来年にかけてのホリデーショッピングの予測と消費者の支出パターンについては、支出の引き下げ、ブランド行動に対する消費者の期待感の高まり、そして中小企業の支援への注力などが特徴的なものとなるだろう。

 

その予測は、小売業者とeコマース小売業者のいずれにとっても、良い兆候ではない。米国のカスターマーエンゲージメントプラットフォームプロバイダーBrazeのレポートでは、マーケターは、ブランド価値と信頼性に注目し、それぞれが異なる好み、行動や期待を有する世代を超えた消費者に訴求することで、小売業者が直面する継続的な課題に対処すべきだと提案している。

 

8月11日付のレポート”The Future of Retail: Opportunities for Brands in the New Normal”(「小売の未来:ニューノーマルにおけるブランドの機会」)は、新型コロナウィルス感染症が小売業界に与える短期的・長期的な影響を評価している。

 

世界の買い物客の42%は、少額、もしくは、大幅に、支出を削減するだろうと回答。Brazeのレポートでは、新型コロナウィルスによるパンデミックが小売業者に与える影響について、消費者の買い物パターンに関わる、終わりなき行動の変化であるととらえている。

 

 

Brazeの社長兼最高顧客責任者であるMyles Kleeger氏は、次のように語る。

「新型コロナウイルス感染症によって、eコマースの需要が恒久化し、顧客ロイヤルティが向上し、そして、支出パターンが変化したため、消費者のリテールエクスペリエンスは永遠に変わってしまった。顧客に効果的にサービスを提供し、将来の成長を推進するために、顧客エンゲージメントの優先順位付けはこれまでになく重要になっている。デジタル化を強化し、パーソナライゼーションを戦略の中心に位置づけるブランドは、これまで以上にパンデミックをうまく切り抜けるだろう」。

 

顧客ロードマップ

マーケターが考慮すべき消費者の反応は、多岐にわたる。

 

調査結果によると、「価格」はZ世代にとって重要であり、45%がどの小売店を利用するかを決める際の最優先要因として「価格」を選択している。地元での買い物を大きな要因とする消費者もいる。

オンラインショッピングに対する魅力が急速に高まっているという以前のレポートにもかかわらず、今回のBrazeのレポートは、新型コロナウィルス感染症によって、オンラインであろうとなかろうと、中小企業への支援を促進されていることが示されている。

消費者はオンラインで買い物をしたいと思っている一方で、48%が「地元の小売店を支援する」ことが店頭での買い物をしたいと考える理由の一つであると答えている。逆に、ミレニアル世代(28%)、X世代(29%)とベビーブーム世代(30%)のそれぞれ3分の1未満が同様の回答をしている。

「『我々のレポート』が示す最も重要な点は、新型コロナウィルス感染症の影響は、今後も継続するということであり、顧客獲得のための大きなチャンスが今、そしてホリデーシーズン中にあるということだ」とKleeger氏。

「変化の大部分につて、人々は以前のやり方に戻ることはないだろう」と同氏は述べ、今回の調査の結論に言及した。

この点は、Brazeレポートにおいて、実店舗が再開したとしても83%の消費者が同額かそれ以上をオンラインで買い物をするつもりであることが示されている点から明らかである。

 

 

価値観の重要性

調査から、消費者の購買決定はもはやブランドとの親密性によるものだけではないことが分かった。ブランド価値と企業への共感は、消費者のロイヤルティと購買決定において、ますます重要な役割を果たすことになるだろう。

 

どこで買い物をするかを決める際、「親しみやすさ」を重視すると答えた消費者の割合はわずか10%と非常に低かった。これは、91%の人がパンデミックに対する企業の対応、特に従業員や顧客に対する対応を重視すると答えたこととは対照的だ。

 

また、従業員を不当に扱ったり、公害の原因となったり、敵対する政治姿勢をとる企業も、消費者が他事業者から買い物をする理由となることが明らかになった。

 

 

