CPG(消費財ブランド)は、CDP(顧客データプラットフォーム)経由でファーストパーティデータの価値を活用することで、継続的なマーケティングROI(投資利益率)を推進できる。

 

CPGブランドは、これまでブランドマーケティング活動において、サードパーティデータに依存してきた。だがこの戦略は、データとマーケティングの状況の進化に伴い変化していくだろう。

CPGブランドには、ファーストパーティデータを活用することで、ビジネスの成果を改善するチャンスがある。当記事では、以下について説明していく。

 

  • CPGブランドのサードパーティデータへの依存
  • CDPは、CPGブランドがファーストパーティデータの価値を活用する上でどのように役立つか
  • CDPの価値を完全に実現するためにCPGブランドが克服しなければならない課題
  • CPGブランドがファーストパーティデータを利用して継続的なROIを確実に促進する方法

 

CPGブランドとサードパーティオーディエンス

ブランドマーケティングの目標を達成するため、CPGブランドは主に、ベンダーや代理店パートナーによってキュレーションされた、非常にスケーラブルなサードパーティオーディエンスに予算を集中させてきた。しかし、サードパーティCookieが少しずつ廃止され、多くのサードパーティオーディエンスの質が低下しているため、CPGブランドは効率的でスケーラブルなソリューションを求めて、別の場所に目を向けざるを得ない状況だ。

 

その上、多くのメディア測定アプローチ(ブランドリフト調査、広告インプレッション/フリークエンシー管理など)は、サードパーティCookieに大きく依存している。残念ながら、サードパーティデータは万能薬ではない。解決策は、クローズド・プラットフォームであるウォールド・ガーデン (Facebook、YouTube、Amazon、TikTokなど) でアクティブ化されたファーストパーティオーディエンスを含む、さまざまな戦術を組み合わせることだ。

 

CPGブランドは消費者の直接的な購入体験を仲介者(すなわち、小売業者)に依存してきたが、近年、多くのブランドがD2C(ECサイトなどで直接消費者に販売するビジネス)の取り組みに対し、続々と投資を行っている。

 

その結果、CPGブランドは消費者の豊富な購買データやエンゲージメントデータが得られ、さまざまな方法でマネタイズできるようになった。しかし、多くの場合、彼らは未だに、消費者ごとにセグメント化しパーソナライズされたコンテンツではなく、毎月の製品メッセージに重点を置いた、未熟なメールコミュニケーションを行っている。

 

CDPがCPGブランドにおけるファーストパーティデータの価値の活用にどのように役立つか 

顧客データプラットフォーム(CDP)が実現する具体的な価値は、企業によって若干異なる。ただし、多くのリストの上位にあるのは以下の通りである。

 

・サードパーティのオーディエンスを超えたメディアオーディエンス戦略の進化と多様化

メディアにおけるファーストパーティオーディエンスの活性化は、CPGブランドの価値を実現するための最も直接的な方法だ。ファーストパーティオーディエンスは、プログラマティックメディア(ワークフローの自動化や機械学習アルゴリズムなど利用したデジタルメディア)で活性化することで、以下のことが可能となる。

 

  • パーソナライゼーションとリターゲティングを通じて消費者との関係を深める。
  • よりスケーラブルな類似オーディエンスを通じて、消費者獲得を促進する。

 

両方の戦術とも、既存のメディアプランに組み込むことで、メディア予算の効率化が実現できる。

 

CDPは、ファーストパーティデータソース(Webサイト、メール、トランザクション、同意管理など) 間の重要な技術的な受け皿として優れており、オーディエンスの作成と、メディアアクティベーションのエンドポイント(端末)との合理的な統合を可能にする。

 

あるCPGマーケターは、さまざまなファーストパーティデータのシグナル(メールや Webサイトコンテンツのエンゲージメントなど)に基づき、ブランド・インタレスト・オーディエンスを構築し、それをソーシャルエンドポイントやディスプレイエンドポイントにシームレスに組み込むことができた。そこから、メディアチームはこれらのシードを類似オーディエンスとしてモデル化することで、リーチを拡大した。その結果、このファーストパーティの類似オーディエンスは、他のサードパーティの購入ベースのターゲットと比較して、平均以上のROIを達成したのだ。

 

