時代の寵児だったオムニチャネルの今までとこれから - オムニチャネルは次のステージへ
オムニチャネルがEC業界の救世主のように取り上げられたのはかれこれ3年ほど前のことだっただろうか。米国では小売業を中心に10年ほど前からとられていた戦略が上陸したのだ。そしてこれからはオムニチャネルでオンラインとオフラインの垣根がなくなっていくと、誰もが「漠然」とイメージしたものだ。しかしそれから数年、EC業界では「そこそこの」オムニチャネル取り組み事例は耳にするものの、オムニチャネルによって何かが劇的に変わったような事例は聞かず、ここ1~2年は少し鳴りを潜めていた。しかしここにきて、再びオムニチャネル取り組みの声がそこかしこで上がりだしてきた。今回は、そのオムニチャネルの今までとこれからを考えていきたい。
<参考>
そもそもオムニチャネルとO2Oって何が違うのか
オムニチャネルについて語る前に、よく似た定義として取り扱われる「O2O」との違いについて整理しておく。
O2OとはOnline to Offlineの略で、オンライン(ネット上)からオフライン(実店舗)への誘導を促したり、オンラインで得た情報がオフラインでの購買行動に影響を与えるような施策のことを指す。例えば、実店舗を持つ飲食店がぐるなびなどのネット上で割引クーポンを発行し、消費者はそれを手に入れたことによって来店するという流れがO2Oだ。それに対してオムニチャネルは、実店舗やオンラインショッピングなど、スマートフォンやタブレット端末の普及によって多様化した販売チャネルや流通網を一元化し、すべての販売チャネルからいつでもどこでも同じように商品購買を可能にすることを指す。
そのため、簡単にいうなれば、O2Oはオムニチャネルの一部の取り組みで、そのユーザーのベクトルは一方向だけを向いているもの、と考えることができるだろう。
オムニチャネルの今まで
ここで、これまで注目を集めてきたいくつかの企業のオムニチャネル施策を振り返ってみよう。
無印良品を運営する良品計画では、2013年5月に「MUJI passport」というアプリをスタート。
全国の店舗やECサイトでのショッピング、店舗への来店時にチェックインすることでポイントが貯まる「MUJIマイル」や、欲しい商品の店舗在庫を確認できる「ショッピングガイド機能」などを搭載し、いつでもどこでも便利にお得に買い物ができることをアピールした。結果、来店客の2割がこの「MUJI passport」を提示するようになったそうだ。
また、2014年夏にオムニチャネル化に乗り出したトイザらスでは、自社のECサイトを全面刷新し、ポイント連動のほかに新機能をいくつか追加した。
実店舗で取り扱いがない場合や商品の欠品時に実店舗からECに注文できる「ストア・オーダー・システム」の導入や、出産や育児に役立つ情報をWeb上で紹介する「アドバイザリーページ」などの新設がその一例だ。同社では、ECで注文した商品を実店舗で受け取る「イン・ストア・ピックアップ」などの仕組みもすでに取り入れており、これによって一気にオムニチャネル化が加速したと言えるだろう。
一方、全国で大型書店を展開する丸善&ジュンク堂書店では、2013年5月にECサイトをリニューアルし、以来2年間でネットショップの売り上げを2倍にした。
その勝因は大きく分けて2つある。1つは、ECサイト上でユーザーが取り置きできるシステムを構築したこと。予約から1時間後には取り置き完了メールが届き、確実に受け取れる仕組みだ。これにより、書店に来る取り置き依頼の電話対応を省けたことも同社にとってはメリットだった。また、日本一在庫を所有する同社ならではの施策として注目を集めたのが、たとえ絶版になった書籍でもとことん探して提供するというサービスだ。ユーザーからの注文を元に全国の丸善&ジュンク堂書店を徹底的に探し、出版社でも在庫を抱えていないような希少な書籍も見つけ出す。これにより、丸善&ジュンク堂書店は本好きのユーザーの心をガッチリ掴んだ。
また大丸松坂屋などの百貨店などもソーシャルギフト「okurune」などを活用した取り組みを積極的に行っている。しかし一方で米国の大手百貨店メイシーズではオムニチャネル施策の失敗が原因で不採算の40店舗を閉鎖すると発表するなど各社ともバラ色の施策だけとはいえない部分も内包しているようだ。
<参考>
百貨店ECサイトのオムニチャネル化への挑戦 - 店頭依存型の商習慣からの脱却で未来を勝ち取れるか
「オムニチャネル化 or 死」の時代に直面しているコンビニエンスストアのECサイト
ソーシャルギフトはO2Oマーケティングに革命を起こせるのか (後編・国内) - giftee、okurune
オムニチャネルの今
