今やeコマースマーケティングの中核の一つとなってきている「ストーリーテリング」。ブランドが自社のストーリーを知り、どのように消費者へ伝えるべきかを理解することは、大切だ。ブランド・ロイヤルティの向上から購買決定に至るまで、全ては企業が魅力的なストーリーを巧みに語ることができるかどうか次第である。

 

「事実は語り、ストーリーは購買につながる」と、ストーリーテリング関連サービスを提供するEcho Storytelling Agencyの社長、Samantha Reynolds氏は言った。

「人は、感情によって何を買うかを決定する。そして、論理とデータを用いて、自分の下した決定が『正しかった』と再認識する」と同氏。

優れたストーリーは、他社との差別化に有効である。特に、多数の競合ブランドが存在する分野では尚更である。

 

「顧客が、大量の広告に接触し、無限の選択肢を持つ現状において、ノイズを切り抜ける唯一の方法は、顧客の感情的な本能に訴えることである」と、Reynolds氏は話す。「顧客の心を勝ち取らなければならない。感情的なつながりを構築できなければ、提供する製品やサービスの価格と機能だけで競争することになる。それは過酷な競争だ」と加えた。「では、どうすれば、顧客と深い感情的なつながりを構築することができるのか?それは、自社のストーリーを語ることによって可能となる」。

 

なぜストーリーが有効なのか?

感情を介して人間を互いに結び付けるのが、ストーリーである。これは個人だけでなく、ブランドについても当てはまる。なぜなら、物語は人々がコミュニケーションをとり、つながりを構築する上で、重要な役割を果たすからである。

 

Unify Consultingのエグゼクティブストーリーコーチ兼コミュニケーションディレクターであるLisa Kagan氏は次のように述べている。

「人間は、組織やコンセプトではなく、人間に対し最も共感する」。「人間は、人間関係と経験の世界で活動しており、それはストーリーでうまく表現される」と同氏。「さらに、人間が感情抜きに決定を下すことは不可能であることが神経科学によって証明されており、ストーリーは、オーディエンスの感情に訴える最良の方法の1つと言える。すべての顧客、または、クライアントが人間であることを考えれば、ストーリーは非常に有効であることは当然だ」。

 

ストーリーによって、「なぜその企業が他社とは違いユニークなのか」を表現することができる。「ブランドが何をしているかではなく、“何が特別なのか”を示さなければならない」と、Kagan氏は語る。「ターゲットオーディエンスは、会社のブランドストーリーを証明するものに加えて、本物の感情を望んでいる。多数のブランド・ランゲージ(ブランドが、自社ブランドまたは製品を表現するために使用する単語やフレーズ)はあるが、それを裏付けるストーリーがない場合、最も優先したい作業はそのギャップを埋めることだ」。

 

また、ストーリーは顧客だけでなく、将来の従業員も惹きつけることができることを認識するのも大切だ。

 

「雇い主として最も優秀なブランドは、最高の人材を引き寄せ採用するために、自社の職場文化について複数のチャネルにおいてストーリーを語っている」と、Echoの Reynolds氏は述べている。 「それら進歩的な企業は、ストーリーテリングを利用して新入社員を効率的にトレー二ングし、日々従業員を積極的に貢献させ、会社の価値観、使命、目的を実践させている」。

 

優れたストーリーを語る

ブランドが、最初に語らなければならないのは、ブランドの起源についてのストーリーである。ブランドがどのように、そして、なぜ始まったのか?という点だ。

 

「1人、または、複数の創設者が、会社を立ち上げた動機は何であったのか?その質問に答えるコンテンツは、会社概要ページに掲載されなければならない。しかし、それだけで終わるべきではない」と、Reynolds氏。「これは、ブランドの背後にある実際の人物とストーリーを紹介し、会社に人間味を与えるチャンスなのだ。ブランドが何を目指しているのかを語ることにより、より刺激的なコンテンツとなるだろう」。

 

優れたストーリーを語ることは、ストーリーを理解し、実践することを意味する。ブランドストーリーは単にマーケティングの問題ではなく、会社の基本理念でなければならない。

 

ストーリーテリング・マーケティング会社であるLeadership Story Labの社長Esther Choy氏は、次のように述べた。

 

