コロナ禍のパニックによる買い占めは、小売業にどのような影響を及ぼしたのだろうか。オフライン/オンラインそれぞれにおける消費者からの買い占め競争は、パンデミック後の小売業界にどのような変化をもたらすのだろうか。
マーケティング会社は、ビジネスを継続するために奮闘している従来型実店舗向けに、新しい戦略を立案するために時間をかけてきた。eコマース・プラットフォームも同様に、新規および既存のウェブストアが事業を継続できるよう、懸命に努力している。どちらのシナリオも、物理的な店頭であれバーチャルなレジであれ、いかに消費者を惹きつけ、購入取引を完了させるかに注力しているのである。
消毒液やマスクなどに代表された欠品商品を求めて店頭やWebページを必死に探している消費者にとって、供給不足は、依然としていつ再発するか不安である問題となっている一方で、トイレットペーパー等多くの買い占め現象は既に収まりつつある。しかし、不安を抱えて先が見えない消費者は、冷凍食品やベイキング用品などの備蓄を行う動きもある。
複数のマーケティングレポートによると、米国ではここ数ヶ月間の冷凍ピザの売上高は、昨年の同時期と比較して、92%増加。調査会社Nielsenの市場分析によると、ベーキングミックスの売上は489%増加し、マニキュアや染毛剤などの隔離に適した必需品を上回っているという。
変化にどのように備えるべきか
このような状況下において、ブランドが、消費者行動や商品需要の変化にどのように備え、対応していくべきか、また、それが小売業の将来にとってどのような意味を持つかについて、ブランドを導くマーケティング会社数社にコンタクトを取った。
そして、消費者インサイトと戦略コンサルティング会社であるKelton Globalや、広告代理店Scrum50、決済システムプロバイダーACI Worldwideと共に、小売業の現状とマーケティング戦略においてテクノロジーが果たす役割について話し合った。
Keltonは、実店舗と提携し、店舗オーナーが顧客との関係を再構築し、現在小売業のeコマースを牽引しているデジタル販売戦術のいくつかを採用するためのサポートをしている。同社はパンデミックの期間中、COVID-19における消費者パルス調査を実施し、消費者行動の変化と、変化する需要に対応する企業の機会を分析している。
ACIは、世界で6,000以上の組織に対し、電子決済サービスを提供している。同社の最近の販売取引報告書によると、6月にパンデミック規制が始まって以来、eコマースの売上高が最大の増加を記録しているという。
Scrum50は最近、プロダクト・エクスペリエンス・マネジメント・プラットフォームを提供するSalsifyが主催するDigital Virtual Shelf Summit のプレゼンテーションで、スナック菓子メーカーのMondelēzとチームを組み、eコマースのバンドリングにおける新しいトレンドと、ブランドが今後も新しい顧客を獲得し続けるための戦略的変化を、現在どのように実行できるかについて議論した。
ショッピングトレンド
4月初旬、実店舗においては、サプライチェーン断絶の最初の兆候が現れた。世界中の小売業者は、COVID-19におけるソーシャルディスタンス要件をオンラインで満たすために、ビジネスモデルのシフトを開始した。
パンデミック後のショッピングパターンの変化に関する複数の消費者レポートによって、新規および長期顧客とつながる方法を構築することの必要性が、小売業者に対して示された。レポートでは、消費者がオンラインで商品を購入しても、空の商品棚症候群を完全に解決することができないため、小売業者に適応するよう促している。
レポートによって、世界中の消費者が日常生活に必要な衣類などの非必需品を購入していることが裏付けられており、商品不足が当たり前となった。それが、買い占めを助長する1つの要因となったのだ。また、消費者は長期化する家での生活に備えて大量に購入しているとするレポートもあった。
Kelton GlobalのパートナーであるAmy Rogoff Dunn氏は、「感情的な不安感を伴うCOVID-19の感染に対する懸念と、新たな状況への対応に対する憂慮が、買い物に対する不安を煽っている」と指摘している。