しかしながら、新型コロナウィルス感染症に対するブランドの対応は、Z世代とX世代にはほとんど影響を与えていない。どちらの年齢カテゴリーにおいても、これが購入の決定に影響を与える可能性は最も低かった。

Z世代の35%、X世代の34%が、コロナ禍における従業員や顧客への事業者の対応に基づいて、ブランドを選択肢から外す可能性が極めて高い、または非常に高いと答えたのに対し、ミレニアル世代では43%、ベビーブーム世代では20%であった。

 

同レポートによると、小売業者は、今からホリデーシーズンのキャンペーンの設計をスタートし、この数ヶ月間に顧客との関係を深める必要があるという。効果的なオンボーディングとライフサイクルマーケティングプログラムを構築することで、全体的な顧客獲得コストを削減しながら、今年のホリデーシーズン以降も顧客の購入可能性を高めることができるのだ。

 

 

デジタルファーストには注意が必要

パンデミックは、すでに動き出していたデジタルファーストへの動きを加速させた。Kleeger氏によると、この変化はブランドにとって、これまで手に入れることができなかった市場を開拓するチャンスを生み出しているという。

 

Brazeのデータから、世界の消費者の26%が新型コロナのパンデミックの間に少なくとも1つの新しいブランドを試し、そのうちの95%が、新規に購入したブランドの1つから再度購入するつもりであることが分かった。

「そうは言っても、一度獲得したモバイルショッパーが、自社の顧客となったと思ってはいけない。我々の調査によると、コロナ禍の期間中に獲得した新規顧客は、パンデミック前に会員登録した顧客よりも他社へ移る可能性が高いことが分かっている」とKleeger氏は指摘している。

リテンションを向上させるためには、マーケティングコミュニケーションが有用であり、それらが、タイムリーで、それぞれの新規顧客に関連性が高くパーソナライズされたものであることを確認すること。

この秋、消費者の注目と売上をめぐる競争は激しくなるが、新規顧客を丁寧に取り込む、よく考えられた顧客エンゲージメントプログラムは、早期に新しい習慣に適応し、獲得した買い物客とブランドとの絆を強化することができるため、リピートの可能性が高くなるだろうと、同氏は説明している。

 

 

モバイルでの獲得戦術

デジタル決済の増加は、マーケターに新たな戦略を与えている。事業者は、モバイルマーケティングキャンペーンを通じて消費者をターゲティングすることに注力すべきだ、とKeeger氏はアドバイスする。

「パンデミックが始まって以来、ユーザーの携帯電話の利用は増加している。Brazeのデータによると、小売やeコマースアプリでは、モバイルでの新規ユーザーの獲得が62%増加している。これは、消費者が家に閉じこもっていても、モバイルを通じてブランドを探索したり、買い物をしたりしていることを意味している」と同氏は述べている。

モバイルは、新規顧客に新しいアイデアや商品を紹介するだけではない。利益増加にも貢献する。パンデミック中に獲得したモバイルユーザーは、購入可能性が10倍高く、2回目の購入可能性が12倍高いのだ。

「モバイルマーケティング戦略を極めることで、小売業者は今年、リーチを広げ、より多くの売上につなげることができるだろう。例えば、プッシュ通知の受信を選択した消費者は、プッシュ通知を有効にしていない消費者に比べて、30日間のリテンション率が4倍以上も高かった」とKleeger氏は付け加えた。

 

新たな共感の必要性

Kleeger氏は、マーケターはパンデミックに対処するにあたっての消費者の苦労に耳を傾けるべきだと提案した。レポートによると、これは最大の課題の一つであるとのこと。

「消費者は健康リスクや個人的な経済的課題に直面していることを心に留めておくことが重要であり、共感は効果的な顧客エンゲージメントの鍵である」と同氏は述べている。

消費者の4分の1以上が、コロナ禍の間の小売店の対応が今年のホリデーシーズンにどこで買い物をするかを決める際の要素になると答えている。そのため、ブランドの人間性はこれまで以上に重要なものとなる。

