企業にとって、継続的な新規顧客獲得はもちろん重要だが、既存顧客を育てることも同様に不可欠だ。

 

本記事では、既存顧客の育成がなぜ重要なのか、また、どうすれば顧客維持を強化できるのかについて、カスタマーエンゲージメントの専門家にインタビューし、意見を聞いた。

 

PropelGrowth(中小企業向けにマーケティングコンサルタントサービスを提供する米国企業)のCEOで創設者のCandyce Edelen氏は、「企業が、SaaS、メンテナンス、リテイナー(一定期間の継続的な業務に対して支払われる定額顧問料)やリピートセールスなどの経常収益モデルを有しているとすれば、顧客維持(カスタマーリテンション)は新規顧客獲得と同じくらい重要だ」と話す。

 

「実際、顧客維持のためのコストは、顧客獲得のためのコストのごく一部に過ぎない。特に、顧客ライフサイクルの最初の数カ月でCAC(顧客獲得費用/Customer Acquisition Cost)を回収できないモデルでは、そうである」と同氏は述べた。

 

 

コストに見合う価値

顧客のエンゲージメントとリテンションに注力しなければ、最終的には、そもそも既存顧客を獲得するために行ったすべての取組みが無駄になってしまう。

 

Edelen氏は、次のように説明する。「顧客維持とその関係の育成に力を入れていない企業は、自分の首を絞めているようなものだ。既存顧客の育成は、顧客離れを減らし、顧客生涯価値を向上させ、リファラル、リファレンスやポジティブな口コミを促進し、大きな利益をもたらす」。

 

顧客獲得に伴うコストを考えれば、顧客維持に取り組むことは理にかなっている。

 

Kaspien(eコマース関連サービスを提供する米国企業)のCEOであるKunal Chopra氏は、「Amazonなどのプラットフォームでは、トランザクション獲得のためのコストが上昇し続けている」と話す。

 

「加えて、世界的に輸送費が大幅に上昇し、マーケットプレイス企業の利益が圧迫されている。したがって、ロイヤルティの高いリピーターを獲得することは、新規顧客獲得のためのコストと比較すれば、顧客の生涯価値を高める効果的な方法だ」と同氏は付け加える。

 

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響もあり、既存顧客を育てることがこれまで以上に重要になっている。

 

「新型コロナウイルスの影響により、より多くのブランドがオンライン販売を行うようになり、セラーの競争が激化している。さらに、Amazonだけで500万以上のセラーがいるため、ロイヤルカスタマーとマーケットシェアを維持することは不可欠だ」とChopra氏は話す。

 

 

信頼感とリワード

信頼感を確立することは、カスタマーエンゲージメントを成功させるための重要な要素の一つだ。

 

「お粗末なカスタマーエクスペリエンスによって信頼を失うことは、確実にリピーターを失う原因の一つだ。例えば、Amazonで注文した商品が間違って届き、解決策を求めてきた顧客には、必ずそれに応えなければならない」とChopra氏は説明する。

 

「Amazonのフルフィルメント手順によっては、顧客は、問題解決のために、Amazonに連絡する必要があるかもしれない。しかし、顧客が、セラーであるあなたに連絡をしてきた場合は、できる限りの対応をしよう。『顧客が間違った商品を受け取ったのはAmazonの責任だ』という理由で顧客対応をAmazonに委ねることだけは避けること」。

 

「あなたの顧客でもあるのだから、適切な対応をし、素晴らしいエクスペリエンスを提供することでロイヤルカスタマーを獲得できるかもしれない。これは、どんなオンラインマーケットプレイスにも当てはまることだ」と同氏。

 

また、企業は、新規顧客だけではなく、既存顧客にも注意を払うことを忘れてはならない。

 

Edelen氏は次のように説明する。「新規顧客だけに割引やリワードを提供する企業にはいつも驚かされる。それは、基本的に既存顧客に対して『我々はあなたのことを気にかけていない』と言っているようなものだ」。

 

企業が適切な人材を採用せず、十分なトレーニングを受けさせないと、カスタマーサポートが不十分になることがある。サポートのアウトソーシングは、しばしば顧客関係を壊す要因となる。この状況を防ぐには、顧客獲得と同じくらい顧客維持の優先順位を高くする必要がある。顧客維持においても、効果を出せるようにチームを訓練し、目標とKPI(重要業績評価指標)を設定し、売上を追跡して報酬を与えるのと同様に、その成果に報酬を与えるのだ」。

 

 

コミュニティの構築

突き詰めると、既存顧客を惹きつけ、維持するための最良の方法の一つは、商品やサービスを超えたコミュニティ感覚を作り出すことにある。

 

Champions (UK)(デジタルとブランドコミュニケーションを専門とする英国のブランドエージェンシー)のマネージングディレクターであるMatthew Hayes氏は、「ブランドや企業は、仲間のようなコミュニティ構築を目指すべきだ。これは、私自身が、ブランドやその商品を応援したり買ったりする際に大切にしているものだ」と話す。

 

「ブランドの商品やサービスだけではなく、プロセス全体のエクスペリエンス、パーソナライゼーションや人と人とのアプローチも重要だ。まさにデジタル化の時代であるが、ブランドはロボットではなく人間をターゲットにしていることを忘れてはならない。消費者とのコミュニケーションでは、このことを念頭に置くべきだ」と同氏。

 

そして、コミュニティは、リピーターを生み出すことにも同様に役立つ。顧客のアイデンティティがブランドと一体化しているからだ。また、特定の顧客にどのようなリワードやインセンティブを提供するのが最適かを把握するのにも役立つ。

 

「顧客のブランドに対する購入金額と購入頻度を知ることで、ブランドは、リワードや割引などのインセンティブを提供する機会が得られ、それが再購入にもつながる」。

 

「同様に、大切な顧客に手書きのメモやメッセージを送ることも―それが、ただ『ありがとう』の一言であろうと、新商品の早期購入特典を提供するものであろうと、リファラル(紹介者)にインセンティブを与えるものであろうと―大いに役立つ可能性がある」とHayes氏は述べた。

 

 

販売を超えたその先

カスタマーエンゲージメントでは、最初の販売後のそれぞれの顧客との将来の関係について考えることが必要だ。

 

「ブランドは、販売はカスタマーエクスペリエンス全体の半分に過ぎないこと、そして、新規顧客獲得と同じだけの努力と注意を、販売後のエクスペリエンスにかける必要があることを理解しなければならない。これにより、リピートオーダーやブランドアドボカシー(支持)が促進される」とHayes氏は強調する。

 

「未来の顧客エンゲージメントとリテンションが、さまざまなデジタル形式でオンラインで実行されることは明らかだ。未来とは、まさに『デジタル』なのだ」と同氏。

 

デジタルエンゲージメントが成功するかどうかは、どの程度のパーソナライゼーションが実現できるかという点に大きく依存している。

 

Hayes氏によると、「一番大切なのはパーソナライゼーションだ」という。

 

「ますます複雑化し、ソーシャルディスタンスが必要な世界では、人間は、デジタル製品のプロバイダーから、よりパーソナライズされたコミュニケーションを必要としている。それは、自動化、デジタル化やデータインサイトを活用して、パーソナライズされたオーダーメイドのサービスを顧客に提供し、顧客のニーズを瞬時に予測して、顧客にとってユニークと感じられる方法で応えることだ」。

 

ブランドやビジネスが、必ず注目すべきことは、消費者のニーズだ。絶えず変化する消費者のニーズに応える商品やサービスを常に提供していれば、大きく間違えることはない」と同氏は締めくくった。

 

 

※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の5/20公開の記事を翻訳・補足したものです。