新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を機に、eコマースを選択する消費者が増加。彼らは、コマース体験に似たインタラクションレス(接触が発生しない)な店内ショッピングの潜在的な拠点として、実店舗の復活を後押ししている。だが、この実店舗の再設計は、あらゆる買い物客を対象としているものではない。実店舗での買い物を一切したくないという人もいるのだ。

 

そうした消費者の反応は、小売業者に実店舗の再設計を促している。Harris Poll(米国の市場調査会社が実施する世論調査/ハリス世論調査)が最近実施した調査によると、70%の人が買い物中に店員との接触をゼロにしたいと考えていることが明らかになった。さらに、35%の人は、今後二度と対面で買い物をすることがなくても問題ないと考えているという。

 

米国の3Dビジョンシステム企業Sense Photonicsが実施した18歳以上の米国成人2,000人超を対象としたオンライン調査は、消費者のこのような急激な方向転換をさらに後押しするものである。この調査から、実店舗に戻りたいと考えている買い物客は、完全に無人で非接触型のショッピング体験を望んでいることが明らかになった。

 

これら2つの調査結果やその他のマーケティング調査結果は、大規模小売店が、消費者が対面型ショッピングに戻るために望むことを実行する必要があることを強く示唆している。消費者の要求リストには、より高度な自動化が挙げられている。利便性と新型コロナウイルス感染症に対する安全性に関する消費者基準を満たすシステムを導入することは、店舗が競争の激しい実店舗市場において卓越するのに間違いなく役立つだろう。

 

これらの調査結果は、大規模小売店が従来の実店舗を倉庫やフルフィルメントセンター(物流センター)を再構築することを推奨している。先導を切って消費者の要望に耳を傾けない小売業者は、小売業のニューノーマルでは成功しないかもしれない。再設計に積極的に取り組む小売業者は、従来のショッピング方法を好む人々を遠ざけることなく、根本的に変化した消費者の好みに対応できるように店舗を提供するだろう。

 

「消費者の買い物の好みは変化しており、小売業者はフリクションレスな体験に適応し始めている」とSense PhotonicsのCEOであるShauna McIntyre氏は話している。

McIntyre氏によると、自動化を採用し、産業用や商業用ワークフローに高性能な3Dビジョンシステムやその他のセンサーを導入している小売業者は、消費者の好みを先取りできている可能性が高いという。

「この新時代のテクノロジーは、オーダーフルフィルメントのような時間的制約のあるプロセスをスケーリングするために不可欠だ」と同氏は語っている。

 

「その前」の時代

実店舗を再設計する動きは、2019年にはいくつかの大規模なチェーン店ですでに始まっていた。インターネットショッピングにより依存している顧客が、マーケターに注目されていないわけではなかった。しかし、ほとんどの小売業者は、フォーマットの再設計はリスクが高く、時間がかかり、コストがかかりすぎると考えていた。彼らはより良い方法を探していた。

 

そのより良い方法とは、実店舗を単なる取引の場以上のものとすることであった。そのためには、デジタルチャネルでは不可能な、対面型の体験を有するブランドを構築する必要があったのだ。顧客を来店させるためには、実店舗がeコマースよりも本質的な、感覚面での優位性を提供しなければならなかった。そして、新型コロナウイルス感染症が発生した。

 

新型コロナウイルス感染症のパンデミック禍で、永遠に閉店せずに済んだ実店舗が再開されていく中、マーケターは依然として、店内の再設計に取り組んでいる。しかし、顧客をデジタルストアから引き離すことができる“感覚体験”の提供に焦点が当てられているわけではない。

 

むしろ、非接触型決済ステーションと無人での対話でデジタル体験を繰り返す必要がある。全体的な新しい再設計は、新型コロナウイルス感染症に対する顧客の懸念とソーシャルディスタンスを保ちたいという顧客の望みに対処しなければならないのだ。

 

「ユーザーは実店舗への来店からオンラインへとシフトしており、多くの小売業者は店舗の改装で手っ取り早い大成功に期待している。目標は非接触の代替手段を実現することだ」と、XcooBee(非接触型決済システムを手掛ける米国企業)の創設者であるBilal Soylu氏は述べている。

 

