米国のパーソナルスタイリストサービスStitch Fixや髭剃りの定期購入サービスDollar Shave Clubのように、画期的なサブスクリプション(定期購入)サービスコンセプトを実行するためには主に3つの分野に注力する必要がある。

 

衰退する実店舗と対照的なサブスクリプション業界

現在の小売業界では、実店舗の衰退が止まらない。CB Insightsのレポートによると、オンライン展開の失敗や、ポスト金融危機の買収後に増加した債務が原因で、2017年には米国で約7,000店の従来型小売店舗が閉店したという。

それは、将来的な金利上昇とさらなる多額の資本の必要性と相まって、物理的な店舗の多くが企業にとって負担になっていることを意味する。現在の企業や小売業者は代替チャネルを探す必要に迫られているのだ。

その中、eコマースは有力な代替チャネルである一方で、「サブスクリプション(定期購入)」というサブチャネルも普及している。消費者動向の調査会社であるHitwiseは、2014年4月から2017年4月の間に、サブスクリプションサービスを提供するブランドの訪問数が830%以上増加したと報告。さらに、McKinsey & Co.のリポートによると、サブスクリプション業界が直近の5年間において、毎年100%以上の成長を遂げたとされる。

 

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サブスクリプションの利便性

サブスクリプションサービスの提供により、小売業者は繰り返し収益の増加を確保できるという当然のメリットの他に、繰り返される顧客行動から重要な情報を得ることも可能だ。顧客行動の正しい理解は、顧客との長期的関係を構築する基盤となる。それ故に、2つのサブスクリプションを提供するTargetなどの小売業者が、サブスクリプションチャネルに強い関心を示し、投資していることは容易に理解できる。

Amazonが提供するスピード、価格、商品の品揃えと競争するのは難しいが、その一方でサブスクリプションは利便性が高い小売形態である。小売業者はサブスクリプションの小売チャネルを通じ、精選され、特別で、つながりをも感じられる体験を提供することにより、顧客との深く長期的な関係を構築することができるのだ。

 

サブスクリプション業界を担う企業へ

Dollar Shave Clubは小売中間業者を排除することにより、多大な価値を顧客に提供しビジネスを軌道に乗せた。同社の特徴はその広告とメッセージングで表現されている。設立者であるMike Dubin氏による(2012年に公開された)印象的なYouTube動画は、Dollar Shave Clubのターゲット層である若い男性からの狙い通りの好反応を得た。しかしUnileverによる買収後数年が経過し、現在Dollar Shave Clubは当初の勢いを失っているように見える。今ではHarry’sのような競争相手がその地位を奪い、剃刀業界の巨人Gillette(米国男性用カミソリ・髭剃りブランド)は、新しく登場した他の競合他社に目を向けているのだ。

 

一方、オンラインパーソナルスタイリストサービスStitch Fixは、データとパーソナライゼーションによる全く異なる価値を提供しすることで成功を収めた。Stitch Fixでは、機械学習と人間のパーソナルスタイリストによって選別され、日々改良される商品セレクトにより、非常に多くのオーディエンスの支持を得ている。このサービスは、現在の消費者が共通して抱える“選択肢が多すぎて決断できない”という問題を解決しているのだ。サービス利用者には、1回の定期購入につき、それぞれの利用者の好みを反映した5つのファッションアイテムが届く。Stitch Fixの利用者は、洋服のショッピングの多くの手間を省くことができるのだ。

 

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成功したサブスクリプションビジネスは数多く存在するが、Dollar Shave ClubとStitch Fixはそれぞれの業界での先駆者と言う利点を生かして、急速な成長を遂げた。素晴らしい名案や既存の製品やサービスの注目すべきバリエーションを思いつくことによって、これら2社のような画期的なコンセプトが誕生するというわけだ。

こうした企業と同じレベルの成功を収めるには、自社のサブスクリプションプログラムが以下に挙げる点において優れていなければならない。

 

1. 製品、コンセプト、そして、ストーリーテリング

優れた商品ラインアップは、サブスクリプション事業の最もコアとなる部分である。同じアイテムを繰り返し発送するだけでは、もはや十分ではない。例えばAmazonでは既に「Subscribe and Save(定期オトク便)」という定期購入サービスを行っており、大手の小売チェーンであるWalmartTarget、ペットフード販売のChewyも同様のサービスを提供している。成功を収めるためには、そのような小売業の巨大企業がまだ投資していない分野を狙うことだ。そしてカスタマイズを特徴とするユーザーごとに特別にセレクトしたアイテムを発送するということが重要である。ブランドのコンセプトに合致した商品ラインナップと同梱物を発送し、顧客に真の価値を提供しなければならない。

