メール体験は変わりつつある。そのための対応策を説明しよう。


テクノロジーの変化によって、メールボックスプロバイダーがメッセージのデザインから長期化まで、あらゆることをより細かくコントロールできるようになった。そのため、メールマーケターは受信トレイの争奪戦で劣勢に陥っている。

これまでマーケターは、メールメッセージがメールクライアントにどのように表示されるかを完全にコントロールすることはできなかった。今、私は4つの変化を追っている。それらは、我々のメッセージや受信者が、それをどのように見て、どのように行動するかに対するコントロールをさらに奪うものである。それらは、人工知能の応用から生まれたものもあれば、ユーザーのプライバシーや受信トレイの大掃除、さらには気候変動に起因するものもある。

あなたがまだ1999年、あるいは2019年、2021年のようにメールを送信しているのであれば、そのやり方をアップデートするまで、あなたのメールプログラムは何らかの影響を受ける可能性がある。

これらの変化はネガティブなものばかりではない。しかし、そのいずれもが、起きている事柄やそれが意味するところをもう一度理解し、それに対応するために戦略やプログラムをどのように再構築すべきかを伝えるシグナルなのである。

 

受信トレイを変える4つの変化

現在、メールについては多くのことが起こっているが、それは生成AIとは関係がない。私が今、追っている4つのトレンドを以下で紹介しよう。

1. Appleの受信トレイに再度の動揺

2021年に導入されたAppleメールプライバシー保護(MPP)機能は、受信トレイを揺るがす最初の一撃だった。Appleは、いつ、どこで、そしてメールメッセージを開封したかさえも隠すことで、購読者のプライバシーを保護しようとした。

最初の衝撃が去った後、我々メールマーケターは、そのデータの損失を補う方法を考え出し、メールの受信を希望した購読者や顧客とのコミュニケーションを取るという通常業務に戻った。 

それから3年、iPhone 15以降に対応する次のシステムアップグレード「iOS 18」では、Apple Intelligence(そう、「AI」である)がApple Mailクライアントに搭載される予定である。我々は、Apple Intelligenceの「パーソナルインテリジェンス」機能に注目する必要がある。この機能は、Gmailのタブシステムと同様に、AIを使用してメッセージをタブに分類するものである。

Appleによると、「デバイス上のカテゴリ―としては、受信メールのうち、個人的なメールや時間に制約のあるメールは『プライマリ』、確認事項や領収書は『トランザクション』、ニュースやソーシャル通知は『アップデート』、マーケティングメールやクーポンは『プロモーション』に整理、分類される。またメールは、企業からのすべての関連メールをまとめて表示する新しいダイジェストビューを備えており、ユーザーはその瞬間に重要なものにすばやく目を通すことができる」という。

購読者がリクエストし、開封し、行動を取ったメッセージを送信している限り、それは悪いことばかりではない。パーソナルインテリジェンスが各タブ内で送信者や日付ごとにメッセージを並べ替えるかは明らかではないため、今年後半に新システムが稼動したときにどのようになるかに注目したい。

マーケティングに特化した「プロモーション」タブが登場したことで、「プライマリ」タブや「プライオリティ」ビューに表示されていない場合、マーケティングメールが紛失してしまうのではないかという懸念が再燃している。これがGmailにおける大きなデメリットでないことは分かっているため、これは注視すべき事項に分類しておきたい。

ポジティブな展開の可能性があるのは、送信者ごとのメッセージのグループ化である。これがプロモーションやマーケティングメッセージに適用されれば、購読者はトランザクションやその後のアクションのために保持しているブランドのメールを見つけ出すことができるようになる(この利点に逆行する可能性のあるトレンドについては、以下の2と3の項目で紹介する)。

Appleは、AIが作成するメッセージ向けのコンテンツサマリー(要約)を導入する予定である。この機能は何年も前からYahoo Mailアプリに搭載されているが、一貫性がない。メールには詳細なサマリー記載されているものもあれば、差出人の名前だけのものもある。また、特に画像ベースのメールでは、サマリーがないものもある。

