あなたの小売店舗は「フィジタル(Physical(フィジカル)とDigital(デジタル)をかけ合わせた造語で、リアルな世界とデジタルの世界を融合させること)」の準備ができているだろうか?

 

成功するフィジタル・リテール戦略とは、対面型の顧客体験における有益な要素を、デジタル分野に同じように融合させるものだ。

 

今日の買い物客の多くは、店舗での体験で携帯電話を使っているが、調査によると、彼らはオンラインショッピングの要素も望んでいるという。

 

このような買い物客の嗜好の変遷により、小売業者は、スマートフォンの機能を利用してパーソナライズされた顧客体験を生み出すユニークな立場に置かれている。また、これにより、小売業者はデータをより適切に収集し、情報に基づいた商品決定を行うこともできるようになっている。

 

市場調査によると、買い物客の80%が実店舗の中で携帯電話を使い、商品レビューを調べたり、価格を比較したり、別の店舗を探したりしているという。「フィジタル・リテール」の始まりだ。

 

長年にわたり、小売業者は店舗とオンラインショッピングを表裏一体のものとして捉えてきた。そのため、彼らのマーケティング計画も、2つの異なるアプローチで消費者をターゲットとしてきた。

 

その考え方は理にかなっているように聞こえるかもしれないが、もっと明白な点を見落としている。多くの場合、実店舗の体験はオンラインの体験から切り離されている。今日の小売業者にとってより良い戦略とは、この2つのチャネルを代替する存在ではなく、仲間として考えることだ。

 

AR(拡張現実)やIoT(モノのインターネット)、Web3など、店舗とオンラインショッピング体験を同時に実現したい小売業者は、どこから手をつければいいだろうか。これは非常に困難かつ重要な決断であり、アプローチを間違えると、顧客を引き付け、維持するためにかけた労力が台無しになる可能性がある。

 

「フィジタル・リテールは、マーケティングの新しい流行語と解釈されることもあるが、実際には、消費者がショッピング体験に求めるものが大きく変化していることの表れである。この需要は、小売業者のオンラインと店舗でのマーケティング戦略に反映されている」と、P2C(product-to-consumer)プラットフォーム企業Productsupの最高製品責任者であるThomas Kasemir氏は語る。

 

フィジタル戦略に関するQ&A

「店舗とオンラインショッピングの融合」というコンセプトについて、Kasemir氏にさらに詳しく話を聞いた。同氏の見解では、小売業者は店舗とオンラインショッピングの最高の体験を組み合わせる方法を見出しているという。

 

実店舗をデジタル体験に転換することが、単なる流行語にとどまらないのはなぜか?

この小売戦略の転換は、消費者の購買習慣の変化に起因している。47%の消費者が、店舗で買い物をする際に、より多くの商品情報を提供するモバイルアプリにアクセスできれば、購入する可能性が高くなると回答している。つまり、需要はすでに存在しているのだ。小売業者は、もはや実店舗とオンラインショッピングを別ものと捉えることはできなくなった。

 

小売業がこの新しいアプローチを取り入れるには、どれくらいの費用がかかるだろうか?

消費者はもともとスマートフォンを利用しているため、さまざまな予算を持つ小売業者は、ソーシャルメディア、メール、テキストメッセージなどのマーケティング手段を通じて、店舗内の買い物客に簡単にアプローチすることができる。このような予算をアプリに投資した小売業者にとって、買い物客のスマートフォンにメッセージを届けることは、パーソナライズされた体験を全面的に確保するための明らかな次のステップとなる。

 

例えば、既存の小売店のアプリにはジオロケーション(ユーザーの位置情報を扱う技術)のような機能がある。顧客が店舗に入ると、お買い得品に関する店舗の通知が表示され、商品の在庫状況など最低限の倉庫情報にもアクセスできる。

 

店舗のプラットフォームは、店舗と顧客間のやり取りのためだけに使われるものだろうか?

買い物客が店舗にいるときに携帯電話を使用するのは、いくつかの主要なショッピング目的のためだ。それは、商品のリサーチ、在庫状況の確認、そして価格の比較だ。そのため、小売業者が実店舗の買い物客に対してオンラインでの存在感を高めるには、正確で質の高い商品情報を提供する必要がある。

 

小売業者は、自社の能力に応じて、顧客に提供するものについて創造性を発揮することができる。例えば、Walmart(米国に本社を置く世界最大のスーパーマーケットチェーン)のMobile Scan & Goのように、テクノロジーを使ってオンラインポータルを提供することでより多くの商品情報を提供したり、レジでQRコードを利用することでより迅速なチェックアウトを提供している小売業者も存在する。

 

小売業者が採用しているもう一つのコンセプトは、店舗での体験をよりオンライン重視のものにすることだ。ソーシャルメディア・チャンネルを導入し、それを体験の一部とするのだ。もちろん、人工知能(AI)、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)が小売業界で主流になれば、これらのテクノロジーはフィジタルショッピング体験を強化することになるだろう。

 

このプロセスは、すべての店舗に適用できる画一的な方法論か。それとも、CRM(顧客管理)プラットフォームが顧客体験を作るようにパーソナライズされたものになるのか?