利用者の高いエンゲージメントを維持するもう一つの方法は、顧客教育と顧客対応である。大手化粧品販売チェーンであるSephoraが提供するサブスクリプションサービス「PLAY! By Sephora」は、毎月美容商品5アイテム、美容に関するヒント本、ハウツーなどのビデオコンテンツへのアクセスを提供。また、利用者は届いた商品について、Sephoraの地元店舗で対面でのチュートリアルを受けることができ、また限定イベントに参加できるという特典もある。これらは従来のeコマースでは提供していない利用者の特権である。

こうした特典は、利用者の定期購入期間を伸ばし、さらにeコマースや店舗の両方の売上を増加させるという効果がある。原則として企業に損害が出ないように、サブスクリプションサービスの最低利用回数は3回に設定されている。その3回という数の理由とは?それは、初回発送分はインセンティブの高いトライアルパッケージであることが多いためだ。定価での商品提供のような、企業がすぐに採算が取れるような商品ラインアップでは、利用を検討するユーザー数が減り、結果として、利用者の継続期間が全体的に短くなる傾向にある。そのため、複数の最低利用回数を設けているのである。

 

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2.データの収集、分析、管理

長期間の継続利用をしてもらうには、適切な利用者に、適切な商品を、適切なタイミングで届けることが重要だ。受容率などのデータやアンケート、そしてソーシャルメディア、チャット、電子メール、電話、テキストなどのさまざまなチャネルを通じての顧客とのコミュニケーションを活性化することにより、定期購入利用者を驚かせ、満足させるサービスは生まれる。

これには顧客連絡先情報やクレジットカード情報、パッケージ重量、在庫状況などのデータポイントを収集し、慎重に管理する必要がある。しかし、これらのデータを編成することは最初の段階にすぎない。企業はその情報を分析し、そこから実行可能な結論を導き出さなければならない。導き出す結論が、生涯価値の観点からより良い顧客を獲得し、既存の顧客をより長く維持するのに役立たせることが理想である。

クラウドコンピューティングと最新のテクノロジーにより、リアルタイムのデータを使用し、顧客やビジネス全体にとって最良の決定を下すことが可能になった。例えば、Stitch Fixは複雑なアルゴリズムを開発した結果、適切なおすすめ商品の提示だけでなく、将来顧客が望む商品を予測し、発送する数カ月前に在庫を確保することを可能にしている。

 

3.テクニカル・エグゼキューション

バックエンド業務はサブスクリプション事業の中で最も軽視されがちだが、最終的に利益率を左右する重要な部分であることを忘れてはならない。企業が利益を上げるためには、前述した顧客連絡先情報やクレジットカード情報、パッケージ重量、在庫状況などのデータポイントを保存し、その情報に基づいて行動を起こすことが必須である。

在庫不足や過剰な配送費、クレジットカードの一度の承認エラーによる定期購読のキャンセル処理、間違った金額の請求、間違った商品の発送などは、全てサブスクリプション事業の足枷となり、これはよく発生し得るミスである。表面的にはこれらのミスは容易に避けられるように見えるが、実際は言うほど簡単なことではない。

これらの基本的なプロセスが完璧に実行されれば、短期間で競合他社に勝つことができるだろう。しかし、Wasp Barcode Technologiesによれば、中小企業のほぼ半数(46%)が在庫を追跡することさえできていないという。成功したサブスクリプションビジネスを確立するためには、企業は倉庫にある在庫数以上のデータに精通している必要がある。

 

サブスクリプション事業の人気は急激に高まっているが、その競争はますます激化している。初回がいくら特別価格であったとしても、最初に届いた商品に満足しなかった利用者は継続しない。また成功している企業であっても、解約率を最小限に抑えるために努力し続けなければならない。ビジネスを成功に導くためには、ユニークで高品質な商品を提供することから始め、その後、サブスクリプションモデルで収集した豊富なデータに基づいて行動するのが良いだろう。そして、最終的に強い技術でバックエンド業務を正しく遂行することができれば、多くの場合は利益率が低いサブスクリプション業界で生き残るだけでなく、成功を収めていくことができるだろう。

 

※当記事は米国メディア「Entrepreneur」の3/22公開の記事を翻訳・補足したものです。