これらの変更はいずれも、メールの終焉を意味するものではなく、またメールの見た目や機能に影響を与えるものでもない。しかし、これは、受信トレイや購読者のメールへのアクセス方法に対する我々のコントロールが今後ますます及ばなくなっていくことへの注意喚起である。購読者が受信トレイで確実にメッセージを見つけられるようにするためには、メッセージの関連性やエンゲージメントをさらに強化する必要があるだろう。


2. 有効期限切れのメール

メールマーケティング業界における二酸化炭素排出量の削減を目的とするEmail Expiration Dateプロジェクトは、古いメールを保持するために必要なエネルギーやデータ容量を削減する方法として、古いメールを自動的に削除することを提唱している。メールの二酸化炭素排出量を削減することは、確かに崇高な目標である。しかし、その使い方には注意しなければならない。

たとえば、友人との夕食を確認するための「大丈夫です!」の返信よりも二酸化炭素排出量が大きいマーケティングメールを大量に削除することは、素晴らしいアイデアのように思えるが、メールの大きな利点の一つを台無しにしないように、我々はメールの有効期限に注意する必要がある。

その利点とは、購読者は信頼するブランドや定期的に購入するブランドからのメールを保持し、再度購入する際に検索する傾向があるということである。

多くの企業向けメールサービスでは、受信者が設定を変更しない限り、エンゲージメントに関係なく定期的にメールの削除を行う。ただし、メールの有効期限がメール転送業者やメールボックスプロバイダーによって勝手に制限された場合、商業的な送信者にとっては大惨事となる可能性がある。本プロジェクトの賛同者によると、このプロセスを成功させるためには、送信者、ESP(メールサービスプロバイダー)、メールボックスプロバイダーが協力する必要があるため、こうしたことは問題とならないようである。

しかし、送信者は、顧客が意図的に保存しているメールを排除して長期的な価値を損なうことがないよう、「有効期限切れ」の日付を選択する際に戦略的に考える必要があるだろう。


3. 30日後の配信停止プロンプト

気が向いたときではなく、できるだけ早急に新しい購読者にメールを送信し始めるためのプッシュ通知が必要だろうか?それなら、ここにある!

GoogleとYahooは現在、メール配信の条件として、メールヘッダーに30日後の配信停止機能を含めることを送信者に義務付けている。これは、以下の3つの点において、通常のメール関係を崩壊させるものである。

・オプトインから30日以内にあなたがメールを送信しなかった場合、あなたの最初のメールの送信前に、新規購読者にオプトアウトを促すメッセージが表示される。

・この30日間のオプトアウトのプロンプトは、その期間内に全くメールに関与しなかった人を対象としているものの、私は、私が定期的にアクセスしているメールの送信者からのメールに、このプロンプトが表示されるのを見たことがある。

・メールの保存期限は長い場合がある。英国のデータ&マーケティング協会(DMA)による「Consumer Email Tracker 2023」では、興味のあるメールを受信した消費者が取る行動で3番目に多いものとして、「後日メールを保存する」が挙げられている。このような強制的なオプトアウトは、消費者が長年にわたって築き上げてきた習慣を崩壊させる。

配信停止のヘッダー機能は目新しいものではない。送信者はこれまでも、メールのヘッダーに配信停止機能を挿入することで、メッセージ内にある配信停止リンクやボタンの代わりに配信停止を行うことができた。スパムボタンを押したり、単に沈黙したりするのではなく、非アクティブな購読者にオプトアウトを促すのであれば、それは悪いことではない。 私のメール仲間であるChad S. White氏Oracle Digital Experience Agency)の提案によると、オプトアウト期間のプロンプトを30日から90日または120日に引き延ばすことで、あなたの価値を証明するのに十分な時間を与えることができる。このプロンプトはメール(mailの場合は受信トレイとヘッダー、Yahooではフッター) に引き続き表示されるだろうが、その頃には購読者がそれにあまり反応しなくなっているかもしれない。


