ダイバーシティは成功をもたらすが、それはコンテンツと組織の両方に存在する場合に限る。

企業のあらゆるレベルにおけるダイバーシティ(多様性)は、企業の成功と生産性の主要な指標となる。ダイバーシティとインクルージョン(包括性)のメリットは、株式と収益のパフォーマンス、採用とリテンション(定着)、顧客獲得とロイヤルティにあらわれる。多様なマーケティング組織は、多様な市場へのアクセスの助けとなる。

 

ダイバーシティは、あれば良いというわけではなく、必要なものである。多くの研究において、より多様性のある組織の方が、そうではない組織よりも優れていることが示されている。

 

ダイバーシティとインクルージョンの文化を持つことは、これまでほとんど支援を受けたことのないグループのメンバーに力を与え、奨励し、支援を提供するポリシーと手順の結果である。それは意図的なものではなく、結果にフォーカスしたものだ。こうした状況では、言葉よりも行動を優先させる必要がある。

 

マーケティングは信頼がすべてだ。実際、Salsify(ブランドメーカー向けのコマース・エクスペリエンス・マネジメントプラットフォーム:米国)の調査によると、顧客の46%は、信頼できるブランドの製品やサービスにはより多くのお金を払うという。信頼構築に重点を置く場合には、広告やプロモーションにおいてもダイバーシティを表現する必要がある。なぜか?Facebookの広告調査によると、顧客のおよそ60%は、インクルーシブな広告を使用することで、その組織をより信頼するようになるという。

 

ただし、異なる民族的背景を持つ人々をコンテンツに追加するだけで、それが達成されるわけではないことに注意する必要がある。さまざまな顔を登場させ、特定の祝日(Juneteenth(米国の奴隷解放記念日にちなんだ祝日)、Cinco de Mayo(メキシコがフランス軍を撃破したことを記念するメキシコの祝日)、Ramadan(イスラム教の五行のひとつである断食を行う月)、Pride(セクシュアル・マイノリティのパレードイベント)など)を大々的に祝う「行事ごとに登場させる顔を変える」ようなアプローチのマーケティングは、惨事を招く行為である。ターゲットとなるオーディエンスとの間に問題が生じることはほぼ確実だ。それを回避するには、多様性のあるチームを編成する必要がある。

消費者は、自分たちのニーズや関心事を表す広告やプロモーションを求めている。だが、彼らはそれを額面通りに受け取るだけではない。彼らは、その表現が本物であることを証明するものを探し、そうでないと感じれば怒りをあらわにする。

 

本稿は、マーケティング組織向けのダイバーシティ、エクイティ(公平性)、インクルージョン(DEI)の概要であり、基本的な概念を説明し、実施可能なステップを提案する。

 

ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンとは何か

ダイバーシティ マーケティングコンテンツのダイバーシティと職場のダイバーシティは直接的に関係しているが、その形態はさまざまだ。コンテンツでは、年齢、能力、民族、ジェンダー、セクシャルアイデンティティ、宗教、その他の人口統計学的特性の異なる人々を描写することを意味する。組織では、社会から疎外されたコミュニティから人々を積極的に探し出し、採用することである。それは、社会全体とあなたが到達したいオーディエンスの両方を反映するチームをつくることである。

 

インクルージョンとは、社会的に疎外された人々の意見を聞き、彼らとその貢献に対し、これまでは否定されてきた配慮と敬意を払うことを保証するための方針と行動を意味する。ただし、単に彼らをスタッフとして迎えるだけでは不十分だ。

 

エクイティとは、このような人々が組織の中で昇進するために必要なサポート(トレーニング、メンターシップなど)を行うことを意味する。そのためには、なぜ組織がそのような失敗をしたかを理解し、二度と同じことをしないようにする必要がある。

 

マーケティングにおけるダイバーシティとインクルージョンのメリット

オーディエンスのエンゲージメントと信頼の向上

  • Quantilope(消費者リサーチおよびAIなどの高度なインサイトオートメーションプラットフォーム提供企業:ドイツ)によると、消費者のおよそ3分の2(60%)が、ダイバーシティとインクルージョンのトピックが重要だと感じているという。これは、2〜12歳の子どもをもつ親(78%)、アフリカ系アメリカ人(80%)、および若い世代(ブーマー世代のわずか46%に対し、Z世代76%、ミレニアル世代72%)で最も高い数値を示している。
  • Adobeの調査では、約62%の人が、ブランドのサービスや商品に対する認識は、ダイバーシティに影響されていると回答。ダイバーシティの欠如は売り上げを下落させる。実際に、アフリカ系アメリカ人の53%、ヒスパニックの40%、LGBTQ +の58%は、表現の問題を理由にブランドの利用をやめたという。
  • Facebook Advertisingによると、59%の人が、オンライン広告におけるダイバーシティとインクルージョンを掲げるブランドにより愛着を持つと回答している。


