B2Bによる需要喚起だけではもはや十分ではない。成長を実現するには、顧客のライフサイクルを全体的に見なければならない。

 

約12年前、私はあるクライアントと会い、顧客獲得のアプローチについて話をした。ホワイトボードに図があり、壁には取り組みが貼られ、戦略についてディスカッションが行われていた。会議が始まって間もない時、一人のディレクターが「顧客のマーケティングだけに集中すれば、目標を大きく上回るだろう」と言った。

 

さらに「もし、単純に顧客ベースの10%を更新できたとしたら、今年は4,000万ドルの増収を見込めるだろう」と続けた。彼は下調べをしており、部屋にいる全員の関心を集めた。

 

壊滅状態のデータ

彼の分析は正しかったが、顧客ベースに注目する際の最大の障害は、顧客データの状態だった。控え目に言っても、自分たちが認めているように、それはひどい状態だった。彼の指摘はもっともだった。重要な要素である新規顧客の獲得に集中することも必要だが、現在の顧客ベースにマーケティングを集中した方が、より大きなチャンスになる。

 

そして、「顧客のライフサイクル全体にわたって、顧客エンゲージメントを獲得する」ことに、多くのマーケターが苦労するのを見てきた。最高マーケティング責任者と話をすると、新規顧客獲得の意味合いでの需要創出のみに焦点を当てていることが多い。

 

彼らは、顧客生涯価値(CLV)を最大化することを見失っている。これは、カスタマージャーニーのすべてのステージで関係を築き、最初の購入後も、関係を育て続けなければ実現できないことなのだ(注:顧客のライフサイクル全体を通してのエンゲージメントは、実際には顧客が何かを購入する前から始まっている)。

 

「顧客ライフサイクル」を定義する

顧客ライフサイクルについて書かれたものは多く、多数のマーケターがライフサイクルの一部であるさまざまなステージを記録している。私は自身のもの(下の画像に表されているもの)をクライアントに使っている。

 

 

顧客を引き付け、育て、コンバージョンさせ、維持し、成長させるためには、すべてのステージで集中的な取り組みが必要であり、それにはマーケティング、セールス、カスタマーサクセス(顧客が商品やサービスを購入した後も能動的に顧客にアプローチし、問題や課題があれば解決する)、カスタマーサポートの一体化が必要である。

 

カスタマージャーニーオーケストレーション

私は、カスタマージャーニーオーケストレーションへのアプローチを開発し、実施するために、クライアントと多くの時間を過ごしてきた(私は「ライフサイクル」より「ジャーニー」という言葉を好んで使っている。「ライフサイクル」には終わりがあることを意味することから、顧客に対して使うものではないと考えている)。ジャーニーのオーケストレーションについて、見込み客やクライアントと話すと、すぐにテクノロジーの話になる。

 

私は、テクノロジーは大好きだが、それは戦略ではなく、エンドツーエンドの顧客エンゲージメントに近づけるものではない。テクノロジーの役割は、オーケストレーション戦略を実現する、ただそれだけである。カスタマージャーニーエンゲージメント戦略が明確になるまで、これ以上のテクノロジーに投資するべきではない。

 

では、カスタマージャーニーオーケストレーションがテクノロジーの組み合わせでないとしたら、それは何なのだろうか。私が使っている定義を次に示そう。

 

・「カスタマージャーニーオーケストレーション」とは、カスタマージャーニーのあらゆるステージで有意義な顧客エンゲージメントをもたらすために、注意深く定義された戦略である。この戦略を実現するのが「テクノロジー」である。

 

今度は気持ちを込めて

先ほどの私の定義のキーワードは「有意義」である。B2Bでは、アカウントのマーケティング、販売、サポートをしているわけではないという事実を見失いがちだ。我々は人々と協力し、それぞれのジャーニーのあらゆるステージで素晴らしい体験を望んでいる。私たちは消費生活においてこれを求めており、素晴らしい体験を求める人間の欲求は、それがB2Bの状況にあるからといって消えるものではない。

 

組織は、顧客がそれぞれのステージで感じたいこと、体験したいことは何なのかを理解しなければならない。これは、B2Bではよりいっそう難しくなる。というのも、一般的にジャーニーのいろいろな部分で複数の役割があり、まったく異なる視点、動機、行動があるからだ。だからこそ、マーケティングは、カスタマージャーニーのあらゆるステージの戦略に役立つバイヤーインサイトの開発を率先して行う必要があるのだ。

 

これらのインサイトには、性格的特徴や、顧客が関わるブランドへの期待や願望を理解することが必要である。では、どのようにこれらのインサイトを収集するのだろうか。

 

・顧客と話し、尋ねる。もし、組織内でこれが継続的に行われていないなら、実施することを強く推奨する。

 

・営業とカスタマーサクセスは、戦略を立てるために共有できるインサイトの宝庫である。

 

・顧客が事業を行っている業界を調査することで、さらなる情報を得ることができる。これは一回限りでなく、継続的なプロセスであることを心に留めておいてほしい。

 

ライフサイクル全体での有意義なエンゲージメントを展開する

経営幹部からよく聞かされることの一つが、完全なジャーニーエンゲージメントにかかるコストをどう正当化するかということだ。その第一歩は、コストを投資と言い換えることである。そして、有意義なエンゲージメントを実現するための投資は必ず報われる。米国の経営学誌であるHarvard Business Review調査では、トランザクションベースとサブスクリプションベースの両方のビジネスについて、次のようなことが明らかになっている。

 

・トランザクションベース:過去に最高の体験をした顧客は、最低な体験をした顧客と比較して、140%支出が多くなる。

 

・サブスクリプションベース:過去に最高の体験をした顧客は、少なくとももう1年、会員であり続ける確率が74%、最悪の体験をした顧客が、1年後に会員であり続ける確率は43%である。実際、顧客体験スコアが最高値の顧客は、さらに6年間会員であり続ける可能性が高い。

 

この重要なROIは、ジャーニーのあらゆる段階でワールドクラスの体験を提供することが、今や価格や製品よりも大きな競争力となっていることを証明している。

 

このプロセスを始めるには以下のことから始めると良い。

 

・カスタマージャーニーの全容を綿密に計画する(必要であれば上図を使用する)。

 

・各ステージで有効な顧客の役割を特定する。

 

・顧客が期待する体験を定義する。

 

・顧客の期待を、そのエンゲージメントと体験の提供を担当する組織の役割に合わせる。

 

・エンゲージメント戦略を実現するために必要なテクノロジーを特定する。

 

私は、2015年に 「Driving Demand(需要の促進)」というタイトルの本を書いた。この本に書いたことは今でも十分通用するが、組織としては、製品やサービスの需要を喚起するだけでは不十分であることを実感している。成長を実現するためには、顧客ライフサイクルの全領域に目を向け、有意義なエンゲージメントを推進する必要がある。これでこそ、組織が勝利し、アドボケイト(支持者)となる顧客を獲得することができるのだ。4月は、「リテンション(顧客維持)」という課題、そして組織がジャーニーの重要なセグメントに焦点を当てることでリテンションを改善する方法について詳しく書く予定だ。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の3/24公開の記事を翻訳・補足したものです。