パーソナライゼーションは目的ではなく、目的を達成するための手段である。

 

メールマーケティング担当者として、購読者や顧客に送るメッセージをパーソナライズする必要があることは承知している。だが、パーソナライゼーションよりも一括メール配信の方が優れているという統計やケーススタディ、調査結果は例がない。

 

その代わり、下記のような統計がある。

 

・72%の顧客がパーソナライズされたメッセージにのみ関心を示す (Wunderkind Audiences、旧称SmarterHQ)

・70%の顧客が、企業がどれだけ個人のニーズを理解しているかが、ロイヤルティに影響すると回答(Salesforce

・71%の顧客が、パーソナルでないショッピング体験に不満を感じている(Segment

 

しかし、とくにパーソナライゼーションに初めて取り組むマーケターがよく理解していないのは、パーソナライゼーションはそれ自体が目的ではないということだ。目的は、メールキャンペーンやライフサイクルメッセージのパーソナライズではない。あくまでも、顧客のブランド体験を向上させることが目的だ。パーソナライゼーションはそれを可能にする一つの手法だが、単なる手法の一つにとどまらない。

 

それは、芸術であり、科学でもある。科学は、パーソナライズされた1対1のメッセージを大規模に作成するためのデータと自動化機能を備えていることである。そして、それをいつ、どのように使うかを知ることが芸術だ。

 

パーソナライズを目標達成のための手段ではなく、目標であると捉えてしまうと大変なことになる。私は、企業や消費者ブランドのマーケティング担当者にコンサルティングを行う中で、この誤解が8つの大きなマーケティングの間違いにつながることを実感している。そのいずれもが、パーソナライズから得られる大いなるメリットの実現を阻む可能性がある。

 

間違い① 全体的なパーソナライゼーション戦略を持たずに運用している

私がよく目にするのは、マーケティング担当者が自分たちの直面するすべての選択肢に圧倒されてしまうことだ。

 

・どのパーソナライゼーションテクノロジーを使うか

・保有する全てのデータをどう扱うか

・データおよびテクノロジーの効果的な活用方法

・パーソナライゼーションへの取り組みが成果を上げているかどうか

 

これは、顧客のニーズや問題解決にパーソナライゼーションをどのように活用するかを考えずに、いきなりパーソナライゼーションに着手したことに起因している。

 

パーソナライゼーションの仕組みに圧倒されないために、次の3つのステップを踏んでみよう。

 

小さなことから始める。今、パーソナライゼーションを使用していないのであれば、すぐに本格的なプログラムを立ち上げようとはしないでほしい。その代わりに、パーソナライズされた基本的なデータを使って、1対1のメッセージを作成できるような小さな領域、つまりクイックウィン(長期のビジネスゴールを見据えつつも、短期・中期でも成果を上げていこうとする考え方や方策)を探そう。そうすれば、時間やお金に大きな投資をすることなく、すぐに軌道に乗せることができる。メールの本文に個人情報を追加することは、基本中の基本だが、手始めとしては有効だ。

 

各々の手法を検証する。その新しい手法が、目標に向けた取り組みに役立つか、あるいは妨げになるかを確認する。各メッセージに個人情報を追加することは、ランディングページへの高いクリック率やコンバージョン率、あるいは選択した成功の指標と相関関係があるだろうか?

 

・最適化し、先へ進む。検証結果をもとに、各手法を改善する。次に、ブロードキャスト(一対全員)キャンペーンにダイナミックコンテンツのモジュールを追加するなど、学んだことを活かして別のパーソナライゼーション戦術を選択し、追加する。

 

間違い② 表立ったパーソナライゼーションと隠れたパーソナライゼーションの両方を使用していない

これまで、パーソナライズされた件名、特定の行動を反映したメールコピー、顧客の行動が自動化設定と一致したときに起動するトリガーメッセージなど、「表立った」(または目に見える)パーソナライズ戦術を具体的に考えてきたかもしれない。