「これは、初期の段階からの買い占めの原因となった可能性がある。また、慣れ親しんだ商品がなくなったために、他の商品を探そうとした結果でもある。一部の消費者は、買い占めに走った。他の消費者にとっては、他の商品を探さなければならないことへのリアクションであった。そして、現在、ショッピングには多くの緊張感が伴っている」と同氏は語る。
「e コマースの売上高は、パンデミックが収束すれば、少しは堅実に回復するだろう。しかし、問題はどれだけ回復するかということだ」と、Scrum50 の e ビジネス担当副社長Stacy Thomson氏は述べている。
「オンライン食料品通販は、今後も急速に成長していくだろう。パンデミックは、その転換点に到達する手助けとなっただけである。そして小売業者は、クリック&コレクトのエクスペリエンスを改善することを余儀なくされている。それが始まった今、もう後戻りはできない」と同氏は語る。
ACI Worldwide社の調査では、パニックバイイングを、隔離生活に適応しようとする消費者のリアクションとして認識。2月初旬と3月には、リサーチャーは、個人用保護具(PPE)部門で、より大量の買い占めを確認している。これには、手袋、マスク、ゴーグル、フェイスシールド、人工呼吸器、呼吸器、使い捨てカバーオールなどのアイテムが含まれていた。
「PPE部門では、売上が大幅に増加し、実際3月の最終週には、大半の販売店の在庫が売り切れ始めた。4、5月には規制が施行され、在宅勤務の人が多くなったため、電子機器や事務機器の購入にシフトしていった」。
「5月から6月にかけて、購入カテゴリーは、再度、急激に変化した。航空券やチケットの購入が減少した一方で、アウトドア用品やスポーツなど他の分野における消費者支出が増加した」と、ACI Worldwideのグローバル不正防止リスクサービス担当副社長であるErika Dietrich氏は語った。
戦略
Scrum50の製品戦略担当ディレクターであるBrian Gioia氏は、企業が小売拠点の復旧と運営に注力する中でeコマースチャネルを無視することはできないと指摘。
「eコマースは、パンデミック後の世界への移行期のあらゆるブランド戦略において、引き続き不可欠な要素であると言える」と同氏。「ニューノーマルにおいて、ブランドはどのように2つの販売チャネルのバランスをとり、新しいマーケティング業界において、どのようなトレンドが成功し続けるのだろうか?」
「戦術的な変化が重要である」と、物理的店舗のマーケティング戦略会社Scrum50のThomson氏は指摘。店舗内の消費者行動において、大きな変化が生じているのだ。
以前は、実店舗で買い物をする人は、社交的な付き合いや、週に一度のまとめ買い、あるいは単に家の外に出かけるためなど、さまざまな理由で買い物をしていた。
「それが、今では、そのほとんどは、不安に満ちた任務のような買い物行動に変化してしまった。パンデミックの影響で、人々が買い物をしていたそれ以外理由のいくつかは、なくなってしまったのだ」と、同氏は付け加える。
Scrum50の調査対象となった人々は、物理的な買い物をする様子を、まるで軍事任務を遂行するのと同じように話している。彼らは、入念に準備をし、特別な服で装備をして、特定のものに焦点を合わせて入店し、勝利を感じながら店を出てくる。そして、最後には買い物リストを制覇する、とThomson氏は説明している。
消費者の疲労
これは、過去に人々が買い物の話をする際にScrum50の調査員が聞くことはなかった言葉である。今、彼らが耳にしているのは、蓄積された大きな不安なのであろう。
その不安は、いくつかの理由から生じているとThomson氏は指摘する。買い物客は、過去に経験のないことを行なっている。彼らは、密接な社会的接触からの圧力や、マスクに対する他人の反応、他人に判断されること、そして、何をすべきか指示されることへの懸念の中で、密な混雑に対処しなければならないと、同氏。
「人々は慣れ親しんだ商品の快適さを求めている。店頭でその商品が見つからないときに、さらに別の店舗に行くことは避けたいと考える。これに、家で退屈しているという感情が加わる」と、同氏は付け加えた。
現在、買い物は、2つの相反する行動に分かれている。人々は、店頭での買い物とオンラインショッピングのどちらかを選択しなければならない。
