとりに合った提案を行ったり、実際に商品を作っている工場の様子を壁面に投影するなど、リアル店舗ならではの試みも行っている。また、店内で採寸したデータはそのままクラウド上に保存されるため、次回の購入時には試着不要でオンラインで簡単に購入できるという。ただし、運営サイドは現段階ではあくまでECサイトを主力販売チャネルとしており、実店舗の展開については今後検討していく考えだ。
FELISSIOMO
通販大手の「FELISSIMO(フェリシモ)」も、2014年から実店舗の展開を始めている。通販商品のアウトレットセールという位置付けで、「FELISSIMO CircuS(フェリシモサーカス)」の名称で、埼玉のレイクタウンアウトレット店、栃木の那須ガーデンアウトレット店、東京のヴィーナスフォート店、三井アウトレットパークマリンピア神戸店を相次いで出店。2015年には、通販と同じ「FELISSIMO」の名を冠した初の常設店として「ららぽーとTOKYO-BAY店」をオープンさせた。同店では、主に30〜40代向けのレディースファッションに加え、生活雑貨、こども服など約400~450型を展開している。
実店舗とECサイトの役割
実店舗発の企業においてはEC化率という数値がKPIとして存在し、ECでの売上割合を拡大していく動きが顕著だ。しかし、既存店舗の売上を食っているだけ、従来の店舗志向の発想からの脱却が出来ないなどの理由でなかなかECサイトの市民権が(主に社内で)得られず、中途半端な取り組みとなるケースが未だに目立っている。
しかしEC専業企業においては、その発想は全くないと言ってもいいだろう。オンラインで得たブランド価値をリアル店舗での活動に活かして、それをさらにオンラインでの売上向上に繋げていっているのだ。実店舗展開を行っているうち、多くのケースでは実店舗をショールームとして位置付け、オンラインだけでは体験できないことを実店舗でユーザーに体験してもらう、という役割を明確に打ち出している事例が目立つ。
オンラインで成果を上げているEC専業企業からしたら実店舗展開は今のところ大きな問題が見当たらないため積極的に進出するべき、という流れが強くなっている。しかし、実店舗発の企業では、強みであった実店舗を活かしきれず、実店舗もECサイトも苦戦するという負のスパイラルに陥るケースが増えてきている。
もちろんECサイトとの相性の悪い商品を取り扱っている企業や、ECサイトの存在意義が薄い業態の企業も多いだろう。しかし他の多くのケースにおいては、EC専業企業が示しているように、実店舗志向に見切りを付け、オンラインでのブランディングに注力し、実店舗をショールーム的な位置付けとするような主従関係の入れ替えが必要となってきている時代が来ているのではないだろうか。