Upstream(ITビジネス向けにソフトウェアソリューションを提供する英国企業)の副社長Kostas Kastanis氏に、顧客エンゲージメントチャネルとしてのリッチコミュニケーションサービス(RCS)の将来性について考えを聞いた。
丁寧にキュレーションされたアプリから人工知能を搭載したチャットボットまで、マーケティングをとりまく環境は、カスタマイズされたコミュニケーションが互いにつながる、マルチチャネルの活動の場へと進化した。今日の消費者は、売り込みではなく、会話を求めている。そして、その会話を行うためのプラットフォームとして、地球上のほとんどすべての人がポケットに入れて持ち歩く最もパーソナルなコミュニケーションデバイスより優れているものは何だろうか。
パンデミックが始まって以降、デジタルマーケティングについては広範なイノベーションが行われてきたが、広告主がオーディエンスの期待するようになった「会話型コマース」に取り組むための最も明確な道筋を示すのは、地味なSMSテキストメッセージの後継であるかもしれない。リッチコミュニケーションサービス(RCS)は、現代のメディアメッセージにふさわしいテキストメッセージの進化形である。送信者はRCSを使うことで、高解像度の写真やギャラリーからクイックリンクや認証済みのブランディングまで、送信するメッセージごとに高度にパーソナライズされた、インタラクティブな各種メディアを含めることができる。デジタルメディアのすべての機能が標準的なメッセージングアプリに統合され、インターネットと従来の携帯電話の世界の両方から最高のものを組み合わせることを想像してみてほしい。
消費者の10人に9人は、企業とのコミュニケーションにテキストメッセージが望ましいとするデータがある(出典:SMS Comparison、「SMS Marketing Statistics 2022 For USA Businesses(2022年版米国企業向けSMSマーケティング統計)」、2022年4月)。パンデミック以前においても、Gartner(IT分野を中心にリサーチとアドバイザリーを行う米国企業)は、98%という驚異的な開封率であるSMSに対し、メールは20%に過ぎないことを明らかにしている。したがって、高度な調整を行い、カスタマイズできるメディアリッチな形式のテキストメッセージであるRCSが、広告主にとって決定的な勝利となるのは当然のことだ。しかし、なぜRCSなのか。そして、なぜ今なのか。
単なるメッセージング以上のもの
RCSは、 Android端末向けの次世代メッセージングとして、モバイルエコシステムの最大の国際組織であるGSMA(Global System for Mobile Communications Association)が2007年に、モバイルネットワークを基本的なテキストメッセージから進化させるために導入したものである。技術的には成功したが、当時、通信事業者がこれを活用するには難しく、コストもかかりすぎた。だが、GoogleがキャリアやOEMと提携し、RCSを完全にサポートする新しいネイティブメッセージングクライアントを提供するようになり、今やこの状況は変わった。
RCSは、企業が何を伝えるかではなく、どのように伝えるかが重要であることを、疑いの余地もなく証明している。写真、動画、インタラクティブな「カード」、カルーセルやポップアップメッセージは、すべてRCS環境で利用可能だ。メッセージを開くと、ユーザーはメッセージに直接返信したり、カレンダーにイベントを保存したり、クリックして電話をかけたり、位置情報を共有したりすることもできる。Facebook MessengerやWhatsAppのようなサードパーティアプリをダウンロードせずとも、人間的なレベルでブランドと会話し、交流することができる。それは、メッセージングアプリでは、文字通り指先にインターネットがあるということだ。
広告主にとっては、ユーザーとのインタラクションを促進し、エンゲージメントを高めるための新しい方法を見つけることができる。例えば、ユーザーがタップするだけで何かに参加したり、製品やサービスの詳細を知ったりできる「クイックレスポンス」アクションを取り入れられる。また、RCSは、既読通知やメッセージ内のエンゲージメントトラッキングなど、他のメッセージング形式では実現できない詳細なパフォーマンス指標をマーケターに提供することもできるのだ。
なぜ今、RCSなのか
2026年までに、世界中のユーザーの手元にあるRCS対応デバイスは40億台近くになると推定されており、マーケターはかつてないほどオーディエンスと直接エンゲージするユニークな機会を得ることになる。RCSのネイティブサポートを提供することでキャリアメッセージングを改善しようとするGoogleの最近の動きは、RCS復活の裏にある重要な推進力となっているが、それ以外にもさまざまな力が働いている。サードパーティCookieは間もなく永久に棚上げされ、マーケターが消費者の閲覧履歴に基づいて広告で消費者をターゲット化する、これまでの容易な道は閉ざされる。つまり、メッセージングなどのファーストパーティデータの使用に基づくマーケティングチャネルは、今後数か月から数年の間にさらに重要性が増すことになり、モバイルネットワーク事業者は、すでに他の形態のエンゲージメントよりもメッセージングを好むアクティブな購読者層という形で既存顧客を獲得できるのだ。
Android端末は現在、欧州で69%、北米で45%のシェアを占めている。南米やアフリカなどの新興市場では、Androidはそれぞれ91%、84%のシェアを占めている。これは、RCSが間違いなく最も有力なマーケティングチャネルの一つに成長するための素晴らしい基盤である。
サードパーティCookieの廃止が現実のものとなり、RCS対応デバイスが世界中で急速に展開される中、RCSメッセージングは広告主にとって会話型コマースの扉を開く鍵になる可能性が高いのだ。
追記:RCS、企業がモバイルマーケティングキャンペーンに導入できるユースケース、モバイルオペレーターがデジタル広告エコシステムでの地位を強化するためのRCSの活用方法、また、実際のケーススタディからのパフォーマンスデータについての詳細は、Upstreamのホワイトペーパー「Unlocking multi-channel marketing with RCS(RCSによるマルチチャネルマーケティングを解き明かす)」へ。
※当記事は英国メディア「Mobile Marketing Magazine」の6/27公開の記事を翻訳・補足したものです。