B2B製品の利用をやめる可能性が高い6つの人物像とその人たちの扱い方についての解説

 

2024年8月17日、米国に本社を置きIDデータ検証機能を提供するRetention.comのCEOであるAdam Robinson氏は、LinkedIn(米国に本社を置くビジネス特化型SNS)にここ数年ですっかり定番となった内容を投稿した。おなじみの「Retention.comはスタッフを解雇せざるを得なかった」という内容である。今回は人員の40%にあたる15人を解雇したという。

 

こういった投稿にさまざまな感情が寄せられることは理解できる。この不運な人員削減について、Robinson氏を批判するためにこの話を持ち出したのではない。Robinson氏は、それまでの多くの人たちと同じように、この機会を利用して、Retention.comの経営者として犯した過ちについて語った。



同氏は、人員削減の理由について、年間経常収益(ARR)から効率化の重視に切り替える必要があるため、と述べている。

 

一番の原因は、同社製品の解約率である。Retention.comは、グローバルECプラットフォームであるShopify(本社カナダ)を利用しているオンライン小売業者向けに、休眠顧客や放棄されたショッピングカートから再度エンゲージメントを得られるよう支援している。Robinson氏は、この解約の問題を「解約率の高いバイヤーペルソナと、解約率の高い製品カテゴリ」が原因だと説明した。

 


解約が多い製品の傾向について説明しよう。それは、比較的安価で導入しやすく、プロジェクトベースのツールや競合他社が比較的簡単に真似しやすい製品である。

 

しかし、解約が多いペルソナについてはあまり分かっていない。そこで、その正体と、マーケターがその影響を軽減する方法を調べてみた。

 

マーケターが注視すべき6つの高解約率のペルソナ

解約率が高いペルソナは少なくとも6つ存在し、マーケターと営業チームは注意深く観察する必要がある。

 

短期のプロジェクトマネージャーまたはコンサルタント

プロジェクトベースの仕事は永遠に続くものではないはずだ。プロジェクトを完了させるために召集されたコンサルタントやプロジェクトマネージャーは、プロジェクト遂行のためにツールを必要とし、購入することはよくある。しかし、プロジェクトが完了すると、その人たちはいなくなってしまうことが多い。つまり、そのツールが不要になった、あるいはそのチャンピオン(顧客側のサービス導入推進担当者)がいなくなったという理由で、解約される可能性が高まるということだ。

 

このリスクは、元の製品の役割を超えてその製品の価値を提供し続ける保証をすることで、軽減できる。また、新たなチャンピオンを発見することもよいだろう。コンサルタントやプロジェクトマネージャーが異動しても、たいてい誰かはプロジェクトに残るものだ。その人物を特定し、関係を構築することが重要である。

 

コスト重視の意思決定者

他の多くの販売方法と同様に、技術の一部の分野でも価格競争が存在している。製品が提供する価値よりも低価格を優先するリーダーは、常に存在する。このペルソナは、より低価格のプロバイダがあれば乗り換える可能性が高いため、解約率が高いのだ。

 

Robinson氏は、競合他社がRetention.comの分野に進出してきていることについて語った。企業が顧客基盤を築こうとするとき、しばしば既存のプレイヤーより低価格に設定することがある。必ずしも持続可能な戦略ではないが、大手企業であればそれほど問題ではない範囲であろう。

 

コスト重視の意思決定者に対する対抗手段は、価値と投資収益率(ROI)を強調することである。段階的な価格設定は、コスト意識の高いバイヤーに対応するのに役立つ。それはまた、経営状況が好転したり、新しい意思決定者が組織に加わったりしたときに、彼らが支出を増やすという選択肢も生まれるものだ。

 

大きな期待を寄せる早期導入者

マーテック市場の黎明期を思い返してほしい。何千ものアプリケーションがあり、マーケターには潤沢な予算があった。それには無限の可能性があると思えた。誰もが新しいテクノロジーを積極的に採用し、そのテクノロジーによって何ができるかに大きな期待を寄せていたのだ。これが、米国に本社を置くリサーチ・アドバイザリー企業であるGartnerハイプ・サイクル(テクノロジーとアプリケーションが誇大広告なのか、実用的なものなのか、実際のビジネス課題の解決や新たな機会の開拓にどの程度関連する可能性があるかを図示したもの)に他ならない。やがて現実に直面することになる。

 

大きな期待を寄せる早期導入者は、製品が期待はずれであれば失望し、結果、解約する可能性が高くなる。

 

こうした期待値を管理し、製品の機能やロードマップについて顧客と明確にコミュニケーションをとることで、このリスクを軽減することができる。もちろん、大きな期待を寄せる顧客に対しては、卓越したカスタマーサポートを提供することが必要である。

 

無料体験ユーザー

多くのベンダーが製品主導型成長(PLG)戦略を採用しているある一定の技術カテゴリがある。たとえば、プロジェクト管理ツールが思い浮かぶ。もしあなたが私のような人なら、おそらく世の中に出回っている多くのプロジェクト管理ツールを使ったことがあるだろう。なぜなら、マーケティング部門は、ベンダーの無料体験を期限が切れるまで使い、他のツールに乗り換えるということをしがちだからだ。

 

無料体験ユーザーを有料顧客へと転換できない理由には、次のようなものがある。

・無料トライアルの機能で十分

・有料サブスクリプションに移行する予算がない

・同カテゴリの類似商品との差別化が不十分

 

こうした無料ユーザーの解約率は、無料トライアル体験を最適化することで軽減することができる。それには、有料版へのアップグレードのための明確な価値提案が必要である。無料トライアルユーザーにインセンティブを与えたり動機付けをしたりすることで、コンバージョンを促すこともできるだろう。

 

大きな変化を経験している企業

合併や買収、組織の再編成、再構築は、すべて変化につながるものだ。人材や優先事項、予算などは、テクノロジーツールの必要性や好みと同様に変化していくものである。

主な利害関係者と強固な関係を築くことで、このような状況にある企業のリスクを軽減することができる。柔軟な契約条件と、先を見越したサポートも有効であろう。

 

不満のある顧客

高解約率のペルソナの中で最も多いのは、製品に満足していない人だろう。それは製品自体の問題かもしれない。あるいは彼らが受けた(あるいは受けなかった)サポートの問題かもしれない。多くの場合は、その両方である。

このような経験から積みあがっていく不満は、しばしば解約につながるものだ。

 

この場合の軽減策は、主にカスタマーサクセス(顧客の成功体験のために能動的にかかわること)とサポートである。ここでの担当者は、積極的に行動し、顧客からの積極的なフィードバックを求める必要がある。

 

結論

このような解約率の高い人物像が顧客にいるようであれば、その扱いには注意が必要である。これはマーケティングだけの仕事ではない。営業やカスタマーサクセスを含む、収益組織全体が関わってくる問題なのだ。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の8/19公開の記事を翻訳・補足したものです。