消費者の共感を獲得した欧州発のキャンペーンは、ホリデーシーズン中だけでなくそれ以降も、世界中のマーケターが参考にするべきものである。

最近、ブランドが「共感」を示すことが重要だということは頻繁に言われている。つまり、消費者との「人間的なコネクション」を確立する必要があるということだ。それはいつの時代も言えることであるが、企業に対する消費者の信頼が、歴史的に見て最低水準となっている現状では、さらに重要となっている。消費者の信頼を獲得することは、ブランド構築の不可欠な要素なのだ。それは、消費者の3人に1人以上が、特定の小売事業者で買い物をする主な理由トップ3の中に、「ブランドへの信頼」をあげていることからもわかる。

 

ホリデーシーズンは、ブランドの人間的な側面を表現できる絶好の機会だ。ブランディングに関してアメリカの大手企業は、スーパーボウルシーズンにフォーカスする傾向にある。反対に、長年の間、大西洋の反対側の英国では、ブランディングに関してクリスマスキャンペーンが最も重要な時期であると考えられてきた。共感と信頼がブランディングを成功させるカギとなっている現在、米国のマーケターは、取引上のメリットを強調するのではなく、より感情に働きかけるべく、ホリデーシーズン戦略を再考するべきなのである。

 

確かに、米国の大手ブランドのうち数社は、ホリデーシーズン中に消費者の人間性に訴えるキャンペーンを習慣的に行っている。例えば、Lexusの「December to Remember(思い出に残る12月)」というタグラインは、アメリカ人の共感を得ている数少ないキャンペーンと言えよう。実際にLexusは、ホリデーシーズン中の自動車ブランド認知度において上位にランキングされている。またBudweiserは、クリスマス広告にクライズデール(スコットランド原産の馬の一品種)を常に登場させている。そしてCoca-Colaは、ホリデー気分を演出するために、何十年もの間サンタクロースをロゴの一部に取り入れている

 

より多くの米国マーケターは、このようなホリデーシーズン戦略を取り入れ、チャンスを活かすべきである。このことを念頭に置きながら欧州発の3つのキャンペーンを紹介しよう。これらは世界中のマーケターにとって、ホリデーシーズン中、およびその後にも、より共感を得るストーリーを提供するための参考になるはずである。

 

涙を誘うストーリー

「Love Is A Gift(愛は贈り物)」というタイトルの動画は、何百万人もの人々の涙を誘った。それは、若い男性の12月1日から25日までを記録している。彼は、まるでサンタクロースがやっていることを楽しみに待つ小学生のように、毎日、台所のカレンダーの日付に印をつけている。彼が楽しみにしているのは、13年前に録音されたオーディオカセットテープから聞こえてくる亡くなった母親のメッセージを聞くことだった。この動画は、末期的な病気にかかった母親が、“Puppet”と呼んでいたChrisという名の息子のために、毎年クリスマスの朝に聴くための13本の音声メッセージを録音しているという物語である。それは、ゆっくりとした展開のストーリーだが、感情を揺さぶられる結末を迎える。

 

広告主はどのブランドだろうか?それは、Phil Beastallという映像作家であった。この動画は2014年に制作されたものだが、今年のホリデーシーズンに口コミで広がった。制作費はたったの65ドル。非常にクリエイティブなストーリーであり、最近の記憶に残る優れたB2B広告の1つとでも言えよう。Beastall氏のこの2分27秒の動画は、ソーシャルメディア上で1,200万ビューを獲得した。そしてこの数週間、Beastall氏にはマーケターからの電話がひっきりなしにかかってきているであろう。

 

エピックストーリー

ノルウェーの電化製品小売業者であるElkjøpは、ある女の子とその家族のクリスマスストーリーを公開した。女の子は親戚の老人1人に会ったが、最初は怖いという印象を持っていた。しかし、女の子と老人は、空を飛ぶことへの強い思いを共有できるとわかり、徐々に心を通わせるようになる。これは「語るのではなく、見せる」タイプの物語であり、多くの点が曖昧なままである。セリフはなく、ほんのわずかなナレーションが入るだけなので、不可解な感じさえする。「To give more(多くを与えること)」というタイトルのこの4分間の動画は、広告基準で考えると叙事詩的な映画のようである。Elkjøpのように、ホリデーシーズンにまつわる深いテーマを捉えたブランドは、消費者の心の琴線に触れることができ、ブランドの人間らしさを強調することができた。このキャンペーンは多数の消費者向け、もしくは広告業界向けの出版物に取り上げられ、広告動画ブログだけで数十万ビューを獲得した。

 

エルトン・ジョン

英国に話は戻るが、百貨店チェーンのJohn Lewis&PartnersのTVスポットでは、ポップミュージックのアイコン的存在であるElton Johnの人生が、現在から過去に遡って再現された。エンディングは、まだ少年だった彼が母親からアップライトピアノを送られる感動的な場面だった。2分30秒の動画は、「Sometimes a gift is more than a gift (時として、贈り物にはそれ以上の価値がある)」というタグラインで終わる。

 

この広告は、Elton Johnと、ホリデーシーズン広告で長年成功を収めているJohn Lewisにとって、「Top of the Pops」(英国BBC放送による番組)における“ヒット曲”のようなものである。他の例と同様にJohn Lewisは、小説に似たストーリーテリングアプローチを採用し、ホリデーシーズンに再会する家族の深い絆を祝福している。それ以上に人間的なものは存在しない。英国内で高級デパートチェーンを展開しているJohn Lewisブランドは、この動画で、ソーシャルメディアチャネルにおいて少なくとも2,500万ビューを獲得した。

 

「共感」のシーズン

紹介した動画が獲得したビュー数からも、「ホリデーシーズンにブランドが人間味のある側面を見せれば、消費者が反応する」ということは明らかである。ブランドから人間らしさが感じられれば、顧客との関係性を築き、信頼を生み出すことができる。そして、最重要かつ最終的な目的がROI(利益投資率)の向上であっても、アメリカ人の半数近く(47%)が、ホリデーシーズンの買い物情報をテレビ広告から得ていることを忘れてはならない。テレビスポット広告は、ソーシャルネットワーク上で何百万人ものユーザーにシェアされ、さらに影響力が大きくなっているのだ。

 

Beastallの短編動画が示したように、B2B向けのクリエイティブを売っていようが、高級服を売っていようが、扱う商品は大きな問題ではないのだ。ホリデーシーズンは、マーケターが自身の人間性を表現すべき絶好の機会なのである。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の12/24公開の記事を翻訳・補足したものです。