「小売業者は、販売だけに集中するのではなく、この時期をブランドの認知度とコミュニティの構築に利用することができる」と同氏はアドバイスする。

そのための一つの方法は、レスポンシブメッセージングを活用して、ブランドの人間性を重視することだ。目標は、ブランドからのデジタル通知を、二人の人間の会話のようにより感じさせることだ。

 

「Brazeの調査によると、API(アプリケーションプログラミングインターフェイス)をトリガーとしたアクションベースのメッセージングを使用することで、たとえ、対象とする顧客が今現在購入していなくても、キャンペーンのコンバージョン率が最大で5倍になるという。消費者のエンゲージメントを維持すれば、将来的な購入可能性が高まる。小売店の顧客による効果的な人間的なコミュニケーション実行したブランドから購入する可能性は、1.7倍になる」とKleeger氏は述べている。

 

より広い視野を目指して

米国の経営コンサルティング会社Kearneyの消費者実務担当プリンシパルであるAlex Fitzgerald氏によると、消費者はパンデミックが続く間、自分の健康と経済的な健全性に対する懸念に取り組み続けるという。そして、いずれに対しても支出は抑えられる。

「小売業者は、ニューノーマルを定義しようとするのではなく、『ノーマルではない』ことを受け入れ、市場、消費者や販売データを取り込み、(デジタルとフィジカルにおける)消費者エクスペリエンス、プロモーション、eコマースのフルフィルメントやスタッフの人員配置などをリアルタイムで決定できるような分析機能を開発するべきだ」とFitzgerald氏。

課題は、このような「ノーマルではない」時代においては、過去数年のホリデー戦略がうまく機能する運命にないということだ、と同氏は語る。シーズンの現時点において、品揃えは大体決まっているのだ。

 

小売業者は、ホリデーシーズンのパフォーマンスを最大化するために、プロモーションスケジュール、eコマースのフルフィルメントやスタッフの配置モデルに柔軟性と機敏性をいかに付加するかに注力する必要がある、とFitzgerald氏は説明している。

「そのためには、リアルタイムの分析機能を、ホリデーシーズンの必須アイテムリストのトップに置く必要がある」と同氏は話している。

 

パーソナライゼーションへの期待

米国のソフトウェア企業Qubitのマーケティング責任者であるGeorge Barker氏によると、小売業界における消費者の期待は高まる一方で、ブランドへのロイヤルティは低下しているという。今や半数以上の消費者が、自分用にカスタマイズされたオンラインショッピング体験を認識するようになり、パーソナライゼーションが浸透してきた。

3人に2人は、ブランドがパーソナライゼーションを実行すること期待している。より多くの消費者がより多くのウェブサイトで買い物をしているという事実と相まって、差別化すべきは、関連性の高いショッピングエクスペリエンスである、と同氏。

 

小売業者が、各顧客のセッションにおける行動や過去の購入履歴を重視しなければ、特にブラックフライデー(11月の第4木曜日(米国の感謝祭)翌日の金曜日。小売店等で大規模なセールが行われる)や2020年のクリスマスが迫っている今、ブランドとして敗北することになるだろう。今こそ、計画を立て、これらのリスクを軽減する必要があると同氏は警告している。

 

 

研究方法論

Brazeは、米国の市場調査会社Wakefield Researchを起用し、”The Future of Retail: Opportunities for Brands in the New Normal”(「小売の未来:ニューノーマルにおけるブランドの機会」)のレポート作成のための調査を実施した。

Wakefieldは、全世界の10の市場において18歳以上の成人8,000人を対象に調査を実施。オーストラリア、フランス、ドイツ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、韓国、タイ、英国と米国において、2020年7月3日から7月13日までの間に、招待メールによるオンライン調査を利用して実施された。

 

同レポートは、消費者調査に加えて、複数のデータソースと回答に基づくものである。また、Brazeは自社の顧客データも集約している。

レポートの全文はここから読むことができる。

 

※当記事は米国メディア「Ecommerce Times」の8/24公開の記事を翻訳・補足したものです。