InstagramやYouTubeから誕生した多くのデジタルファーストの美容ブランドが、美容小売業界を揺るがしている。Macy’sSaks Fifth AvenueBloomingdales(すべて米国)のような大手デパートに昔から入っている定評のあるレガシーブランドは、新進気鋭のブランドがいかに躍進し、市場シェアを獲得しているかに注目している。

 

しかし、新興コスメ企業とレガシーブランドが互いに参考にできることは多くある。新興ブランドがさまざまなソーシャルメディアチャネルに積極的に参加して存在感を示す一方、レガシーブランドの「美容カウンター」は、長年製品を購入している消費者からの信頼と格式の高さを築いている。

 

スピード感という点では、さまざまな理由によりオンラインのみで展開するブランドが有利なスタートを切ることができる。オンラインブランドは、一般的に製品開発サイクルが非常に短く、取扱商品が少なく、カタログサイズも小さいため、エシカルで環境に配慮した製品や文化などの最新トレンドに対応しやすい。

 

逆に、レガシーブランドは製品開発サイクルが長くなる傾向があり、環境に優しく持続可能性を重視する意識が高い文化ムーブメント下では勢いと信頼を得ることが難しい。

 

最新の美容ブランドと既存のレガシー化粧品会社とにそれぞれ違いはあるものの、共通のある問題を抱えている。それは、顧客が商品をいれたカートを放棄することによるeコマースの売上と収益の損失である。

 

注文放棄はオンライン小売業者にとって新しい問題ではなく、2020年も例外ではなかった。ドイツに本社を置き、市場調査や消費者動向に関するデータや統計を提供するプラットフォームのStatistaによると、昨年、世界のオンライン小売業者のカート放棄率が88%にのぼったことが明らかとなった。また、美容ブランドのカート放棄率は85%以上であり、あまり良い数字とはいえない。

 

現在、美容企業は「カート放棄の可能性を削減し、コンバージョンを高めるために、どのような効果的な対策を取るか」という難題に取り組んでいる。

 

放棄の問題と改善策

新型コロナウイルスの世界的なパンデミックの封じ込めに適応するため、この12か月は特に厳しい状況となった。小売業者は、ビジネスを継続するため一時的に店舗を閉店したり、完全な方向転換を余儀なくされたりした。人々が(ゆっくりと)適応し、コロナ禍後の生活を楽しみにするなか、ブランドは2020年の損失を回収し、顧客との関係を取り戻そうとしている。

 

昨年の明るい話題としては、オンラインショッピングの驚異的な成長とその人気の高まりが挙げられる。米国の小売業分析グループNPDによると、2019年と比較して、2020年の小売売上高は19%減少したものの、オンライン売上高全体では46%の成長率を達成した。

 

しかし、美容小売分野はパンデミック中の化粧品需要の激減により苦戦した。これは、我々の小売クライアント52社の消費者データに基づく調査結果と一致する。それらのデータは、パンデミック初期の2020年4月から9月に行われた2,500万件以上の購買におけるショッピング行動を評価したものである。また、当社のデータによると、同時期の来店者数は11.52%下落、収益は3.7%減少した。

 

多くの場所でパンデミックが収束し始めている今、美容製品の需要は回復しつつある。ブランドは気に入った美容商品のオンライン購入を続けるデジタルに精通した新規オーディエンスを大規模に獲得している。

 

カート放棄を抑制するソリューション

新旧どちらの美容ブランドも、最新のテクノロジーを活用することで、売上に悪影響を及ぼすカート放棄の永続的なサイクルを減らすことができる。

 

実績があり、効果的な戦略がある。それは、社会的証明、希少性、おすすめ商品などのパーソナライゼーションのコンセプトを組み合わせ、コンバージョン率を劇的に改善し収益増をもたらす戦略である。

以下の手法を組み合わせて行うと最も効果的となる。

 

割引特典:

訪問者が突然違うページをクリックするなどの離脱を示唆するような行動をとった場合、割引をポップアップ表示することで、アイテムを放棄する前に買い物客に再考させることができる。

 

この戦略は、ユーザーデータに基づいてメッセージを配信する場合に最も効果的となる。例えば、セール品の購入が好きな顧客には、購入金額から20%オフ、あるいは定番の送料無料を提案する。

 

定期的に商品の追加購入をすすめる:

美容ブランドは、ファンデーション、口紅、アイシャドウなどの商品を顧客が再注文する平均的な時期を把握できるユニークな立場にある。そこで、このデータを利用することで、カートに商品を追加したものの何らかの理由でサイトを“去った”顧客を呼び戻すことができるだろう。

 

電子メールで前回購入商品の補充購入時期であることを知らせるリマインダーを送ることで、顧客がサイトに戻り、前回放棄したアイテムと補充アイテムの両方を購入する機会が増える。

 

FOMO(買い逃すことへの恐れ、fear of missing out)を活用:

限定商品を購入するか迷っている顧客にとって、買い逃すことへの恐れは、購入の大きな動機となる場合がある。在庫が少ない商品であることを顧客に知らせることで、後からでは購入する機会を逃すかもしれないと、購入の決断を促すことができる。

 

再訪問者を再びターゲットにする:

買い物客がカートに商品を追加した後、そのサイトを離れ、後で戻ってくることはよくあることだ。戻ってきた際にカートの詳細をメッセージでリマインド配信し、決済もしくは買い物の続きを促す。

 

顧客が戻ってくるように電子メールを利用する:

買い物客がカートに商品を入れたまま、完全にサイトを離れてしまった場合は、電子メールサービスプロバイダ(ESP)経由のメールを送信し、それをきっかけに顧客にサイトへ戻って買い物を済ませるよう促す。メールのオプトアウト(もしくはオプトイン)リスト、電子メールの頻度などのルールを必ず設定し、「軽度の接触」にとどめ、顧客に嫌がられないよう配慮すること。

 

結論

カート放棄は、全てのマルチチャネル小売ブランドにとって継続的な問題だ。しかし、化粧品は多くの買い物客が「最初は試してから購入したい」と考える性質があるため、美容小売業者にとって特に困難な問題だ。

 

ブランドは、カート放棄の可能性を減らすために、パーソナライゼーション戦術を組み合わせて、買い物客に新商品を試してもらう必要がある。また、顧客を引き付け、ブランドへの関わりを感謝していることを顧客に伝えるショッピング体験を届けなければならない。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の8/11公開の記事を翻訳・補足したものです。