一方、「隠れた」パーソナライゼーションは、顧客の嗜好や行動データを使用もするが、それを意識させることはない。「このアイテムをご覧になっていました」という閲覧放棄のメッセージを送る代わりに、次のキャンペーンでは、コンテンツモジュールを追加し、顧客の行動を意識させることなく、閲覧された商品を推奨購入商品として紹介することができる。不快に思われないための素晴らしい手法として、ぜひ使ってほしい。

冒頭の「パーソナライゼーションは芸術であり科学である」という言葉を思い返してみてほしい。パーソナライゼーションの芸術とは、購入確認書や発送確認書など、あからさまなパーソナライゼーションを使うべき時と、もっと目立たないようにする時があることを理解することだ。

 

間違い③ ライフサイクルの自動化を最大化できていない

オンボーディング/初回購入プログラム、ウィンバックキャンペーン、リアクティベートキャンペーンなど、顧客のライフサイクルに関連したプログラムは、もともとパーソナライズされているものだ。

 

顧客の行動(オプトイン、購入、ダウンロード)または非行動(メールを開かない、初回は購入しない、購入後に離脱の兆候がある)に基づくため、コピーは非常にパーソナルでタイミングも的確なものになる。

 

さらに、これらのメールは自動的に配信される。マーケティングオートメーションプラットフォームを設定すれば、これらのメールの作成、スケジュール、送信を行う必要はなくなる。

 

顧客ライフサイクルを理解し、重要なポイントで顧客にアプローチする自動メッセージングを作成するためにあらゆる手段を講じなければ、この機会を無駄にしてしまう。結果として、苦労して獲得した顧客を失うだけでなく、その顧客から得られうる収益も失うことになる。

 

間違い④ 効果的な検証や長期的な利益につながる検証をしない

検証を行うことで、パーソナライゼーションの効果が出ているかどうかを確認することができる。しかし、マーケターは、パーソナライズが長期的に顧客体験を向上させるかどうかを検討せずに、特定のキャンペーンの個々の要素(件名、行動喚起、画像ありと画像なし、パーソナライズありとパーソナライズなし)のみを検証することがあまりにも多い。

 

この場合、成功をどのように評価するかが重要なポイントになる。選択するメトリックスは、目的に沿ったものでなければならない。そのため、私はマーケティング担当者に対し、キャンペーンの成果を測定するために開封率に依存しないよう何年も前から警告してきた。開封率50%は素晴らしいかもしれないが、売上、収益、ダウンロードなどのコンバージョンの目標を達成できなかった場合、キャンペーンを成功させたとはいえない。

 

パーソナライズの目的はカスタマージャーニーを充実させることであり、顧客生涯価値が成功を測る有効な指標であることは理にかなっている。パーソナライゼーションの効果を測定するには、数ヶ月、数年といった長期間の顧客生涯価値を用い、パーソナライゼーションを行っていないコントロールグループの結果と比較する。キャンペーン段階での結果を無視せず、それを記録に残し、長期的に評価するようにしよう。

(テストの間違いとその回避方法についてのより詳しい情報は、MarTechのコラム「7 Common Problems that Derail A/B/N Email Testing Success(A/B/Nメールテストの成功を阻む7つの共通の問題点)」をご覧いただきたい)。

 

間違い⑤ 顧客層を過度にセグメント化する

セグメンテーションは、パーソナライゼーションの貴重な一形態だが、ついやり過ぎてしまいがちだ。高度にセグメント化されたキャンペーンだけを送ると、セグメント化の基準に合わない多くの顧客を排除することになり、結局はコンタクトできず、損失を被ることになりかねない。そのため、顧客とその潜在的な収益、そして顧客層をよりよく理解するために生成したデータが失われることになる。

この問題は、データに基づいてセグメンテーション計画を立て、頻繁に検証し、顧客のライフサイクルを向上させる自動トリガーを設定し、他の条件を満たさない購読者向けに行うデフォルトまたはキャッチオール・キャンペーン(多くの人を取り込む戦略)のためのよく練られたプログラムによって回避することができる。

 

