英国のメガネ小売店Specsaversは最近、ユニークな体験型屋外広告を実施し、ソーシャルメディアで大きな話題を呼んだ。

 

このキャンペーンでは、車止めポールの上に、押し上げられたように同ブランドのバンが配置され、その「事故現場」のようなディスプレイの近くに戦略的に警告標識が置かれている。これは同社系列のマーケティング代理店によって制作されたものであり、同ブランドの有名な「Should’ve Gone to Specsavers(Specsaversに行けばよかった)」キャンペーンの一環である。このキャンペーンは、同社でPRやソーシャルメディア、ブランド活性化の責任者を務めるLisa Hale氏にとって、最初の仕事のひとつとなった。

 

ソーシャルメディア担当責任者として2019年に同社に入社したHale氏は、2003年に開始したキャンペーンをソーシャルメディア・プラットフォーム向けに再活性化するという課題に直面した。

 

同氏のアプローチでは、バイラルトレンドや文化的な瞬間、日常のシナリオを活用し、あらゆる層とプラットフォームにおける関連性を確保する。

 

「我々のアプローチは、“アテンション・ベース”である。今日では、広告が氾濫している。マーケターは、実際には大多数の人々が広告に目を向けなくなりつつあるにもかかわらず、人々が自分の広告を気にかけてくれている、あるいは見ていると考えてしまう罠に陥りがちである」と、Hale氏は語る。

 

では、Specsaversはどのようにしてアテンションを集め、それだけでなく、心に響く有意義なメッセージを伝える十分な期間、それを維持し続けているのだろうか。

 

2019年から同社に勤務しているHale氏によれば、メッセージが「この商品を試してみてください」といった単純な行動喚起よりも複雑なものである場合、この課題がさらに重要になるという。

 

同氏は次のように述べている。「Specsaversには、ケアと専門知識に対するコミットメント、そして耳と目のケアをすべての人が利用できるようにするという創業時のビジョンを中心とした、目的に基づいた豊富なストーリーがある。そして、これらのストーリーを伝えるには、目を向けてもらう必要がある」。

 

「アーンド(信用や評判の獲得)重視の考え方は、人々のメディア消費を単に促すだけではなく、それに付加価値を与えるため、その突破口を生み出すのに役立つのだ」。

 

インパクトを得るための統合

Hale氏によると、Specsaversの戦略の特徴は、消費者向けのPR活動をより広範なマーケティング活動とシームレスに統合していることである。

 

その結果、Hale氏は、サイロ化されたマーケティング機能から、消費者チームがマーケティングチームと連携してビジネス課題に効果的に取り組む、完全に統合されたアプローチへの進化を強調している。

 

「ビジネスの目的に応じて、適切なチャネルに注力することが重要である。消費者向けPRやソーシャル、ブランド活性化が小さな役割を果たすこともあれば、コミュニケーションをリードすることもある」と、同氏。

 

「当社は、『Should’ve Gone to Specsavers(Specsaversに行けばよかった)』で知られており、『Best Worst Team』キャンペーンなど、当社が実現するための素晴らしいプラットフォームである。一方で、この“パブリッシャー/ストーリーテリング”の考え方は、専門知識やケアへのアクセスに関する認識の変化を目的とする場合、我々にとってより重要な役割を果たすことになる。なぜなら、消費者との対話により多くの時間が必要となるからだ」。

 



モバイルマーケティングの活用

Specsaversは、モバイルマーケティング戦略を活用することでオーディエンスの関心を引き、プラットフォーム全体でブランド認知度を高めていると、Hale氏は明らかにした。

 

有料検索やモバイル専用アセット、革新的なキャンペーンまで、Specsaversはあらゆるデバイスで存在感を維持することを目指している。

 

「オンラインの世界は競争が激しく、アテンションを維持するのが難しいことを、我々は知っている。だからこそ、モバイルマーケティングを通じて人々にリーチする新しい方法を常に模索しているのだ」と、Hale氏は話す。

 

「有料広告は、狙ったアテンションを維持することはほとんどなく、浅い印象を残すだけで、必ずしも効果的な結果に結びつくとは限らない。結果を出すためには、アーンドやアテンションに焦点を当てた考え方と連携させる必要がある。これがここ数年、当社の戦略が重点的に取り組んできたことであり、今後も引き続き優先していくことである」。

 

一方、Hale氏によると、同社は多くのコミュニケーションでソーシャル・ファーストの考え方を採用しているという。

 

「当社は、消費者にとって自然と感じられるような方法で消費者にリーチしたいと考えている。そのため、活動の種類に関係なく、それをオンラインで、ライブで行う方法があるかを検討していきたい」と同氏は述べる。

 