「ストーリーは、単なる言葉の集合体や、綺麗なインフォグラフィックでは、決してない」。

「本物のストーリーは、その組織が何をしていて、その行動の中心となる価値観や目的は何であるかを表現する。ブランドは自社のストーリーを理解し、語り、そして実践しなければならない」。

 

ブランド・ストーリーテリングのもう1つの重要な要素は、とりわけ企業のアイデンティティが、いかにうまく溶け込んでいるかという点に関する顧客のストーリーである。

 

実際、顧客のストーリーが「ブランド・ストーリーテリングの大部分を占めるべきだ」と、Raynolds氏は述べた。「顧客は常に説得力のある一連のストーリーの中核にいる。彼らは今までに観たことがある全ての大ヒット映画の主人公のように、問題を解決する、または、ニーズを満たすための探求の旅の途中にいる。ブランドの仕事は、顧客に対し自社を選択することがハッピーエンディングにつながることを説得することだ」。

 

優れたストーリーは語られてこそのものであり、内容だけでなくスタイルにもフォーカスすることが重要である。特に企業は、人々が理解し、魅力的であると感じる言葉や画像で自社ストーリーを語る必要がある。

 

「ストーリーを語っているうちに、たった1文でも会社の専門用語を使用してしまうと、一瞬にしてオーディエンスを失うことになる」と、Kagan氏は述べている。「ケーススタディにおいてこの失敗は多く発生する。企業は、クライアントや製品、あるいはキャッチコピーによって構成されているわけではない。自社の功績を実証する真実のストーリーを語らなければならない。自社と“優れた何か”との関連性は語るべきではないのだ。企業は、そこで働く人とその信念で成り立っている。そして、自社のクライアントと提供する製品は、それらを体現したものである」。

 

未来のストーリー

技術やメディアが変化するにつれて、ストーリーテリングも変化するだろう。1つの重要な変化は、ストーリーがソーシャルメディアで語られるようになり、インタラクティブ性が必要となっている点である。

 

Unify ConsultingのKagan氏は、次のように述べている。「ソーシャルメディアの登場により、企業がコントロールできないところで誰しもが企業について代わりに語ることが可能になった。否定的なストーリーが語られれば、ブランドの失敗が証明され、破滅の原因となる危険性がある。逆にストーリーが肯定的であれば、ブランドは信頼性の高い評価を獲得することになる。今後は、本物の顧客やユーザーからストーリーを発信させ、自社ブランドに対し懐疑的な人の信頼を勝ち取ることが重要となるだろう」。

 

これからのストーリーは、カスタマー・ジャーニーの一部であると捉える必要もある。本質的には、カスタマー・ジャーニーは、ブランドが語るより大きな物語の一部になるのだ。

 

マーケティングコンサルティング会社であるGo NarrativeのCEOであるMatthew Woodget氏は、次のように指摘した。「かつて、ブランド・ストーリーテリングは、1分尺コマーシャル、屋外広告、一面広告といった、具体的なマーケティングや広告アセットに限定されていた」。

 

「しかし現在は、ストーリーテリングが多様なアセットやカスタマー・ジャーニー全体にわたって活用可能となった。最も優秀なマーケティング担当者は、カスタマー・ジャーニーを前進させるためにストーリーを設計している。ブランドが、顧客のガイドとなり、顧客とブランドは一緒にそのジャーニーを進んでいくことになる」。

 

もはやストーリーは、「会社概要」ページに掲載された静的な文章ではない。その代わりに、新しいテクノロジーによって、いつ、どこで、誰とインタラクティブに関わっているかに基づいて、ストーリーをリアルタイムで進化させることが可能となった。

 

「データ・ドリブン・マーケティングによる人々とのインタラクティブな関わりを通じて、自社のストーリーをテストし、適応させ、そして進化させることができる」とWoodget氏は語る。

 

「ブランドは、単なるストーリーテリング以上のものを計画する必要がある。ブランドはカスタマー・ジャーニー全体にわたるインタラクティブなストーリーメイキングに関与し、適応しなければならない」。

 

「データはブランドに対し、顧客の困難や欲求に関するインサイトを提供するだろう。またデータは、ストーリーテリングの有効性と影響も証明する。ブランドは、ストーリーテリングとデータを組み合わせることで、ブランドを記憶する人数、及び、ブランドから購入する人数を最終的には最大化することが可能であるのだ」。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の3/18公開の記事を翻訳・補足したものです。