それでは、ここ最近のオムニチャネルの事例を見ていこう。
セブン&アイ
今年11月1日に鳴り物入りでサービスを開始したのが、セブン&アイ・ホールディングスのグループ横断ECサイト「omni7(オムニセブン)」だ。
西武、そごう、イトーヨーカドー、アカチャンホンポ、ロフトなどの商品が同一サイト上で購入可能で、現時点では約180万品目を揃える。最大の特徴は、全国約1万8000店のセブン‐イレブンで送料無料で商品が受け取れる点だ(一部商品を除く)。他にも、購入商品をセブン‐イレブンの店舗で返品・返金できるサービスや、注文した日に店舗で受け取れる「お急ぎ受取りサービス」を関東の約7,000店で提供する。さらに店舗にタブレット型の専用端末を設置し、店舗にない商品の注文や宅配時の御用聞きなども行い、リアル店舗との連携を強化していく方針だ。今後は2018年度に約600万品目を揃え、1兆円の売上を目指す。
ユニクロ
今年6月、ユニクロなど取り扱うファーストリテイリングは、コンサル大手のアクセンチュアとオムニチャネル化に向けて協業すると発表した。
まずは、これまでオンライン店舗のみで収集してきた顧客の購買データを実店舗でも得るため、会員制度を導入すると発表。これにより、1人1人の要望に合った商品提案が可能になるほか、顧客の声を製品開発や在庫管理などにもフィードバックできるようになる。今後はこれらのオムニチャネルを軸に、より消費者のニーズに合ったサービスを提供していく考えだ。
ポンパレ
リクルートライフスタイルは11月4日、同社が運営するオンラインショッピングモール「ポンパレモール」と、来店するごとにリクルートポイントが貯まるスマートフォン向けO2Oアプリ「ショプリエ」を使ってオムニチャネル施策を行うと発表した。
その第一弾として実施されたのが、あべのハルカスの近鉄百貨店にショプリエでチェックインしたユーザーに対し、ポンパレモールのプレゼント応募キャンペーンのページを案内したり、近鉄百貨店ポンパレモール店のお得情報を送付するというもの。今後はプレゼントだけでなく、チェックインした店舗で使えるクーポンなども活用し、出来るだけ店舗に負担がかからない形でオムニチャネル施策を導入できるように取り組んでいく予定だ。
高島屋とオンワード
高島屋とオンワードホールディングスも、今年9月からオムニチャネル戦略において連携を始めている。
第一弾として、高島屋新宿店と高島屋横浜店の「23区」「組曲」「ICB」「自由区」「J.プレス(ウィメンズ)」の5ブランドを対象にサービスを開始。販売員がタブレット端末を用いてコーディネートの提案をするほか、店頭で欠品している商品については、高島屋グループが運営するECサイト「セレクトスクエア」での購入を勧める。これまで希望のサイズや色が店頭になく、購入を諦めていた顧客への売り逃しを防止する考えだ。なお、オンラインショップにのみ希望商品の在庫がある場合は、自宅への配送も行う。2016年春以降、他の高島屋店舗にも拡大していく。
スタートトゥデイとLINE
スタートトゥデイとLINEは、スタートトゥデイが自社開発したボタン型ビーコンとLINEアカウントを連携させた「アパレル店舗向けのビーコン活用サービス」を2016年春から提供する。
その仕組みは非常にシンプルで、店舗に来店したユーザーが商品に取り付けられたボタン型ビーコンを押すと、LINEアカウントを経由して商品や店舗情報が直接ユーザーのスマートフォンに届くというもの。これにより、ユーザーは興味のある商品情報を手軽に受け取ることが可能となる。これはZOZOTOWNのWEARが2年前に導入して半年で停止に追い込まれた「バーコードスキャン」機能のリベンジ的サービスといえよう。
<参考>
ZOZOTOWNの新アプリ“WEAR”で、狙い通りアパレルECにおける店舗のショールーミング化は進むのか
オムニチャネルは次のステージへ
従来のオムニチャネルは店頭での商品の取り置き(≒在庫連動)とポイント連動(≒ユーザーDBの統合)がメインであった。どちらかというと企業側の業務システムの効率化のためのデータ統合の一端としてオムニチャネルという形で、そこまでユーザーへの真新しさがなく、それほど必要性に欠ける施策が提供されてきた。しかしこれからは、これらのデータ統合が大前提となった上で、それを活用して本当に消費者の求める、かゆいところに手が届くような施策への落とし込みが本格的にはじまるステージにきているのではないだろうか。また1社だけでの取り組みという時代から異なる強みやチャネルを持つ企業連合での取り組みという形への拡張も始まってきている。
次のステージに入った感のあるオムニチャネル。今後の取り組みに期待したい。