5つのW
明らかに、戦術的な変化が起きている。それは「古典的なパターンであり公式である小売の『5つのW』についてである」とThomson氏。その変化は以下の通りである。
WHO(誰が):ほとんど一人で買い物をしている。感染接触を避けるため、子どもやパートナーを連れてこなくなった。
WHAT(何を):できるだけ多くの商品を手に入れるようになった。
WHERE(場所):大きな要因である。以前は、人々は、家の近くや仕事場からの帰り道に買い物をしていた。しかし、今では、多くの人が会社に行かずに仕事をするようになり、自宅で買い物をした方が安全だと感じている。
WHY(なぜ):再調達の必要性からの買い物である。
WHEN(いつ):状況と入手可能性に基づいている。
「これらのうちのいくつかは、一時的なものだろう。しかし、いくつかは、ニューノーマルを形成するだろう」と、Thomson氏は語る。
確実なのは、オンラインショッピングの急増がパンデミックによって加速したことである。COVID-19に強いられなければ、多くの人々が、オンラインに乗り換えることは決してなかっただろう。
その結果、オンラインショッピングを快適に感じる全く新しい集団が生まれた。しかし、従来型とは少し異なる実店舗はまだ存在し続けるだろう。それらは、少なくとも、完全には、消滅することはないだろう。
「パンデミックの有無にかかわらず、ほとんどのブランドは、常に売上の何割かを実店舗から得ることになるだろう。買い物行動の変化により、キット、サブスクリプションサービス、オンライン体験などの新しいビジネスモデルが急増している」と、Thomson氏は述べている。
eパックの魔法
マーケティング会社のいくつかは、ウェブ訪問者を引き付けるための一連の新しい戦略を採用するために、小売クライアントを教育している。この新しいアプローチは、eコマース顧客に新製品を試すように誘導するための複数のパッケージセットを作成することを含む。そして、物理的な店舗運営者に対し、このアプローチの採用を試みるように奨励しているエージェンシーもある。
最近、Salsifyが主催したオンデマンドのウェビナーでは、このような議論が交わされた。
このウェビナーでは、パンデミック発生後における、特にeコマースへの急激な移行に伴って、劇的に増加した商品のバンドリングやパッケージングのテクニックの重要性に焦点が当てられた。
Mondelēzの米国eコマース担当副社長Jeff Jarrett氏とScrum50のThomson氏は、「eパック」と呼ばれる人気のキットやバンドルを作成するための戦略について、Salsify Digital Virtual Shelf Summitの幹部とディスカッションを行なった。
Jarrett氏は、eパックとは、統合したプライスポイントにおいて、自社ブランドの売上を拡大するためにデザインされた小売製品のバンドルであると説明。Mondelēz社は、顧客がすでに何を購入し、オンラインでさらに便利に何を購入したいと思っているかを調査している。
Jarrett氏によると、eパックには2つの働きがあるという。つまり、企業にとって収益性が高く、買い物客にとっては、便利な価格帯を提供するものだ。
また、eパックには、普遍的な追加的効果があるとThomson氏。それは、バンドルを見る前は欲しいとは思わなかった商品を追加で購入したいという欲求を生み出すことである。
「計画外の購買への意欲を掻き立てることが、増分成長の鍵となる。それは、新しいバンドルで製品やサービスを紹介したり、新しい使用機会を提案したりするといった理論化と応用である」と、Thomson氏は語っている。
プランニングとプレゼンテーション
最適なバンドルを作成するには、テストの実行が非常に重要である。Thomson氏によると、Mondelēzは、どの製品の組み合わせに顧客が最もよく共鳴するかを判断するために大規模なテストを実施しているという。試し購入を促したり、購入率を向上させたりするために、カテゴリー(例:クッキーとクラッカー)を融合し、組み合わせることを検討するべきであろう。