4. 自動抽出

メールクライアントの受信トレイには、送信者名、件名、プリヘッダー、日付の他に、さまざまなものが表示されていることにお気づきだろうか。メールによっては、グラフィックや行動喚起、さらにはメールコンテンツから受信トレイに引き出されたオファーコードまで含まれているものもある。

最近、私のGmailの受信トレイに届いた二通のメールを紹介しよう。一通は、Gmailが「自動抽出」と呼んでいる、アノテーション(Gmailの説明を参照)とスキーママークアップ(検索エンジンがページ上の情報を理解するのに役立つコード)を使った良性のアプリケーションが表示されている。これを使うことで、受信トレイのビューにクイックアクションを追加することができる。もう一通のメールは、そうではない。


SmarterTravel(旅行・レジャーに特化したデータ駆動型テクノロジー企業)の受信トレイでの画像は、メールで最初に目にする画像である。これは、件名やメッセージの意図に直接関係している。これにより、受信トレイの表示が充実したものになり、受信者はより興味を持ってメッセージを開封するようになる。

Swimsuits for All(女性用水着のオンライン小売業者)のメールに記載されているプロモコードはプリヘッダーの後に記載されているが、プリヘッダーの一部ではない。それは、”Shop Now(今すぐ購入する)”と書かれた代替テキストの画像に埋め込まれており、メール内で一度だけ表示される。そして、プロモコードについての言及はない。コードはブランドのWebサイトに表示されているにもかかわらず、メールの中でそれを見つけるには2度見しなければならなかったのだ。

これは意図的にそうしたのだろうか?それとも、Gmailがそれを抽出して表示することを選択したのだろうか?

私は、自動抽出に特に反対しているWhite氏に賛同する。なぜなら、自動抽出は独自の目的のためにメールを書き換えてしまうため、ブランドがメールで達成したかったことが反映されない可能性があるからだ。同氏が言うように、「メールのプレビューコンテンツは誰のものなのか?ブランドか、それとも受信トレイプロバイダーか?」という疑問が生じている。

受信トレイに表示されたプロモーションは、メールを開いてクリックした顧客に対する特典として意図されていた可能性がある。受信トレイにコードが表示されれば、顧客はそれをコピーしてそのままWebサイトにアクセスするだけで、メールを回避して、エンゲージメントやアトリビューションの考慮要素からメールを外してしまうことができる。

一通のメールを回避しただけ何も変わらないだろう。しかし、Gmailのリーチは広く、Swimsuits for Allは大手ブランドである。つまり、Gmail自身がエンゲージメントを測定するために使用し、またブランドがエンゲージメントとキャンペーン効果の両方を測定するために使用するクリックや開封などの、何千、何万ものインタラクションが失われる可能性があるのだ。確かにブランドは売上を得るが、メールはさらに新たな打撃を受けることになる。

 

一見些細に思える変化の影響を無視してはいけない

ここで紹介したトレンドのどれもが、メールの終焉をもたらすものではない。しかし、それぞれの変化は、マーケターが行動を起こさなければ、メールの効果が低下させる可能性がある。

メール送信者は、メールクライアントがどのようにメッセージを表示するかをコントロールできないことを常に知っている。これらの変化は、かつてマーケターが表示される情報をコントロールできた受信トレイにも影響を及ぼしている。このようなトレンドの一つ一つが、そのコントロールを少しずつ削いでいるのだ。

このどれもが新しいというわけでも、予想外だったというわけでもない。メールボックスプロバイダーは、「自社の顧客やユーザーを満足させるためにしているだけだ」と主張するが、メールマーケターは常に、宣伝広告用のメッセージを受信トレイから排除することを目的とした変更に対処しなければならなかった。 我々メールマーケターは、障害に直面するたびに不平を言い、それから全力を尽くして回避策を考えたり、賢者たちと協力して問題を利点に変えたりする。それをもう一度やる時が来たのだ。


※当記事は米国メディア「MarTech」の7/8公開の記事を翻訳・補足したものです。