これは、標準化とパーソナライズの両方を組み合わせたものだ。画一的という観点からいえば、いくつかの品質はほとんどの小売業者にとって標準となるだろう。

 

例えば、セルフレジは店舗によって機能が異なるが、時がたつにつれ、顧客の行動によって、あらゆるセルフレジでの最も効率的な方法が決定されてきた。同じように、フィジタルショッピングは、ジオロケーションやお買い得品や割引に関する通知、オンラインポータルへのアクセスなど、標準的な品質を備えることになるだろう。

 

標準的なオンラインアプリが追加された場合、顧客ごとに体験をどうパーソナライズするかは小売業者次第だ。世代の違いに応じて、買い物客はラベル、QR コード、またはモバイルアプリなど、どのように商品情報を受け取りたいと考えているだろうか?

 

小売業者とマーケターは、サイロ化された状況から抜け出し、各チャネルの長所を効果的に活かすにはどうすればよいだろうか?

小売業者とマーケターは、まず各チャネルの欠点を理解する必要がある。買い物客が店内で過ごす時間の長さや配達時間の長さといった欠点は、それぞれのチャネルに足りないものを示している。さらに重要なことは、欠点を知ることで、他のチャネルがどの部分を補うことができるかが分かるということだ。

 

従来の実店舗での平均的な買い物時間は約41分だ。これには、店舗に到着して歩き回り、カスタマーサービス担当者と話し、類似商品の価格を比較し、チェックアウトするまでの時間が含まれている。

 

一方、オンラインショッピングでは、交通手段の必要がなく、また気が散る要素もないため、その時間は大幅に短縮される。小売業者とマーケターは、両チャネルの長所と短所を理解し、解決策は相反するチャネルの中にあることを認識する必要がある。

 

出発点として、小売業者はどのような店内テクノロジーを使ってコンセプトを宣伝し、必要な消費者データを取得すべきだろうか?

小売企業は、自社のモバイルアプリを詳細に分析するところから、フィジタル・リテール戦略に着手すべきだ。これにより、互換性のあるテクノロジーの基礎が確立される。その上で、実店舗とオンラインショッピングが互いにコミュニケーションできるようなテクノロジーやソフトウェアを検討する必要がある。

 

それから、小売業者は、リアルタイムの価格情報を提供し、顧客データを集計するIoTデジタルタグも検討すべきだ。商品や売り場の正確な位置を知ることができるジオロケーションも、コストに見合うもう一つのテクノロジーだ。

 

より高度なツールが利用できるようになったら、小売業者はVR、AR、AIなどの技術をフィジタル体験に取り入れるべきだ。

 

店舗とオンラインの体験が融合した小売業界はどうなるだろうか?

小売業の未来は、必然的にフィジタルになる。顧客優先の精神、パーソナライズされた体験、正確な商品情報など、この戦略を採用する小売業者が最終的に勝ち残り、業界とともに進化するロイヤルな顧客基盤を獲得するだろう。

 

新しい「マーケティング+リテール」の店舗向けアプローチは、AR、VR、IoT、Web3やそれらの組み合わせで進められるのだろうか?

フィジタル戦略は、AR、VR、IoTとWeb3の4つすべてに依存するだろう。すでに小売業におけるVRやARアプリの需要は高まっており、小売業者はオンラインショッピングをする消費者向けにこのテクノロジーの導入を始めている。

 

例えば、IKEA(スウェーデンに本社を置く世界最大の家具量販店)では、ARテクノロジーを使って、部屋の家具をより視覚化できるようにしている。ARのようなテクノロジーは、仮想的に箱から出してサイズや色の比較をさせることで、フィジタルショッピング体験を向上させるだろう。

 

フィジタル・リテールはどれ位のスピードで普及するだろうか、あるいはまだ実験段階にあるのだろうか?

フィジタル・リテールは、小売業界が過去3年間に経験したことから自然に生まれたものだ。パンデミックによって、より強固なオンラインショッピング機能やカーブサイドピックアップなどのサービスが必要となった。そして、ロックダウンが収まると、店舗でのショッピングがほぼ全速力で戻ってきた。

 

また、MetaTikTokなどの大手企業が、顧客が買い物をするための新しい革新的な方法を導入するのも目にしてきた。これらの変数の組み合わせにより、フィジタルショッピングは必然的なものとなったのだ。

 

新しいテクノロジーが導入され、実装されることによって、この戦略は常に試験的であるように感じられるだろう。しかし、現在フィジタルショッピング戦略を採用している企業は、5年後に最も大きな成功を収めるだろう。

 

※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の2/6公開の記事を翻訳・補足したものです。