「また、それぞれの商品が、顧客にとってどのような価値を持つのか、顧客の生活にどのようにフィットするのか、そして、eコマース・プラットフォーム上のコンテンツを通じてどのように伝えるのがベストなのかを、多くの時間を費やして検討している」と、Thomson氏は説明。12ドル前後の価格帯で採算がとれるので、アソートやバンドルを構築する際にはそれを考慮している」と、同氏はマーケティング戦略について述べた。
eパックは、オンラインに移行しているすべての販売事業者にとって普遍的に有用であるとThomson氏は指摘する。このモデルは、多種多様な製品ラインを持つあらゆる事業者とって最も効果的であろう。商品バンドリングによって、価値が生まれるのだ。
「Mondelēzでは、買い物客はワンクリックで自宅のパントリーを完璧にいっぱいにすることができる。eパックでは、自分の生活に合った量で、欲しいブランドを購入することができる」と同氏。
関連するマーケティング戦略として、他では手に入らないバンドルパックを提供することも挙げられる。重要なのは、消費者に関連性はあるものの、今までは欲しいと思わなかったものを購入するよう促すことだと、Thomson氏は言う。
品揃えのプランニングが重要だと、同氏は付け加える。eコマースにおける商品紹介は、実店舗と同じではない。
ディスカバリーとコンバージョンを促進するコンテンツ
消費者向けパッケージ商品(CPG)は、人々が定期的に消費する商品である。これらの商品は、継続的かつ一定の交換や補充を必要とする。
従来の CPG商品以外では、殺人ミステリーのサブスクリプションボックスといった全く新しいカテゴリーが出現している。「Hunt a Killer」のような人気商品では、最大6ヶ月間続けることができる、手がかりやゲームが入った月刊ボックスが送られてくる。また、一晩で8人が楽しむことができる1つのミステリーボックスを購入することも可能だ。
「今、ブランドは、極めて関連性の高いコンテンツを提供することによって、eコマースでのチャンスを得ることができる。ウェブサイトにパックを掲載すれば、人々が自分たちの求めているものを分かると思ってはいけない。彼らを少し誘導する必要がある」と、Thomson氏はウェビナーのディスカッションで述べている。
ブランドは、人々がデジタルの商品棚からどのように買い物をしているかを理解することにより、コンテンツを迅速に最適化することができる。消費者が感じたり、嗅いだり、味わったりすることができないものは何か。そして、どのようにして消費者に刺激を与え、自社製品をショッピングカートに入れることができるのかを考える必要がある」と、同氏は、この戦略の採用についてアドバイスしている。
バーチャルなショッピングを推進するために、物理的なショッピングエクスペリエンスに依存してはいけない。その好例が、特に会員制店舗のようなスケール感の提供であると同氏は言う。
「買い物客がクラッカーの箱の大きさを認識していると考えているかもしれないが、彼らがそれを考慮して買い物かごに入れる商品を選ぶとは限らない。消費者の期待値を設定し、それを上回ることが、最終的には売上の向上につながるレビューを促進するための最も重要な側面の1つである」と説明している。
決済サービスの革新
ACIのDietrich氏によると、パンデミックの影響により消費者行動は変化しているが、消費者の多くが以前のような行動に戻ることはないだろうと予想されるという。この危機以前、現金を使用していた消費者も、安全性と利便性を求めてデジタル決済手段に切り替えた。
「以前は現金を好んでいた小さな商店やコンビニエンスストア、そして、小規模事業者でも、今後もデジタル決済や電子決済を採用し続ける可能性が高い。実際、電子決済とデジタル決済サービスは、消費者と企業の両方にとって、危機を乗り切るために不可欠なものとなっている。
長期的には、リアルタイム電子決済によって、より安価で迅速な支払い方法が提供されるだろうと、Dietrich氏。カードによる決済は、インターチェンジ手数料がかかり、事業者への支払いが遅いのである。
「より大規模な技術革新が生まれ、現金からのシフトを活用するためのより多くの支払いサービスが、市場で立ち上がっていくだろう 」と同氏は予測している。
※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の7/23公開の記事を翻訳・補足したものです。