顧客マーケティングにおけるシームレスなデジタル体験の構築へ向けて

 

「誰もが、”ビジネスをしかるべきスピードで動かさなければ、失敗する恐れがある”という格言を耳にしたことがあるだろう」と、先日開催されたMarTechカンファレンスにおいて、CXソフトウェア企業Tableのマーケティング・ディレクターであるMatthew Crocker氏は語った。「今の顧客は、デジタルファーストである。彼らは、どこにいてもデジタルを利用しているということを認める必要がある」。

 

Crocker氏は、パンデミックによるロックダウンやソーシャルディスタンスの影響によって、実店舗体験をデジタル化に向かわせる歴史的な動きについて語った。しかし、それだけではなく、すべてのビジネスに対して幅広い影響を与えた。顧客が「digital everywhere(どこでもデジタル)」を求めるのであれば、顧客が利用する多くの断片的なチャネルでのデジタル体験を集約するのは、マーケターの仕事である。

 

Crocker氏は、「顧客が、コンテンツを、こんな方法で、こんなふうに提供して欲しいと思う要求や欲求が、デジタルなのだ」と語る。「かなり前から言われていることだが、ビジネスを(店舗の)床からスクリーンへ移行し、そして、その間を少しずつ行き来することを可能にする、シームレスで簡潔な高度に統合された方法が必要なのである」。

 

ビジネスが実店舗から始まったのか、それともeコマースから始まったのかにかかわらず、多くの顧客は、その両方を望んでいる。例えば、eコマースのホーム&ベッドメーカーResidentが、実店舗小売チェーンとしても地位を確立するために迅速に動いた事例を参考にすべきである。顧客が、実店舗とデジタルを求めるようになった今、両方の体験を結びつけるものは、デジタルなつながりである。そして、マーケターには、そのつながりをシームレスにすることが強く求められるようになった。

 

顧客マーケティングの近道を避ける

“シームレス”とは、つながりを構築する必要がないように体験を単一チャネルに縮小することではない。しかしCrocker氏は、少なくともデジタルトランスフォーメーションの初期段階においては、マーケターがよく使う方法だと指摘する。

 

チャットボットなどの実証済のツールを使えば、他のデジタルチャネルは必要ないと単純に考えてしまう傾向があると同氏。

「現在、多くの企業が、自社ビジネスを今の時代にあったものにするためのプラグアンドプレイ・ソリューションについて悩んでいる」と、Crocker氏は述べている。「その簡単な解決策は、顧客を予測可能なファネルに従わせる方法をとることだが、効率化のために体験を犠牲にしてしまう。これは、従来型小売企業の多くが陥っている共通の問題である」。

 

同氏は、顧客を第一に考えることで、実店舗からデジタルチャネルへの移行を改善することができると付け加えている。

 

顧客のデジタルコミュニケーションを拡大する

デジタルプレゼンスを拡大しようとする企業がすぐに直面するのが、「繰り返し」を避けなければいけないという課題である。ただ単にホームページを構築し、他のすべてのデジタルチャネルにおいても、同じメッセージやグラフィックを使用することはできないのである。

 

Table社のCEOであるCristian Petschen氏は、次のように述べている。「企業は、できる限り多くの人々にリーチする必要があり、何千万人、何万人という顧客に対応しなければならないという問題を抱えている。しかし、それと同時に、自然に感じられるような体験を提供する必要もある」。

 

顧客を第一に考え、自然な体験を提供するという戦略は、例えば、チャットボットを使用する場合においては、適切な質問をしたり、必要に応じて顧客をライブサービスの専門スタッフにつないだりする柔軟性を備えている必要があると、Petschen氏。

 

Crocker氏は、「我々は、自動化されたチャットボット体験を提供しているが、それはセミカスタマイズされ、顧客主導なものでなければならない。顧客は、何かを押し付けられるのではなく、生身のエージェントと話す選択肢を与えられなければならない。繰り返しではなく、動的な(体験)を提供するには、このような動的な要素が非常に重要となる」。

 

コンテンツ戦略における持続性の重要性

異なるユースケースで同じコンテンツを提供された顧客は、同じことの繰り返しにうんざりしてしまう。反対に、高度でシームレスなCXは、顧客を適切な体験へと導く持続性をもたなければならない。

 

Crocker 氏は、こう述べる。「顧客とのインターフェースとなるものはすべて、何らかの持続性を持つ必要がある。顧客が誰であるか、抱えている問題は何かを覚えていなければならない。そして、持続性を持ち、顧客を認識することは、顧客とのインタラクションにおいて、極めて重要なことだ」。

 

「誰かが誰かと関係を構築し会話をするとき、それは、パーソナルであり、動的で、流れがあり、会話の糸口がある必要がある」と、Petschen氏。「相手のことを知らなかったり、過去に交わした会話を理解していなかったりすれば、関係を築くことはできない」。

 

過去の購入履歴やカスタマーサービスに関するデータを用意しておくことで、より高いエンゲージメントを獲得できる。カスタマイズされた体験を提供することで、顧客を惹きつけ、育成することが可能となる。これに適切なコンテンツアセットを付加すれば、購入時だけでなく、カスタマージャーニー全体でリッチメディア体験を構築することができる。

 

Crocker氏は、「ビジネスでは、顧客サービスや顧客への接し方を除いて、すべてがコモディティになる(一般化する)可能性がある。顧客サービスと顧客対応、これこそが、他社が真似できないことなのだ」。

 

反復性と動的持続性のバランスをとることは、セールス担当者と顧客が同じ物理的空間を共有する実店舗のみの環境では、容易かもしれない。しかし、デジタルCXへの移行期や規模の拡大期には、マーケターの達成すべき重要な目標となる。

 

シームレスなカスタマー・メディア・ジャーニー

「小売業者が、カスタマージャーニーについて語るとき、それはたいていスクリーン上の線で示される。しかし私は、その手法が嫌いだ。なぜなら、カスタマージャーニーは、実際には円に近いものだからである。(顧客は)何度も戻ってきて、ブランドに触れ、ブランドがその個人に提供できるものに触れるべきだ」。

 

「ブランドによって、ペルソナやパーソナリティは異なり、それぞれ達成すべき目標がある」と、Petschen 氏は述べている。「しかし、顧客は、実際には異なるチャネル間を行き来している。 彼らは、自分たちがトラッキングされていて、リテンション段階にいるとか、顧客から支持者への移行段階にいるとか、自分がどのステージにいるかといったことは考えていない。顧客は、ただ自分の生活を生きているだけだ」。

 

さらに、顧客は、ステージの順番を予測できないため、彼らが体験を理解できるように、企業は各ステージをさまざまなチャネルで展開する必要があると、Petschen 氏は述べている。

 

「顧客のニーズを認識し、それを結びつけることで、顧客がジャーニーのどこにいるのかを把握ことができる」と同氏。

 

顧客の動きは予測できないため、繰り返しにならないように、顧客を誘導するためのトリガーを準備しておくことは重要である。また、顧客の視点を理解していれば、モバイル戦略を採用するべきである。なぜなら、ほとんどの消費者が持ち歩いているスクリーン端末は、携帯電話のみであるからだと、Crocker氏は述べている。

 

「その顧客が誰で、どこにいて、何を必要としていて、過去に何を購入し、どんなサービスを受けたのかを認識したデジタルエクスペリエンスを提供しなければ、自然な関係を構築することはできない」と、Petschen氏。

 

顧客との関係において、これらの重要な指標に合った体験が構築されて初めて、顧客がブランドの支持者になる可能性が生まれる。

 

※当記事は米国メディア「Martech」の9/9公開の記事を翻訳・補足したものです。