本気になったYahoo!ショッピング

 

10/7に発表されたYahoo!のEC領域の待望の新戦略。従来型モールでは当然とされていた、出店者側からの課金を一切排除するという大きな転換が示されました。

他のサービス領域では、シェアを多く持つYahoo!ですが、ショッピング事業については、いわゆる“負け組み”のポジションに甘んじていました。そのYahoo!がいよいよ本気でeコマース事業のシェアを奪いにきたと言えるでしょう。

これにより、国内のeコマースの市場環境、そして楽天Amazonの2強だった国内のモールのシェアはどのように変わる可能性があるのか占ってみました。

 

 

“無料と自由”の影響とは?

 

今回の新戦略のキーワードは“無料と自由”です。まずは先日発表のあった新戦略をまとめてみます。

  • Yahoo!ショッピングへのストア出店料無料化(初期費用・月額が無料に)
  • ストアの売上げロイヤリティが無料化
  • メルマガ配信の無料化
  • 外部リンクの自由化
  • 個人出店の自由化

この新戦略でYahoo!は楽天、Amazonという大手2強とは大きくことなる方向へ舵をとりました。3社それぞれの出店料を下記にまとめてみました。

 

国内EC3大モール 楽天・Amazon・Yahoo!ショッピングの手数料比較

 

各社料金体系が異なるため純粋な比較は難しいですが、この表からだけでも無料というインパクトはかなり大きいと言えます。料金の無料化と個人出店の自由化により、出店する際のハードルが大きく下がるため、個人の出店が増加することが見込まれます。

楽天においても有料となっているメルマガの無料化も出店者にとっては非常に助かる施策です。

外部リンクの自由化は、独自ドメインのショップを持っている事業者からすると、Yahoo!ショッピング経由で利益率の良い自社ドメインのショップに誘導できる可能性がでてくるため、魅力的だと言えるでしょう。

一方で、集客のためのアフィリエイト手数料、そしてクレジット決済手数料は有料のままとなります。

では、Yahoo!の新戦略の目的はどこにあるのでしょうか?

 

 

Yahoo!の狙いとは?

 

従来のYahoo!ショッピングは、大手モールでは最も重要となってくる集客力が弱く、固定費もかかり、自由度もデザイン性も秀でていないため、出店数が伸び悩んでいました。

そのため店舗数・商品数で楽天・Amazonに劣るため、買い手側からするとYahoo! ショッピングを利用するメリットはあまり見当たりません。

出店する必然性もなければ、そこで購入する理由もないという状態が続き、シェアにおいては、他の大手モールに大きく溝を開けられていました。

 

国内EC3大モール 楽天・Amazon・Yahoo!ショッピングのシェア比較

 

このような状況を打破するため、今回の新戦略の狙いは、出店店舗数をまずは増加させることを第一義に考えているのは間違いないでしょう。翌日の発表でも既に法人・個人合わせて26,000店舗の新規申し込みがあったことが報告されており、最初の一歩はかなり順調に滑り出しているようです。

その後は、無料化と自由化⇒店舗数の増加⇒買い手の増加⇒売上の増加、というサイクルを描いていると思われます。

また、当面は大幅な減収となるものの、Yahoo! 内部でのアフィリエイトによる収入増から収益面での建て直しを図ろうとの意図もあるようです。

しかし、そのような小さな皮算用ではなく、最終的な狙いは、店舗数をNO1にし、国内のネットショッピングの総本山とすることでメディア化、ソーシャル化を目指しているように思えてなりません。

YouTubeにはじまり、FacebookやLINEなどのBtoCサービスが取ってきた戦略と同じく、その業界のデファクトスタンダードになれば、収益源はいくらでも後から考えられる、といったところではないでしょうか。

 

 

いくつかの懸念材料も

 

今回の発表を穿って見ると、お客さんがお店に来なくていいなら無料でお店を開店してください、お客さんが購入しなければお金を取らないので沢山の商品を陳列してください、というメッセージにも受取れます。

その結果、既存の店舗はもとより出店した店舗間の競争は非常に熾烈になり、多額の広告費を投じないと集客出来ない、という状況が最も懸念されます。

その他にも、無料になったメルマガの乱発で開封率・メールコンバージョンの更なる低下、出店数を増やして露出を増やそうとする悪徳業者によるコピー店舗の乱立、開店の敷居が低くなったことによる店舗の信頼性の低下などが想定できます。

またYahoo!側の運営が回らず、店舗の管理機能、ショップのデザイン性などの改善が後回しになれば、効率的に売上を上げていくことは出来ず、従来の課題を抱えたままということとなってしまうことも考えられます。

ここで挙げた懸念の多くは運用ルールでカバーできるものの、集客と売上向上については改善されなければ、買い手の増加⇒売上の増加のサイクルが回らず、多くの出店者、消費者を失望させることになるでしょう。

 

 

Yahoo!ショッピングは楽天を超えることが出来るのか?

 

Yahoo!ショッピングは、楽天・Amazonの従来型モールから、BASEStores.jpに代表される新世代型モールへ歩み寄ったといえます。

国内の主要ECモール・ASPマップ

 

これまで無料化路線をとっていたStores.jpやBASEにとってYahoo!は大きな脅威となることは間違いありません。また、大口から個人まで幅広く抑えられるYahoo!は新たな領域を開拓したと言えるでしょう。

そして楽天は従来の戦略の大幅な再検討を余儀なくされる可能性もあるでしょう。

しかし、店舗数が拡大したからといって、すぐにYahoo!ショッピングが楽天やAmazonを脅かすような存在になることはないでしょう。楽天には楽天ポイントをたくさん抱えた多くの消費者がいますし、ネットショッピングをするときにまずは楽天から検索する、という行動パターンをなかなか変えることは難しいでしょう。

また、一時的とはいえ、比較的健闘してきていたYahoo!ショッピングの店舗あたりの月商は大幅に落ち込むことは確実です。

市場には、ZOZOOh My Glassesのような商材特化型のECサイト、gifteeOrigamiのようにECという形態の枠を超えようとする売り方を行う新サービスの勃興も絶え間なくあるため、常に全ての消費者が満足するようなモールを提供することは不可能です。

出店数が激増したYahoo!ショッピングが、旧来的なデザインテンプレートを一新し、格段に購入が心地よくなる世界観を提供し、手数料の浮いた分を商品代金から割引くショップの優遇などの、買い手を集める施策を行えるかが次のステップへの重要な足がかりとなるでしょう。

例えばショッピングサイトのAPIを公開し、Yahoo!クラウドソーシングなどを活用し、ワーカーに成果報酬型でのテンプレート開発などを行う仕組み作りも面白いのではないでしょうか。

Yahoo! ショッピングが店舗数を増やすだけでなく、買い手の増加につながる効果的な施策を打つことができた時に、業界シェアが大きく動くのかもしれません。

 

 

Yahoo!ショッピングが手数料の無料化を発表した翌日、AmazonはAmazon外でもAmazonの決済サービスを利用できる仕組みの提供を開始しました(INTERNET Watch記事)。

Yahoo!は店舗数の拡大を命題に掲げ、Amazonは外の店舗へのサービスの浸透を狙っているといえます。

次から次に新しいサービスが立ち上がり、大手もどんどん前へ進み続けるeコマース業界。これからも大きなうねりにどのように乗っていくべきか頭を悩ませる日々が続きそうです。

 

 

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