これは、賢明な第一歩だ。しかし、産業革命で開発されたショッピングモデルは、再考されるべきである。「古い間取り図では、買い物客を呼び戻すことはできないかもしれない」と同氏は付け加えた。

 

新しいことではなく、再利用しているに過ぎない

実店舗はソーシャルディスタンスが必要とされる一方で、カタログショッピングは復活を果たした。米国United National Consumer Supplier(UNCS)の最高開発責任者であり、小売業の専門家であるAdele Harrington氏によると、その360度の復活にはいくつかの紆余曲折があるという。

年配の消費者はおそらく、両親がMacy’s(米国最大手の百貨店)の大判のホリデーギフトカタログに目を通し、サービスカウンターで購入品を受け取っていた姿を覚えているだろう。小売業者は昔のカタログショッピングの考え方を再度取り入れているが、それをオンラインで、さらには「店内でのオンラインショッピング」で実行していると、Harrington氏は述べている。

「ほとんどの店舗では、消費者がオンラインで商品を閲覧して、店頭やカーブサイドで受け取ることができるようにすることで、eコマースの体験に対抗している。また、消費者が心変わりしたときにeコマースが与えるセーフティネットの安心感を得ることができるよう、返品や返金をこれまで以上に簡素化している」と同氏。

従来型でない小売業者の中には、さらに一歩進んで、「店内オンライン」型で商品を提供しているところもある、と同氏は付け加えた。

例えば、フロリダにあるオムニチャネルのカーディーラーOff Lease Onlyは、在庫をオンラインと小売店で販売している。ただし、小売店店頭で車を購入する場合、ショールームに入ったり、車売り場を歩き回ったりすることはない。その代わりに、店内に入ってコンピューターのカタログの前に座り、見たい車を選ぶと、販売員が商品を持ってくる。これは、店内でのオンラインショッピングの究極の例であるとHarrington氏は説明する。

「それでも、新型コロナウイルス感染症による買い物の制限だけでなく、消費者の買い物習慣や期待の変化もあって、非常に成功している」と同氏。

2018から2019年には、どの小売業者もeコマース/モバイルを販売やマーケティングに使うことを考え、活用していた。だからそれは、「新しい」ことではないとHarrington氏は指摘する。

「しかし、新型コロナウイルス感染症は、すべての小売事業者を大慌てでデジタルの岸に押しやった高波のようなものだった」と同氏は話す。

 

店内での買い物を自動化するための再設計

コロナ禍によって、非接触型決済技術への関心と採用が加速した。IDEX Biometrics(指紋画像処理と指紋認識技術を専門とするノルウェーのバイオメトリクス企業)のCEOであるVince Graziani氏によると、バイオメトリクス指紋技術により、ユーザーはクレジットカードに保存された、安全で確実、かつ固有の個人の指紋を介してタッチレスで支払いを行うことができるという。

 

「決済業界における生体認証技術に対する世界的な需要は堅調である。そして、忙しい年末のショッピングシーズン中、そして2021年以降にビジネスがニューノーマルに戻るにつれて、その勢いは加速するだろう」と同氏は語る。

 

小売業者は、実店舗で買い物客に安心と安全を感じてもらう必要がある。さらに、サインやPIN番号の入力といった直接的で物理的な接触を排除するテクノロジーを使って、会計を自動化する必要があるとGraziani氏。

 

Amazonがシアトルの数軒の食料品店で行った対面ショッピングの自動化実験は、他の小売業者が消費者の求めるタッチレスな店内体験を実現するのに役立つ可能性があると、Little Dragon Media(カナダのウェブデザイン企業)のCMOであるJack Choros氏は述べている。

買い物客は、棚から商品を取ればよく、会計をする必要はない。Choros氏によると、棚から何かを取れば、モーション、重量、赤外線センサーが追跡を行うという。これらのツールによってデータを追跡し、何を何個取ったのか、購入金額を正確に把握することができる。そして、食料品店のレジ係や袋詰め係に会わずして、買い物客のクレジットカードへの請求が行われる。

 

「実際のところ、平均的な小売業者では、特に食料品に関しては、まだこうした自動化が実現できていない。これは他でもできるだろうか?それは、もちろん可能である。しかし、言いたいのは、クレジットカード情報を提供し、そこに自動的に請求されても大丈夫であると顧客を説得しなければならないということだ」と、同氏は話している。