前進のためのパートナーシップ

Specsaversは最近、オンラインゲーミングプラットフォームのRoblox上で新しいブランドの障害物コースゲームとバーチャル商品プレゼントキャンペーンを開始した。これは、若い世代への教育とゲーム分野への継続的な取り組みを示すために開始されたものである。

 

「Robloxとのパートナーシップは、目や耳の健康とより良いゲームとのつながりを強調する自然な方法であるように感じられた。ゲームは非常に大きな産業であり、チャンスでもあるが、我々は慎重かつ正しい方法で参入しなければならない」とHale氏は指摘する。

 

「成果としては、我々はこれをオーディエンスたちの会話に参加できる多くの方法のうちの最初のものにしたいと考えている。そして最終的には、若い世代がより気持ちよく、より良いプレーができるように、目や耳の手入れをする方法について時間をかけて教えていきたい」。

 

しかし、このパートナーシップはSpecsaversの将来を見据えたアプローチの 「重要な部分」である、と同氏は付け加える。

 

Hale氏は、将来の顧客となる可能性のある、リーチが難しいオーディエンスを惹きつけることについて、これらのオーディエンスは「ブランドに対する要求が高く、より多くのことを期待している。そのため、我々はできるだけ早く、可能な限り本物の方法で、彼らの前に出る必要がある」と、説明している。

 

インフルエンサーの関与

インフルエンサーマーケティングはSpecsaversの戦略の中核を成しており、表面的なエンドースメント(有名人や著名人が自社の商品やサービスを推奨すること)よりも信頼性と長期的な関係を重視している。

 

Hale氏は次のように話す。「我々は、マクロインフルエンサー(フォロワー数が50万人~100万人のインフルエンサー)と協力する際、ただ単に商品やサービスを宣伝するための『コミッション払い』や広告を作るためだけに彼らと仕事をするのではなく、誰に協力を依頼するかをより厳選する傾向がある」。

 

「マクロインフルエンサーと協力する時は、Specsaversのメガネのキュレーションを行ったデジタルクリエイター兼ファッションエディターのAlex Stedman氏との仕事のような、より長期的で持続的な関係も視野に入れている」。

 

「すでにメガネの大ファンであるStedman氏とのコラボレーションは、自然で期待通りのものだった。ソーシャルでの成果に加えて、我々はStedman氏と一緒にイベントを企画し、同氏によるトレンド主体のPR活動に協力してきた。その結果、長期的な活性化が実現したのだ」。

 

Specsaversはまた、コンテンツ制作でブランドをサポートするマイクロインフルエンサー(フォロワー数が1万人〜10万人のインフルエンサー)のチーム「Style Squad」を創設した。このチームは、個々のリーチは低いものの、「持続性のある、高頻度で、エンゲージメントが高く、そして何よりも信頼できるリーチ」を提供してくれる、とHale氏は述べる。

 

ARとVRの採用

ITサポートのためのリモートアクセスからオンラインのフレーム選びツールに至るまで、Specsaversはすでにデジタルイノベーションを取り入れて、顧客に没入型で便利なソリューションを提供している。

 

「当社では、視力や聴力の検査を行うスペシャリストがPCや医療機器などの機械にリモートでアクセスして、トラブルシューティングを行うことができる。これにより、店舗における業務の中断が最小限に抑えられ、最終的には顧客体験の向上につながっている」と、同氏は説明する。

 

一方、Hale氏は、同ブランドが店内での体験にVRやARをどのように取り入れるかを模索しており、「2024年に向けて、いくつかのエキサイティングな開発が進行中」であることをほのめかしている。

 

今後の焦点

Specsaversは、人間中心のアプローチを維持しながら、AIがマーケティングにおいて重要な役割を果たす未来を思い描いている。

 

Hale氏は、アテンションメトリクスの重要性を強調し、ブランドエンゲージメントの測定や最適化のためのAIベースのソリューションへのシフトを予測している。

 

「AIへのシフト、より意識の高い消費者に語りかける目的と持続可能性に関するメッセージの表面化、そしてブランドの全体的な成功基準の開発など、標準的な予測は今後も残る」と、同氏は話す。

 

しかし、広告が飽和状態にあるこのデジタル・ファーストの世界では、ブランド全般の検討におけるアテンションの力と、高いレベルでのアテンションがボトムファネルの広告に与える影響について、マーケターが理解する必要性がこれまで以上に切迫している、と同氏は明かす。

 

「我々は、マーケターが購入し、クリエイティブに活性化を行い、(浅いだけでなく)深いアテンション指標に対して測定するためのソリューションを見つけるのに役立つプラットフォームを奨励する動きが見られるようになることを期待している」。

 

「これにより、AI ベースのアテンション予測が台頭し、マーケターが大規模にアテンションを測定できるようになるだろう」と、同氏は締めくくった。

 

※当記事は英国メディア「Mobile Marketing Magazine」の5/2公開の記事を翻訳・補足したものです。