・一元化されたオーディエンス・アクティベーション管理の確立(または置き換え)

データ管理プラットフォーム(DMP)は、サードパーティCookieそのものよりも早く放棄されているため、オーディエンス・アクティベーションの一元管理は、多くのCPGブランドにとって重要なバリューポイントとなっている。

 

多数のブランドがさまざまなマーケティングチームに分散しているCPGブランドには、ファーストパーティオーディエンスの、合理的で一元化されたキュレーションとアクティベーションが運用上必要不可欠だ。この分野で成功するには、適切なチームとプロセスを最初から配置するための協力的な計画が必要だ。間違った方法で行うと、ブランド間の自動化、再利用性、拡張性が大幅に制限される可能性がある。

 

別のCPGブランドでは、オーディエンスのセンター・オブ・エクセレンス(COE、目的・目標を達成するために、ノウハウや設備などの経営リソースを一か所に集約すること)を設立し、ファーストパーティとサードパーティの両方のオーディエンスに、ポートフォリオ全体のオーディエンス戦略、調整、サポートを提供した。

このCOEチームは、CDPを活用して、10以上のブランドと4以上のメディアエージェンシーで機能するダウンストリーム・アクティベーション・プラットフォームと、ファーストパーティオーディエンスの統合を整理し、合理化した。

これにより、メディアチャネルでのファーストパーティオーディエンス・アクティベーションの市場投入までの期間が2~3週間短縮され、ブランドチームは四半期ごとのキャンペーンを通じてオーディエンス・ターゲティングをより迅速に行えるようになった。

 

・パーソナライゼーションとD2Cの取り組みの実現

魅力的な体験を提供することは、消費者との直接的なブランド関係を深め、新しい消費者の獲得を促進し、最終的にはビジネスの成長をもたらす鍵となる。前述のオーディエンス管理、セグメンテーション、コンテンツアフィニティ機能は、CDPを、より強固なオウンド・チャネル(メール、Web サイト、アプリなど)のパーソナライゼーションに関心のあるCPGブランドのテクノロジー・イネーブラーリストの上位に位置するものである。

 

あるCPGブランドは、CDPのウェブサイトコンテンツアフィニティの推奨事項を検証し、メール、ウェブサイト、ソーシャルメディアにおける消費者ジャーニーのセグメンテーションやメッセージングの一貫性を強化することで、消費者エンゲージメントの全体的な向上につなげることができた。

 

・消費者インサイトを深める

多くの場合、CPGブランドは、消費者レポートまたはインサイトプロジェクトのための既存顧客のデータ環境 (レイクまたはウェアハウス)を持っていない。CDPは豊富なイベントとプロファイルデータを保有しているため、CPGブランドは顧客分析とレポート作成を行う出発点としてCDPを活用することも可能だ。

 

このデータにより、CPGブランドは重要な消費者コホートと目標を追跡することができる。消費者のインサイトをより広範な製品およびブランド戦略に反映させることで、CDPの価値を、ファーストパーティオーディエンスの直接的なアクティベーションを超えて拡張できる。

 

他のCPGブランドでは、データクリーンルームとCDPの統合を活用し、消費者と測定のインサイトを明らかにして、顧客の獲得、維持、およびより広範な広告戦略を促進している。あるグローバルCPGブランドは、Lytics CDPで保有するオーディエンスをLiveramp(米国のデータ接続プラットフォーム)にエクスポートし、ファーストパーティオーディエンス、LiverampのIDソリューション、およびサードパーティデータを組み合わせて、斬新な消費者インサイトを生成している。

ただし、この取り組みには、部門横断的なデータエンジニアリング、IT、法務、分析、およびインサイトのチームが、インサイトを保存、分析、視覚化、および抽出するための分析環境を立ち上げ、維持する必要があることに留意することが重要だ。

 

CDPの価値を完全に実現するためにCPGブランドが克服しなければならない3つの課題

上記の価値を達成するには、確実な導入、採用、測定が必要となる。ここでは、CPGブランドがCDPを使用してファーストパーティデータから価値を引き出すことに成功するために考慮すべき、特に重要な課題を紹介する。

 

・課題: フラグメンテーション(断片化)

断片化には、業務、データ、テクノロジーの3つの形態がある。

 