収益の向上

  • Harvard Business Review(米国経営学誌)の調査によると、従業員のダイバーシティが平均よりも高い企業ほど、イノベーションの収益が向上するという。
  • McKinsey(米国の大手コンサルティング企業)の調査 によれば、民族的に多様な企業は35%、ジェンダーに関して多様な企業は15%、それぞれ高い収益を生み出す可能性があるという。
  • Deloitte(世界最大の会計事務所:米国、英国)によると、高成長ブランド(10%以上の年間収益増加)は、マイナス成長ブランドよりもダイバーシティとインクルージョンに関連する人材目標を掲げている可能性が1.9倍高いとのこと。

 

新規顧客の獲得

  • Googleの調査によると、64%の消費者は、ダイバーシティまたはインクルージョンがあると感じた広告を見た後に、商品を検討、購入する可能性が高まるという。この割合は、ヒスパニック(85%)、黒人(79%)、アジア太平洋諸島民(79%)、LGBTQ(85%)、ミレニアル世代(77%)、ティーン世代(76%)の消費者を含む特定の消費者グループで高い傾向にある。
  • Facebook Advertisingによると、Facebookが実施したシミュレーションの90%以上において、ダイバーシティに関する表現が広告想起リフト(広告がどれだけオーディエンスの印象に残ったのかを測る指標)にとって最良の戦略であったという。
  • Accenture(総合コンサルティング企業:アイルランド)のホリデーショッピング調査では、若いミレニアル世代の約70%は、そのブランドがプロモーションやオファーの際にインクルージョンとダイバーシティを示している場合、別のブランドよりもそのブランドを選択する可能性が高く、その割合は店舗での体験で66%、取扱商品については68%となっている。

従業員の獲得と定着

  • Glassdoor(従業員や元従業員による匿名での企業についてのレビューを求職者に提供する企業:米国)によると、従業員の約57%、求職者の67%が、ダイバーシティを職場の重要な要素と考えているという。

 

  • Deloitteによると、従業員が組織をダイバーシティとインクルージョンに取り組んでいると認識し、実際に自分たちがその一員であると感じた場合、その雇用主を高業績であると評価する可能性が80%高くなるという。

 

できることからはじめる

組織を変えることは困難だ。ダイバーシティ、インクルージョン、エクイティとなればなおさらである。多くの人々が、その実現はおろか、ダイバーシティやインクルージョンの考え方に脅威を感じているかもしれない。そして彼らは、それらの実現に向けた努力を妨害しようとするかもしれない。または、彼らは賛同すると言いながらも、ダイバーシティやインクルージョンに反対するかもしれない。道徳や信念に関わる議論は避けよう。ビジネスケースにこだわり、事実を武装するのだ。あなたは会社とコミュニティ両方のために戦っているのだ。

 

以下にその手順を紹介する。

 

状況を分析する。疎外された(マイノリティの)グループから人/コンサルタントを雇い、支援しよう。彼らは、あなたがしていることについての善悪の判断について、あなたよりも見極めることができる。あなたとは異なる人々が毎日直面しているすべての課題や障害を、ほぼ確実に見落としている。

 

ポリシーと手順を作成する。組織内にDEI(ダイバーシティ(Diversity)、エクイティ(Equity)、インクルージョン(Inclusion)の頭文字)の原則を導入することで、これまで多くの約束がありながら、ほとんど実行されるのを見ることのなかったグループの従業員との信頼を築くことができる。

 

話すよりも聞く。会議であまり(あるいは、まったく)発言していない人に注目する。彼らの貢献と成功を評価し、激励しよう。もっと話を聞きたいということを、彼らに1対1で伝えるのだ。会議では、人々が割り込んだり、見下すように発言したり、後ろに追いやるようなことをしていないかに注意する。そのような時こそ、あなたが声を上げなければならないタイミングなのだ。

 

自分自身とチームを教育する。教育とトレーニングはダイバーシティとインクルージョンの取り組みに不可欠だが、それは1回限りで終わりというわけではない。新入社員を教育し、組織全体でこれらの原則を強化するためには、これらの取り組みを継続的に行う必要がある。

 

テストと測定。ビジネスの真実の1つは、重要なことを測定することだ。指標を作成し、それらに注意を払おう。求める結果が得られているかどうかをテストして、確認してほしい。求める結果が得られていない場合は、新しいポリシーと指標を試してみることだ。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の7/18公開の記事を翻訳・補足したものです。