間違い⑥ 一般的なメールキャンペーンにダイナミックコンテンツが含まれていない

通常、パーソナライズされたメールとは、顧客の行動や嗜好のデータと一致するコンテンツを持つメッセージのことを指し、それはカゴ落ち(カート放棄)メッセージのようなあからさまなものから、微妙に関連するコンテンツを持つ潜在的なものまである。

 

それは、ひとつの高度なアプローチといえるだろう。人工知能によるリアルタイムのメッセージングと、EC(eコマース)やCRM(顧客管理)プラットフォームとの複雑な統合が利用されている。しかし、シンプルなダイナミックコンテンツモジュールを使えば、同じような結果を得ることができる。私はそれを 「セレンディピティ(偶然に思いもよらぬものを発見すること)」と呼んでいる。

 

このダイナミックコンテンツを一般的なメッセージに織り交ぜると、顧客にとって嬉しいサプライズとなり、関連するコンテンツをより際立たせることができる。

 

例えば、あなたの会社がクルーズ会社だとしよう。顧客Aは、時々メールを開いているが、まだクルーズを予約していないし、ウェブサイト上でさまざまなツアーを閲覧してはいない。この顧客、そしてデータがほとんどない他の顧客に対して、次のメールキャンペーンでは、ハワイ、フィジー、地中海への割引旅行を宣伝する。

 

顧客Bもまだクルーズを予約していないが、データによると最近、アイスランド、デンマーク、グリーンランドクルーズを閲覧したことがあるようだ。ダイナミックコンテンツモジュールを使えば、ハワイや地中海のクルーズ、アイスランドやデンマーク、グリーンランドへのお得な旅などを顧客Bに紹介することができる。これは驚きだ!

 

このようなメールは、閲覧放棄メールのようなあからさまなアプローチをしなくても、あなたの会社がまさに顧客が求めているものを提供しているという印象を与えることができる。(密かなパーソナライズ)。

 

間違い⑦ コピーにパーソナルトーンを使っていない

まるで直接会って話しているかのように書くだけで、データがなくても、メールのコピーをパーソナライズすることができる。温かみのある人間味のあるトーンで、ブランドボイスを反映させるのが理想的だ。売り込みではなく、1対1の会話のように聞こえるコピーを作成しよう。

 

ここで、私が考える「お役立ちマーケティング」が登場する。あなたのブランドは、どのように顧客自身の目標達成や問題解決に役立ち、また、顧客を単なる情報源ではなく、人として見ていることを顧客にわかってもらえるだろうか?

 

間違い⑧ 全てのプロセスをパーソナライズしていない

この場合も、「パーソナライゼーションを使って、どのように顧客体験を向上させることができるか」という長期的な利益に目を向けずに、「このメールキャンペーンにパーソナライゼーションを追加するにはどうすればいいか」という、パーソナライゼーションに対する短絡的な視点でのシナリオである。

 

パーソナライゼーションは、顧客がメールを開封した時点で完了するわけではない。それはランディングページに続き、顧客が閲覧するウェブサイトのコンテンツにさえも反映されるべきものである。パーソナライゼーションは、顧客体験を向上させるためのものであるということを忘れないでほしい。

 

パーソナライズされたコンテンツを顧客がクリックすると、どうなるのだろうか。ランディングページでは、顧客の名前で挨拶しているだろうか。顧客がクリックしたアイテムが表示されるだろうか。顧客の興味、ポイントプログラムの利用状況、その他顧客独自のデータを反映したコピーを提示しているだろうか。

 

パーソナライゼーションは努力する価値がある

パーソナライゼーションは、芸術と科学の両方を考慮する必要がある。データの過度な利用で 不快感を与えることなく、有益で適切なメッセージとなるよう、慎重に扱う必要がある。しかし、パーソナライズされたEメールの力を使って顧客にアプローチし、つながりを持ち、顧客を維持することができれば、この戦略的努力は報われ、顧客体験を向上させるという目標を達成することができるのだ。

 

※当記事は米国メディア「Martech」の7/5公開の記事を翻訳・補足したものです。