  • 業務の断片化:CPGブランドにおける社内のデジタルランドスケープは、さまざまな社内外のチームによって所有・管理されていることが多い。
  • データの断片化:業務の断片化によってもたらされる副産物として共通して挙げられるのが、データの断片化だ。CPGブランド内の多数のブランドと事業部門は、ビジネスモデルと消費者ベースが根本的に異なる場合や、単にデータの成熟度レベルが異なるだけである可能性がある。理由が何であれ、さまざまなデータスキーマ、命名規則、収集/定義されたデータ属性に一貫性のないことがよくある。
  • テクノロジーの断片化:業務の断片化による、もう1つの共通する副産物は、さまざまなCPGブランドと事業部門が独立した(サイロ化された)テクノロジー・インフラストラクチャの決定を行うテクノロジーの断片化である。これには、タグ管理ツールからESP(暗号ペイロード)、データレイク(雑多なデータを一元的に保管しておくためのデータ管理システム)まで、あらゆるものが含まれる。

 

考慮事項

  • ユースケースに基づき、業務、データ、テクノロジーの要件を文書化し、マッピングするためのディスカバリーの時間を確保することが最も重要である。
  • 共通の正規化されたCDPデータモデルは、根底にある業務やデータの断片化に関係なく、CDP内のスケーラビリティとオーケストレーションのための重要なイネーブラー(手段、要素)となり得る。

 

・課題:CDPの採用

CPGブランド内において、異なるブランド、事業部門、マーケティングチーム間でのツールやプロセスの利用を促進することは困難な場合がある。データと技術の準備が整っていても、新しい機能を利用する能力や関連するユースケースを備えたチームがない場合、多くのCDP導入が行き詰まることになる。

 

考慮事項

  • 優れたコンシューマー・データ・センターを設立し、部門横断的なリードとCDPパワーユーザーで構成されるイネーブルメントチームを配置する。
  • トレーニング、導入文書、社内説明会によるナレッジマネジメントを行う。

 

・課題:測定

計画的な測定が行われなければ、CDPへの投資の価値を算出することは困難となる可能性がある。大規模な投資に対して常に必要とされるのは、継続的な投資の正当性をサポートし、組織に意味のある価値をもたらす継続的なROI測定である。

 

これは、小規模な消費者直接取引(DTC)プログラム以外には、個々の消費者に販売を結び付けることができないCPGブランドにとって、特に困難なことだ。

 

考慮事項

  • 指標/KPIのフレームワーク
  • コントロールグループの管理を含め、最初からROI測定を計画する。
    • 市場ベースのセールスリフトテスト
    • DTCブランドの概念実証(POC)の実施
  • 合理的な測定を可能にするマーケティング分類/命名規則

 

ファーストパーティデータがビジネスの成果を確実に推進する方法

CPGブランドがファーストパーティデータによってビジネス成果を向上させる方法は数多くあるが、そこには多くの課題が潜んでいる。

 

多くのCPGブランドは、消費者との関係を深めるために必要となる、付加価値のある消費者体験を提供するために不可欠な技術的および運用的要件に対する準備が不十分なのだ。

では、ファーストパーティのデータ資産がビジネス価値を提供し、ファーストパーティの目標を実現し、継続的なROIを促進するにはどうすればよいだろうか? 以下について検討してみよう。

 

・ユースケースの発見

CDPを選択する前に、部門間のアクティベーションと分析ユースケースのバックログを構築し、技術的要件(リアルタイムのパーソナライゼーションなど)を確実に満たすことができるようにする。次に、ROIを高めるユースケースに重点が置かれるように優先順位を付ける。 

 

・導入を加速 

CDPとより広範なファーストパーティデータ戦略を確実に成功させるために必要な、部門横断的なリソース配分、新しい役割、ワークフローを計画する。

 

・データエンリッチメント

データサイエンス・モデリングや、セカンド/サードパーティのデータ追加のいずれかによって、データエンリッチメントで拡張することができるユースケース・データのギャップを特定する。

 

・分析と測定のロードマップ

ユースケースと全体的なCDP投資に対するROI測定のニーズを最初から計画し、適切なコントロールグループとテスト方法を確保する。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の1/3公開の記事を翻訳・補足したものです。