 

これ以外に、どのようにして接客ができるだろうか。セルフレジ端末を店舗に入れることは理論的には可能だが、 Choros氏はそうした端末を、食料品店事業以外のところではまだ見たことがないという。

 

ゼロ・インタラクションを機能させる

小売業者には、安全性のニーズに対応するために店舗のデザインを変更する以外に選択肢はない。消毒のためのステーション設置やマスクの義務化などのシンプルなことが第一歩となると、Primaseller(クラウドベースの小売管理ソリューションを提供する米国企業)の創設者兼CEOであるMohammed Ali氏は助言する。

 

「ある程度の試行錯誤はあるだろうが、その最初の段階の後は、初期的な非接触型やインタラクションレスの小売モデルが機能するはずだ」と同氏は語った。

 

店舗は、ソーシャルディスタンスを保つための規定を維持するために、より多くのオープンな売り場面積が必要となるだろう。店舗は、スペースとスピードのために再構成される必要があると同氏は述べた。また、より安全な店内ショッピングを店舗にもたらすための他の方法もあると考えている。

 

次のステップとしては、タップ&ペイができるモバイルやデジタルウォレットを通じた非接触型決済ソリューションを考えることだろう。支払いの選択肢として、現金は廃止しなければならないだろう、と同氏は付け加えた。

 

セルフレジ、QRコードを使ったショッピングやカーブサイドピックアップ(オンラインで注文した商品を店舗の駐車場等で受け取るサービス)は、今の時世を考えると、インタラクションレスで安全なショッピング体験を提供するにあたって極めて重要となるだろう。

「もう一つの側面としては、これを行うことの実行可能性があるが、それは推測するしかない。実行戦略が複数の部分に細分化されている限り、それぞれの部分を独立して微調整することで、顧客満足度や成長性を高めることができる」と同氏は締めくくった。

 

ニューノーマルにおける小売業者のチェックリスト

Thrive Cuisine(ビーガン食品等に関する情報を提供するウェブサイト)のCMOであるGeorge Pitchkhadze氏は、実店舗を、躊躇している買い物客が店内ショッピング体験に求めるものにより合致させるために、店舗運営者ができることの簡単なチェックリストを示してくれた。

 

  • 人々に商品に関する情報を提供する際には、印刷物やタブレットを使用する。
  • 買い物客がQRコードをスキャンして、在庫があるサイズや色などの商品情報をオンラインで確認できるようにする。
  • スタッフには、求められない限り、人と話さないように指導する。
  • レジ係が操作するカウンターを隣り合わせて並べるのではなく、スーパーマーケット形式のセルフレジカウンターを追加する。
  • 人々がeコマースで使い慣れている機能を提供する。例えば、ガイドアプリ、「この商品を見た人が見ている商品」といったようなメッセージ、QRコード経由で商品のレビューを表示するなど。

 

自動化された小売(Automated retail / A-retail)は、米国で着実に成長しているトレンドであり、ここのところ、世界の多くの場所で標準となっていると、PriceListo(消費者向けに価格情報を提供する米国企業)の共同創設者であるHaris Bacic氏は指摘する。

実際に実店舗にいながら、セルフレジのオプションやスマホのアプリを使用して支払いを行ったことがある人は、すでにA-retailのトレンドを体験したと言えよう。

「小売業者が、会計待ちの列を減らすのに役立つ、より多くのセルフレジのオプションを設ける形でテクノロジーを増強することを選択するのは、完全に理にかなっている」と同氏。消費者は、店内での購入体験の中で最も苦痛でストレスの多いこととして、列に並んで待つことを挙げていると同氏は付け加えた。

 

店内売り場を再設計するためのその他の設備として、チラシやクーポンを提供する少接触や非接触型のキオスク端末などが挙げられる。また、ソーシャルディスタンスの安全対策を維持するのに役立つ、ロボット型の出迎え係や、販売アシスタントの配置も、支持されるだろう。

 

※当記事は米国メディア「Ecommerce Times」の11/10公開の記事を翻訳・補足したものです。